落ちこぼれのつわもの   作:カルビ

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ルパン三世VS名探偵コナンめっさおもろかった。
だから今度は別の作品を書きたくなってきてしまった。
ちなみにバイト始めたので更新が遅くなると思います。


第6話 宵闇

 今朝も毎日出勤するサラリーマンのように東から顔を出した太陽は、今や勤務時間が終わり西へ沈もうとしていた。時刻は午後五時を過ぎ、あと二十分もすれば六時になる。

 そんな時に俺はキンジ、それに理子と学区内にある植物園にいた。

 男が二人に女が一人。大人なビデオじゃあナイトゲームが始まるシチュエーションだが、俺たちの場合は違う。

 俺たちの今の関係を表すならば、依頼主(クライアント)供給者(サプライヤー)の関係だ。

 峰理子という女は、バカだ。だがその実、理子は探偵科の凄腕Aランク武偵。

 そして理子はある条件と引き換えに依頼主の望む情報を、法律の許す範囲内であれば、どんなものでも供給してくれる。

 そういうことで俺たちは、ある条件を呑んである情報を依頼した。

 言うまでもないだろうが、神崎に関する情報についてだ(・・・・・・・・・・・・・)

 ちなみにある条件とは。

 

 「──うっはー!! 『シロクロ』に『(まい)ゴス』だあー!」

 ぴょんぴょんと、まるでうさぎのように飛び跳ねる理子。

 

 「……俺たち、初めてエロゲーを条件に情報を手に入れるのか」

 「ああ……なんか変な気分だ」

 峰理子という女は、オタクだ。それもただのオタクじゃない。防弾制服を改造して、メイドのスカートについている白いフリフリをつけるほどのコアなオタクだ。

 オタクだが凄腕武偵。プラスロリ巨乳。そういうこともあって、理子も神崎と同様にファンクラブがいたりする。

 中には信者もいるなんて話も聞いたことがある。ああ、美人ってこえーな。

 

 「あ、これとこれはいらなーい」

 と、言って理子が返してきたのは、『妹ゴス』の2と3だった。

 なんだ? これ好きじゃねーのか?

 同じことを思ったらしく、キンジが俺の思いを代弁した。

 

 「なんでだ?」

 「『2』とか『3』とかは侮蔑だよ。個々の作品に対する侮辱。嫌な呼び方」

 と、少し悲しげな顔をして理子は言った。

 そうか? たかが数字だし、そんな気にしなくてもいいと思うけどな。

 と、思ったが口には出さなかった。なぜかはわからないが、出してはいけないような気がした。

 キンジは妹ゴスの『2』と『3』を受け取ると、理子に催促した。

 

 「とにかく、それ以外はやる。だからアリアの情報を教えろ」

 「はーい」

 返事をして理子が手を入れたのは、自分にある胸の谷間。まるで、というか絶対みせつけるようにして、何枚かセットのA4用紙を取り出した。

 

 「ここに、アリアに関することすべてがまとめられているのでーす」

 「サンキュ」

 そう言い、キンジは紙を受け取った。顔が少し赤くなっていたのは言うまでもない。

 さっそく目を通し、そして俺たちは驚いた。

 

 「……あいつSランクなのか」

 「ただの疫病神じゃないな、超ド級の疫病神か」

 なるほど、あの強さにも納得がいく。まあ、初めから闘うつもりなんてなかったし、誰がやっても同じ結果だったろうけど。

 俺は次のページに進みながら、

 

 「Sランクって、二年じゃ片手で数えるくらいしかいなかったんだよな」

 「うん。それに徒手格闘も強いんだよ。たしかバ……バリッ、バーリ……」

 「バーリトゥードな」

 「そうそれ! 拳銃とナイフはもう天才の領域なの。ちなみにあの子、両利きなんだよ」

 なんだそのチート能力。某社長が特殊なコマンド入力でもしたのか?

