俺は1番道路にいた。マサラとトキワを繋ぐ道だ。長くはないが、短くもない。起伏もあって優しい道ではない。
旅立ちの日、当日。俺は既にマサラにサヨナラしていた。
朝早くからオーキド研究所へと向かうと、既に開かれていた。逸る気持ちを抑えきれない子供が、朝早くからくることは多いらしい。つまり想定の範囲内であると。俺は中身が大人ではあるが、冒険の始まりと聞くと流石に高鳴る胸を鎮めることが出来なかった、恥ずかしながらね。
旅の前に、相棒となる1匹を3匹から選ぶ必要があったが俺は中々決めきれなかった。どいつも可愛いんだなァ。ポケモンは飼い主に似るというし、どんどん可愛くなるんだろうなァ。そう思うと迷いが生じた。うんうん唸って意図せず3匹を威嚇する俺を見かねたオーキド博士は、戦隊ヒーローの主人公を張る赤色、ほのおタイプのヒトカゲはどうかと薦めてきた。……俺は見た目こそ子供だが、中身は大人だぞォ? 主人公張るからだとか、そんな理由に流されるわけないだろ? 俺は博士に反抗した。
赤は主人公としては二流。真の主人公は黄色のピカチュウだ。
俺が持論を述べると、オーキド博士は難しい顔をして、研究所への奥へと向かっていった。怒らせちったか? オーキド博士は昔、リザードを連れていたと聞いた気がする。赤派の者であったか……!!俺は自身の失言を悔いた。オーキド博士が戻ってきたら謝ろう。
オーキド博士はすぐに戻ってきた、その手にモンスターボールを持って。なんとピカチュウが入っているらしい。
博士曰く、気難しい奴で、初心者には向いていないポケモンであるということ。なるほど、アニメのピカチュウだ。
俺はそのピカチュウを選んだ。やったぁ! 主人公ピカチュウだ! 気を良くした俺は、博士に感謝の意を伝え、マサラを旅立ったのだ。
とりあえずピカチュウと対面しようか。俺は1番道路でピカチュウとの面談を済ますとした。このピカチュウは厄介な電気ネズミで、あろうことか使い手に向けて電撃を放つ反逆者の資質を持っている。生意気なのだ。俺とそっくりだな、似た者同士仲良くしようぜ。俺はボールからピカチュウを出した。球体状のオーパーツから光が飛び出し、ピカチュウが姿を現す。俺はニヒルな笑みでピカチュウを迎え入れた。
やぁピカチュウや、仲良くしていこうぜェ?
ピカチュウはそっぽを向いた。まぁ想定の範囲内よ。しかし、ポケモンのことを知らないままにトレーナーは務まらない。悪いが、そちらにその気はなくとも付き合ってもらうぜ。俺は面接を開始した。リュックサックからポケモン図鑑とエントリーシートを取り出した。シートにはこの個体の特徴などがまとめられている。
ふむ、25番……ねずみポケモン……。性格に難あり……。うわぁ、何だこの前科は。人間に対して電撃放ちすぎでしょう。こいつは問題児ですぜ?
言うことを聞かない、意思表示もしない。君のそれは社会不適合者そのものですねぇ。俺はピカチュウを煽った。するとどうだろう。ピカチュウは流し目に睨んできたのだ。やはり……コイツらポケモンは人間の言葉を理解している……。いや違う、人間の意思を読み取れるのだ。ポケモンという生き物は皆、意思を持ち、感情を持つ。これは世間でも語られている。だから子供のころからポケモンは人と同等に扱うべきだというような教育を施される。
俺は疑問に思った。……こいつらが人と同等? どう考えても上位者だ。こいつらは音声での会話はしていない。これこそ、俺がポケモンを恐れる要因の一つである。彼らポケモンは音声会話をしないのだ。
我々人間は、意思の疎通を図るときに音声を発し、音波を耳でとらえ相手の発した情報を受け取る。会話の媒体に音を利用するのだ。しかしポケモンは……間違いなく音の利用はしていない。することも出来るし、普段からそうしている種族や個体もいるのだろう。しかし、ポケモンは成体であれば総じて人間の言葉を理解する。そしてそれだけではない。ポケモンは別種族同士での会話も行うことができる。まったく違う種族同士であっても、意思の疎通を図ることができるのだ。……これはやべぇことですよ?
ポケモンは吠えるし鳴く、一般にこれがポケモンの会話の為に用いられるとされているが、考えてもみよう。短い鳴き声のそれに、膨大で細かな情報を含ませきれるはずがないのは明らかだ。あれは恐らく、意思疎通をするときの掛け声のようなものなのだろう。必要なものではない。
ポケモンらはもっと別の、エスパーな何かを利用して意思の疎通を図っている。ポケモンは感受性が高い。優しいし、共感する力に富んでいる。おそらくミラーニューロンなどが発達しているのだろう。だから、自分の意志を言葉に関係なく伝えられるし、相手の意思を言葉に関係なく読み取ることができる。
一方、人間の共感能力は非常に貧しい。ひとたび危機が訪れれば自分のことしか考えなくなるしな。他人を利用して利益を得ようとするし、何か気に入らないことがあったら争ってばかりだ。だからポケモンはトレーナーの指示を正確に読み取れるが、人間であるトレーナーはポケモンを本当の意味で理解しきれない。これが生命体としての限界だろう。
俺は悲しくなった。ポケモンさんにめっちゃ配慮されてるやんけ、人間という生き物は。ありがとうなァ。俺の哀しみの感情を感じ取ったのか、ピカチュウはたじろいだ。
俺はオレンのみを差し出して言った。
これからカントーを巡って、とりあえずタマムシへと向かう旅に出る。俺の手持ちにはお前しかいないから頼れるのはお前だけだ。よろしく頼むよ。
ピカチュウはオレンを見て、一度こちらの顔を伺うとその実を受け取った。
このピカチュウがボールに入ることを嫌うというのは、シートにも記されていたし知っていたので、後ろを追従させている。
おぉ……RPG感出てきたなァ?
