ややっ! 俺は駆け出した。なんと、道のど真ん中で倒れているご老人を見つけたのだ。ちょっとー! 大丈夫ですかー!
……酒臭っ! 酔っ払いやんけ! 昼間っから何飲んどんねん!! 駆け付けた先のご老人からは、強烈なアルコールの匂いがしたのだ。
そこで俺はここでのイベントを思い出した。同期くんはどうやら、こいつがただの酔っ払いであることを知っていたらしい。トキワでは有名な人なのかな? 遠巻きに俺を見ている。
それから俺はこのご老人にポケモンの捕獲方法を習った。じいさん、中々制球力ありますねェ。モンスターボールはポケモンへと投げ当てることが出来なければ、捕獲機能を発揮しない。
これが中々難しいのよ。俺はじいさんにコツを聞きこんで、身につけることにした。
いやー、酔っ払いの言うことはよくわからん。擬音と指示語が多すぎる。感覚で生きているね。
あまり有意義とは言えない時間を過ごした俺は、じいさんの勧めてきたおしえテレビを断って、同期くんとトキワの森の前まで来ていた。
テレビは荷物になる。前の世界でも、こちらの世界でも山男は口をそろえて言う。登山では必要最低限の荷物で抑えるのがベターであると、特に初心者というのはアレもコレも持っていこうとしがちだ。だが、その重量は長期的に見て確実に所有者の体力を奪っていく。これが命取りになるらしい。
「そうだな。長い旅をするには、荷物を多くしすぎない事が大事だと、父さんも言っていたよ」
同期くんも同意してくれた。同期くんは如何にもスポーツマンって感じの少年だな。胸元にはモンスターボール柄の赤い三角バンダナが巻かれている。アウトドア系の人間だな。
父親はどんな人なの?
「父さんはポケモンレンジャーでね。よくキャンプに行ってたんだ」
へぇ、ボーイスカウトとかやってそう。
「あぁ、入っていたよ。旅に出るから今は辞めたけれど」
何とも心強い。同期くんはかなりのハイスペック人間であるらしい。もしかしてこいつが真の主人公……?俺は同期くんのスペック把握に努めた。
どんなポケモンを連れているんだ?
同期くんは、手持ちのモンスターボールを取り出した。2個ある、1匹捕まえたのか。出てきたポケモンは、イーブイとニョロモ。俺は疑念を強めた。コイツが主人公なのでは?
「ポケモンセンターで受け取ったのはイーブイ。ニョロモは近所で捕まえた」
すごいね、生き生きとしている、いいポケモンたちだと思う。俺は素直な気持ちで褒め称えた。俺のピカチュウは常にボールから出しているから、3匹の初顔合わせとなる。挨拶をしたようだ、ピッ、ブイッと。ニョロモの声は形容しがたいな。鳴き声の長さに、やりとりされた情報量は比例しないと俺は考えている。ポケモンの会話は心で行われる。……何か話し合っているようだが人間の心は醜いので、会話に入れない。
「ユウはピカチュウを選んだのか、珍しいポケモンだよな」
そうなんだよ、まぁイーブイもかなり珍しいポケモンだと思うけれど?
「あぁ、このイーブイはタマムシに住む叔父が贈ってくれたんだ。旅立ちにってね」
ほぉ、叔父がね。それにタマムシか。俺は食いついた。
「あぁ。タマムシに何か?」
とりあえず目指しているんだよ、タマムシ。俺は住処と職場を探していることと併せて言った。
「面白い目的だね。タマムシは行ったことがあるから、到着したらタマムシの案内をするよ」
おぉありがたい。俺は同期くんに約束を取り付けた。
ポケモンたちの話も終わったようなので、トキワの森へ入ることにする。トキワの森は既に入念な下調べを行っている、完璧だ。何の問題もないぜ。同期くんは心強いと笑顔で言う。ピカチュウは眉をひそめるような仕草をしているが……。見ていろよピカチュウ、お前のトレーナーの優秀さをよォ!! 一行はトキワの森へと乗り込んだ。
俺の予習は功を奏して、本当に何事もなくニビシティ側へと抜けてしまった。野生のポケモンに襲われることも、トレーナーとも会うこともなかった。
……いや、バトルはしておきたいよなァ? 俺は2番道路へと続く連絡通路で振り返り、同期くんとピカチュウに尋ねた。ニビシティではジム戦が控えている。同期くんはニョロモがいるから大丈夫だろうが……。こちらの手持ちはピカチュウのみ、新たな仲間を迎えるなり、ピカチュウを育てるなりしておきたい。
「うん、そうだな。少しトキワの森でトレーニングを積もう、ニビではジム戦もある」
ピカチュウもピッと続ける。何のピッなのかわからないが、お前がどう思っていてもトレーニングは決定事項だな。俺たちは再びトキワの森へ入ることになった。
ポケモンの世界でのステータスというものは3つの値から成り立っていた。それは種族値、個体値、努力値である。……3つのうち2つがコントロール不可能な事象なのですが……厳しいゲームですね。
この世界のテレビで放送されていた番組がある。ひたすらに攻撃力を鍛えたサワムラーが色々なオブジェクトの破壊を試みるという番組である。
サワムラーはタウリンを服用して、トレーニング器具で攻撃力を高める。そして用意された頑丈なオブジェクトを自慢のとびひざげりで破壊しにかかるのだ。破壊されると次週、より頑丈なオブジェクトが用意される。これを繰り返すといずれ、サワムラーが破壊しきれないオブジェクトが現れる。しかし、サワムラーは諦めないのだ。タウリンを服用しつつ、ひたすらに自らの技と脚を鍛え上げる。そして次週、再度チャレンジするのだ。
ここで注目すべきは、サワムラーはポケモンとの戦闘を行っていないということ、これは明言されていた。つまり経験は積んでいても、経験値は得ていないことになる。そしていつか必ず、オブジェクトを破壊するということだ。サワムラーは蓄積された努力値だけで、シルフ製のやたらと堅牢なオブジェクトを打ち破っていたのである。
何が言いたいのかというと、この世界に努力値の限界は存在しないということだ。努力し続けることで、いずれは種族の壁、個体差の壁を突き破ることができる。サワムラーさんのとびひざげりのようになァ!!