 

 「でね、二つ名もあるんだ。『双剣双銃(カドラ)のアリア』。笑っちゃうよね」

 「いや笑わねーけど、あいつ二つ名持ちなのか」

 「それに、アリアって十四歳からヨーロッパで武偵として活躍してるんだけど……今日まで犯罪者を取り逃がしたことはないんだって。目をつけられたら最後、一巻の終わり。犯罪者からは『紅い死神』なんて名前で知られてるとかなんとか」

 「…………マジかよ」

 それが事実ならキンジも、俺も逃げようがないじゃねーか。なんだ? 地獄の果てに行くしか逃げ道はないのかよ。

 ふとキンジの顔を見てみると、案の定絶句していた。もう口がそのまま落ちるんじゃないかというほど、あんぐりと開いていた。

 まあ仕方ないわな。

 

 「あ、あとアリアってクォーターなんだよ。お父さんがイギリス人と日本人のハーフなんだって」

 「なるほど、髪とミドルネームの理由がようやくわかった」

 「アリアの一族だけど、すごい有名なんだよ。お婆ちゃんはたしか、イギリスのデイムっていう称号を持ってるんだって」

 「…………」

 こればっかりは、俺も絶句せざるを得なかった。

 デイムというのは、イギリス王家から女性に与えられる勲章の一つ。これは中世の騎士階級に由来していて、デイムはナイトの女性版の呼び方とか。

 もうなにが起きても驚かない気がしてきたぞ。今日の短時間でびっくりどっきりしすぎだろ。

 

 「でもアリアって一族──『H』家でもうまくやれてないらしいよ」

 『H』家。そこで俺は、なにか神崎という存在に大きく近づいた気がした。キンジもそう感じたのだろうか、理子にその『H』家のことを訪ねた。

 

 「なんだよ、『H』家って」

 「アリアの一族の名前。詳しくは禁則事項なので教えられませーん」

 「なんだよそれ。……じゃあ、うまくいってないってのは?」

 「そのまんま、仲が悪いってこと。まさに名前の通り『独奏曲(アリア)』ってわけ」

 コケに、そして清々したように、理子は皮肉めいた口調で言った。

 だから、友達探しのためにロンドンから日本まで来た。そして俺とキンジをお友達にしようって魂胆か。

 だとしたら、壮大な物語だな。国をもまたぎ、駒を求める暴君。タイトルはこれがいいだろう。

 なんだよそれ。あいつもそんな理由で俺に近づくのかよ。こんなこと──

 

 「バカげてる」

 口に、出ていた。

 思わない奴から、思わない言葉が出たのが気になったようだ。キンジと理子が、一斉に俺に目線を移した。

 

 「……コウ?」

 「あ、いや……なんでもない」

 そう返した言葉は、いつもの重みがなかった。

 なぜだ、なぜなんだ。と、そう自分に問いかけるが、答えは決して帰ってこない。

 ほかのことはわからないことだらけだ。なのに、これだけははっきりとわかっていた。

 【あれ】が近づいている。また目の前に、【あれ】が広がろうとしている。

 

 「…………悪いキンジ。先に帰る」

 「え? あ、ああ……」

 ばつの悪い感じになった空気に耐えらなかった。俺はキンジにそれだけ言うと、植物園をそさくさと後にした。

 バラやひまわりなどが装飾された門をくぐり抜けると、夕焼け雲の間から光が、俺の目を潰そうかというほどの光を照らしつけてきた。

 まるで、最後の光だとでもいうように強く当てられた光は、突然に姿を消した。雲に隠されたのだ。

 

 「……雲も俺から奪う、か」

 と、なんのおもしろみもなさげに呟くと、今度こそ植物園を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜になると、今度は月が出勤することになる。とは言ったものの、実際に働いているのは太陽であり、月はただ太陽の光を受けているだけ。例えるなら、レギュラーが月で、補欠が太陽みたいなものだろうか。

 と、先週の美しかった満月から半分ほどになった月を、俺は男子寮の屋上で眺めていた。

 神崎・H・アリア。

 正直言って、なんでここまで執着できるのかわからない。

 元の人間性の問題なのだろうか、それとも──

 

