Fate/immature children   作:waritom

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 兄アーベルトを殺害したのが昨夜。その足で幾つかのホテルを襲撃したが、成果はなかった。エルナの夫リーヌスの一派がいるはずのホテルはもぬけの殻だったのだ。彼らの動向を知るために、一夜動き詰めだった。朝方、拠点にしているゲストハウスに戻ると、疲労のあまり起き上がれなくなった。ロイク・ロットフェルトは自身を虚弱とは思わない。だが、ここ何時間かの急激な変化に身体が音を上げたのだと思った。特に、兄を手に掛けた手の感触は忘れられない。

「手間のかかるガキだ。このまま引きずってでも連れていきたいが、そうすると死ぬのだろうな」

 ランサーは一夜の襲撃では飽き足らず、まだ場当たりな襲撃を続ける気でいた。ロイクが意識を失う直前に聞いたのは、英霊の怒りの籠もった声だった。

 そして目覚める。きっかけは使い魔である烏の呼び声だった。ルスハイム市街からロットフェルト城へつづく唯一の公道。そこに何者かが通ったことを意味していた。

 烏の視界を共有し、ロイクはその何者かを見る。そして怒りの火が胸の内に灯る。来るべきときが来た。既に夜の帳が降りかけている、プラウレン湖周辺の森。ロットフェルト城へ続く唯一の公道には車が通った。ロットフェルトの一族や使用人しか通れないこの道は、ロイクが真っ先に使い魔で監視下に置いていた。その使い魔の烏が見た。バンの後部座席にいる男を。テオ・ロットフェルト。ロイクが倒すべき、強さを証明すべき相手。やはりここに来たか。運転席と助手席にも人がいるが、どちらかがテオのサーヴァントだろう。

「ランサー、すまない。だが、吉報だ。サーヴァントがいた」

 熱にうかされているため、ランサーへの恐怖は霧散していた。

「ほう。良い。例え意識がなくともすべきことは忘れていなかったか。それにロイク。今のお前はとてもいい顔をしている」

 ロイクは自身の顔を、左手でなぞる。笑っていた。

「さて参じようか。我が力を見せつけてくる。お前はここにいろ」

 ランサーが窓から消える。ロイクは使い魔の視界から森を眺める。テオ・ロットフェルトへの力を見せつけるチャンスだ。兄を殺した罪悪感も、ランサーへの憤りも全てを忘れて、それだけを思う。

 

 テオ・ロットフェルトは圧は背後から近づいていることに気が付いた。

(どうするよ。マスター)

(決まってる。防戦だ。走り抜けて、ハンナを攫って撤退する)

(いい案だ!)

「環!運転変わりな!」

 車内の雰囲気がにわかに緊張したのを察していたのだろう、押し黙っていた環にライダーは突如声を掛けた。

「へ?え?」

「いいから早く!アクセルだけ踏んでいればいいから!」

 言い捨てて、ライダーは運転席の窓から外に出る。車内が衝撃に揺れた。ライダーがボンネットの上に立っているのだとわかった。車はライダーがいなくなったことで一時速度を緩める。が、戸惑いながらも運転席に移った環によって、再び速度を取り戻した。

 テオも後部座席の窓を開け、後ろを見る。暗闇に紛れているが、強化した視力が圧の正体を捉えた。痩身に張り付くような黒い鎧。手には長槍。おおよそ人では考えられない速度で追いすがる。

……間違いない。ランサーのサーヴァント!

「さあ、始めようか!初陣は派手に行こう!根こそぎ殺し尽くしてやる!」

 テオは窓から使い魔の蝙蝠を放つ。視覚を共有し、ライダーの戦いを俯瞰する。ライダーは既に現代服から、召喚された当時の海賊衣装に着替えていた。両手には長弓が握られている。

(お前、弓なんて使えるのかよ!)

(海賊ってのは何でもあるもので戦うんだよ!弓は嫌いだけどな!)

 テオは見る。ライダーが放つ矢の連打。テオには一息でいくつの矢が放たれたのか数えることもできない。その矢は道を砕き、ランサーにも向かっていく。

 ランサーが自身を射抜かんとする矢を、その身で受けた。だが、矢は槍兵の身を穿つことなく、地に落ちた。地を砕くほどの威力をもって、槍兵には防御をさせることすら敵わない。

(なんだあいつ!無茶苦茶じゃないか!)

