男女逆転してる変な世界ですがデュエルで戦っていきます 作:火壁
レイカの過去編です。イライザと仲が悪い理由だったり家の深堀りをしていきます。
レイカ・アトラスはこの世界のデュエリストの名門『アトラス家』の次女である。幼少期は実家のあるセントラルエリアで義兄の『翔哉・アトラス』と長女の『イライザ・アトラス』とも関係は良好だった。
「ブラック・ハイランダーでダイレクトアタック!」
「うわーん!また負けちゃったよー!お姉ちゃんそのカード強すぎー!」
「その為の準備もやってるんだからいいのー!レイカも攻撃力だけで戦わないで効果も使わないと!」
「だってー!」
どこにでもある姉妹の日常。そして彼女には義理の兄がいる。
「イライザ、そんなに言ったらレイカが可哀想だろ?まあ、レイカもイライザの言う通り効果や魔法、罠も使いこなせるようにならないとね」
「翔哉お兄ちゃん!」
「翔哉、もう勉強はいいの?」
「うん、今日の分は終わりだって先生が。だから様子を見に来たんだけど、いつも通りだね」
「お兄ちゃん!お姉ちゃんがまたシンクロ封じてくるの!これって絶対わたしの当てつけだよ!」
「当てつけじゃなくて戦略よ!私が悪いみたいに言わない!」
多少怒りながらも三人揃って笑い合う。家族として、兄妹として微笑ましい光景である。レイカ自身、この日常がいつまでも続くと信じていた。
その日が来るまでは。
時間はレイカが小学生の時に進む。
「お姉ちゃんどこ行ったんだろ?新しいデッキつくったのに」
夜、新しいデッキをつくりあげたレイカは、イライザとデュエルしようと探すが、家中探しても見つからない。残るは翔哉の部屋のみであった。
「お兄ちゃんの部屋、でもここってお母さんから入っちゃダメって言ってたよね」
翔哉だけでなく、世界中の男性が暮らす家庭は男性用の部屋を大きくつくり、女性の侵入は一部の人間以外、家族でも入る事が出来ない。
「…ドア少し開けてなら、いいよね?」
意を決してドアを開ける。明かりはついておらず、カーテンが開いていた。
「夜なのにどうして……?」
そもそも男性の部屋はカーテンを開けない。朝に体内時計を正す為以外は覗き防止の為に閉めておくのだ。
「……イザ、やめ……」
「…やぁ……しょ……きぃ」
「お兄ちゃん!」
レイカは勢いよくドアを開ける。そこには
裸になっている翔哉と彼に覆いかぶさっているイライザがいた。
「お……おねえ……ちゃん?お兄ちゃんと……何…してるの……?」
「レイカ……!」
「レイカ…何故この部屋に入っているの?」
「だって……お姉ちゃんを探して…お兄ちゃんのやめてって聞こえて……」
たじろぐレイカだが、彼女の鼻腔は正確にこの部屋の異臭を捉える。今まで嗅いだ事が無い、むせかえるような精臭はレイカに事態の混乱を及ぼし、吐き気を促した。
「ぅぷ……ううぅ……」
「レイカ!」
「翔哉、レイカなんて放っておいて。今は私を愛して……」
「イライザ!妹を心配しないのか!」
「妹より貴方が大事よ。ほら、まだ出来るでしょ?」
「ああ…イライザ……どうして…」
レイカを放置し、イライザは翔哉に覆いかぶさり事に興じている。レイカはトイレに駆け込み胸にこみ上げたものを吐き出していた。
「ぅおえええええ!! うええええええ! けほっけほっ……」
身体の力が抜け、便座を前にへたり込む。レイカは無力感に襲われ、涙が浮かんだ。
「お兄ちゃん……お姉ちゃん……どうして……ううぅ」
レイカはひとしきり泣いた後、自分の部屋に戻り泥のように眠った。
「いか……レイカ……レイカ」
「んぅ……おにい……ちゃん?っお兄ちゃん!」
「レイカ、昨日は大丈夫だった?」
目が覚めたレイカの前には昨日イライザに襲われていた翔哉だった。
「お兄ちゃん!」
「レイカ、昨日はごめんね。どうやら夕食に薬を入れられていたらしい」
「そんな!」
この世界でこのような事例は多くある。子供が欲しい、相手と愛し合いたいという欲望から食事に薬を盛るという行動に走る。しかし、今回は一つの例外が存在した。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんもまだ中学生だよ!あれってあ…赤ちゃんをつくる為のものなんでしょ?お母さんだってそういうのは大人になってからって言ってたよ?」
「そう、母さんも言っていた。でもイライザは僕の為にやったんだ」
「どういうこと?」
翔哉は自らの出自をレイカに明かした。翔哉の両親はアトラスの分家だが、アトラス本家と違いデュエルで生計を立てられはしなかった。その中で翔哉が生まれた事を喜んだが、翔哉を育てる為に必要な資金を持ち合わせていなかった。