 「いや、そんなこと……」

 あってはならない、そう断言はできなかった。正確に言えば、八割方はできかけているのだが、残りの二割がどうしても留まってしまう。

 【あれ】以来、俺はもう迷うことはないと思っていた。 

 もう迷うことなく、ただ道をズルズルと、足を引きずりながら歩いていく。そう思っていた。

 だが今は、まるで真逆のことをしようとしている。

 進んできた道を戻って、正しい新たな標識を作ろうとしている。

 矛盾。今の俺を表すには、十分過ぎる言葉だった。

 

 「俺は──」

 と、そこで。

 ポケットに突っ込んでいたケータイが、バイブと着信音で通知してきた。

 ポケットから黒い、少し前のモデルを取り出し相手を確認した。

 

 「……理子?」

 俺からかけることはあっても、あいつからかけてくることはそうそうなかった。

 珍しいシチュエーションに少し驚きも混じえて、俺はケータイに出た。

 

 「理子、お前から俺にかけて来るなんてめずら──」

 『上条アリスの真実について、知りたくないか?』

 理子の、声のトーンが落ちていた。と言うよりかは、こちらの方が正しいと、まるで誰かに言い聞かされている気がした。

 だが。

 だが。

 だがそれよりも。

 聞き捨ててはならない、決して聞き捨ててはならない言葉が、ケータイの向こう側から聞こえた。

 

 「…………どういうことだ」

 声のトーンが下がった。意識的に下げているのではなく、自然とこの音程に下がったのだ。

 だがそれには、隠しきれない怒気を孕んでいた。

 

 『そのままの意味だ。お前にとって最も大切だった女の真実について、知りたくないか?』

 「……要件はなんだ理子。俺は昨日からイラだってるんだ。さっさとしろ」

 『くふっ、じゃあ──アリアを殺すために協力しろ』

 思考が停止した。思いもしない発言と、通常ならばまず聞くことのない言葉に、思考が停止した。

 やがて溶けていく氷のように、思考の波が不純物と一緒に流れ出した。

 

 「…………なに、言ってんだ」

 『あいつを殺さないと、あたしがあたしになれない。だから殺す』

 「正気かお前? 意味はよくわからねーけど、間違いなくお前がマイナスになる話じゃねーか」

 『くふっ、それがプラスになるんだよねー』

 まるでそこに二人いるかのように錯覚させる口調の変わりぶりに、ただただ俺は驚きを隠せなかった。

 まさか普段のは猫かぶりで、本物がこっちなのか? だとしたらアカデミー賞ものの演技だな。

 

 『お前にとっても悪くない話のはずだ。アリアが死ぬことで、お前への呪縛も解ける。上条アリスの呪縛がな』

 「……いちいち癇に障るヤローだな」

 『くふっ、りこりんはヤローじゃあないよー』

 「おちょくるのも大概にしろ」

 『ならさっさと答えを出せ。返答によっては、お前の頭にキレイな穴ぼこを開けることになるが』

 カチャ、と。頭になにか冷たい鉄のようなものが触れ、向こう側の声と肉声が、同時に聞こえた。 なるほど、イエス以外認めないってわけか。

 

 「……半殺しでズタボロにするじゃダメなのか?」

 「だーめ。ちゃーんと──ぶっ殺すんだよ」

 いちいち切り替わりが激しいやつだ。スイッチかよ。

 この状況、逃げ切れる自信はない。

 周りはこれといった物もないただの屋上。それに加えて相手はAランクの実力は未知数の人間。どう考えても勝ち目はない。

 それに、たしかにこれは、俺にとってかなり得のある話だ。

 なら、答えは一つ。

 

 「リョーカイしましたよ。で、そこまで神崎を殺したいお前の正体は?」

 その問いを待っていたのだろうか。銃を下ろし、ワン、ツー、スリー、とステップを踏みながら俺の前に来ると、その艶やかな唇が動きだし、口からその言葉が発せられた。

 

 「理子・峰・リュパン四世。今やってる映画の主人公の、ホンモノの子孫だよ」

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