Fate/immature children   作:waritom

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 カヤが隠れ家に帰ると、内なる戦いを余儀なくされた。

 ……疲れた。倒れたい。

 いつもであれば直ぐにそうするだろう。そしてアサシンが小言を投げつけるのだ。そのくらいであれば眼をつぶる。だが今はそうはいかない。

 古びた扉を閉める音がした。怯えたような調子で環が隠れ家に入ってきた。

 ……連れてきてよかってかな。

 森の一件のあと、家がないと訴える環に対してカヤは特に有効なアイデアが打ち出せなかった。そもそも家にいても襲われると脅して勝ち取った協力関係だ。こちらが安全な隠れ家を提供しない訳にはいかない。

 結局、考えあぐねても結論が出ず、自分の隠れ家に連れていくことにした。

「お邪魔します。……うわあ」

 丁寧な挨拶と共に悲鳴とも感嘆とも取れる声を出した。カヤには何故かわからない。

「無理からぬ。んん。安全第一とはいえ床が腐ったようなこの小屋で平気で寝られるカヤが特殊なのだ。全くその神経がわからん」

「これはひどいね。僕の時代の農民だってもっとまともな家に住んでいたよ。……うわ、ネズミがいる」

 呼んでも居ないのに二騎のサーヴァントが実体化してカヤへ文句を言う。

 ……あんたらは寝ないからいいじゃないの、どうでも。

 そう結論づけると、カヤはサーヴァントの言葉を無視して環に声を掛ける。

「汚れてて悪いわね。何分、誰も入れるつもりもなかったから。……適当にスペースを作って寝てくれる?」

 カヤの工房兼隠れ家は一部のスペースを工房として、そして少しの空間に居住できるようにソファなどが置いてあるが、それ以外は廃墟のまま放置していた。単に必要最低限を越えるものを用意するのが面倒だっただけだ。

 そしてカヤ自身は欲望のままにソファに倒れ込む。限界だった。そして直ぐにまどろみが襲う。

「彼女、本当に眠りだしたよ」

「私も初めにここでマスターが寝ているのを見たとき冗談だと思ったのだが。ふむ。アーチャー、お手数だが見張りを頼めるか?」

「いいとも。……あそこの屋根の上にいようかな。丁度穴が空いていて、建物の内部が見えるし」

「……あの、私、本当にここで寝るの?」

 消えゆく意識の中、そんな会話が聞こえたような気がした。

 

 眠ったのが朝に近い時間だったからだろう、目覚めると昼に近かった。既に環は起きているようで、アーチャーと会話をしている。

「目覚めたかね。彼らは待ち構えているぞ」

 実体化したアサシンに小言を言われる。確かに寝過ぎたのはカヤのせいなので、言い訳はない。適当に身支度を整えると、環を呼ぶ。

 低いテーブルを囲むようにカヤがソファに、環が床に座った。アーチャーとアサシンはそれぞれのマスターの傍らに立っている。

「床、固くない?椅子ならそこらへんにあるわよ?」

「私、床大好きなので大丈夫です。それに、いえ、どの椅子も腐ってるんで……」

 後半、声が小さくなって聞き取れないが、特に問題ないようだ。

「さて、じゃあ情報の整理をしましょうか。約束通りこの聖杯戦争の経緯について教えるわ」

 そしてカヤはロットフェルト家に発端をもつ聖杯戦争のあらましを説明した。無論、カヤ自身は使用人のクリストフに雇われたとだけ言った。環もアーチャーも特段きにしていないようだ。

「それで、ロットフェルト家のマスターは三人。ロイク、ハンナ、テオ」

 テオの名前を出したき、環の表情が一瞬曇った。

「どうしたの?」

「いえ、私、ルスハイムに来る前にテオさんとライダーに会っているので。……二人共、敵なんですよね」

 ライダー陣営。テオ・ロットフェルトとジャンヌ・ド・ベルヴィル。現状戦力がわかっている陣営の中では際立って強力だ。

「ライダーって変な名前だと思ったんですけど、こんな事情があったなんて」

「……不運を嘆いても始まらないわ。それよりも、テオとライダーについてどうやって出会ったのか教えてくれる?」

 そして環が自分の経緯を話す。思えば、このマスターはカヤにとって一番情報がない。意外な戦力になりえないか、薄っすら期待を込める。

「私、フランスで作られた祭具をロットフェルト家に運ぶ仕事をしていたんです。その道すがら、ライダーさんに救われて。それで、テオさんがロットフェルト家に用があるそうなので、一緒に移動したんです。でも途中で変な黒い男の人に襲われて」

