落ちこぼれのつわもの   作:カルビ

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ゴッドフェスじゃあない。
ゴーレムフェスの間違いだろ。


第5話 断片

 太陽の光や小鳥のさえずりで目が覚める。そういう表現を小説で何回か読んだことがあるが、俺の場合はそんな優しい朝は迎えられない。

 毎回起きるたびに、頭の奥にじわじわと、ゆっくりだが確実に激痛が広がっていくのを感じながら、俺は朝を迎える。

 そして、今日も朝を迎えた。

 

 「…………だりぃ」

 あくびより先に、この三文字が口から溢れでた。

 それには一つだけではなく、二つ三つと、複数の意味がこもっている。最悪の朝に、神崎との勝負、そして…………。

 そこで考えるのをやめた。現実を向こうと自分に言い聞かせ、俺は時間の確認をした。

 

 「……今何時だ?」

 その問いに帰ってくる答えなどない。答えを求める相手(江口)といえば、今俺の隣で毛布に包まってぐっくすり眠っているからだ。

 仕方なくベッドから降りて、リビングにかけている時計へと向かう。ケータイを見れば早いのだが、生憎ケータイもリビングにあるのだ。どのみちベッドから降りることに変わりはなかった。

 リビングに入ると、そこはイカ臭い臭いが充満していた。

 

 「くっさ、朝の一発目からこれってどんな仕打ちだよ」

 その原因を作ったのは自分たちだ。皮肉にも、あれだけ娯楽だったものが、一気にストレスに変わってしまったのはなんとも言えない。

 文句を垂れながらも、空気の入れ替えを行うために窓を開けた。

 今日は風が強かったのだろうか、開いた窓から少し暖かい風がぶつかった。これで少しはましな朝になったな。

 眠気覚ましにもなった風を受けたあと、本来の目的である時計の確認を行った。

 リビングにかけてある時計が示す時刻は、午前七時三八分。もうじき朝の最終バスから二番目が来る時刻だった。

 

 「のんきに朝飯を食っている時間はなさそうだな。行って食堂でなんか買おうかな」

 そう思い、俺はまず着替えることにした。昨夜脱いでそのままリビングに放置しておいた防弾制服を手にとると、トランクス一枚の格好の上にどんどん被せていった。これで着替えは終了した。

 あとはバス停まで歩くだけだ。ふぅ、こんな簡単な朝があっていいのだろうか? いいんです。

 と、某博多大好き芸人のマネをしていると、江口の声が聞こえた。あいつの部屋からだ。

 

 「コー、あたし今日は休むって言っといて」

 「始業式の次の日に休むのかよ」

 「いいんだよー別にー」

 「はいはい」

 ということで、江口は欠席確定だ。この事実を抱えたまま、俺は当たり前のように(・・・・・・・・)江口の寮部屋から出た。

 当然、周りにはクラスメイトの女子や、他クラスの女子も何人か出ていた。だが俺は、何事もないかのように堂々と彼女たちの間を通った。

 彼女たちも、それに対してなんの不信感も抱くことはないだろう。なにせこんなことが、もう三ヶ月ほど前から続いているのだから。

 そしてバス停で共に同じバスを待ち、同じバスに乗って武偵高へ向かう。

 その一連の行動に、違和感などはもうなかった。ただ、一年生だけは驚きに満ちた顔で埋まっていたがな。

 だが次第に慣れる。そして知るんだ。

 武偵にはこんな奴もいるんだと(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………どうしてこうなった」

 闘うための舞台である闘技場で嘆くのはどうかと思うが、こればかりは場所を選んでいる余裕などなかった。

 時刻は午後三時を回っていた。本来ならば、これから軽めの依頼でもこなして小遣い稼ぎをする予定だったが、神崎との勝負が入った。

 だからそれをすっぽかして依頼を受けに行くつもりだった。

 だが、神崎にそれを阻止されてしまった。皮肉にも、俺と同じ手口で。

 

 「なにその目? 今更卑怯だなんて思わないでよね」

 と、俺から数十メートルほど前で得意げに言う神崎。

 卑怯だなんて思っていない。ただ自分の手口で自分が引っかかったことに機嫌が悪いだけだ。

 ボイスレコーダーなんていつ用意してたんだよ。くそったれ。

 

 「これで、やっとあんたと闘えるわね」

 やはり某戦闘民族王子のようなセリフを吐くと、神崎は腿につけてあるホルスターから、昨日の二丁拳銃を取り出した。

 右手に銀の、左手に黒のガバメント。あんな小さな身体、当然手も小さいはずだ。なのにあんなにデカイ銃を扱うのか。

 なんか、割に合ってない気がする。なんかこう、無理して背伸びをしているみたいに見えてしまう。

 

 「……にしても、やけにギャラリーが多いな」

 と、言って背後へと目線を変える。闘技場は全体が小さいドームみたいな形になっていて、周りは銃弾が外に行かないための防弾ガラスで囲まれている。

 だが外側がおかしい。いつもなら自販機とセットで数人見えるくらいだが、今日は自販機がまるで見えない。男女混合の人波に飲み込まれたのだ。

 これ全部、まさか昨日江口が言ってた神崎のファンなのか? だとしたらすげーな、カルト宗教並だぞ。

 

