Fate/immature children   作:waritom

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 環は自分が見かけと言動にそぐわない、大胆な性格だと自認している。だからこそ、一人きりでいままで遺跡や魔術師の工房を漁ることができたし、家業に背を向けても辛うじて生きてこられたのだと思う。

 しかし、あまりの現実離れした光景に浮足立ってしまった。

 蛇に襲われた後、アーチャーは直ぐに攻撃をやめて環の元へ戻った。環の腕を噛む蛇は直ぐにアーチャーが排除したが、傷を治す手段はなかった。

 傷口を見ればわかる。環の腕はそこを基点に徐々に灰になっているのだ。今は指の先ほどの大きさが灰に変わり、さらさらと地面に落ちている。痛みは薄いものの、自分の身体が灰に変わっていくという恐怖が襲う。だが、環は努めて冷静に考えを巡らせた。

 ……こんなの、普通の魔術師の技じゃないですね。

 サーヴァントの仕業。考えられるのは、ゲルトのサーヴァント、キャスター。

「すまない。すまない、環!僕が側にいればよかった。……すぐにキャスターを倒す」

 環の返事を聞かず、アーチャーが環を抱きかかえてゲルトを追った。俊敏な移動で恐ろしさを覚えるが、蛇の毒で心も麻痺しているらしい。直ぐに慣れた。

「こちらから声が聞こえた。もうすぐだ」

 アーチャーが励ますように言う。その声に答えようとするが、うまく言葉が出なかった。その様子を察してか、アーチャーがより悲愴な表情を浮かべる。

 そして、環の耳にも聞こえるようなはっきりとした声が木霊した。

「アーチャー!キャスターはここだ!」

 聞き覚えのない、男の声。

 アーチャーの行動は早かった。立ち止まり、環を抱えたまま、片腕で猟銃を構える。声の方向に定める。

 無論、夜の帳が降りた森の中だ。常人の眼には何も見えず、魔術によって強化した環の眼にも木々が防壁のように立ち塞がっている。キャスターはおろか、声の主の姿すら捉えられない。

 だが、アーチャーが引き金を引いた。

 打ち出された弾丸は木々の隙間を縫い、何かに当たる。

 ……動物の声?

 アーチャーがその声を聞き、小さく溢す。

「よし、捉えた」

 そして環を下ろす。後は、途切れることのない銃声が響いた。

「アーチャー、キャスターはどうなりました?」

「弾は当たったようだけど、まだ生きている。……環、傷は?」

 環は自分の傷口を見る。

 ……灰が、収まっている?

「少し、収まっているようです」

「キャスターが呪いに回す魔力を打ち切ったのだろうね。それとも退去したか」

 アーチャーの疑問に答える術は環にはない。だが、今は呪いの危機から脱したことの安堵感が勝った。

「アーチャー、ありがとう。あなたのおかげで助かりました。……あと、足を引っ張って申し訳ありません。つい、陣から腕を出してしまって」

「いや、僕がもっと注意を払っておけばよかった。あいつが敵対するのがわかっているなら、環を安全圏に置いてから戦うべきだった」

 お互いが謝罪をすると、不思議と心に落ち着いた。

「あとは、ここから離脱しましょう。今後はこれから」

 

「これからでは困るのよね。今から考えてもらわないと」

 

 環の言葉を遮って、人物が現れた。女性。環には見覚えはない。金の髪が闇に光る。

 ……また、マスターですか。

 だが、心の中には驚きよりも呆れが宿る。本当にこの聖杯戦争の参加者は抜目がない。

 アーチャーが女と環の間に立つ。傍から見ていても伝わる殺意。先の会話からアーチャーの決意がより強固になったようだ。

「息巻いているところ悪いけれどね、貴方達と交渉に来たのよ」

 息巻くアーチャーを笑うように女は言った。そしてアーチャーの影に隠れる環を見る。

「アーチャーのマスター。どう?傷は治ったかしら?」

 ……何故。何故この人が知ってる?

 女性は何でもないように言う。警戒のレベルはゲルトのときとは比べ物にならない。知られている。それも、この森の戦いの一幕を。

 アーチャーも同じ考えに至ったようだ。猟銃を女に構える。

「だから、君の言葉は勘違いを招きやすいのだ。んん。情報を開示するのであれば、少し手前から話し給え」

 そしてどこからともなく、男の声がした。その声の方にアーチャーが猟銃を構えるが、直ぐに思いとどまる。

「その声、キャスターの位置を知らせた者か」

 そして男が姿を表す。女の後ろからゆったりと、歩くように。全身を真っ黒な外套で包んだ、背の小さい男。ゲルトは周囲に融けるよな印象だが、この男は逆。あまりの黒に、この森の闇でもそれが浮き上がって見える。相手にそれを印象づけるかのように。

