Fate/immature children 作:waritom
プラウレン湖に浮かぶ城めいた屋敷を始め、ロットフェルト家は付近の土地を私有している。屋敷そのものへは当主が許可した者しか入れないという仕組みであるため、付近には幾つか屋敷や客人を止めるゲストハウスが点在していた。
ロイクの工房も元はその一つである。だが、聖杯戦争の折につけこれらの建物は基本的に使用禁止となっている。客人を泊める状況でもない。また、管理する使用人もクリストフを除けば全員が暇を出されている。
そんなゲストハウスの中でここ数ヶ月か使われているものがある。一際湖に近く、ロットフェルト城へ赴く予定の客人が一時的に寝泊まりするための建物だ。故にロイクの屋敷と比べると作りは粗末で、大波が来れば跡形もなく消え去るような不安を抱く。
その小屋とも言うべき建物に、ハンナ・ロットフェルトがいた。
ロイクと共に屋敷を出た後、行く宛もないため、目についたこの小屋に寝泊まりしていたのだ。幸い、非常食などは十分に備えており、一冬を越えることは難しくない。
ハンナの関心は自身の生活にはなかった。食い入るように何かを見つめている。ところどころをガラス玉で彩った手鏡だ。ハンナはその手鏡を床に置き、鏡面に映るものをじっと見ている。
「ああ、テオ。テオ。テオ!来てくれたのねテオ!」
手鏡に映るのはハンナの顔ではない。遠く、今しがたルスハイムから離れた森で召喚を始めたテオ・ロットフェルトだ。
「懐かしい、なんて懐かしい顔。少し痩せたかしら。でも元気そうね、こんな魔術を使えるくらい」
空間にはハンナしかいない。独り言だ。だが、誰かに話しかけるように、あるいは鏡面の向こうのテオに話しかけるように言葉を紡ぐ。
「何年ぶりかしら。もう、思い出せないくらい。少し痩せたかしら。ああ、苦労をしていたのね、テオ」
常人であれば、関わり難いものとして目を背けるだろう。ロットフェルトの兄弟たちがそうしているように。
鏡面の映像が光で満ちる。テオが召喚を終えた。ハンナも聖杯戦争の情報は理解している。テオに関わるものだから、知っておく義務がある。
食い入るように鏡面を見つめていると、テオが何かと会話しているようだ。だが、その内容まではハンナには聞こえない。ハンナの使い魔は夜目が聞くが、音を拾う能力はない。不意に映像が消える。使い魔が死んだ。
だが、ハンナはその存在を見ていた。使い魔が絶命するその瞬間。月明かりに照らされたその顔。
「……女よ。女。いけない、あの女はいけない!テオを遠くに連れ去ってしまう!せっかく帰ってきたのに、またどこかへ連れ去ってしまう!」
狂乱するように暴れる。拍子に手鏡が手に当たり砕けた。ガラス片で切り裂け、血が飛び散る。構わない。ハンナは身体が拒否するまで、思うままに暴れた。
「取り返さないと。テオを」
そして幾らか冷静になると、溢すようにつぶやいた。あの女からテオを取り返す。そうすれば、またテオは戻ってきてくれる。絶対に、そのはずだ。だから、あの女を殺させてください。どうか、どうか。
不意に、左の手に痛みが走った。それは手鏡や部屋のあちこちにぶつけたためではない、根本的に別種に痛み。見ると、奇妙な紋章があった。令呪だ。
「……はははっははははは!そういうことね。ああ、神様がいる!これはご啓示よ!神は、聖杯は!自分の手で勝ち取れと言っているのね!」
言うな否や、ハンナは血の滴り落ちる腕を振り回し、床に紋様を描いた。それは他の者には、ただの汚れにしか見えないだろう。だが、ハンナにとってはこれ以上ない召喚陣。ハンナは召喚の呪文を唱えながら願う。かの女を殺す存在を。天敵となるものをここに。テオを取り戻すために。
そして、彼女の思いに応えるように狂乱者が召喚される。ハンナは確信する。テオを惑わすあの女は、私とこのバーサーカーが殺す、と