Fate/immature children 作:waritom
「我々には、君達の生存率を上げる手段がある」
カヤ・クーナウは静まり返る森で、淡々と告げられる声を聞く。それは自身のサーヴァントであるアサシンから発せられるものだ。告げられた者、宮葉環は顔を青ざめ今にも崩れ落ちそうだ。
……言葉ほど、残酷な状況でもないけどね。
アサシンの言葉通り、宮葉のサーヴァントであるアーチャーは不用意に戦闘を行い弱点を露呈させた。だが、それがストレートにアーチャーを狙う理由にはならない。
……そもそも、バーサーカー陣営と組むという発想がありえない。
バーサーカーは理性を失う代わりに高い戦闘力を得ている。そのため、その制御はマスターでさえも容易ではない。また、魔力の消費も制御を失っているため、抜きん出た魔術師でも直ぐに魔力の枯渇を迎える。
森に現れた修道服のバーサーカーも、戦士の様相ではないにしろ、制御を失っているという点は確認できた。アーチャーの弾丸を無差別に逸すのみ。相手を狙うことも、味方に弾丸が向かぬようにすることもできないだろう。
バーサーカーは使い魔と言うより、使い捨ての魔術と見たほうがいい。
まともなマスターであれば、バーサーカーと手を組む利点はない。アーチャー相手に有利に戦闘を進められるかもしれないが、巻き添えで自身のサーヴァントを失いかねない。
つまり、現状危険な状況に置かれたのは、アーチャーではなく、むしろ戦闘を有利に進めたはずのバーサーカーだと言える。
……それをわかった上でアーチャー陣営の不利を煽るなんて、本当に性格が悪い。
マスターである宮葉の顔色はますます悪くなっている。彼女も魔術師だろうが、見るからに若い。相手を騙し脅し、意のままにするという搦手の経験は薄かろう。対して、アサシンは専門家だ。
「窮地に陥った者同士、手を取り合う。んん。弱者の論理だが、この場では最善だ。どうだろうか」
宮葉が言葉を失い、明らかに狼狽した。助けを求めるようにカヤを見るが、笑み以外に返すものはない。
……きっついなー。この立ち位置。
笑顔の下で本心を吐くが、言葉にするわけにはいかない。
「僕らの状況はわかった」
主に代わり弓兵が口を開く。
「アサシンの分析は正しかろう。……だが、協力するのであれば、君達に何ができるのか見せてもらわなくてはならない。我々には、君達の生存率を上げる手段がある、といったね」
「んん。そのとおり。詳細を伝えるつもりはないが、我々は継続的にある陣営の情報を得ることができる。また、ルスハイムの要所に監視の目もある。……自身の工房から出ることなく戦場の各所の情報を得ることができる」
(あんまり喋りすぎないでよ)
(わかっている。だが、クリストフと通じていることは構わんだろう?)
カヤはここで自分の目的を再度確認する。ロットフェルト以外のマスターの排除。眼の前のアーチャーはその対象だ。だが、アーチャーの排除の優先度は高くない。まず、目的が不明である上、ロットフェルト家に敵意を向けたわけでもない。
……問題はキャスター陣営。ゲルト・エクハルト。
カヤの最優先はそちらだ。明確にロットフェルト家への敵意を口にし、多くのマスターと協力を取り付けようとする姿勢。
クリストフは明確に口にはしなかったが、彼の想定していた敵ではないのか。カヤは確信していた。だからこそ、多少のリスクを負ってでも戦力を整え、ゲルトがロットフェルト家に明確に牙をむく前に排除する。アーチャー陣営はそのために必要だ。
(ええ、構わないわ)
カヤの言葉に応じ、アサシンがアーチャーに告げる。
「我々はこの聖杯戦争の立役者、ロットフェルト家の重鎮と繋がっている。彼らの情報は手に入れることができる」
アサシンの言葉にアーチャーが渋面を作る。まだ、彼の信頼は勝ち得ない。
だが、この言葉に反応したのは先程まで青ざめていた宮葉だ。
「……それって、使用人のアーベルさんですか?」
「ふむ。んん。違うな。使用人のクリストフという男だ」
「じゃあ、ロットフェルト家の当主の情報も掴める?」
宮葉の声に熱がこもる。
……どうした?
カヤには何が宮葉の心を刺激したのかわからない。
「んん。彼次第だが、不可能ではなかろう」
そしてカヤが気が付く。宮葉の先程まで蒼白だった顔色が元の、血色の良い状態に戻っている。
……待って。待って。何が彼女を元気にさせた?
カヤの理解が追いつかない。見ればアサシンも同様に訝しげにしており、アーチャーも不安そうに宮葉に視線を送っている。
「環、まさか、君」
「アーチャー、これは決め手です。初めにした約束、忘れたとは言わせません」
直前まで怯えきっていたとは思えない凛とした声。
……約束?なんのこと?
カヤの疑問を他所に、アーチャーは困惑している。彼らは理解ができるらしい類のものらしい。
「環。確かに約束は約束だ。絶対に守る。だけど、そんな目先の利益で決めていいことではないはずだ。……僕らは騙されたばかり。今は慎重に」
「組むかどうかはこの場で決めて欲しいのだがね」
アーチャーの言葉を遮るようにアサシンが口をはさむ。狩人の鋭い睨みが小男に飛ぶが、どこ吹く風という様子だ。
「慎重を期すために、彼らと組むのです。クリストフさんについては本当に知っているようですし、情報という面では信頼できます」
使用人の名前を間違えたのはわざとだったのか。
……以外と抜け目ないな。
そして、宮葉が口ごもるように続ける。
「……それにその、ゲルトさんに感じたような不吉なものは彼女たちから感じません」
それが決め手だった。
アーチャーは観念したというか、もう好きにしろと言わんばかりに溜め息を付き、同意の旨を示した。
「共に戦えて嬉しいよ、アーチャー。我々は当面の敵をゲルト・エクハルト、キャスター陣営とするが相違ないかね」
「僕はまだ信用していない、アサシン。君が何か戦闘面で隠していないとも限らないしね。……キャスターを狙うことに異議はない。僕らにとっては天敵。そして何より環に害した怒りもある」
サーヴァント同士の挨拶はそれで終わったようだ。見届けると、改めてカヤは宮葉に手を差し出す。宮葉は堂々と手を握り返した。そこに怯えるマスターはいなかった。
「改めて私はカヤ・クーナウ。この関係が長く続くことを祈るわ、ミス宮葉」
「宮葉環です。環で構いません。ミスクーナウ。……ところで一つお願いが」
「わかったわ環。私もカヤでいい。それで?」
そして環が言いづらそうに、言葉を続けた。
「……安全な寝床を、紹介してもらえませんか?」