Fate/immature children 作:waritom
運転席で祈る宮葉環は自分の人生を振り返る。幸福とは言い難い人生だった。
宮葉の家は魔術道具、祭具を作成し、それを魔術師に提供することを生業としている。環も家業に従事していたのだが、道具を作成するという才を持たなかった。作る道具は尽く失敗した。精々作れるのは初歩の呪い避けのお守り程度。これでは家業は継げないと、はっきり言われた。
だが環には別の才能があった。道具を作る才能ではなく、見つける才能。父と環が宮葉の倉庫で清掃をしていると、環がたまたま古びた弾丸を見つけた。父は覚えがないらしく、鑑定するとなにかこの世ならざるものと契約した痕跡が見られた。言うまでもなく希少だった。
そんなことが幾度も続き、環は磨くべき才能を見つけた気がした。
環は古びた呪具祭具を調達する、新しい事業を初めた。
……多分、間違いだったんだろうな
環の小柄な見た目と僅かばかりの魔術では、行く先々で困難に直面することは目に見えていた。今回はテオとライダーに助けられたが、運が良いとしか言いようがない。だから、これで最後にしようと思ったのだ。なのに。
……最後の最後で、とんでもないのを引いちゃったな
自嘲の溜め息を心の中でつく。車が地面に衝突すれば確実に命はないだろう。ライダー達が先程飛び去るのを見た。いい人たちだったけど、しょうがない。魔術師のドライ加減はよく知っている。
不意に、車に衝撃が走った。ボンネットに巨大な物が当たったような。きっと後ろから走ってきた男が何か投げつけているのだろう。
だが、認識が間違っていたことを直ぐに知る。天から、いや穴の空いたボンネットから声が聞こえたのだ。
「マスター、マスター。どうする?とんでもない状況みたいだけど。生きたいか死にたいか、答えてくれよ」
目を開き、声の方を見る。青年がいた。環の脳内は急速に現実感を取り戻した。落下中、多分すぐ死ぬ。眼の前の男は何だ。いや、今はどうでもいい。
「生きたい!」
「よし!」
環の答えに破顔した青年。そして環を抱きかかえると、車を捨てて脱出した。
ロイク・ロットフェルトは自身の拠点であるゲストハウスから、使い魔の視界を通して森の状況を把握していた。
……崖から車ごと飛び降りたテオがライダーを使い脱出した。
ロイクはランサーに追撃を命じようとした。いや、言わずとも今がライダーを倒す好機であるのは理解しているだろう。ロイクはここまでの戦いぶりを見て、ランサーと戦略的視点は一致していると見ていた。
だが、予想は外れた。ランサーは崖から落ちる車を見つめている。
(ランサー。ライダーとそのマスターはそこにはいない)
(わかっているさ。今、良いところだから、黙ってろよ)
念話でランサーに確認をするが、ロイクには理解ができない。だが、使い魔越しに車を見ると直ぐに疑問は解消した。
落下する車のボンネットの上に青年が立っている。狩人の様な風体にフードのようなもので顔を隠している。サーヴァントだ。ライダーの他に、もうひとり隠れていた。
……いや、召喚されたのか。
ランサーがそのサーヴァントに向けて短剣を投げつける。尋常ならざる速度でサーヴァントに迫る。だが、それはサーヴァントに辿り着くことはなかった。ロイクには何が起きたのか理解できなかったが、ランサーは愉快そうに笑みを浮かべている。
「なかなかやるな。貴様、アーチャーか」
ランサーの問にアーチャーと呼ばれた英霊は答えない。ただ、車内から女を連れ出して去っていった。
(ランサー!追え!召喚したばかりの今なら叩くチャンスだ)
(そうもいかない。派手に暴れすぎたみたいでな。もう一人、客人が来たようだ)
崖際に立つランサーが背後の森を見る。ロイクも注視すると、客人の姿が見えた。
……なんだ、こいつ。
身の丈を超す斧のような長剣。だが目を瞠るのはその全身が何か渦の様な紋様で彩られていることだ。紋様はそれ自体が生き物のようにうねり合っている。
「ほお、面白い装いだ。真名隠しのために魔術で化粧をしているのか」
ロイクでも、それがサーヴァントであることは解る。だが、先のライダーともアーチャーとも違う、より機械的な性質を感じる。まるで意思を持っていないかのような。
