「取り合えず作戦会議始めようぜ」
頭を抱えて、絶望したような表情で空を仰ぐ全身ピンク色の少女、芦戸三奈に話しかける。空を仰ぐといったが此処は訓練のために作られたコンクリ―トのビルで、上を見上げたところでコンクリの天井か蛍光灯しかない。
「芦戸の個性はなんだ?」
「え~私の個性?私は手から酸が出せるよー!」
芦戸は手から酸を出して近くの壁に掛ける。すると酸をかけられた場所がドロドロと融けだしていく。
「他にも粘度を変えたり床に撒いて滑ることもできるよ!」
「なるほど。ちなみに相手の個性は知ってるのか?」
「纏は昨日のテスト見てなかったの!?」
芦戸は信じられないといった顔で驚いていた。仕方ないだろ、実際昨日のテストを受けていたのはせんせいなんだから。
「Gチームは上鳴と耳郎だね。上鳴の個性は"帯電"だよ。体の周りに電気を纏わせるんだって!耳郎はたしか"イヤホンジャック"だっけ。耳たぶのプラグを刺して音を流したり周りの音を聴きとれるらしいよ!」
見た目はそんなに賢そうではない芦戸から、意外としっかりとした情報を得ることができた。
「予想以上に情報があって助かったよ。なら耳郎が音で索敵をしてきて位置を割り出して、上鳴が戦闘役かな。上鳴の個性的にインファイトを仕掛けてくるだろうから芦戸なら近づかず倒せるんじゃないか?」
芦戸は「たしかに!」と俺の案に同意してくれた。大筋としては芦戸と上鳴。俺と耳郎の戦いを想定すればいいだろう。
「このビルをショートカット出来そうな個性はなさそうだから、核兵器は最上階でいいだろう。後は芦戸の個性で滑らせるトラップを仕掛けるくらいだな」
「纏なにもしてないじゃ~ん」
『そうだそうだー!』
「ぐっ!だからこうやって頭働かしてんだろ!!」
痛いところをついてくるな。なぜかせんせいも一緒になって煽ってくるし。
「それにしても昨日のテストだけでよくそこまで二人の個性を知れたな」
「へ?昨日友達になって聞いたに決まってんじゃん!二人以外にも蛙吹に葉隠にヤオモモでしょ。あと麗日や瀬呂とも友達だよ!!」
「なん…だと……!?」
『昔から言ってるだろ。お前はもうちょっと他人に興味を持てって』
たった一日。それも数時間しか共にいなかったのに友達がそんなにできるものなのか!?というかそれは本当に友達なのだろうか。きっとこいつとって友達とはちょっと挨拶したくらいで──
「もうみんなと連絡先交換してるから、あとで紹介したげよっか?」
「グハァ!!」
敗北だ。完全敗北だ。今まで俺のコミュ力は普通だと思っていた。だがどうやら俺はただのクソ陰キャ。路傍のクソザコ青虫だったようだ。
俺が両手両足をついた敗者のポーズをしていると、芦戸が肩に手を置いてきた。
「勿論纏とももう友達だから!後で連絡先教えてね!!」
「う、五月蠅い!それよりも準備をはじめるぞ!!」
「あ、照れてる。カワイー!」
俺は少し熱くなった顔を芦戸からそらしながら、ずんずんと先に進んでいく。その後ろをからかいながら芦戸がついてきた。
《訓練開始まであと1分だ》
スピーカーからオールマイトのアナウンスが聞こえてきた。
「まずは動かないんだっけ?」
「あぁ、音を聴く個性なんだろ?動いたら俺達の位置から核兵器の場所がばれるかもしれないからな」
「速攻で来たらどうすんの?」
「そのために芦戸の個性でブービートラップ仕掛けたんだろ」
「あ、そっか」
この5階建てのビルの通路や階段には滑りやすい芦戸の酸を撒いている。他にもドアノブを溶かして蹴破らないと開かないようにしたりと、かなり嫌がらせに力を入れた。
「トラップで時間稼ぎ&体力消耗。4階で相手を分断して一対一に持ち込み、時間切れを狙いつつ隙があればヒーローを確保。完璧だな。ハァーハッハッハ!!」
「纏まじでヴィランぽーい」
「いや、設定でやってるだけだからね?正直個性使えないだけで大分焦ってるから」
《戦闘訓練スタート!!》
とうとう訓練が始まってしまった。相手の個性の範囲は分からないが念を入れて最初の1分は静かにしておく。時間が経ったことを芦戸に伝えると二人で行動を開始する。
「それじゃ待ち伏せしますか」
「はいよ!」
階段を降り、四階の階段付近で隠れておく。相手の姿が見えた瞬間に芦戸は上鳴を酸でけん制しつつ3階へ。俺は耳郎と相対し加勢に向かわないようプレッシャーをかける。相手チームは俺の個性の強さを昨日と同じだと思っているから慎重になるだろう。
そうして息をひそめるうちに階下から物音が聞こえてくる。
「うわ、此処にも酸があるのかよ!?」
「芦戸の奴頑張りすぎじゃない?」
その声が段々と近付いてくる。俺達二人も音が大きくなるに連れ緊張感が増してくる。
階段から先に見えたのは耳たぶがイヤホンのケーブルのようになって、パンクロッカーのようなコスチュームを着た少女だった。完全に姿が見え、もう一人の頭が見え始めた時、一気に飛び出す。
「恨みはないけどカクゴー!」
芦戸は走りながら踏み込んでジャンプをし、耳郎を飛び越えライダーキックをしながら階段から消えていった。その時に「はぁ?!ばっ、ぐわぁーー!!」という叫び声が聞こえた気がしたが忘れることにした。芦戸身体能力高すぎね?