そこでアトラス本家に話を持ちかけた。翔哉を養子に出し、彼を守ったのだ。アトラス本家は男性を獲得出来た為、喜んで養子を受け入れた。しかし、上流階級で養子とは受け入れられ難いもの。アトラスの親戚間では男性としての扱いより、世継ぎを産む事を催促されていた。しかし当然翔哉は子供、精通もまだな幼子にとって何も分からないまま大人から自分に攻撃されているようにしか聞こえていなかった。そしてそれを間近で知っていたイライザは翔哉を助けたいと願った。そこで考えたのが
「イライザが僕の子供を身籠れば、親戚連中は黙るって思ったんだ」
「そんな…そんな事の為にお兄ちゃんが……」
「でもその中に僕は変なものを見た。それに昨日のイライザも、レイカをあれ程可愛がっていたのに急に態度を変えるなんて」
昨日の昼もレイカはイライザにデュエルに誘ったが、冷たくあしらわれていた。都合がつかなかったからとレイカは考えていたが翔哉はそうでは無いと考えていたようだ。
「そして昨晩、イライザにその事を問い詰めたら、レイカの事を私の前で話すなって怒鳴られたよ。その後は、レイカの知る通りだ」
「お姉ちゃん……」
「レイカ、よく聞いて。イライザだけじゃない、この家が、アトラスの関係者がおかしくなり始めている。レイカにこのカードを託す。僕の友人が東エリアにいるからそこを頼って、いつかこの家の闇を暴いてほしい」
レイカは話を呑みこめなかった。いきなり飛躍したそれは、小学生が理解するには難しすぎるものだった。
「お、お兄ちゃん?いきなり何を言ってるの?」
「僕自身、どこか気がおかしくなったんじゃないかと困惑してる。でも感じたんだ。イライザの後ろに
「何か?蠢いていた……!」
レイカはその話の中で一つの忠告を思い出した。それは母が告げた地下の扉。イライザも立ち入りを許されなかった地下にはお化けが潜んでいると言われていた。しかし、それは自分達の目の届かないところに行かせないようにする為の方便だと幼心に思っていた。
「あの話が……本当にあったって事?」
「……レイカ?」
「……お姉ちゃん!!」
レイカは突然走り出した。翔哉は後に続こうとするが、昨日の運動の疲労がまだ残っていた為か満足に動けなかった。そんな翔哉を余所にレイカはわき目もふらず地下へ向かった。
地下の扉は人一人通る事が出来る程の幅が開いていた。
「扉が開いてる……お姉ちゃん」
意を決して地下室へ入ろうとするレイカ。そこに
「レイカ!何をしているの!」
母であり、当主の『カナデ・アトラス』に呼び止められた。
「お母さん、この扉……」
「ここには入っちゃダメだって言ったでしょう!さあ、お姉ちゃんのところで遊んできなさい」
「その、お姉ちゃんがここに入ってたかもしれないの!」
「……なんですって?」
レイカは昨日起きた事、翔哉の感じたもの、翔哉が自分を東エリアへ逃がそうとしている事。カナデに全て告げた。
「何という事……!イライザ!」
カナデは地下室に入り、その場の惨状に絶句する。
幾代から残されていたのだろうか、壁や床には夥しい血糊やその異臭がこの場で起きた凄惨さを物語っている。地面に転がる白骨は原型を留めておらず、半分が塵と化していた。しかしこの中でひとつ新しい遺体が発見される。最も、あまりにも無残な殺され方をしており、誰のものか断定は出来ないが。
「ここは……母様が言っていた惨劇はこれ程までに……」
「お、お母……さん……」
「レイカここで見た事は絶対に……イライザ!」
レイカに釘をさそうと振り向いた先にはレイカの後ろで無気力に立つイライザがいた。
「イライザ!あなたどうしてここに……学校に行ったはずじゃ……」
「学校?そんなところ行ったとしても翔哉の為にならない。
イライザは自分のデッキケースから一枚のカードを取り出す。そのカードは今までイライザのデッキに入っていなかったカード。
「魔王竜……ベエルゼ……?」
「そのカードは……まさかこの部屋から!」
「こんなカードがあったなんて……お母さんはずっと隠してたんだよね。こんなに素晴らしい力を!」
イライザの体から黒い瘴気が噴き出す。科学の発展した現代では一笑に付すオカルトが目の前で起き、レイカは幼心に恐怖した。
「ひっ……お、お姉ちゃん……?」
「レイカ、あなたは……いや、お前は本当に私の邪魔しかしない!本当なら翔哉は私といたいのに、お前が私達の回りをチョロチョロ動くから翔哉はお前の相手ばかりする!」
「そ、それはお姉ちゃんとデュエルしたかったら」
「それが邪魔だって事にどうして気づかない!私だって翔哉との時間が欲しかった。昨日だって翔哉は私じゃなくてお前の名前を呼んでいたんだぞ!お前には分からないだろうが、あの時どれだけはらわたが煮えくり返ったか!!」
取り付く島もないといった様子でイライザは激昂する。カナデはレイカを庇うようにイライザとレイカの間に立ち、レイカに向けて言葉を発する。
