Fate/immature children   作:waritom

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 ロットフェルト家の領地で起きたサーヴァントと同士の小競り合いから一夜が開けた。テオ・ロットフェルトはこの夜を苦々しい思いと共に明かすことになった。

 昨夜は予定では、ライダーによってハンナを救出するはずであった。だが、予想外の強襲により断念せざるを得なかった。

『悪いなテオ。アタシのミスだ』

 無論、テオとて途中で襲われることは想定していた。だから、ランサーが手強いといえどライダーが宝具を展開すれば逃げおおせたはず。本当の予想外は、他にある。

 宮葉環。ライダーが助けようとした際、明らかに彼女の元へサーヴァントが召喚された。宙を舞う車で、かのサーヴァントは何を思ったのかわからない。だが、テオを連れ車から離れるライダーに向かい、かのサーヴァントは攻撃を行った。テオはその様子を見ることができなかったため、詳細はわからないが、傷口を見る限り矢か銃による狙撃ではないかと思った。

 ……つまり、あの場で召喚されたのはアーチャーのサーヴァント。

 三騎士の一角、アーチャー。弓兵の英霊であれば、背を向けるライダーを狙い撃つ程度、造作もないだろう。むしろ、死角からの攻撃を間一髪で致命傷としなかったライダーを称賛すべきか。だが、当の本人は口惜しそうに言う。

『背に一撃。いいのをもらっちまった』

 致命傷ではないが相応に傷が深く、テオの治癒魔術を持ってしても一夜が必要だった。もしあのままハンナの元へ強行しても片道切符になる危険が高かった。

 故に、撤退を余儀なくされた。

 テオとライダーは現在ルスハイムのホテルに宿泊している。駅から遠く、建物自体も古い反面、人が少なく部屋が広い。ルスハイムで居室を構えることに抵抗があったが、ロットフェルト家にあれだけの侵入をした以上、あえて遠くに拠点を置く意味はなかった。

(よし、大分回復した。手間を掛けさせたな、マスター)

 ライダーは霊体化した状態で昨夜の傷を癒やしていた。このホテルは霊脈が豊かとは言い難い。だが、見込み通り一晩あれば回復できたようだ。

「昨日の作戦は失敗した。環のことは気がかりだが、俺たちが優先するのはハンナと聖杯だ。方針を定めよう、ライダー」

 ライダーが実体化して、テオのベッドに座る。昨日の傷は本人の言葉通り治っているようだ。

「環は良い子だった。だが、だからといってアタシに牙を剥いていい理屈はない。まあ、呼び出した英霊の早とちりだったというなら許さんでもないがな」

 ライダーが快活に笑った。

 テオがライダーに連れられて脱出したあと、あの崖でどのようなことが起こったのかはわからない。使い魔も含めて引き上げてしまったのだ。

 あの場にいたのは好戦的なランサーと、召喚されたばかりのアーチャー。ランサーがテオ達を追ってこなかったことを考えると、ランサーはアーチャーに目を着けたのではないかと思う。

「ライダー。何故ランサーが追ってこなかったと思う?」

 テオは自分の考えを確かめるようにライダーに問うた。

「そうだな。あの場にいたもうひとりのほうが、ランサーの興味を引いたんだろうよ。あのサーヴァント、真っ向勝負をお望みの様だったからな」

 昨夜のライダーとランサーの戦闘は、ライダーが終始逃げに徹することで被害を最小に抑えた。ランサーはその態度にあえて矛を交える魅力を感じなかったのだろう。逃げる者を追うことを良しとしない精神の持ち主なのか。いや、違う気がする。

「あのアーチャーはライダーよりも強力なのか」

「そう言われてハイと答える女に見えるか?荷物がなけりゃ、ランサーと真っ向勝負したって遅れはとらねえよ。あのアーチャーはよくわかんねえがな。……あのなテオ。アタシが言ってるのは環が呼び出した奴じゃない。もう一人、不躾にこっちを見てた奴がいたんだよ」

 もう一人。あの森には四体目のサーヴァントがいたのか。

「正体はわかんねえ。だけど、アタシかランサーか。残った方と戦おうとして待っていたんだろうぜ」

「そいつ、セイバーだな」

 テオはライダーに言う。ライダーが面白そうにテオを促す。

「言い切るな、テオ。そういうからには理屈があるんだろ。言ってみろよ」

「単純な消去法だ。アサシンなら隠れてマスター、俺かランサーのマスターを狙うだろう?キャスターなら自身の工房から出ようとはしないし、バーサーカーは待機なんて殊勝な真似しない。だから、あの森にいたサーヴァントはセイバー」

