「始めようか有精卵共!!!戦闘訓練のお時間だ!!!」
オールマイトの声が市街地演習場に響く。周りには本当の街のようにビルや商店などの建物が乱立しており、実地に近い訓練ができるようにと用意された場所だ。ただ本物の街と異なる点は一切の人の気配が消えており、ゴーストタウンの様相をしているところだ。
ちなみにこの場所は入試に使われていた。
今の俺の恰好は制服でも個性把握テストの際に来ていたジャージでもない。
全身を黒色のウエットスーツのようなもので包み、手と足には黄色のグローブとブーツを着用している。これらはすべて防弾防刃性で攻撃から身を守ってくれる。腰には赤いベルトを巻いており、左右2個ずつポーチがあるのでサポート用の小物を持ち運べるようになっている。肩には白い膝裏まであるマントを羽織っている。これは耐火性があり火を使うような個性持ちや火事場での活動をある程度可能にするためだ。
デザインの参考はせんせいだ。せんせいの個性しか使う機会がないので同じようなコスチュームにしたのだが、ナイショで作ったからなのかこのコスチュームを着た際、せんせいに『バレバレじゃないか!』と頭をはたかれた。解せぬ。
このコスチュームを用意できたのは雄英にある"被服控除"というシステムのおかげだ。個性届や身体情報を学校に提出するとサポート会社がコスチュームを用意してくれる。デザインなどの要望があれば可能な限り叶えてくれるのだが、俺の個性はザックリといえば幽霊と触れあれる個性なのでそのまま要望が通った形だ。
「ケロ、とてもシンプルなコスチュームなのね纏ちゃん」
「まさにヒーローって感じがしてカッケェじゃねーか!」
頭に大きなレンズ型ゴーグルをつけ、より一層カエルっぽさを強調したコスチュームを着た梅雨ちゃんこと蛙吹と、上半身はほぼ裸で両肩に歯車をはめたような装飾がされており、口元の牙のようなマスクとベルトのバックル部分のRの文字が特徴的なコスチュームを着た少年が話しかけてきた。
どうやら周りの生徒もコスチュームの感想を言い合っているらしい。
「ありがとさん。蛙吹とえっと……切島だっけ?」
「梅雨ちゃんと呼んで。とゆうか昨日は呼んでたじゃないの」
「俺も鋭児郎でいいぜ」
「そうだっけか?まぁよろしくな梅雨ちゃんに鋭児郎。お前らのコスチュームも似合ってるな」
お互いを褒めあっているとオールマイトが話し始めた。
「良いじゃないか皆、カッコイイぜ!!」
クラスメイト全員を見渡しながら大きな声で言うと
「ムム!!」
と何かを見つけたのか急に横を向いて笑いをこらえていた。
また正面を向いた時にオールマイトと目が合った。するとなぜか生暖かい目を向けていた。変なところでもあったんだろうか。
全身をロボットのようなコスチュームに包んだ奴がオールマイトに質問をしていた。どうやら市街地演習を行うのかと聞いたようだが、本当にコイツは誰なんだろうか。まあクラスメイトはまだ4人しか覚えてないから誰だろうと大体わかんないんだけど。
「いや、もう二歩先に踏み込む。屋内での対人戦闘訓練さ!!ヴィラン退治は屋外で主に見られるが屋内のほうが凶悪ヴィラン出現率は高いんだ。真に賢しい敵は屋内にひそむ!!」
オールマイトは咳ばらいをしながらこれから行う訓練を説明していく。
「君らにはこれからヴィラン組とヒーロー組に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!!」
「勝敗のシステムはどうなりますの?」
「ぶっ飛ばしても良いんすか?」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか?」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」
「んんん~~聖徳太子ィィイ!!」
途端に複数名の生徒からの質問攻めに変なうめき声をあげるオールマイト。
ツンツン頭君は敵組確定だろ。何がぶっ飛ばしていいだ。
困り果てたオールマイトはポケットからカンペを取り出し説明を続けた。
今回の訓練はヴィランが核兵器を隠し持っており、ヒーローはその処理にやって来たという設定らしい。この訓練の達成条件はヒーローならば敵の捕獲と核兵器の回収。ヴィランならヒーローの捕獲と制限時間まで核兵器を守り通すことだ。なんとも設定が自由の国スケールな気がするが気のせいだろうか。オールマイトは日本人なのか?
