皆のいない何時もと違う夜
フィムがちょっと大胆になった話

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気持ちのすれ違い

 荒れ果てた町のビルの上から周囲を見渡す二人のゴッドイーターがいた。

「ふむ……あやつ等を相手にするにはちと分が悪そうじゃ」

特徴的な口調で喋る褐色青髪の女性、シズクが双眼鏡を覗きながらぼやく。

確認できる範囲には小型アラガミが数種類、合計10体前後がチラホラとあまり距離を取らない範囲で点在している。

そこからわずかに離れた場所には今回のターゲットである感応種のマルドゥークが悠々と歩いている。

「おかあさん、どうかしたの?」

椅子に座って暇そうにしていたフィムがシズクに問いかける。

双眼鏡をしまい、腕を組んでわずかに思案してからポンとフィムの頭に手を置いてニッと笑ってみせた。

「何でもないぞフィム、どうせやる事は何時もと変わらん」

「見つけた敵を倒せばいい!」

「うむ!しかし今回は妾とフィムだけだからそれだと危険でのう、フィムにはちょっと面倒をかける事になる」

「フィム、おかあさんの言う事ならなんでも聞くよ!フィムにまかせて!」

遠慮がちに話すシズクにフィムは明るい笑顔で答える、そんなフィムの愛らしさからシズクはギュッと抱きしめた。

「うむ!うむ!流石我が子だ!頼りになるのう!」

 

 シズクが先行し小型アラガミの殲滅を図り、フィムはその裏で戦闘音に気づきマルドゥークが移動を始めたら足止めをするというシンプルな作戦で動き出した。

バスターブレードを振り回し、疎らに点在する小型アラガミを殲滅していくが半数のほどの時点でマルドゥークに気づかれてしまった。

「おかあさん!あいつが動きだした!どうしたらいい?」

「ふむ……悪いが小突いたら逃げ回っててくれぬか。感応現象を起こされたらやっかいじゃからのう」

「うん!わかった」

シズクは通信を切り、武器を構え直すと音につられてやってきた数体のオウガテイルを睨みつけた。

「雑魚ばかりがゾロゾロとうざったいのう」

 

 数がいたこともあり小型アラガミの殲滅には少し時間をかけてしまったので、シズクは急いで位置を知らせるための照明弾を打ち上げフィムに通信を入れた。

「フィム、無事か!こちらは片付いた!そっちはどうじゃ!」

「フィムちゃんと出来たでしょ?えらい?」

「無事なようだな、えらいのう。そちらの状況は?」

「今追いかけっこしてるの、このままおかあさんの所に行けばいいんだよね?」

「ああ、頼むぞ」

シズクは通信を切り、耳を澄ました。大型のマルドゥークの走り周る音が確認できたのだろう。

大通りの曲がり角でバスターブレードを肩に担ぎ、気を落ち着けた。

 

 ドシンドシンとシズクにマルドゥークの走る音がはっきりと聞こえてくる位置まで来ていた、フィムは走りながら大声で呼びかける。

「おかーさーん!きたよー!」

「フィム!そのまま前に飛べ!」曲がり角の直前まで来ていたフィムはそのまま、言われた通りに大きく前に飛び込む。

フィムが飛んだのを確認するとシズクは思い切りバスターブレードを振り下ろす。

「果てるがよい!!」

シズクの存在に気づかないまま向かってきたマルドゥークの頭に必殺の一撃が入った、その一撃で顔の半分が砕け散り倒れ込む。

 倒れたマルドゥークの横でキャッキャとフィムがはしゃいでいる。

「おかーさんすごーい!」

「ふふふ、この程度妾にとっては容易いものよ。それにフィムがしっかり言うことを聞いてくれたからじゃ」

「えへへ」

和やかに会話をしているとフラフラとマルドゥークが立ち上がる、殺意に満ちた目を光らせ雄叫びをあげると赤いオーラが周囲に迸る。

「ふむ、しつこい奴じゃ。しかし幾ら叫ぼうがお主に従う者は最早おらぬ!我が断罪の一撃で滅びるがよい!」

 

 

 