 付け加えるならば、アーチャーが未召喚というのがあるのだが、それはライダーも理解しているだろう。

 ライダーがふむふむと頷く。

「異論はないよ。だが、気をつけるといい。クラスの型にはまった奴ばっかりがサーヴァントってわけじゃないからな。……さて、これからの方針はどうするよ。当初の予定は既に崩れ去ってるぜ」

 当初の予定。ハンナを昨日の内に救い出し、ライダーの宝具で脱出する。最短距離を行く計画だったが、それを許すほど甘い状況ではなかった。それでも、テオの目的は変わらない。

「もう一度、ロットフェルト城へ行く。環の通行書が無いから昨日以上の強行が必要になる。だから、少し準備が必要だ」

「準備?何が必要なんだ」

 ライダーの疑問にテオは端的に答える。むしろ、これがライダーを召喚する以前から考えられていた予定だ。あの男との。

「他のマスターと協定を結ぶ。特に、ロットフェルト家に恨みを持つマスターと」

 

 テオが勇みルスハイムの街へ出ようとしたのをとどめたのはライダーだった。昨夜のランサーとの戦闘から一夜明けたが、その間テオはライダーの治療に専念し、ほとんど眠っていなかった。

「今、何でもできそうなのはな、ただの徹夜明けの高揚だ。身体は相応に疲れているんだよ。大人しく少し寝な」

 テオは素直にライダーの申し出に応じた。

 そして夕暮れ。テオとライダーはルスハイムの市街に出た。ルスハイムは決して田舎町というわけではないが、冬場の夕暮れともなるとめっきり人が少なくなる。市街と言えど、チェーンのコーヒーショップやハンバーガー店くらいしか開いていない。

 テオが街に出た目的は一つ。ゲルトと連絡を取ることだった。

 ゲルト・エクハルト。テオをこの聖杯戦争へ後押しした男。そして、テオの父であり、この聖杯戦争の発起人であるクサーヴァー・ロットフェルトを恨む者。彼の思惑のすべてを見抜いているわけではない。それでも、現状他のマスターの情報が殆ど無い以上彼が協力者の最有力だ。

「アタシはあんまり賛成できかねるな。素性が怪しすぎる。テオ、これは忠言だ。そいつを頼るくらいなら、まだ安否不明の環を探したほうがいい」

 テオとゲルトの経緯を聞いたライダーが率直な感想を言った。

「言いたいことは解るよ、ライダー。だけど、環を探しに行くのは難しい。ライダーの見込みどおりアーチャーと共に脱出していたとしても、どこにいるか全く不明だ。探し出す当てはあるか?」

 テオの言葉にライダーがむううと黙り込む。

「ダメ元で聞くがな、他の兄弟が助けてくれるとか期待できないのか」

「残念だけど、ロットフェルト家の兄弟仲は最悪だ。なにせ殺し合いに参加してるくらいだからな」

 だよなあ、とぼやくライダー。つまり、テオにとって敵対していないマスターはゲルトと環しかいない。そのなかで生死不明、行方不明の環より表面上は協力できそうなゲルトのほうがまだ期待できると思うのだ。

「……オーケー。アタシも納得したよ。だが気をつけろ」

「ああ、わかっているさ」

 そして夕暮れに差し掛かる頃、テオはルスハイムの市街を抜けて建物の跡地に着いた。テオがルスハイムに入る前、ゲルトと落ち合わせる約束をした場所だ。約束は出際に宿で使い魔を介して行った。後、三十分もすればゲルトも来るはず。

 人気のいない、荒涼とした場所。ここには昔、教会が立っていたらしい。だが、既に建物は崩壊しており、基礎部分が剥き出しになっている。地元の人間は危険なため、あまり近寄りたがらない。

「テオ」

 突如ライダーが実体化し、テオに声を掛ける。彼女の超人的な気配察知能力が何かを掴んだか。ゲルトか。

「ここに来たのは間違いだったかもな。アタシ達、ハメられたぜ」

 そう言ってライダーが戦闘態勢に入る。魔力が集中し、殺気が籠もる。

 ライダーの視線の先、テオは見る。日の沈む方向から堂々とした足並みでこちらへ進むその存在。目視して、その異常さに気が付く。聞くまでもない。あれはサーヴァント。

 ……なんだ、あいつは!

 全身が渦の様な紋様で彩られた大柄な騎士がいた。

 

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