落ちこぼれのつわもの   作:カルビ

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クリスマスが今年もやって来た。
だが一人だ。
でも片思いだったりする。


第7話 対峙

 『次のニュースです。本日午前八時十五分ごろ、東京都立武偵高等学校行きの通学バスが、バスジャックに遭いました。被害のあった生徒たちによりますと、隣を走っていた普通自動車から発泡があり、生徒たちが対処しようとしたところ、一人の女子生徒の所持していた携帯電話から、『爆弾をしかけている。減速すれば爆発する。バスから身を乗り出したら発泡する』と言った電子音声で脅迫されたとのこと。これに対処しようと身を乗り出した生徒たちでしたが、普通自動車からの発泡により江口マユリさんが搬送先の武偵病院で死亡したほか、男子女子の生徒たち数十名が肋骨をおるなど重症を負いました。数十分後、駆けつけた三名の武偵の活躍によりバスから取り外された爆弾は、東京湾で爆発されましたが、普通自動車からの発泡で神崎・H・アリアさんが、頭を撃たれました。すぐさま付近の武偵病院に運ばれましたが、幸い額に傷跡が残る程度の軽傷でした。警察と武偵は、普通自動車は無人であったことから、『武偵殺し』の犯行とみて捜査しています』

 テレビをつけて最初に見たのが、このニュースだった。

 時刻は午後四時すぎ。某裏切りのブラコン兄貴の召喚するカラスが飛び交う夕方。俺は自分の部屋に帰っていた。

 帰ってくるなりこんなものを見てしまうのはどうなのだろうか。死ななかったことに感謝するのか、また死んだと受け流すのか。俺はどちらでもない。

 俺はそこに出てきた名前に、ただただ目を細めて呟いた。 

 

 「…………死んだのか、江口」

 その呟きには、何が含まれているのだろうか。哀れみか、それとも哀しみか。いや、どちらでもないはずだ(・・・・・・・・・・)

 ただその乾いた言葉は、リビングに広がったかと思うと、俺の耳から体の中に戻ってきた。まるでクモの巣のようにこべりついて、俺に一体何を伝えたいのか。俺はその答えをわかることはないだろう。

 そして、わかろうとすることもないだろう。

 

 「……ふぅ」

 と、なぜだか重苦しいため息をついた。

 なるほど。多分泥に足を浸けたということに、まだ罪悪感があるんだろうな。

 くだらない、昨日決めたはずだ。俺はあいつと共謀して、神崎を殺すと。どうやら、考え方は簡単に変えられても、性格を変えるには難があるようだな。

 と、自分の甘さ加減にイラつき始めていると、ケータイが鳴り響いた。

 相手は言わずもがな、理子だ。

 

 『うっうー! 元気かねコーくん? いや、何も言わなくてもりこりんはわかっているぞ!』

 「……挨拶なら朝と昼と夜だけでいいだろうがクソヤロー」

 『だーかーらー! りこりんはヤローじゃないって言ってるでしょお?』

 「うだうだ言ってんじゃねえよ。要件はなんだ?」

 それが合図となったかのように、理子のスイッチが切り替わった。普段出ている道化師が引っ込み、魔術師が姿を現した。

 

 『───アリアとキンジが離れた。何とか二人をもう一度くっつけろ』

 「……なんだ、てめーは恋のキューピッドか? 本当に何がしてーんだよ」

 『勘違いするな。あたしはただアリアをやるだけじゃ意味がない。パートナー、つまりキンジがいる状態でアリアを殺すことで、あたしはあたしになれる』

 「ますます意味がわかんねーぞ、四世さんよ」

 『いいからお前は黙って命令に従え。それと───二度とその名で呼ぶな』

 プツン、と。一方通行な通話は、クレームとともに突然切れた。

 昨日もそうだが、理子はやたら数字に関してうるさい。というか、数字そのものを嫌っているような……。

 

 「まあ、考えても俺には関係ない。さっさと仕事するか」

 湧き出ていた興味という感情を押し殺し、俺は自分に課せられたことを遂行するため玄関へと向かい、靴に履き替え外へと出た。

 

 「たしか、武偵病院だったよな。神崎がいるのって」

 先ほどのニュースから得た情報を頼りに、俺は武偵病院へと向かうことにした。

 ここから近いのは……たしか矢常呂先生の勤めてる、第二武偵病院だったか。

 と、脳内にインプットされたマップから目的地を検索すると、俺は歩き出した。

 そしてエレベーターのボタンを押しながら、やはり考えてしまった。

 

 「にしても、どうすんだよ」

 離れた二人の仲を戻す、これは折れたものを元に戻すよりも難しい。例えるなら、磁石のS極とS極をくっつけるようなものだ。無理やりくっつけたとしても、常に反発して本当にくっついたとは言えない。

 ならどっちかを、相手を受け入れるN極に変えるしかない。例えば、キンジがそのパートナーとやらに率先してなるとかな。

 

 「てか……それキンジを説得するしかねーのか」

 そうなると、俺とキンジの間柄うまく行く可能性はほぼ無いに等しい。なぜなら、俺があいつの武偵をやめたい理由を知っているからだ。

 あいつは去年、武偵だった兄を船舶事故で亡くした。だが世間は、船に同乗していながら事故を未然に防げなかった兄を批判し、その弟であるキンジに攻撃の矛先を向けた。以来、キンジは『正義の味方』であるはずだった兄と武偵に裏切られたことに失望し、武偵をやめることを決意した。

 ここまで奥深く知ってる俺がいきなり、神崎のパートナーになれだなんて言えるわけがない。それに、あれだけ否定していた奴の肩を持つようなことをしているんだ、間違いなく怪しまれる。

