マサラ・ナラティブ   作:U.User

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共感能力

 トキワの森に来ている。派手男と別れた後、トレーニングのために訪れた。ピカチュウは野生のポケモンとばかり戦っていたので、そろそろトレーナーを相手取りたい。森の中は知り尽くしているので、ずんずんと進んでいく。進みながら適当な対戦相手を見繕って声をかける。

 おい、バトルしろよ。

 最初の相手は短パン小僧だ、手持ちは3体らしい。……3体だって、大丈夫かなァ。おいピカチュウ? やれる? ピカチュウはやる気があるようだが、俺は不安だった。だが、この世界のポケモンバトルに敗北ペナルティはない。負けてもお金を半分奪われるルールなどないのだ。そんな横暴なルールがあってたまるか! もちろん勝利を収めてもお金はもらえない。まぁこの世界には労働収入以外にも、ベーシックインカムがあるので問題ない。

 頼んだぜピカチュウ……! 俺はピカチュウを繰り出した。

 

 

 勝負は終わった、勝ちました。感想をいうと、細かすぎる指示はしないほうがいい、というよりは不可能だな? 戦闘中、状況は目まぐるしく変化する。やれ"でんきショック"だの、やれ"でんこうせっか"だの命令している暇はない。バトルは特定の技を主軸にして押していくように、とアドバイスをするだけで終わった。気分はスポーツの監督だな。実際に戦っているのはピカチュウなので、俺は外から作戦指揮とアドバイスをすることに徹したほうが良さそうだ。がんばれー!

 俺はピカチュウに丸投げすることにした。いいかピカチュウ、自分で考えて動け。指示を待っている奴は二流だぜ? ここで俺は理不尽ながらさらに追加要求した。だが、勝手なことはするな。これにはピカチュウも苦笑い。眉間にシワを寄せつつ八の字にして威嚇してくる。器用なことするなァ……その反応は有意義な結果だ。ピカチュウは俺の言わんとすることを理解したようだ。その上で命令の矛盾に気がつき、機嫌を悪くしている。

 ポケモンという生命体は共感能力に富んでいるため、音声に依存しない意思疎通方法を持っている、と俺は考えている。この意思疎通能力というのは相手の伝えようとしていることを読み取り、相手に自分の意思を伝えるという力である。決して相手の心を読むことではないし、相手の脳内に語りかける力でもない。それはエスパータイプの本領だ、奴らはポケモン全体の中でも特殊な役割を与えられていると思う。まぁそれは別の話で。

 人間の意思をポケモンが読み取れるのは、人間が不完全ながらも共感能力を発動しているからだと俺は考えた。一応だが貧弱な共感能力が人間にも備わっているのだろう。共感能力というにはあまりにも弱すぎるそれを持つ人間は、相手の意思を読み取ることはできないが、辛うじて自分の思いを伝えることができる。……不完全だから共感ではなく、一方通行な意思疎通なのだ。

 本来は音声を用いて意思疎通する人間は言葉を放った時、意図せず共感能力の一部を発揮する。前の世界でも言霊なんていったが、人間は言葉を発した時に反射で共感能力を発揮して自分の意思を伝えようとするのだ。それは普段から争ってばかりの、分かり合えない人間たちが必死にお互いの思いを伝え合おうとしているかのようで……。

 俺は悲しんだ。結局、人間は自分の考えを押し付けてばかりじゃないか……! 相手の気持ちを理解しようとはしないのか……!! 皮肉にも人間の共感能力は浅ましい自己主張と顕示欲によって、一部発揮されるのだ。

 

 

 いいかピカチュウ、今のお前ではニビジムのポケモンたちに勝つことはできない。

 俺はピカチュウに知識と経験から導き出される、残酷な結末について告げた。ピカチュウは目立った反応を示さない。まぁ唐突すぎるか、根拠を示さなければな。

 ポケモンジムはポケモンの育成と躾を研究し、行う施設であり、ジムで育てられたポケモンはバトルでも優秀である場合が多い。ジムではそれぞれ専門とするタイプがあり、ジムに所属しポケモンを育成するブリーダーの卵、所謂ジムトレーナーもそのタイプにポケモンを統一する。ジムに認めてもらうことでジムバッジを貰えるが、認定するのに最も用いられる方法がポケモンバトルである。今回、ニビジムに認定してもらいたい俺たちは、ニビジムのトレーナーやリーダーと戦うことになるわけだ。ここでジム所属のトレーナーやリーダーが扱うポケモンのタイプが問題になってくる。