「ちょ──っ!上鳴!?」
「おーっと待ってくれるかな?お前は俺の相手をしてもらおう」
「うげっ、纏じゃん」
いかにもヴィランっぽいセリフを言いながら上鳴の助けに向かおうとする次郎を足止めする。あのセリフは正直恥ずかしかった。
「アンタの相手なんて最悪なんだけど」
「なら投降したらどうだ?」
「それは──いやだね!」
「──ッ!」
耳郎は個性である耳たぶを一直線に俺へと伸ばしてくる。咄嗟の判断で避ける事に成功したが、あのジャックが刺さっていたらまずかった気がする
それよりも俺とあいつの距離わりとあった気がするんだが。あの耳たぶかなり伸びたぞ。
「流石に避けるか……。これならどう!」
耳たぶについたピンジャックをコスチュームのまるでスピーカーのようなブーツに刺した。ん?スピーカー?
疑問に思った瞬間
ギュォォオオオオンーー!!
と爆音が部屋中を満たした。あまりの煩さに思わず耳を塞ぎ目をつむってしまう。頑張って右目で相手を見ると、目の前には脚が迫っていた。
「グッハ!」
側頭部に受けた衝撃に思わず唸ってしまう。相手もヒーロー志望で最難関の試験を突破したエリートだ。個性だけではこの学校に入れないのは明らか。なかなかの威力を持った蹴りで少しふらついてしまう。
「初対面の相手に脚振りぬくとか良い根性してるな」
「ヴィラン相手に遠慮なんかしてられないからね。それよりもあんた個性使ったら速攻決着ついたんじゃないの?」
「生憎女子供には暴力を振るわない主義って言ったら信じるか?」
「いや全然」
「あっそ!!」
少しぶれる視界を気合で抑え、距離を詰めるための踏み込みから右ストレートを出す。耳郎は後ろにバックステップしながら腕を丸めてガードする。普段の特訓から至近距離での殴り合いなら完全に俺に分がある。距離を離されないように攻撃を続けようとするが、その攻撃に対してカウンターのようにジャックが迫ってきたため、無理やり体制を反らして避ける。
「くっそ──っ!おい!こちとら軽い筋肉痛の上に余り個性が使えねーんだぞ!お前も個性を捨ててかかってこい!!」
「それで生身で突っ込んでくると思ったら映画やマンガの見過ぎだぞ!?」
「ちっ、ノリが悪いな」
「うっさいな!てか個性使えないって自分から暴露するとか馬鹿なのか?!」
「……」
頭に血が昇りすぎたみたいだ。だが本当にどうする?まさか相手の個性が中距離タイプで相性最悪だ。これで20%でも個性が使えてたら力こそパワ-でごり押し出来たんだがな。ここで真の力に目覚めるとかあれば良いんだが…それこそ漫画や映画の話──ん?
「なぁ耳郎だっけか、お前幽霊って信じるか?」
「はぁ?突然何言ってるんだ……。あんま信じてないけど」
「残念居るんだなーこれが。ねぇ"せんせい"?」
俺はせんせいのほうへ目を向けると、せんせいは『ん?何をするつもりだ?』とこちらを向く。
「はぁ!?マジでいるの!?無理なんだけど!!」
「せんせい、俺を武器にしてあいつを倒してくれ!!」
人間は大きい音に対して反射的に身を守ろうとしてしまう。なら俺が例え身を守ってても動ければいい。せんせいは他のモノには触れなくても俺には触ることができる。あとは……わかるね?俺が斬げ──武器になってせんせいが振り回せばいいだけだ。
『はぁ。どうしてこんなバカになってしまったんだ』
と渋い表情をしていたが、俺の躰が吊り上げられるような感覚を得た。俺からはせんせいにマントを掴まれても持ち上げられているように見えているのだが──
「はぁ!?なんで浮かんでんの!?ムリムリムリムリ!!!!」
と耳郎からは勝手に浮いたように見えているようで、恐怖で半泣きになっている。あいつ幽霊ニガテだったみたいだな。
「やれせんせい!俺を使ってアイツ──を?」
突然体を浮遊感が包み、視界が回転しだした。廻る世界の最中、何かを投げたような体勢のせんせいが見え、次の瞬間には耳郎の顔が目の前に──
「──は?」
「──へ?」
「「へぶぁ!!」」
ゴチン!と星が飛び出しそうな音と共に額に物凄い衝撃が走る。
2度の頭へのダメージは耐えられず、俺の意識はそこで途切れた。
「遅れてゴメーン!上鳴は勝手にアホになったから助けにき……キャーー!!」
上鳴を無力化し援護に来た芦戸が見たものは、額に大きなコブを作って倒れている耳郎と
「ア……アァ……」
仰向けになり、白目を剥きながらだらんと四肢を投げだして、うめき声をあげる俺が空中浮遊をしていた姿だった。
この小説のボツ案3
・主人公の性格
陰のある無口キャラにしようかと思ってた。
話が暗くなりすぎそうだったのと、轟と被るかと思って無くなった。