Fate/immature children   作:waritom

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 ガソリンスタンドからルスハイムへ向かう道の途中、日が落ちる少し手前の時間。テオ・ロットフェルトはライダーの運転するバンの後部座席にいた。

 ライダーの発見した助手席の女性は見たところ大きな怪我はなく、暗示によって眠らされているようだった。今は起きていて、所在なさげにしている。

「あの、本当にルスハイムに向かってるんですよね?大丈夫ですよね?」

「大丈夫だって。本当に心配性だな」

 女性の心配をライダーは軽くいなす。

 ガソリンスタンドでライダーが発見した女性は宮葉環と名乗った。日本人らしい。

『フランスで作られた荷物をルスハイムまで届ける予定だったんです。すごい貴重品、というか高級品なのでボディガードを雇いました。そしたら』

『そしたら、そのボディガードに眠らされて荷物まるごと奪われそうになった、とか』

 ライダーが笑うように宮葉の言葉を予想する。

『すごい、なんでわかったんですか!』

 状況を見たら、そうとしか思えない。きっとそのボディガードというのがライダーが追い払った男たちだろう。車に近づいたテオとライダーに必死に駆け寄ったのこの事情なら納得できる。

『それで、その、ミス宮葉はどこまで?後ろの荷物はその高級品?』

 テオが疑問を呈する。宮葉は小動物のようにびくっと身体を震わせた。

『やめとけテオ』

……不躾だったか。でかい男二人に襲われた直後だもんな。

 宮葉の姿を改めて見る。アジア人はおおよそ欧米人よりも小柄な人物が多い。宮葉はその中でも一際小柄のように見えた。本人の言では成人しているそうだが、この国では身分証を出さない限り、子ども扱いされるだろう。男たちが不埒にも強盗を働こうと思ったのも理解できる。狙うならば弱い人間。鉄則だ。

『えっと』

『申し遅れたな。後ろの細い男がテオ。で、アタシがライダーだ』

 宮葉がどうも、と頭を下げる。むしろ、テオよりもライダーという名前に疑問を持っていそうだった。宮葉がおずおずとした調子で口を開く。

『お二人は魔術師ですか?』

 告げられた言葉にテオは押し黙る。ライダーもテオに同調するようだ。常人ならば一笑に捨てる問い。だが、それをこの場、この状況でいうとなれば、正直に徹したほうが良さそうだ。

『ああ、そのとおりだ』

 テオの言葉に宮葉はああ、とかうーんとか悩み始めた。そして意を決したように言った。

『積荷はルスハイムで行われる魔術儀式で使う祭具です。どうしてもそれを今日中に届けたい。お二人に道中のボディガードをしていただけませんか』

 回答は無論イエスだった。ライダーがテオを待たずに即答した。

 そして今に至る。

「お、ルスハイムまで二十キロだってよ。あと少しじゃん」

 かれこれ一時間ほどライダーの運転でルスハイムへ向かっていた。その間、宮葉は不安そうに待っているだけで、時折投げかけられるライダーの質問に答えていた。

「よかった。六時には着けそうです。そこから、えっと、魔術師の人の家に届けておしまい」

 宮葉の不安はライダーの具体的な情報で緩和したように見える。流暢に英語を話すが、看板の文字は読めないようだ。

「それにしても不幸だったよな。ボディガードに襲われるなんてそうそうないぜ」

「いえ、私が不用心でした。予め雇っていたのですけど、現地であった瞬間に殴られて……。やっぱりこの仕事向いていない……」

「思いつめるな、環。山道を走れば山賊が、海道を往けば海賊がいる。そいつらにあったのはただただ不運なだけだ。いちいち嘆いていては運送業なんて務まらないぜ。今回は荷物が無事だったんだし」

 ……奪う側だった人間がよくもまあ。

 テオの嫌味が通じたのか、ライダーが念話で返事をする。

(アタシが賊なら絶対このお嬢さん襲うね。格好のカモだ。……ところでこのお嬢さんの積荷、聖杯関連じゃないか?)

 ライダーからの意外な質問にテオは考える。ルスハイムにいる魔術師といえば、現状はロットフェルト家だけだ。当主クサーヴァーや魔術師のロイクなどは通常時は呪具祭具を取り寄せるだろう。だが今は聖杯戦争にかかりきりのはず。にも関わらず、取り寄せると慣れば聖杯戦争関連の品であるというのは自然に思える。ライダーの公算は当たっている気がした。

(それとなく、届け先の魔術師の名前を聞き出してくれ)

(了解)

「ところで、環。届け先はルスハイムのどこらへんだ?このまま家の前まで乗せってってやるよ」

「えっとですね。ロットフェルトさん?という方ですね。名はわからないです」

(大当たり)

 ライダーが念話で呟く。後ろの祭具はロットフェルトのマスターがサーヴァントに使わせるか、宝具の利用のために取り寄せたものだろう。奪い取れれば、優位に立てる。

「……ロットフェルト家ならば通行手形をもらっているはずだ」

 テオが後部座席から聞く。また怯えられるかと思ったが、環も今は落ち着たようだ。肩に掛けたカバンから名刺を取り出した。

「……これですか?よくわからないですけど、届けるときはこの名刺を持ってくるようにと言われました」

 ロットフェルト家は人の出入りを嫌う。そのため普通の郵便物は郵便局まで届けさせ、後ほど使用人が取りに行く。だが、魔術に関わるものの場合は環のような専用の業者を使う事が多い。当然郵便局には置いておけないため、使用人が直接受け取るか、特例として屋敷の付近まで入れる。その際の通行手形が使用人の名刺だ。

 この手形なしで屋敷に近づけるのは使用人とロットフェルト家の人間だけだ。テオはもう、その資格はない。

 ……よほどのものだな。後ろの品は。

「ライダー。市街に入ったらその名刺が行き先を示す。そのとおりに運転してくれ」

 その後しばらくすると、ライダーの運転する車はルスハイムに入った。既に日が落ち、辺りは暗い。宮葉が持っていた名刺が震え印刷された文字が動き出す。紙面には矢印が現れた。

「すごい。……手が込んでる。よく知ってましたね」

「……何かと縁があるから」

 無邪気に聞く宮葉にテオは冷たく答えた。この少女の存在で忘れていたが、ルスハイムに入ったということは既にここは敵地。本来はもっと周到に準備を進めてから来たかったが、仕様がない。これは千載一遇のチャンスだ。

(ライダー。宮葉を送ったら、その足でロットフェルトの屋敷に奇襲をかける)

(いいね。大胆な作戦だ。なんでまた思い切る?)

(この女がいれば、警戒されることなくロットフェルト城に近づける。俺は既に勘当されているから宮葉がいなくなると近づく術がない)

(なるほど)

 そして車は郊外へ抜ける。徐々に人通りがなくなり、自然に囲まれた道に出る。幾度かの曲がり道を経て、テオにとっては懐かしいロットフェルト家専用の私道に出た。しばらく進むとプラウレン湖が見えるはずだ。

(テオ。悪い知らせだ)

 突如、ライダーが念話で言う。問う前にテオにも理解した。異常と言える魔力の気配。この世ならざるものの予兆。ライダーを召喚したときと同じ、いやそれ以上の圧力を感じる。これは。

(サーヴァントがいる)

 ライダーが、端的に言い表した。

 

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