悩み事が解決したせいなのか千冬は随分と機嫌が良くなり、俺に対して飲みすぎるなと言っていた割にはグビグビと酒を飲んでしまった結果、見事に出来上がってしまったのである。
「あははははははははははは!!」
果たしてコレは本当に織斑千冬なのだろうか。普段の凛とした姿は今の彼女にはカケラもなく、フラフラとかなり危ない。
ちょっと、ヒールで歩き回るなよ。さっきから足が踏まれそうで怖いんだけど!!
コイツ、ちゃんと家まで帰れるのか?店の会計時でコレなのだ。帰りはタクシーを呼んだ方が良いな、そうしよう。
俺は、マスターにタクシーを呼ぶのでもう暫く店に居させてもらうように頼んでおいた。
「ん〜〜?飲み直すのかぁ?良いぞ!さぁ飲もう!」
何を愉快な勘違いをしているのだコイツは。
「料金は1080円です」
運転手に料金を払い、車内で寝てしまった千冬を背負う。
あの後、タクシーが来るまでの間、千冬は一曲歌うかァ!と唐突に対して上手くもない歌唱力を披露したり、俺に対してもっと飲めと勝手に注文したりと中々に悲惨な状況だった。願わくば、彼女の名誉のためにも記憶が消えている事を期待しよう。そうじゃないと俺の方の記憶を消しにきそうだ。
タクシーが走り去り、道にいるのは俺と酔っ払いの2人だけで、辺りは静寂に包まれていた。
さて弟君はまだ起きているだろうか。腕時計に表示された時間は既に深夜1時。健康志向の彼の事だから寝ているかなーとか思いながら、インターホンを押す。ピンポーン。
………
……
…
やはり寝てしまったか?さて、どうしようかなと考えていた時、扉の方からカチャッと音がする。扉から弟君が頭だけ出した状態でこちらを見ていた。どうやら暗いせいか、俺の顔がよく見えていないようだ。もしかしたら忘れられているのかもしれない。それはショックだなぁ。
「もしかして秋隆さんですか?」
どうやら忘れらてはいなかったようだ。久しぶりだね、弟君。
「はい、久しぶりです。」
急で申し訳ないんだけどちょっと家に入って良いかな?コイツの体が冷えちゃいそうでさ。
「コイツ?………あ!!千冬姉!!」
どうやら姉を背負っていたことに気づいていなかったようだ。彼は玄関を開くと、どうぞ中にと言わんばかりに門を開けてくれた。それにしても弟君、深夜にそんな大声は良く無いぞ?
千冬を部屋まで運びベッドに寝かせた後、さぁ帰るかと弟君に一声かけると、お茶を入れたんで飲んでくださいとリビングまで引き戻された。いや、そんな迷惑な真似は出来ないと断ろうとしたのだが、
「眠った姉を家まで送り届けてくれた人をそのまま返すなんて無礼は出来ません」
と言われ、ここは弟君の優しさに甘える事にしようと上着を脱ぎ、お茶を頂くことにした。あーあったけぇ。
「千冬姉、今日は秋隆さんと飲んでたんですね。俺何にも聞かされてなくて、鍵も持ってなかったから心配で…」
ああ、コレは悪いことをしたな。店を出る前に一度電話くらい掛けてやるべきだったか。
今日は千冬に相談されていたんだと彼に伝えると、あの千冬姉が相談?と訝しむような表情をしていた。あまり人を頼らない奴だしな。気持ちは分かる。
君がISを動かしたと聞いたよ。IS学園に入学するって事もね。
「ああ、その事ですか」
うん、大変な事になったねぇ。気持ちは大丈夫かい?
「正直、モルモットにされなかっただけマシだと思いますよ」
とは言っても政府の狙いは彼のIS操縦による男性データの収集なのだろう。解剖はされなかったが、扱い的には研究対象のままなのは変わっていない。幼馴染の弟がそんな扱いをされるのは正直嫌なんだが、俺がそんな事を言ったところで状況が変わる訳もなく。おそらく彼が今も生きていられるのは千冬の影響力が強いせいだろう。コレが一般家庭の話だった場合、女尊男卑の今の世の中では家族を売るような真似をする人間がいてもおかしくはない。
俺は弟君に千冬から頼まれた内容を説明すると、彼はよく分かっていないようだった。というより、何故学園での生活でストレスが溜まるのだろうかといつまた感じだ。
「秋隆さんにそんな迷惑な事は掛けられないですよ、それにIS学園って言っても要は高校でしょう?そんなにキツくないと思うんですけど……」
ああ、これはまず彼の思っている事から変えた方がよさそうだな。
弟君、IS学園にいるのは女子だけだぞ。その中に男1人放り込まれてみなさい。どうなると思う?
「……どうなりますかね?」
立場的には見世物小屋のパンダと変わらんぞ。君の行動1つに学園中の女子生徒が反応する。
「うっ、それは……」
それとも君は女の子の視線は一切気にしないタイプかね?
「……なんか酷く不安になってきましたね。俺本当にIS学園でやっていけるのかなぁ……」
そういう時のためだ。気軽に相談してきなさい。別に悩みが無くても掛けてきていいからさ。
「そう、ですね。分かりました。その時はお世話になります」
一番いいのは何も問題なく彼が平和に学園生活を過ごす事なのだが、おそらく世界は彼を放っておかない。ありとあらゆる国の女生徒たちが彼に介入しようと躍起になるだろう。俺にできるのは精々弟君の愚痴を聞くぐらいなもんだ。その程度で彼の精神の平穏を保てるのなら喜んでやってやるさ。
それにしても何とも可哀想な事だよ。せっかくの受験勉強が無駄になって、挙げ句の果てには全く関係のない分野に進む事になるのだから。ISなんて専門知識がなければ全く理解出来ないようなシロモノなのにな。
お茶も飲み終わり、そろそろ2時になろうかとしたところで俺は帰るよと告げた。ただでさえ遅かったのに、これ以上居座ってしまっては迷惑だしな。弟君、せめてしばらくの間くらいはゆっくりと眠りたまえ。君に待ち受けるのはおそらくドタバタとした日常だろうから。
「秋隆さん、今日は千冬姉を送ってくれてありがとうございました。多分千冬姉も秋隆さんと飲めて嬉しかったんですよ」
そうだといいのだが。ああそうだ、弟君。アイツに今日は楽しかったって伝えておいてくれ。
「分かりましたよ」
ついでにたまには部屋を片付けろって言っといてくれ。
「あははは。そんな事言えるのは秋隆さんぐらいですよ。それじゃ、おやすみなさい」
うん、おやすみなさい。
ああん、一夏っぽくなぁい。