俺は振り返りピカチュウに同意を求めたが、返事は冷たい。ピッ……らしい。ピッってなんだよ。人間の共感能力の限界故に、ピカチュウの意思を読み取ることができない。まぁ人間同士の声掛けが大事なコミュニケーションであるように、こまめな報連相が信頼関係を築き上げるだろう。一朝一夕で信頼関係を築けるとは思っていないぜ。俺は草むらに入る前や、段差を登る前などにこまめな声掛けを欠かさなかった。
トキワにつく前に一勝負しておきてぇなァ? 俺はわざとらしく言った。
ピカチュウの様子を確認すると、嫌というような素振りは見せていない。多分な、いや分からんわ。俺はとりあえず背の高い草むらへと入っていく、恐らくピカチュウも追従してきた。多分な、いや見えないわ。
また腹部にたいあたりをもらうのはゴメンだが……ピカチュウがそばにいると信じて野生のポケモンを探していると、やせいのポッポがあらわれた。いや、ポッポの前に俺たちが現れたというのが正しいかもしれない。カチコミじゃあ! 経験値をよこせェ!
この世界のポケモンは争い、相手を瀕死に陥れることで、経験値が貰える、はずだ。恐らくな。経験を積むのとは別に、経験値は存在する。ポケモンにはレベルが存在する。これは世間において具体的な数値で語られることはないが、個体としての強さの具合をレベルが高いだの低いだのとして表現する。多くのポケモンを瀕死に追い込んだポケモンは、技術だの経験の差だのを抜きにして強い、身体能力が高い。要はステータスに差がでる。野生のポケモンを瀕死にすることは、まぁ大丈夫だろう。ポケモンは非常にしぶとい生き物であるため、瀕死に追い込んでも、安静にしていれば回復する。ケガを放置してやんちゃしているとぽっくり逝く。まぁ野生はそんなことしないが。トレーナーは瀕死のポケモンは労わってやらねばならない。
それと瀕死になってからがしぶとい生き物であるポケモンは、瀕死になると奥底の生命力が漲り、状態異常を回復するらしい。本当かぁ? 結果はそうだろうが、原理はそうじゃないだろう。状態異常はペナルティだ、瀕死になれば解除されるのも道理だ。
俺が考察に耽っていると、ピカチュウが鳴いた。今のは俺にも理解できた。怒りの感情だな? すまんすまん。俺はピカチュウに謝罪をして、ポッポに向き直る。さぁポケモンバトルといこうじゃないか。
特に問題なく勝利を収めた俺とピカチュウはトキワへと入った。今、ピカチュウが扱える技は"しっぽをふる"に"でんきショック"、"なきごえ"らしい。手持ちのポケモンが扱える技はポケモンセンターで確認できる。モンスターボールにも情報が書き込まれているのでポケモン図鑑を通じて確認できる。
俺はそのままポケモンセンターへと入る。とりあえず回復しとくべ? ピカチュウへとボールを向ける。露骨に嫌そうな顔をしたが大きな抵抗を見せずボールに収まった。ボールを受け付けのナースに預ける。ジョーイというらしい。女医さんだな? ナースじゃないねェ。
ボールは大掛かりな謎の装置へとセットされ、僅か数秒。ボールが返却された。嘘でしょ? これで全快っすかァ!? 俺は念のため、ジョーイさんに確認をとった。もう処置は終わりらしい。そうですかァ。
俺はピカチュウをボールから出した。
よォ。元気か?
ピカチュウに確認をとると、短くピッっと返す。このピッがわからんのよなァ。俺は自身の共感能力の低さを嘆いた。まぁ不調そうには見えないので良しとしよう。このポケモンセンターもそうだが、装置だけ明らかに場違いだ。大きいし、近未来的デザインだ。原理の方もとんと検討がつかない。
一体何処の誰が齎した技術なんだ……?
俺は疑問に思った。これから末永くお世話になるだろう装置のことだ。相互理解が重要だと思うのだよ。君はどう思う?センター内部で俺を待っていた同期くんに尋ねた。
「うーん、やっぱ人間の技術力ってのは、侮れないところがあるんだろうな」
君は人間を持ち上げるねェ。俺にはない視点の持ち方だ、君と一緒に旅が出来ることを嬉しく思うよ。俺は同期くんを歓迎した。これからよろしく頼むよ。
「おう! よろしく頼むぜ! ユウ」
俺は同期くんと合流した。