チーム決めはくじ引きで行うそうだ。くじの前には生徒が一列に並び、どんどんと引いていく。そしてついには俺の番だ。
「さぁ纏少年の番だ!」
俺は短く「はいっす」と返事をすると箱の中に右手を突っ込んでくじを探す。すると俺にだけ聞こえる声でオールマイトに話しかけられた。
「良いコスチュームじゃないか、誰がデザインしたんだい?」
「一応俺ですけど、真似しただけなんで」
「それでも良いじゃないか!きっと君ならそのコスチュームの似合うヒーローになれるさ!!」
ぐるぐると遊ばせていた右手を箱から抜き出し、引いたくじを見るとEの文字があった。
「それでは」
「あぁ!訓練頑張ってね!!」
俺は列から外れるとチームメイトであろう人を探していく。
すると全身ピンク色で二本の角が生えた女の子がこちらに近付いてきた。
「ねぇねぇ!君がEチームだよね?私、芦戸三奈!よろしくね!!」
「お、おぅ。俺は纏ツクモだ」
ググイッ!っと詰め寄ってくる芦戸に距離が近すぎてたじろいでしまう。
くじを全員引き終わり、周りでは既に全チームがそろい終わっていた。それを確認したオールマイトが二つの箱を取り出した。
「続いて、最初の対戦相手はこいつらだ!!」
HEROとVILLAINと書かれた箱から一つずつボールを取り出した。ヒーローを決める箱から取り出したボールにはAの文字が、ヴィランを決める箱から取り出したボールにはDの文字がプリントされている。
どうやらAチームは緑谷と麗日。Dチームはキレ気味なツンツン頭君とあのロボット君らしい。
選ばれた2チームは訓練会場であるコンクリートがむき出しのビルに向かい、その他である俺たちはオールマイトに連れられ同じビルの地下に用意されたモニタールームに移動した。
「さぁ君たちも考えてみるんだぞ!」
そういってオールマイトや生徒たちはビル内の至る所に設置されたカメラから送られてくる映像を見つめる。
最初のチームの訓練開始から時間が経ち、今3組目の訓練が終わったところだ。
今のところのハイライトはやっぱり最初のAチームとDチームの戦いだろう。緑谷とキレツンツンには因縁があったのか、訓練の初っ端から二人の派手な攻防が続いていた。まあ基本派手だったのはキレツンの個性で緑谷は身体能力と知識でそれを避けていたみたいだ。結果はキレツンの裏をかき、個性でもってビルの床をぶち抜いて麗日が核兵器を確保するチャンスを作ったAチームに軍配が上がった。勝敗が決した後キレツンはどこか呆然としていたようだがオールマイトが連れ戻した。
ちなみに緑谷は個性の反動で腕がボロボロになり搬送ロボットに連れて行かれた。
超パワーの代償が怪我なのだろうか、なんとも難儀な個性だ。
まあ、それはいい。今からは俺が気を引き締めないといけない。なぜなら
「次はGチーム対Eチーム!敵役のEチームは先に準備を始めてくれ!!」
「さ、行こっか纏ー!」
「おう、ちょっくらヒーロー締めちまうか」
俺はスキップしながら進む芦戸についていく。ビルの階段を上りながら芦戸は上機嫌に鼻歌も歌っている。
「いやぁ、まさか個性テスト1位と一緒のチームなんてラッキーだね!期待してるよー!」
「え?あ……」
芦戸に言われ、俺はあることを思い出した。周りには相手チームは居ないし言うなら今しかないだろう。
「なぁ芦戸、ちょっといいか」
「ん?なにー?」
「俺、今日個性使えないかも」
「へーそうなんだ……。うん?えぇえええーー!!!ウソ!?」
「いや、まじで……。正確には使えるけど使えないっていうか」
「ちょっと!ちゃんと説明してよ!!」
「ちょっ!わかった、わかったから揺らすな!!」
動転した芦戸に肩を思いっきり揺さぶられ説明を乞われた。
「俺の個性は"憑代"って言うんだが、まぁ簡単に言えば幽霊と話せたり触れたり出来て、尚且つ個性も借りることができるんだ」
「はぁ?!めっちゃ強個性じゃん!!じゃあ色んな幽霊から色んな個性借りれるってことでしょ!!」
「まぁそうなんだが。俺が個性を借りれるのは一人しかいないんだ」
「なんで?」
「その……せんせいって呼んでるんだがな?その人が全部追っ払っちゃうんだ」
『ツクモに不埒な輩は近づかせん!』
後ろのほうでせんせいがドヤ顔をしていた。
「そ、そうなんだ……。でもそれじゃあなんで個性が使えないの?その人の個性使えばいいじゃん!」
そう言われ、俺は気まずそうに芦戸から目をそらす。
「確かにそうなんだが、借り物の個性だから自分のモノじゃないだろ?だから本人よりも力を発揮しにくいんだ。それにリスクも少し大きくなる」
「昨日のテストそんなに頑張ってたの!?」
「それもあるしその後な……。雄英に来て嬉しくて、個人トレーニングでちょっと張り切っちゃって」
「それで今日個性使えないの?!」
「いや一応使えるんだよ!その…1%……くらい?」
「それってどの位なの?」
「プロボクシングチャンピオンくらいかな。……無個性の」
「ダメじゃん!もう、どうしよーー!!」
芦戸は頭を抱えて天を仰いだ。
俺の雄英初めての戦闘訓練は前途多難なようだ。
この小説のボツ案2
・個性を偽る
幼少のころにトラウマができ、ただの身体強化の個性と偽るという設定。
話の展開上偽る意味がなかった。