 無事任務も終わり帰投すると、フィムはエイミーに連れられお風呂に、シズクはベッドの上でダラダラとしていたがその内に眠ってしまった。

そしてシズクが夜更けに目を覚ますと毛布の中に大きな暖かい物がはいっている。

シズクの足元でフィムが丸まって眠っていたのだ。

「んん…なんじゃ?フィム?そんな所で何をしておる」

「あっ、おかあさん起きちゃった?えへへおじゃましてます」

「全く…わざわざどうしたのじゃ?一人で眠れない訳でもないだろうに」

「んー……今日ね…お部屋に人がいなくてさみしいの……」

偶然大きな任務が重なり、今クリサンセナムの中にはほとんど人がいなかったのだ。

寝室にも二人を除くとエイミーが静かな寝息を挙げているのみで、イルダはまだ執務室で仕事をしているのか姿が見えない。

「しょうがないのう…そんな猫のように丸くならんでもよいぞ、枕をもってくるがいい」

はーいと返事をするとフィムがいつも寝ている場所から枕をさっと持ってくる、二人枕を並べて毛布を被った。

「考えてみると、二人でこうするのは初めてかのう?」

「えー、おかあさん覚えてないの?フィムずっとおかあさんといっしょにいたよ?」

積荷がフィムであることが明らかになった時の話なのだろう、当然ながらシズクにはその時の記憶はなかった。

「その時の妾はずっと眠っておったからのう、残念ながら記憶にないのじゃ」

「そっか……残念」

むーっと唇を尖らせて不満そうにする、そんなフィムの様子がおかしいのかシズクはクスリと笑いを漏らす。

「そんなにいじけなくて良かろう。そうじゃ!簡単なお願いなら一つだけ聞いてやろう。それで機嫌を直せ」

「お願い……あっ!そういえばおかあさんにしてほしいことあった!」

「うむ、行ってみるがよい。この場で済ませることなら今すぐやってやろうぞ」

「おかあさん!フィム!おかあさんのセックスしたい!」

揚々としていたシズクがピシリと固まる。

「フィム?そんなものどこで知った?」

突然の声のトーンが落ちたシズクに少しばかり疑問を持ちながらフィムは答える。

「おかあさんのベッドの下にある本だよ」

アーーー!と声にならない声を吐き出しながら天を仰ぐ、他の誰でもない自分が娘に早すぎる知識を教えてしまったと激しく後悔がつのっていた。

「よいか?フィム、セックスは男女でやる物であってな?」

「おかあさんの本だと女の子同士でもやってるよ?」

肩を震わせながらドン!と自分の太ももを思い切り叩く、その様にフィムは少しだけビクリと震えた。

「セックスは愛する者同士がやるものであってな!」

「おかあさんはフィムのこと嫌い?」先ほどよりも深く落ち込むフィムにそれはない!と強く否定する。

 その後は長く、沈黙が訪れた。

シズクは継ぐ言葉が見つからず、フィムの瞳にはじわじわと涙が溢れ始めている。

「やっぱり……フィムが……アラガミ……だから……」

誰に問う訳でもない、自身の身を責めるかのように嗚咽まじりに言葉を溢す。

「そんな訳なかろう!馬鹿を申すな!」

 

思い切りフィムを抱きよせ、頭を撫でてあやす。

「よいか?フィム。愛すると言う形にも色々な物があるのじゃ。フィムと妾の間にある愛はセックスをする類のものではない」

顔を上げてこちらを見る顔はやはり理解しきれないといった感じのものだった。

フィムのポッと開けっ放しの口に軽く口づけをする。

「もしフィムが10年後に今日の口づけを思い出して……それで……それでもまだ私とセックスしたいならしてあげる」

シズクは真っ赤になった顔を悟られないようにさっと毛布の中に潜り込んだ。

「うん…おかあさん、フィム絶対忘れないから」ぼそりと呟きフィムも毛布の中に潜り込むとすぐに寝息を立て始めた。

 

翌日、シズクが一人でロビーで出撃までの暇を潰しているとエイミーが入ってきた。

辺りに人がいないのを確認してから口を開く。

「昨日はなんか大変な目にあってたみたいですね」

「うぬ……聞いておったのか。恥ずかしいのう……」

「なんというか、フィムちゃんも大胆な発言しますよね」

「うむ、まあ子どもにはまだ理解が追いつかない感情なのだろう、人との絆のあり方を理解するにはまだ幼すぎるのじゃ」

真面目に語るシズクを見つめながらエイミーは吹き出しそうになるのを抑える。

「なんじゃ?人が真面目に話しておるのに」

「ふふ、すいません。元々の原因がアレなことなのに真面目な話をしているのがおかしくて」

シズクはカッと顔を赤らめプルプルと震える。

「ふふふ、隠したい物はもっとしっかり隠しておかないとダメですよ。フィムちゃん目ざといんですから」

「わかっておるわ!こんな所で無駄話してないでさっさと仕事場につけい!」

「はーい、本日も安全確認はしっかり出来てますので安心してくださいね」

エイミーが悪戯っぽく笑いながら退出すると今度は弾けるような勢いでフィムが飛びついてきた。

「おかあさん!昨日のおかえし」

シズクに元気良い笑顔を見せると首筋に軽く口づけをしてからグリグリと頭すりつけ始める、

そんなフィムの頭を撫でながらくすぐったそうな笑顔を浮かべる。

「フィムよ、明日まで寂しいと思うが今日も頑張ってゆくぞ」

「うん!フィム今日もがんばる!」



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