Fate/immature children   作:waritom

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「よお、アンタはゲルト・エクハルトのサーヴァントかい?」

 異形の騎士を前に、ライダーが聞く。平常と変わらぬ調子に、テオは少しの安堵を覚えた。

 姿を現したサーヴァントは何も答えずにライダーの前に進み、長剣を構えた。ともすれば、斧にも見えるような、無骨で長大な剣。テオが確信する。この存在はセイバーのサーヴァントだ。そして、剣を構えるという行為が意味することは一つ。

「言葉は不要か。いいね。単純一途は悪くない。アタシも不甲斐ない一面を払拭したいと思っていたところだ」

 戦闘が始まると思い、テオはライダーの元を離れようとした。安全圏へ。ライダーの戦いの邪魔にならないように。

「テオ。近くにいろ」

 そのテオの行動を止めたのは、ライダーだった。意図するところは不明だが、テオは従う。

 夕暮れが、夜になりかける。微かな日に照らされていた敵の姿が闇に消えかける。だが、その純然たる脅威を確かにテオは感じてる。ライダーとサーヴァントは向かい合い、動かない。

 そして、日が完全に落ちた。

 騎士がライダーのもとへ飛び込む。戦いが始まった。

 ライダーが自身の宝具の一部である砲台を傍らに出現させる。砲門の数は三。それぞれが向かい来るサーヴァントを打ち砕く。

 テオは先のランサーとの戦いで、ライダーは砲を主として戦う、遠距離専門のサーヴァントだと思っていた。だが、その認識は覆される。

 砲撃の粉塵が晴れぬ中、ライダーが手元の剣を抜き、敵に飛び込んだ。

「うらあああああああああああ!」

 普段のライダーから想像もつかない怒りに満ち満ちた咆哮。そして、激しい剣戟の音が響く。砂塵に包まれているため、テオにはその様子が見えない。

 ……大丈夫か、ライダー。

 セイバー相手に剣で戦いを挑む。言うまでもなく、セイバーとは剣士であり英霊になりうるまでその技量を昇華させた存在だ。剣の戦いでライダーが勝目は薄い。

 砂塵が晴れて、二騎の様子をテオが見る。ライダーが敵のサーヴァントと斬り合っている。決してライダーが押されている訳ではない。

 ……いや。むしろ、攻勢か。

 セイバーは鈍重な動きで剣戟を繰り出す。その勢いは脅威だが、動きが遅い。身の軽いライダーは苦もなくそれを躱し、返す刀でセイバーを斬りつける。

 テオにはライダーが攻勢に見えた。だが、攻撃を加えた彼女の表情は冴えず不可解といった風だ。

 ライダーが蹴りつけ、セイバーの体勢を崩す。そして間合いを開けた。ライダーがテオの側に寄る。三つの砲がセイバーを打つ。砲撃の音が荒廃した広場に木霊した。

 これが止めに見えた。

「テオ。こいつはまずい」

 テオの予想に反し、ライダーの口からは撤退を滲ませるような言葉が放たれた。

 テオがその真意を問おうとする。が、テオが口を開く直前。砲撃の粉塵を打ち破るように、セイバーが突撃してきた。

 ライダーがテオを抱えて後方へ飛ぶ。その動きには一切のダメージが感じられない。対峙したときと変わらない勢いだ。

「こいつ、何度切りつけてもダメージがない!」

 騎士の姿を見る。全身を覆う渦の紋様がうねりあい、セイバーの身体を隠す。そのため、傷の有無を見極めさせない。

 ……マスターが近くにいて、セイバーを回復させている?

 テオがライダーに行っている行為だ。マスターがサーヴァントの傷を魔術で治癒することは考えられる。その場合、傷をつけ続けていれば、いつかセイバーのマスターの魔力が切れて回復が途絶える。

 ……だが、そうではない場合。

 セイバーの回復行為が自身の要因である場合。セイバーの持つスキル、もしくは不死身の身体そのものが宝具という場合、正面からの戦いはこちらが不利だ。

 ……まず、見極める。

 テオは決断すると、蝙蝠の使い魔を放つ。セイバーのマスターが治癒魔術を行っているのならば、マスターは必ずこの近くにいるはず。テオがマスターを見つけ、排除する。

(ライダー。セイバーのマスターは俺が見つける。それまで、粘ってくれ!)

(テオ。そんなまだるっこしいこと、やってられるか!)

 テオの決死の行動を、ライダーが否定した。そして、その真意は続く言葉で明らかになる。

(宝具を使わせろ!アタシの宝具でこいつと、こいつのマスターを分断する!)