 「さあ始めましょ、コウ」

 神崎声で、再び目線を戻された。やはり闘気が湧き出ているようだ。目がそう語ってる。

 そりゃ、こんなギャラリーじゃ士気が上がるわな。完全に俺はアウェイなわけか。

 じゃあこんな状況で神崎に勝ったときってのは、さぞかし気持ちいいんだろうな。薬中になるくらい。

 と、なにやら危ない方向に向かおうとしていたところで、俺も覚悟を決めた。

 懐に入れているナイフを取り出し、鞘から抜き取る。一般的なファイティングナイフだ。

 それを右手に握ると、それが戦闘準備の完了を意味した。

 

 「……あんた、ナイフだけであたしと闘うつもり?」

 呆れたとも言わんばかりの物言いだった。そりゃそうだ、あれだけ楽しみにしていた相手が、ただのナイフ一本だけで闘うなんて予想もしていなかっただろう。

 

 「おいおい、ナイフを舐めるなよ。ナイフだって人を十分に殺せる道具だ。無論、闘うことだってできる」

 「それは所有者の技術によってでしょ。所有者が弱かったら、どんな武器を持っていても勝てはしないわ」

 「言ったはずだ。俺は最初から最後までクライマックスだって。その意味が分からないのかお前?」

 「……いいわよ、なら言うとおり全力でかかってきなさい!」

 その言葉が合図となったようだ。勝敗を決める強襲科の担当教師、蘭豹の女性にしては野太い声が、闘技場内に響いた。

 直後。神崎は俺一直線に走り出した。獲物を狙うライオンのように、その目は俺のみを見ていた。

 銃声が鳴り響いた。二発、静かに鳴り響いた。

 続いて俺の腹部から、激痛が全体を走った。突然の出来事に体が対応できなかったのだろう、俺の重心は奪われ、足は宙に浮いた。

 そのまま重力に引きつけられ、俺の体は沈んだ。その脳天に、ガバメントの銃口が向けられた時、蘭豹の勝敗を決める声が聞こえた。

 直後。ギャラリーから黄色い歓声が誕生した。

 見事なまでの瞬殺だった。戦闘時間は、わずか一四秒くらいだろうか。この闘技場で、歴史的にも初の結果だろう。

 仰向けになった何もできない状態のまま、ギャラリーの黄色い歓声を聞くのはいい気分じゃあない。

 だからガバメントが脳天から離れると、すぐに起き上がった。 

 目線の、少しした。そこには、圧勝したはずの神崎が、なぜか下を俯いていた。

 そんな神崎に、俺は言った。

 

 「……言ったろ、俺は最初から最後までクライマックスだって。……つまりこれが俺の最高潮ってことだよ」

 嘘はついていない。俺は本当に、最初から最後までクライマックスだった。

 けど相手が強すぎた。尾張幸一のクライマックスってのは、ただショボかった。これで、そういう正当な理由ができた。

 それで納得する──そう思っていた。

 次の瞬間。勢いよく胸ぐらを掴まれた。

 

 

 

 「──ふざけないでよ!!!!」

 

 

 

 この展開を誰が予想しただろうか。蘭豹か、ギャラリーか、俺か、神崎か。いいや、誰も予想なんてしていなかっただろう。そもそも、こんなことを予想するわけがない。 

 闘技場に、神崎の怒号が広がった。それは地震のように凄まじく、津波のように圧倒的だった。

 

 

 「いい加減にしなさいよ!! あんたの全力はそんなもんじゃないでしょ!? ちゃんと全力できなさいよ!」

 その神崎の目は、怒りに満ちていた。自分が求めるものとは違う、そういった怒りに。 

 その反面、哀しみに満ちていた。求めるものへの期待が外れた、そういった哀しみに。

 まったく意味が分からない。神崎はなんで怒って、なんで哀しんでいるのかが。 

 だからまた、火に油を注ぐような言い方になった。

 

 「だから……俺の全力はこれだ。何度も言わねーとわかんねーのかよ」

 「ウソよ!! あんたは去年まで──Aランク武偵だったはずでしょ(・・・・・・・・・・・・・・)!?」

 その言葉はいらなかった。

 直後。俺は神崎の手を掴み、無理やり引き剥がした。

 そして神崎を睨みつけた。思い出したくない【あれ】の断片を見せたことに、もう聞きたくもないことに対して。怨恨の目で睨みつけた。

 

 「……それ以上俺について調べるな。もししてみろ、俺はどんな手段を使ってでも、お前の居場所を潰すぞ」

 怒気を孕んだ、ドスの効いた声。【あれ】以来だ、こんなにも憤りと、殺意を覚えたのは(・・・・・・・・)

 だが神崎の目は、死んでいなかった。怒りや哀しみは消えたが、死んではいなかった。

 その目はまるで、これからも俺についてくる、そう言っているかのように思えて仕方がなかった。 初めて、本気で目を逸らしたいと思った。

 そして神崎から目を逸らして舌打ちをすると、俺は出入り口へと向かった。

 俺が来るのを見て、付近にいたギャラリーは左右に立ち退いた。声が聞こえていたのか。

 まるで王様にでもなったかのような状況の中、俺は闘技場を後にした。

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