この世界に、生まれながらの落ちこぼれなんて、存在しないのさ……努力すれば、夢はいつか本当になる!! 俺は生命の尊さと努力の重要性を説いた。
今はトキワの森、同期くんは虫取り少年とのポケモンバトルを行っている。ピカチュウは森を駆け回り、野生のポケモンを威嚇、戦う意思のあるものとの勝負を繰り返している。俺の周りには、考察と説法を聞きに来たキャタピーやビードルが集まっている。ピカチュウ……俺はピカチュウに注意した。
野生のポケモンを威嚇して回るのは、みっともないから止めなさい。
ピカチュウは立ち止まりこちらを一瞥すると、威嚇ランニングを再開した。悪い子だ……一体誰に似たのやら。同期くんはバトルを終えたところのようだ。こちらに向かってくる。
「何だ? それ。ユウはポケモンに懐かれやすいんだな。見たことないぞ」
そうだろ? カリスマ性に富んだ俺はポケ望が集まるのさ。俺は肩をすくめて見せた。俺の頭や肩の上にはキャタピーやビードルが乗っている。周りに集まってきたポケモンが登ってきたのだ。特に害を及ぼすことは無いようなので放っておいている。
俺は虫が苦手だったが、虫ポケモンは問題ない。可愛いもんよ。だが、そろそろ降りてくれ。俺は丁寧に身体にまとわりついた虫ポケモンをはがした。トキワの森に再突入をしてからというもの、同期くんは何人ものトレーナーとバトルをして勝利をおさめ、ピカチュウは森の生意気なポケモンたちを薙ぎ倒している。
もうそろそろ行こうぜ、俺は疲れたよ。特に何もしていない俺はピカチュウへと声をかけた。ピカチュウも満足しているのか抵抗を見せずに戻ってきた。さぁニビシティへ行くぞォ。
日がやや傾いた頃合い、ニビシティに到着した。まず目に入るのは奥に見える博物館だな。立派な建物だぜェ? オツキミ山が見えるな、次の進行方向はあっちか。
「ユウ、とりあえずセンターに寄ろう。ポケモンを休ませたい」
あいよ、ピカチュウも疲れているはずだしな。俺は快く承諾した。ピカチュウは疲れを見せないが、あれだけ動いて疲れないはずがない。疲労を隠しているのだろう。意地を張っていやがるぜ。しかし、俺はからかったりしない、多分機嫌を悪くされるからな。俺の中身は大人なので、他者の心情を読むことには自信がある。
ポケモンセンターに入ると俺はピカチュウにボールをかざす。反応はないので、大人しくボールに入ってくれるということだろう。はい、いれるぞー。はい、だすぞー。回復は一瞬だ、出てきたピカチュウは元気いっぱいという様子。これは疲労も回復しているのか? 体の組織全体を回復しているとしたら疲労もなくなるだろう。……寝られないのでは? 俺はピカチュウの生活リズムが乱れることを心配した。自律神経の乱れは、やがて大きな不調となって表面化する。大丈夫かよ? ピカチュウは大きな反応を示さない。まぁ大丈夫なんやろな。俺はそう判断した。
……で、何それ? 何食べてんの?
「これか? ニビあられだ、うまいぞ」
あられ? どこで手に入れたそんなもん。ポケモンセンター内部に売店があったらしい。いいなそれ、そういえば昼ご飯を食べてなかったなァ。気が付くと一気に腹が減った。
「手洗ってこいよ、分けるから。そのあと何処か食べに行こう」
よっしゃ、待っといてくれや! 同期くんとピカチュウは公共のテーブルに向かった。俺はお手洗いに寄ってから、ニビあられを分けてもらった。
ニビシティにはいい感じの食事処が存在しなかった。仕方ないね、所詮石だけが取り柄の街よ……!! 俺はニビシティの悪態をついた。何がニビ色じゃ、彩度を落としただけやんけェ!! 仕方ないのでポケモンセンター内部にある食堂を使った。けっこううまいじゃん。俺はそう思った。
「やっぱイマイチだなぁ。センターの食事は」
取り消せよ……!! 俺は思ったが、押しとどめて言う。
そう? 結構イケると思ったけれど。
すると同期くんが言った。
「……そうだなぁ。旅の途中の食事当番は俺に任せてもらっても構わないか?」
へぇ、そいつは願ったり叶ったりの相談だぜ。俺は応じた。同期くんが言い出さなくても押し付けていただろうが。料理の腕前に自信が? 俺は訊いた。まぁ形式的なものだ、自信があるから言い出したのだろう。そうであろう? 同期くんははにかむように笑って言う。
「あぁ……まぁちょっとな?」
これは期待できるやつですねェ。 俺はこれからの食事を楽しみにした。