Fate/immature children   作:waritom

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 カヤ・クーナウがアサシンと共に廃墟跡に到着した。既に日は暮れており、周囲に建物が少ないこの場所では明かりが乏しい。カヤは自身の視力を強化し、日中と変わらない視界を得る。

(テオ・ロットフェルトは既にいないか)

(遅きに失したな。マスター)

 カヤはテオと協力関係を築くために急ぎこの場所へ来た。だが、肝心の彼とライダーが見当たらない。既にこの場を去っていったらしい。

 この場所で戦いがあったことは明白だった。近づくには人よけの結界を抜ける必要があった上、それ以上に揺るぎない証がここにはある。戦いの痕跡だ。

 地面は地割れが起きたかのように裂け目ができ、周囲の木々は薙ぎ倒されている。

(まるで災害の跡というところだな。んん)

(ええ、悪い冗談の様)

 アサシンの言葉に同意を返す。山崩れでも起きたような惨状だった。だが、そうではないのはカヤがよく知っている。先程目で見た光景がそのまま写っているのだ。そして何より、魔力の濃密な残り香がカヤを確信へ誘う。

 ……大規模な儀式でも、こんな魔力は溢れ出ない。

 ライダーの宝具。セイバーを轢き潰した巨大な帆船。それがもたらした結果だ。やはり、ライダーは非常に強力なサーヴァントだ。協力体勢を取れるのであればこれ以上ない収穫なのだが、当人達はやはり去っているようだ。

(貴方、サーヴァントの察知とかできないの?)

(実体化すればそれなりにできるな。んん。良いかね?)

(ええ)

 そして傍らに黒い装束に身を包んだ渋面の男が現れる。アサシンが実体化したのだ。

「カヤ、非常に言いづらいのだが」

 姿を現して早々に、アサシンが口を開いた。

「何者かが近づいてきている。状況から見て、他のマスターだろう。どうするかね」

「早く言いなさいよ!」

 カヤはそう毒づくと、アサシンが言う何者かが近づく方向と逆側、森の中へ退避した。アサシンは気配を察知するために実体化したままで、傍らに待機させる。アサシンの存在は、気配遮断スキルによって攻撃に移らない限り察知されない。

(マスターの情報を集めるわ。可能なら、貴方の宝具も使う)

(心得た。……気配が複数ある)

 アサシンの言葉を裏付けるように、カヤたちが居た場所には幾人かの人間が現れた。

 ……男が一人と……子どもが二人?

 男に手を引かれるようにあるく女の子どもが一人と、その後ろを歩く少年が一人。見ようによっては、父と子どものようにも見える。

 ……人払いの結界は消えていないから偶然ではないわよね。

 ならば考えられるのは、家族連れのマスターか。いや、それもおかしい。疑問に喘ぐカヤにアサシンが考えを言う。

(んん。あの少年はサーヴァントだな。男と女の関係はわからないが、少なくとも人間だ)

 アサシンにサーヴァントと指摘された少年。カヤの目には特別な印象が移らない。

(英霊ってあんな子どもでも召喚されるの?)

(稀有だろうがあり得るな。幼少期がその人物の最盛期ということは考えられる。だが、肉体派ではないだろう)

 ……見た目で判断は危険ってことね。

 アサシンとの相談をしている間も、三人は何か話をしているようだ。カヤの耳はその声を拾うことはできない。

(アサシン。話の内容を拾うことはできない?)

(近づいても気づかれないだろう)

 気配遮断スキルを持つアサシンは、攻撃に転じないかぎりその存在を気取られることはない。三人の立つ場所には隠れる物陰なども殆どないが、それを問題としないのが英霊たる所以だ。

(私が離れても問題ないかね)

(ここに居ても、肉の壁にしかならないわ)

(ふむ。んん。手厳しい)

 カヤの苦言にブツクサと文句を言いながら、アサシンが近づいた。共有された聴覚が三人の会話を盗む。

「そういうわけでね。私のサーヴァントだけでは心もとない。故に君には協力して欲しい」

 男の声が、アサシンの聴覚を通してカヤの鼓膜を揺らす。どうやら手をつないだ少女に向かって話をしているようだ。

 ……協力を求めている?どういう関係だ。

 そして変化が訪れる。四人目の存在が現れたのだ。狩人のような服装の人物。カヤの視点では、それ以上のことはわからないが、突如現れた以上、サーヴァントなのだろう。そこには驚きはない。