「君の悪い癖だ。自分の知りたいことを優先する」

「悪かったわね。説教は後でいい?」

 女性と黒い男。環は確信する。マスターとサーヴァントだ。

「はじめまして。私はカヤ・クーナウ。アサシンのマスター。……貴方はアーチャーのマスター、宮葉環ね」

 そして、カヤ・クーナウが笑みを見せる。

「良ければ、協力関係を築けないかしら。私達、いい関係を作れると思う」

 

「キャスターとマスターのゲルトは貴方の弾丸を浴びて、撤退した。んん。ただ、あの様子ではまだキャスターは健在だろうな。呪いが止まったのはキャスターと距離が離れたことが原因か。もしくは、治癒に集中するために魔力を節約したのだろうな」

 カヤの言葉を引き継ぐようにアサシンである男が言う。

「それを僕たちに伝える理由はなんだ」

「だから言ってるでしょう?手を組みたいから、役立つ情報を教えているのよ」

 アーチャーの言葉にカヤが当たり前のように答える。

「他にもマスターの情報もある程度わかっている。……ミス宮葉。貴方は間に合わせで巻き込まれたマスターでしょう?そもそもこの聖杯戦争の経緯もわかっているのかしら」

 カヤの言葉は環の急所を突いている。確かに環には情報がない。他のマスターの情報は先程のゲルトと車で会話し戦闘も二度見ているテオだけだ。

 ……なによりも、この聖杯戦争の経緯?

 一般的な聖杯戦争については、アーチャーから聞いている。だが、カヤの言葉はもっと具体的な、今回にのみ存在する事情を指しているように思えた。

(どう思います?)

(ゲルトよりは信用できそうだけど、安直には決めたくない)

 環とアーチャーは先にゲルトで痛い目を見せられている。慎重に交渉を進めたいのは両者の本心だ。

「まあ、そんな感じになるわよね。……さて、どうしようかしら」

「おや、選手交代かね。んん。ふむ。もう少し粘ってみてもいいのではないかな。諦めが早いと何事も上達しないぞ」

「腹立つ言い方ばかり。……でも、そうね。アーチャー、ミス宮葉。貴方達を必要としている理由を教えましょうか」

 カヤが環の方を見る。そして、アサシン、カヤのサーヴァントを指さした。

「こいつのステータス。見える?」

 聞かれるまま、環はアサシンのステータスを見る。

 ……これは。

 低い。筋力、耐久力。まして魔力までもが低い。アーチャーはもちろん、ともすれば子どもであるキャスターよりも低い。

「びっくりしたでしょ。こいつ、本当に戦闘向きじゃないのよ」

 カヤが嗤うようにアサシンを見る。アサシンは渋面を作っているが、何も言い返さない。

「本当?」

 短く、アーチャーが問う。環は首肯した。その様子を見たカヤが言葉を続ける。

「だから、私達は聖杯を取るためには一時的にでも戦闘力があるサーヴァントが必要なの」

 確かに、カヤの説明は納得が行くものだ。加えて、協力関係とは言えアサシンの戦闘能力を見れば敵対後も脅威ではないだろう。

「僕たちに何のメリットがある?弱いサーヴァントと組んでも、いたずらに目立つだけだ。……情報と言うやつがこの聖杯戦争の事情程度であるのなら、君達と組む価値は薄い」

「んん。これは異なことを言うな、アーチャー。諸君は必死に情報を集めなければならない立場のはずだ。君達は、自分たちの情報を一方的に晒してしまっているのだからね。バーサーカーに対する有効打は見出だせたかね?この森でアーチャー、君はバーサーカーと最悪の相性であることは露呈しているのだよ。これは私だけでなく他のマスターも知りうることだ。……もっとも、この森の使い魔にも気が付かないのなら、君達と組むのはこちらからお断りしたいところだ」

 そしてアサシンが一拍の間をおく。

「断言しよう。直ぐにバーサーカーと手を組んだ他のサーヴァントが君達を襲う。君達の住処を暴き、寝食の間も与えられない。今日より苛烈な苦難が君達に降りかかる」

 冷たさを帯びるアサシンの声に、環の身体が震えた。幾多の危険は超えてきたはずだ。だが、今日の戦いはそれをゆうに勝る危険と死を孕んでいた。

「ミス宮葉。気が付いているか?私が声を上げなければ、君は死んでいた」

 ……そんなこと、気が付いています。

 アサシンの言葉に心の中だけで反論する。そう。環達はこの場で一番弱い。単純な戦闘という側面ではない。七人七騎が渦巻くこの戦況という側面。強かに戦場を生き延びる力が、弱い。

「我々には、君達の生存率を上げる手段がある」

 

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