 ピカチュウ、お前の自慢の電撃はニビのポケモンには通用しないだろう。

 ニビジムは岩タイプのジムである。単純な岩タイプのポケモンが相手なら良かったが……恐らく出てくるポケモンはイシツブテとイワークあたりだろう。この2体は岩と地面の複合タイプだ。これもう半分じめんタイプのジムでは? 俺は訝しんだ。じめんタイプというのはでんきタイプであるピカチュウとの相性は最悪である。相手の攻撃は2倍の威力でこちらに響き、こちらの攻撃は無効化される。無効だ、実に0倍、無慈悲である。色々対策を考えたが"でんこうせっか"でペチペチするしかなさそうだ。

 ピカチュウからの反応は芳しくない。お前話聞いてるの? 俺は不安になった。お前が"アイアンテール"とか"なみのり"とか覚えてくれれば楽なんだがなァ。仕方ない、もうしばらくトレーニングといこう。"でんこうせっか"を極めてくれ。俺たちは辺りが真っ暗になるまで鍛錬を積んだ。

 

 

「おい、こっちだ」

 

 おろ? 鍛錬を終えて休息をとり、ポケモンセンター内の食堂に寄ろうとしたら同期くんに呼び止められた。

 

「飯は作ってある。外のキャンプ場だ」

 

 あー、そんな話もしてましたな。俺は同期くんの後をついていった。

 うまいです。俺は出された料理を食べて言った。同期くんは、そうか、とだけ反応を返した。気の利いたコメントが出来なくてすみませんね。俺の舌は貧乏舌であるため、何を食べても大体美味しく頂ける。同期くんはピカチュウにもポケモンフーズを差し出した。ん? ひょっとして専用フード?

 

「あぁ、試しにブレンドしてみたんだ。いきなり合うものが作れる訳じゃないけど、様子を見つつ調整していきたいね」

 

 こいつますますタケシですぜ? この世界のポケモンは種族に応じて食べるものが変わる、それは有機物から無機物まで幅広い分布をしている。しかしきのみなど、どのポケモンでも共通して食べるものが存在する。そこに目をつけて開発されたのがポケモンフーズと呼ばれる共通食である。どのポケモンであっても等しく食すことのできるフーズはトレーナーやブリーダーの必需品となったらしい。しかし、割とポケモンは何でも食べる気がする。現にピカチュウは俺の分の料理に手を付けていた。何食べとんねん!! ポケモンは確かに種族で食性が異なる。効率的に栄養を補給できるのは、そういった食事のみなのだろう。だが、上位生命体であるポケモンは食事を娯楽としても捉えられている。よって栄養にならなくとも未知の味覚であれば味わい始めるのだろう。食事を終えた後、俺たちはジム戦に備え早くに寝た。

 

 

 はい、ジム戦です。俺たちはニビジムにやってきた。たのもーう!

 恥ずかしいからやめてくれと同期くんに言われるが、全くその通りだと思う。テンションがおかしいのだ、ハイになっちゃってね? 早速遠目からも確認できるジムリーダー、タケシの元へずんずん進んでいくが、死角から邪魔が入る。何奴? 同期くんが手で制して俺を抑える、どうやら同期くんが相手をするらしい。いい機会だからニビのポケモンをしっかり観察しておこうなピカチュウ。ピカチュウは静かに首肯して応じる。俺は同期くんを応援した。

 

 

 死角からの刺客は敗北した、同期くんとの距離は近いように見えて、その実とても遠かったのだ。ニョロモが大活躍した、というか使ってきたポケモンがディグダとサンドだったんですが。じめんじゃん、それ。ここ、いわタイプのジムですよね? じめんタイプは厄介だ、何せでんきが無効だからなァ。俺たちはニビジム最奥まで辿り着いた、ここからが公式戦らしい。えっ? じゃあさっきの奴は?

 俺たちのポケモンのレベルが計測され、応じたポケモンをタケシは用意する。どっちからやる? 俺は同期くんに訊ねた。

 

「譲るよ。ピカチュウで挑むんだろう? 見てみたい」

 

 見せられるような試合にはならないと思うけどなァ。俺はピカチュウに行ってよしとの合図を出す、タケシは口上を述べる。ここに、初のジム戦の幕が開かれた。

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