 ……人間が二人いるなら、両方がマスターだ。ならサーヴァントが二騎いるのは自然。

 アサシンの耳が新たに出現したサーヴァントの声を捉える。

「お前に悪意がないのはわかった。いい加減に僕のマスターから手を離せ」

 フードのサーヴァントが男に非難を行う。

 ……彼のマスターが少女。手を繋いでいるのは、何かの魔術か。

「ああ、そうか。人寄せの結界は過ぎたから、もう手をつなぐ必要はないね」

 男が少女の手を解放する。それを待っていたかのように少女が男から離れ、フードをかぶったサーヴァントの後ろに立つ。先程と違い、長身の男と少女が対立しているような構図だ。

「……人寄せの結界くらい自分で抜けれました。余計なお世話です」

「それは失礼。だけれど、こうした方が楽だったのでね」

 男が少女の言葉に苦笑する。

「それで、どうだろうか?先のライダーとセイバーの戦闘を見れば、この戦いが如何に困難を極めるか想像が着くだろう。オリジナルである極東の儀式でも、聖杯を手に入れたものはいないという苛烈さ。勝ち上がるには信頼できるパートナーが必要だと思わないか」

「苛烈さは知っています。身を持って味わったばかりなので。……けれど、パートナーは入りません。特に、ゲルト・エクハルト。あなたは信頼できません」

 ゲルト・エクハルトと呼ばれた男は大仰に肩をすくめた。

「なんということだ。君の背中を狙うこともせず、可能な限り紳士的に交渉し、あまつさえ敵となる他のサーヴァントの戦闘を見せるほどの気遣いをしたというのに。ミス宮葉。私はあと何を提供すれば信じてもらえるのかな?」

 ゲルトが乞うような言葉を放つ。

 ……交渉が決裂しかけている。

 そうなった場合、発生するのは戦闘だ。お互い協調できないのであれば、それは敵対関係であるということ。マスターが見えているこの場で始末すると考えるのは当然の成り行きだ。

 カヤの目には二騎のサーヴァントが映る。宮葉と呼ばれた少女を守るように立つ狩人風の青年。対象的にゲルトの後ろで退屈そうに待つ少年。

 マスターであるカヤはサーヴァントを見ることで、おおよそのステータスを知ることができる。そこから察せられる結論として、狩人風の風体の青年はアーチャー。そして少年はキャスターではないかと思う。

(…だと、思うのだけれど)

(私にはその情報は見えない。だが、このまま戦いにもつれ込むとすると、あの狩人の方が有利であるということか)

 通常のアーチャークラスであれば対魔力と呼ばれる魔術の影響を無効化するスキルを持つ。度合いこそ優劣があるが、キャスタークラスが魔術を主体として戦うサーヴァントであるため、一般にアーチャーが有利であると言える。

 ……だけど。

 だが、これは双方のキャスターのマスターも知り得ることだ。それでもあえてこの状況にもつれ込んでいるだとすれば、キャスター側に何かしら策があるのかも知れない。

(どうする、マスター。悪いが私には戦況を変える力はない。であれば、するべきことは一つだと思うが)

 アサシンがカヤに問う。この場でアサシンがどちらに加勢したとしても、有効な戦力にはならない。むしろ、アサシンの非力さをこの場で露呈させるほうが恐ろしい。

 故に、アサシンが環に求めることは一つ。宝具の使用許可。対象を監視下に置くアサシンの宝具はマスターに使うことが理想的だ。マスターが二人も姿を現すチャンスはそう何度も無いだろう。

 そして、アサシンへ許可を出そうとしてカヤは思い至る。

 ……なぜ、この場に二人は姿を現した?

 ここは先程までセイバーとライダーが争っていた戦場だ。人払いがあるとはいえ、宝具まで開帳するような戦いだった。多くのマスターも気が付いただろう。カヤも予めこの廃墟に目をつけていたとはいえ、同じようなものだ。

 つまり、この場は今、聖杯戦争で一番注目を集める場所。そこに姿を現すということは。

 ……他のマスターが来る!

(アサシン!直ぐに宝具を使って!撤退する!)

 アサシンに急ぎ念話を送る。返答を待たず、アサシンが行動を始めた。

 ……早くしなければ!

 好戦的な陣営であれば、敵が見つかれば直ぐに襲いかかるだろう。特に今は交渉が決裂しかけている。両陣営の戦いの最中に隙を突けば、同時に二騎を葬るチャンスだ。

 ……巻き込まれる!

 そしてカヤの不安は的中する。アーチャーとゲルトの間。両陣営のちょうど中央に新たな存在が姿を現した。

 修道服に身を包み、恩讐じみた魔力を伴う少女だ。

 

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