(いや、今のはアタシが悪い。流石に遊びすぎた)

 不可解なライダーの言葉は、走り寄るランサーの言葉で解決した。

「ふざけているのか貴様!弓兵ですらない女の矢で、俺に傷をつけれると思ったか!」

「では騎兵らしくお相手しよう」

 ライダーが丁寧な口調に言う。そして、彼女の傍らに武装が出現した。大砲。船舶に取り付けられる大型の砲門がライダーの傍らに出現した。そして砲門がランサーを狙う。

 そして車内に轟音が響いた。運転する環が短い悲鳴を上げるが、直ぐにかき消える。砲撃は一度ではない。連続して続いている。蝙蝠の視界に集中すると、ランサーが遠くに立ち竦んでいるのが見えた。砲撃はランサーに確かにダメージを与えている。

「さあ、もう一つ!」

 ライダーはさらなる武装を出現させる。テオは自身の魔力が吸い取られる感覚を得た。そして使い魔の視界から見る。ライダーの武装を。ランサーに向かい、突撃していく巨大なガレー船の船首を。

 そして、船首は周囲の森を巻き込みながら、ランサーに衝突した。

 ……これがライダーの宝具か。

 周囲の森を薙ぎ倒して現界した船首からは、おびただしい魔力を感じる。果たしてこれが全体の姿を現すと、どれほどの猛威となるか。

「なんなんですか!一体何が起こっているんですか!」

「……聖杯戦争ってやつ。余裕があったら、あとで話すよ」

 泣き喚く環をテオは宥める。ミラーから後ろに出現した船首を見たのだろう。それでも言いつけを守りアクセルを踏み続けているところを見ると、なかなかの胆力だと思う。

 ランサーを押し潰した船首を、車は置き去りにしていく。脅威は去った。そう思い、肉眼で窓から顔を出し、後方を見る。

「馬鹿野郎!まだ終わっちゃいない」

 瞬間、テオに向け短剣が飛び込んできた。直線軌道を描いていた短剣は、テオの眉間に当たる直前に軌道を変え後方へ飛んでいった。

 訝しんで短剣の飛んでいった方向を見ると、運転席側のサイドミラーに刺さっていた。よく見ればサイドミラーには何か魔術式が刻まれている。

 ……環が何かしたのか。

 問おうと思ったが、ライダーの声に阻まれた。

「次が来るぞ!顔を引っ込めろ!」

 慌ててライダーに従う。使い魔の視界から見ると、状況は明らかだった。既にライダーの船首は消えている。そして船首があった場所。そこにはランサーが立っていた。笑っている。狂ったような笑いが聞こえてきた。

「いまのは良い攻撃だ、ライダー!女と見くびっていたこと、謝罪しよう!」

「そりゃどうも。……アンタもマスターばっかり狙ってないで、アタシと戦ったらどうだ!」

「何を間の抜けたことを。敵の弱きを突くのは戦いの常であろう!」

 ……まずいな。

 二人のサーヴァントの会話から、テオは危機感を抱いた。ランサーの狙いはテオ本人だ。ライダーと交戦するつもりはなく、合理的に戦うつもりだ。対してこちらは相手のマスターもわからず、環や詳細不明の祭具を積んでいる。環を守る積極的な理由はないが、見捨てるには気が進まない。なにより、ライダーは納得しないだろう。

(防戦しながらあいつを倒せるか)

(……無理だな。宝具を出せば状況は変わるが、テオや環を守れない。それにあいつ、まだまだ遊んでるぜ)

 ライダーは再び砲門を出現させ、追い縋る槍兵を攻撃している。ランサーは手元の槍で砲弾をいなし、近づき続ける。追い詰められているのはこちらだ。なにか手はないか。

「あ、湖」

 思い悩むテオに、環が場違いな言葉を言った。車は生い茂る森を抜けた。景色が一転する。道路はプラウレン湖を見下ろす形となり、前方には下りの山道が続いている。

 直線ではないこの道では、ランサーの攻撃はさらに肉薄するだろう。そこでテオは思いつく。そして、行動した。

「環!道を外れて森を走れ!」

「え、でも」

 躊躇う環に我慢できなくなり、後部座席からテオがハンドルを操作する。車は道を外れ、舗装されていない森の中を走る。

(おいテオ!お前、何をするつもりだ!)

 車が木々にぶつからないように細心の注意を払い、テオはハンドルを操作している。そのため、ライダーに答える余裕がない。環が怯えた声を出した。

「テオさん!前!」

「分かってる!絶対にアクセルを緩めるな!」

 一瞬だけ後ろを見ると、やはりというか森の中でもランサーは変わらない速度で近づいている。だが、気が付いていないはずだ。この先が崖だということ。環のベルトを外し、後部座席と運転席のドアを開ける。

 そして、車が崖から躍り出る。その刹那。

「ライダー!船首を叩き込め!俺と環を回収しろ!」

 ライダーはすぐに船首を出現させ、崖際に叩き込んだ。これで、ランサーの足は止まった。

 車が宙を舞っている。テオは開け放したドアから空中に躍り出る。ライダーが直ぐにテオの身体を抱えた。そして環を同じようにしようとして、ライダーの手が止まった。

「畜生め!」

 ライダーが吐き捨てると、車から離れた。

 落下する衝撃の中、テオは環の残る車内を見た。ライダーの悪態の原因があった。運転席で、祈るように目を瞑る環。それを守るような、特徴的な魔力の奔流。脅威がもう一つ、生まれようとしていた。

 

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