 

 「さて……どうしたものかねえ」

 その答えはここで探せと言わんばかりに、チーンと音を鳴らしエレベーターの扉が開いた。

 まあ、行きながら考えるしかないよな。

 そう自分に言い聞かせると、エレベーターに入ると同時に、俺も思考の海へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「───神崎さんの病室でしたら、そちらの廊下の突き当たりを右に曲がったところにあります、203号室になります」

 ありがとうございます、とマスクをすれば美人に見える看護婦に礼をすると、言われた通りに向かった。

 ここ第二武偵病院は、都内にある国立病院とさほど変わらない規模のデカさがある。ここでの患者はほぼ、依頼負傷した武偵や体調不良の武偵だ。

 そして患者が武偵で埋まっているのに対し、医師などもほぼ救護科(アンビュラス)の生徒などで埋まっている。

 簡単に言えば、武偵高生徒の病院みたいなものだろう。もちろん、学園島で生活する一般市民も利用したりするが。

 

 「ここか」

 そうこうしているうちに、203号室へと着いた。

 キンジと仲が離れたってことは、間違っても今機嫌がいいことはないよな。くそ、めんどくせーことになりやがって。

 だがしかたない。解決方法を探すに探した結果、神崎をN極に変えるしかなかったのだから。

 意を決して、俺は病室の扉をノックした。

 

 「入るぞ、神崎」

 返答は聞かず、そのまま扉を横に引いた。

 入って最初に見えたのは窓と、窓の前に置かれた白い花。その際に、ベッドで手鏡を片手に前髪をいじる神崎がいた。

 

 「……何しに来たのよ、コウ」

 「何しにって、ルームメイトがケガしたって聞いてな。お見舞いだよ。まあ、手土産は何もないが」

 「手土産も見舞いもいらないわ。今すぐ帰って」

 「まあ待て。ちょっと話でもしようじゃねーか」

 いつかのお返しと言わんばかりに一方通行でことを進めていた。俺は近くにあった丸イスに座ると、

 

 「率直に言うが、キンジを追い回すのはもうやめておけ。あいつにもいろいろと事情があるんだよ」

 「……今はあんな奴の話はやめて」

 「オーケー。じゃあ話の本題に入ろう」

 「本題?」

 「そう、本題であるお前のパートナー候補(・・・・・・・・・・)だ」

 パートナー。それは、イコールが絶対キンジという訳ではない。

 理子はパートナーのいる神崎と闘い、勝つことが目的だ。ならその相手が決してキンジであるという必要性はないはずだ。だから極端な話し、その辺の奴を連れてきてパートナーにしても問題ないだろう。

 だって、必要なのはパートナーだからな。キンジは合わなかったから、他の奴にしようって気になるかもしれない。

 そうすれば、このめんどーな話は丸く収まる。

 そう、俺のシナリオでは予定されていた。

 

 「……何よ、それ。あんたふざけてるの?」

 聞き捨てならないセリフと温度。冷め切った声がないと思っていた神崎から、酷く冷め切った声が聞こえた。

 

 「あたしに合うパートナーなんていないわ、無理なのよ。今日でそれがはっきりとわかったわ」

 「『無理』って言葉は嫌いじゃなかったか? 俺は好きだが」

 「そんなこと、今はどうだいいじゃない。あんたはある? 上げて落とされたことが。あたしはつい最近それを体験したわ。期待していた相手が、まさか二人ともはずれくじだったんだから」

 「まだ引きずってるのか。過去を見るのはあまり関心しないな」

 「たまには立ち止まって見るものよ。前だけ見て進もうとしても、進めなくなることなんていつあるかわからない。だから過去を見て、新しい道を見つけ出して進むのよ」

 「……だが過去を見れば、それに囚われて逆に進めなくなる。進もうともがけばもがくほど、鎖はさらに絡みついてくる」

 「だから、あんたは過去を捨てたの?」

 その問いを狙っていたのだろうか。いつしか俺の作戦は、神崎の誘導尋問に変わっていた。

 くそっ、なんだよお前は。なんでそこまで同じなんだ。その姿とその声で、俺に答えを求めないでくれ。

 

 「…………帰る」

 居づらくなったならまだよかった。今すぐにここから離れなければ、捨てようとしていた決心をまた拾いそうだったからだ。

 丸イスから立ち上がり、神崎に背を向けて歩き出した。扉に手をかけ、横に引こうとした時だった。

 背後に、神崎の声がかかった。

 

 「コウ」

 「……なんだ」

 「あたし、少し思ってるの。あんたと…………あんたと早く出会ってれば、きっといい関係になれたはずだって」 

 「…………そうかもな」

 それ以上何も言わず、俺は病室を後にし、そのまま病院も後にした。

 舗装工事のされている道を通りながら、ふと去り際に言われた言葉を思い出す。だが、俺は何も感じない。感じてはならない。

 もう迷わないと決めたんだ。今度こそ、【あれ】との間に決着をつけると。だからこんなことで、立ち止まるわけにはいかない。

 

 「…………アリス」

 その声は虚しくも、夕焼けの空へと溶けていき、俺の耳へと再び戻る。

 聞くことはなくても、聞こえてしまう。見ることはなくても、見えてしまう。感じることはなくても、感じてしまう。

 遠いようで、近くにいる。それは幸せのように見えて、幸せなんかじゃない。

 だから俺は、神崎を殺すことで、真の幸せを手に入れる。

 

 「もう、俺はただ突き進むだけだ」

 そのために邪魔なものは、すべて排除する。そう、決めたのだから。

 

 

 

 

 

 

 そして───俺は神崎とあいまみえる。

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