「セイバー、でよいのか。視線でもって俺の邪魔をしたことは腹立たしい。貴様が黙ってさえいれば、ライダーかアーチャー、ともすれば双方を殺せたものを」
アーチャーらしきサーヴァントを追わなかったのは、背後からの攻撃を警戒したためか。
ランサーが槍を構える。眼の前の謎のサーヴァントに向けて殺意が籠もる。
「貴様の首で代わりとする」
そして戦いが始まった。先の逃げ惑うライダーとの戦いとは違う、お互いが近接の間合いでの戦い。ロイクはランサーの周りを警戒しながら、その戦いを見る。
ランサーの動きは人よりも獣に近い。両の手で持った槍でサーヴァントの身を突く。先の短剣投げが遊びであったのがよく分かる。ランサーの突きは、それ一回が必死の威力。如何に英霊と言えど、まともに当たれば致命傷だ。
だが、ロイクは見た。その傷を負うはずのサーヴァントは長剣でランサーの突きを防ぎ、いなし、あろうことか自身の剣の間合いまでランサーに近づく。そして振られた長剣をランサーが避ける。
……ランサーの突きを軽く防御してる。
ここに至り、ロイクは相対するサーヴァントがセイバーであると確信した。聖杯戦争における最優とも呼ばれるクラス、セイバー。高い対魔力性能と戦闘能力。バランスに秀でている英霊が多く、弱点も少ない。ロイクも狙っていたクラスだ。
ランサーとセイバーの交戦は同じ映像を繰り返し見ているようだった。ランサーの間合いで雨の様な突きが繰り出される。それをセイバーは長剣で守り、いなしながら間合いを詰め、剣で攻撃する。
高速で繰り返されるそれに変化が起きる。ランサーが森の中へ入ったのだ。セイバーが追う。ロイクの使い魔も後に続く。
高く伸びる木々の間をランサーが縫うように走る。最中、槍でセイバーを牽制する。
「十五。この槍はお前を穿ったはず。見上げた堅牢さよ」
そしてランサーが振り返り、再び槍でセイバーを突く。セイバーの顔面を狙った一撃。セイバーが長剣で突きを防ぐ。幅広の長剣はセイバーの視界を奪っただろう。
ランサーがその刹那、木々を飛び移るようにセイバーの背後に移動した。セイバーの視界から消える行動。セイバーが長剣を降ろし、一瞬、動きが止まる。ランサーの意図した通り、セイバーは消えたランサーに一瞬、戸惑ったのだ。
その空白をランサーが見逃さなかった。死角から放たれる突きは、正確にセイバーの喉を貫いた。
「どこの英霊だかは知らぬが、これで終いよ。この程度が最優というのだから聞いて呆れるな。呼ばれた甲斐もない」
ランサーが槍を抜き、立ち竦むセイバーに背を向ける。
ロイクは見る。背を向けるランサーに、喉を貫かれたセイバーが迫るのを。長剣を振りかぶり、ランサーに肉薄する。
気配を察知したランサーは紙一重でその剣を躱す。振り返り、再び槍を構えた。
「……喉を穿たれてその動き。貴様、不死身か?」
ランサーの言葉に初めてセイバーが剣を下げる。両者が睨み合うように相対する。
「また会おう。この傷はそこでお返しする」
そう言ってセイバーが消える。
……あの不死性。調べる必要がある。
ランサーが悪態をつく中、ロイクはセイバーについて考える。宝具による不死性であるならば、真名からヒントが得られるはず。
そして使い魔の視点から、ライダーが去ったほうを見る。テオ。相対したときの激情は収まっていた。ライダーとランサーの格付けは決まった。正面から戦えばランサーが打ち倒すことができるだろう。今すぐである必要はない。
ロイクはランサーへの帰還を促し、視界を自室に戻す。街へ出る必要がある。そう思った。
セイバーが姿を消し、ランサーが去った後。崖下に転がる、テオ達が乗っていたバンに男が近づいた。神父服の男は引き裂かれたボンネットから荷台を探る。
「いや、無事で良かった。テオ・ロットフェルトも無茶をするなあ」
男が手にしたのは、宮葉がロットフェルト家に運ぶはずの荷物だ。両の手で持てる程度の木箱に入ったそれを、神父が改める。
中からは金色に彩られた盃が出てきた。
「さすが宮葉。いい仕事をしますね。いや、どこかの亜種聖杯戦争の余り物を盗ってきたのでしたっけ。……まあ、どちらにせよ、この小聖杯がなくては始まらない」
神父は小聖杯と呼ばれた盃を木箱に戻す。そして木箱を抱えて、崖を駆け下りていった。
「さあ、宮葉の子のサーヴァントを含めてこれで 七騎。みなさん、頑張ってくださいね」
神父、ヘルマン・バールは小さく呟いた。