Fate/immature children   作:waritom

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 クーナウ家は魔術師としての歴史は短い。

 代を重ねることが魔術の研鑽の度合いを示す世界だ。そのため、三代程度しか歴史のないクーナウ家は他の魔術師からは重要視されていなかった。クーナウの魔術師も理解していることだ。

 そのため長い歴史を持つロットフェルト家から呼び出されたとき、カヤ・クーナウは大いに驚いた。

 クーナウ家が居を構えるドイツのネフドルから国をまたぎスイスへ。その後、いくつか山脈を越えてようやくロットフェルト家のあるルスハイムに着いた。クリストフと名乗る老紳士に出迎えられ、ロットフェルト家が住む屋敷へと向かった。そこからクリストフの運転する車で山を越え、更にはフェリーに乗り換えて湖を渡る。ここまでの道のりを超えてようやくかの屋敷が見えてきた。山脈に囲まれたプラウレン湖に浮かぶ城。常人が迷い込まぬように幾重にも結界魔術が掛けられているという。

「聖杯戦争。ご存知だろうか」

 調度品で彩られた客室に案内されると、老紳士が口を開いた。広くはない部屋だが、三人の人間が話をするには不都合はない。ロットフェルト家の使用人クリストフ、カヤ、そしてクーナウ家の当主であるカール・クーナウ。カールはカヤの兄だ。

「もちろん存じております。今、世界各地で行われる魔術師と英霊による殺し合いでしょう」

 カールが答える。何ヶ月か前から頻発しているというのはカヤも知っていた。七人の魔術師が殺し合い残った一人が願いを叶う聖杯を得る。だが、実際に儀式が成功したことはないらしい。

「このルスハイムでも行われる。これは、我が主であるクサーヴァー・ロットフェルトが跡継ぎ選びのために行うものだ。貴殿には、この戦争に邪魔が入らぬように尽くして欲しい」

 カールが渋面を作る。この言葉少ない老人の意図が読みきれないためだろう。

「聖杯戦争というものを補足しよう。七人の魔術師がマスターとして戦場に集まり、そこで英霊を召喚する。七人七騎。これらで殺し合いを行い、残った一人が万能の願望機を手に入れる。これが、貴殿も聞き及んでいる聖杯戦争のあらましだろう」

「ええ」

「我が主クサーヴァー・ロットフェルトは万能の願望機を持ち帰った者をロットフェルト家の次期当主とすることを決めた。ロットフェルト家の当主候補は六人。此度の聖杯戦争ではそれ以外の参加者がいることは望ましくない。ここまでは、よろしいか」

 聖杯戦争の参加者が七人。後継候補が六人。このままでは、参加者の席が一つ余る。カヤはそれを理解すると、カールに先んじて答える。

「つまり、クーナウにマスターとして聖杯戦争に参加しろ、ということですか」

「いかにも。残る一席、どこの馬ともしれぬ魔術師に渡すとろくな事にはならない。また聖杯は、候補がいなければ間に合わせの魔術師ですらない者を選ぶことがあるという。ロットフェルトの儀式にこれらの異分子は不要だ」

 カールは疑問を口にする。

「何故、我々クーナウに助力を乞うのです。ロットフェルトとクーナウは先代から交流があるが、生死を賭けた戦いに参じるほどの義理はないなずだ」

 カヤも抱いているはずの疑問だ。クリストフが呆れたように答える。

「クーナウの先代は事故で亡くなられていたな。聞き及んでいないと見える」

 クリストフが羊皮紙を取り出す。そこまでは古びていない。儀式や魔術師同士の契約に用いられる。カールがそれを受け取ると、文面を読み始めた。紙面の内容をクリストフがまとめて、口にする。

「ロットフェルトの当主とクーナウの当主による契約。ロットフェルトの当主がクーナウの娘を治癒する。その代わり、クーナウの当主は一度に限り、ロットフェルトの当主の要請に答える義務を負う」

 クリストフが内容を要約して話す。クーナウの娘。それはつまり。

「カヤ・クーナウ。貴方は幼少に魔術の事故によって心臓に傷を負った。それは、医学では手の施しようのない、呪いのようなものだ。遠からず命を落とすところ、クーナウの当主であった父君が我が主を頼った。その際に取り交わした契約だそうだ」

 カヤは記憶を辿る。昔、心臓を患ったことは確かだ。そして、父や兄とは違う魔術師に命を救われたことも記憶にある。だが、このような契約は知らなかった。

「……クリストフさん。申し訳ありませんが、僕もカヤもこの契約は知らなかった。少し、考えさせていただけないか」

「それは無駄というものだ。聖杯戦争の参加は我が主、ロットフェルト家当主の要請。クーナウの当主が変われど、契約は続く。これを違えれば契約により施された魔術は露と消えよう。意味が解るか」

 カールの嘆願をクリストフが即答で打ち捨てる。ここに来て、何故ロットフェルト家が当主ではないカヤをここに呼び付けたのか理解した。我が身は人質なのだ。クリストフが欲しいのは、絶対に裏切ることのない、かつ使い捨てても構わない奴隷。

 カールがカヤを見る。その表情は苦悶に満ちていた。クーナウの若い当主として気苦労が絶えない様子はずっと見ていたが、このような表情は初めて見た。

 カヤは考える。最悪は何だ。カールが聖杯戦争に参戦したら。クーナウの力は弱い。戦闘に秀でた魔術師であれば難なく打ち倒せるだろう。兄が死ぬ。クーナウの家はどうなる。

「カヤ」

 カールが声を掛ける。その目に浮かぶのは涙だ。カールは自らの危機を憂い涙するような人間でない。魔術師としてクーナウの家を継ぐ時、クーナウを次代に繋ぐことを第一とした男だ。

 そこで、カヤは気付く。この状況でクーナウが一番ダメージを負わない選択。カールはそれに至り、カヤを見ているのだ。

「私が行くよ。そうすれば、クーナウの当主は傷がつかない。そうでしょう」

 絞り出すように答えた。カヤがカールの代わりに戦争に参加する。そうすれば、ロットフェルト家の要請に答え、かつ、クーナウ家が途絶える心配もない。

 魔術師の家で育った以上、ある程度危険な目に遭うことは覚悟していた。実際に、いくつか死地を越えたこともある。だが、これほどの危機が降りかかるとは思わなかった。

「すまない」

 カールが小さい声で、カヤよりも悔しさのにじむ声で答えた。

「クーナウの当主。大変感謝する。カヤ殿、我々が望むのは他の魔術師の横槍を防ぐことだ。何も聖杯をとってこいとは言わない」

 クリストフが幾分優しい口調で言う。カヤは何も答えない。返すべき言葉が見つからなかった。クリストフが構わず封筒を差し出した。

「聖杯戦争の詳細はここにある。質問があれば聞いてくれても構わない。私が知ることも、たかが知れているが。戦争の開始は二年と半年後、ルスハイムの地にて」

 封筒を受け取る。もう戻れない気がした。きっと無事では帰れない。そんな直感があった。

 

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