「レイカ、今のイライザはあなたに危害を加える事をためらわないわ。逃げなさい!東エリアに私の知人がいるわ!」
「嫌!お姉ちゃんがおかしくなったならわたしだって「あなたじゃ役に立たないの!いいから行きなさい!」……!」
母が初めて自分に発した「役立たず」という言葉はレイカの心に重くのしかかった。しかしカナデの本心の言葉ではない。自分の娘が実の妹に手を上げる事を防ぎ、逃げる時間を稼ぐ為に自らの心を鬼にしなければならなかったのだ。
「お姉ちゃん……!お兄ちゃん!!」
「レイカ……逃げろ!」
レイカが玄関まで近づいたとき視界に入ったのは、両腕を後ろで固定され、縄で拘束された翔哉であった。
「叔母さん!お兄ちゃんをどうする気なの!?」
翔哉を拘束しているのは翔哉の産みの親『セイラ・アグネサ』であった。レイカ自身も何度か顔を合わせ、良くしてもらったのは記憶に新しい。
「どうするかって?元々私の子だよ?どうするかなんて私の自由じゃないのさ」
「違う!子供は自分の道具じゃないってお母さんはいつも言ってたよ!叔母さんだってお兄ちゃんに不自由させない為にこの家の子にしないといけなかったって言ってたじゃない!それなのにどうしてこんな事するの!?」
セイラはため息をつきながら辟易した表情でレイカを睨みつけた。その目は冷たく、レイカを震え上がらせるには十分な殺意が込められていた。
「何不自由無く生きていられるお子様ってお気楽でいいねえ。虫唾が走る」
「?」
「私はシングルマザー故に翔哉と暮らせなかった。それなのにどうして何不自由無く生活してるお嬢様が私の息子と楽しく暮らせるんだい。全く図々しいねえ。だから翔哉を返してもらう事にしたのさ」
「お兄ちゃんを……でもお母さんがそんなの許さないよ!」
「カナデさんかい?許可なんていらないさ。何せ私達は親子なんだからねえ」
「何が親子だ。こんな事をするのが親子な訳があるか!」
「……うるさいんだよ!」
セイラが拳を振り上げ、翔哉の後頭部を殴りつけ、翔哉の意識が刈り取られる。この世界で男性は虚弱に、女性は強靭に発達し、トレーニングをしていない女性でも男性の意識を素手で奪う事が出来る。
「お兄ちゃん!」
「さあ、後は邪魔なあんたらを始末すればいいだけさね。はやいところ「はやいところ何かしら?」おやおやイライザちゃん。いやね、ちょっと翔哉が家に帰りたいって言うもんでね」
「翔哉はそんな事言わない」
「そんな事はないさ。息子なら母親の下に帰りたいと思うのは「貴様が母親な訳があるか!」っぐうぁあああ!!」
突如現れたイライザが放つ瘴気がセイラを吹き飛ばした。そしてレイカに一瞥もせず翔哉を抱え自室に戻っていった。
「お姉ちゃん……」
「レイカ!無事だったのね……イライザは?」
「お姉ちゃんは、お兄ちゃんを連れて自分の部屋に帰っちゃった」
「そう……レイカ、あなたはこのまま東エリアに行きなさい。そこの男性保護協会に勤めている『御影昌』という人を訪ねなさい。話しはつけておくわ」
「……わたし、もうこの家にいられないの?」
「そんなわけないじゃない。イライザもいつか自分の過ちを気づいてくれるわ。それまでの辛抱よ」
レイカを説得するカナデにも悲痛な表情が表れる。それを理解したレイカも涙をこらえ、決意した目でカナデに答えた
「うん、お姉ちゃんがわたしを許してくれるまで待つ。いつになるか分からないけど、わたしが我儘だったからこうなっちゃったんだもん。お兄ちゃんと幸せになるまでわたしもいつまでも待つよ」
「レイカ……ごめんなさい……こんな事、本当なら私がすぐに解決すべき事なのに……」
「大丈夫だよお母さん。わたしも強くなって来るから」
レイカはその日にアトラス家を出立。東エリアの童実野町にある男性保護協会に到着。御影昌に事情を説明し、彼女の下で勉学とデュエルを修め、警護会社『イェーガー』に入社する事となった。
後にレイカ宛に翔哉から手紙が届く。内容は親戚連中がこぞって自分を狙いはじめ、カナデが対処に奔走している事、その中で自分の無力さを嘆き、それでもイライザを裏切りレイカの下へ行く事が出来ない自分の甘さ、イライザをレイカに止めてほしいという旨を綴ったものであった。そしてその手紙に同封されていたカードこそ
「レッド・デーモンズ・ドラゴン……あなたはきっと義兄さんの下に届けるから。それまでは力を貸して」
レイカ・アトラス、十八歳で男性保護協会の内定が決まり、この二年後に遊崎明日葉と出会う事となるが、当時の彼女にそれを知る術は無い。
そして今、レイカとレッド・デーモンズ・ドラゴンは一つの試練に立ち向かっている。姉を超え、姉に憑りつく何者かを打倒する。
レイカはもう、何も恐れてはいなかった。
デュエル書く余裕が無かった(遊戯王小説書きの屑)。次は書くんで許してください。
作者の最近の悩み:伏線を張りすぎてどう回収しようか思いつかない。