 ライダーの宝具。彼女の生前の相棒とも言える船。確かに使えばテオの使い魔を待つよりも圧倒的に手早く分断が叶う。

 宝具を使うことはライダーの真名を晒すこと。テオの躊躇いの原因は、この戦いを見ているであろう他のマスターにライダーの真名を明らかにするリスクだ。真名が明らかになれば、生前の逸話から弱点を晒すことになる。

 ……まだ、この序盤で。いいのか。

「出し惜しむつもりか!テオ・ロットフェルト!てめえの目的を思い出しやがれ!危険を侵さずして叶う願いか!」

 ライダーの怒声が飛んだ。彼女は追い縋る剣士の攻撃を避け続けている。見ると幾つか傷があった。テオの躊躇いの間に、セイバーから与えられていた。

 テオの目的。ハンナの救出。そのためには、何でもしよう。

 そして決心する。ライダーの宝具を使う。

「ライダー、思いっきりやれ!」

「流石だマスター!」

 ライダーが再びセイバーに砲撃を叩き込む。先ほどのように傷を負わせることが目的ではない。彼女の船を呼び出す、その間を稼ぐためだ。

 ライダーの周囲に魔力が集中する。テオの身体からも魔力が吸い取られる。荒廃した空間が歪む。打ち捨てられた土壁が、魔力の奔流で砕かれる。嵐のような乱れがテオを襲う。だが、ライダーへの視線を切らさない。躊躇わず宝具を使わせること。それが今のテオにできる最大の協力だった。

 ライダーが、吠える。

「来い!我が誇りを取り戻すために!英国より授けられし相棒!」

 その声に呼応するように、宝具が姿を現す。テオとライダーを乗せ、地面から巨大な帆船が浮き上がる。巨大な、全体を黒に染めた船。

 ライダーがその船の船首に立つ。遥か下方、地面に立つセイバーと対峙する。

「死の覚悟はいいか?セイバー。生憎とアタシは捕虜は取らないことで有名なんだ」

 巨大な船と対峙したセイバーは剣を横に構える。それはかのサーヴァントにできる精一杯の防御なのだろう。だが、それでは不十分。ここからはじまる蹂躙に対して、ほんの気休めにもならない。

 ライダーが剣を抜き、船に命じる。セイバーにとっての死刑宣告を。

 帆が開く。血のように朱い、復讐の色をした帆が。

「叩き潰せ!『朱き我が復讐(マイ・リベンジ)』!」

 ライダーの船が地を砕きながら進む。剣士に突撃した。

 

 船は剣士を轢き潰すと、そのまま教会跡を削りとり周囲の木々をなぎ倒して停止した。

 ……なんて暴力的な宝具だ

 テオは心の中で呟く。

 ライダーの宝具『\ruby[g]{朱き我が復讐}{マイ・リベンジ}』。彼女が生前に利用した船であり、祖国への復讐のために英国から授けられた船。

 ライダーの真名、ジャンヌ・ド・ベルヴィル。最愛の夫をフランス王フィリップ六世に無実の罪で処刑され、その復讐のために祖国を蹂躙し続けた女傑。

 ……暴力的だとは史実にあったけど、これほどとは。

 テオは船尾に周り、攻撃を受けたセイバーを見る。その有様は無残というほかない。

 身体の防御に使用した剣は砕けきり、支えとした両腕は引き千切られている。セイバーの身体を覆う渦の紋様のせいで視認はできないが、全身に致命傷が与えられているだろう。

「おやおや。分断するだけのつもりが、つい高ぶって殺しちまったよ。悪いな」

 テオの傍らに立つライダーが愉快そうに笑う。

「始めから、こうするつもりだったのか?」

「いいや?このまま引きずって分断するつもりだったさ」

 そういうライダーの手には鎖が握られている。片方の先は船体と繋がっている。つまりライダーはこの鎖をくくりつけて、セイバーを引きずり回すというつもりだった。

 ……宝具が暴力的というより、発想が暴力的。

 テオが改めてセイバーを見るが、その傷が治癒されることはない。つまり、マスターによる治癒魔術が実行されていない。先程までの異常な耐久力はこのサーヴァント自体の性能だった。

「回復しねえな。マスターは逃げちまったのか?この根性有る剣士に比べて情けねえことだ」

 勝利の余韻に浸るライダーが笑みを浮かべて言う。

 油断するな、そう言いかけたがセイバーの様子を見ると杞憂に思える。後はセイバーが消滅するのを見届ければ終わりだろう。

 そうであれば、この巨大な船はいたずらに目立つだけだ。消去をライダーに申し入れようとして、彼女を見る。

 セイバーを見ていたライダーの眼が見開かれていた。慌てて、その視線の先を追う。

 ……馬鹿な。

 

 両腕を引き千切られ、武器を砕かれ、全身を引き裂かれた剣士が、立っていた。

 

 折れ下がった首が安定せず、上を向くようにライダーを見た。渦の紋様は剣士の顔色も覆い隠す。故にその意図はわからない。怒りか、称賛か。

「また会おう。この傷はそこでお返しする」

 無言を貫いていた剣士の声が聞こえた。その言葉は、ただの挨拶。どのような仕組みか。セイバーの折れた首の先から、声が聞こえた。そしてセイバーが消える。それは敗北による消去ではなく。ただの撤退。つまり、かのサーヴァントはまだ戦うことができるということ。

 テオは蹂躙し、圧倒し尽くしたはずの剣士に寒気を感じた。あのような姿になるまで追い詰めても、倒せない。

「ははははは。これは驚いた。あそこまでボロボロにしても生きてる奴は見たこと無い。愉快な奴だ。……いつでも来い。何度でも叩き潰してやる」

 テオとは対照に、ライダーが愉快そうに笑った。その姿に安堵を覚える。この英霊がいれば、きっと倒すことができる。

 

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