「あれはランサーかな。車が崖から落ちるときに僕が呼び出された。……環は命の危機に瀕して、瀬戸際でマスターに選ばれたのだと思う」

 カヤは頭を抱えたい衝動に駆られた。情報が掴めていなかった最後のサーヴァント、ランサー。それを環は遭遇していたのだ。

(なんで言わないのよ)

(時系列的に私の宝具の監視下に置く前のでき事だ。いくらなんでもそれは知ることはできない)

 念話で隣に立つアサシンに苦言を呈する。アサシンは自身の宝具で環を監視下に置いている。そのため、アサシンはいつでも環の見聞きしたものを共有することができる。

 ……だけど、宝具で監視下に置く前の出来事は無理ってことね。説明しておいてよ。

 もっとも、環と協力関係を築いた以上、環を監視下に置く意味はあまりない。裏切りや独断専行の防止くらいか。

「それで、どんな風貌だった?真名はわかる?マスターは?」

 矢継ぎ早に質問を繰り出すが、黒い鎧を着ていたくらいしか情報はなかった。

 ……英霊を召喚する前だし、仕様がないか。

 申し訳無さそうな環を他所に、カヤは結論づけた。

「逆にこちらからお願いだ。分かっているマスターとサーヴァントを教えて欲しい」

 アーチャーがアサシンに願い出る。隠し立てしてもしかたのない情報なので提供するのはよい。アサシンも同じ考えだろう、勿体付けることなく話し始めた。

「ふむ。あまり情報らしいものもないがな。ここにいる二騎を除くと、ライダー、キャスターが分かっている。だがこれは今更だろうな。不明なのはセイバー、ランサー、バーサーカーの三騎。そしてサーヴァントは不明だが、マスターであることは確定しているのがロットフェルト家の二人。ロイクとハンナだな」

 アサシンが一旦言葉を切る。マスターの情報以外はアーチャーと環も知っているはず。

(んん。夜中にわかった事実も含めて、ここで考察してもいいかね?)

(なによ。新事実?)

(ゲルト・エクハルトがテオと同盟関係だった。君の使い魔の情報だよ)

 念話にて告げられた事実に、カヤの頭が混乱する。

 ……ロットフェルト家のテオと、ロットフェルト家に牙を剥こうとするゲルトが同盟?

(我々だけではこの不自然さを説明ができない。テオと面識のあるミス宮葉の情報を合わせればなにかわかるかもしれない。……いいかね?)

 少しの逡巡。そして許可することを決める。

(いいわ)

「ところでなのだが、ミス宮葉。んん。君がランサーに襲われた際、テオはどうしていたのかね?防戦していた?それとも積極的に敵対していた?」

 突然質問を振られた環が口ごもる。そして思い出すように言う。

「かなり積極的に攻撃してました。宝具の船も、その先の部分だけですけど、使ってましたし」

「なるほど。ふむ。ライダーの宝具はかなり目立つ部類のはずだ。いくら魔術で取り繕おうと、サーヴァントを呼び出す程度の魔術師であれば感づく。……カヤ、君が気づけなかったのは何故かね?」

 アサシンの矛先がカヤに向く。理由は直ぐに思い当たった。カヤが重要拠点と認識し、監視の使い魔を飛ばそうとして断念した場所。

「……その戦闘ってロットフェルト家の領地であったんじゃない?あそこら辺は私の使い魔が寄り付けないし」

 カヤは確認するように環に問う。

「そうです。通行手形を使ってロットフェルト家の領地に入りました。襲われたのはその後です」

 環の回答にアサシンが納得したように頷いた。

「んん。通行手形、というのが気になるが後にしよう。……つまり、テオはランサーとロットフェルト領地で積極的に交戦した、という事実が確認できた。聖杯戦争であるのだから、サーヴァント同士の抗争は自然な成り行き。残念だが、ランサーとそのマスターについてはこれ以上考えようがない。だが、んん、あえてここでは別の人物に観点を置いてみよう。テオ。テオ・ロットフェルトだ。仮説ではあるが、テオはランサーのマスターと聖杯戦争の関係を除いた上でも、敵対関係にあったのではなかろうか」

 言い換えれば私怨。ランサーのマスターはハンナかロイクのどちらかであるので、テオにとっては兄弟となる。ロットフェルト家の兄弟仲は事情さえあれば殺し合いを厭わない程度なので、親愛に満ち足りてはいないだろう。まして、テオは何年も前にロットフェルト家を単身で飛び出しているのだ。

「そういえば、テオさんは自身がロットフェルト家の家族だって言いませんでした」

 環が思い出した様に言った。仮説が一歩事実に近づいた気がした。

「良い。良い情報だ。んん。テオは自分がロットフェルト家だと名乗りたくなかったのだ。何故か。それは彼が家を飛び出したことと関係があると思われる」

「……負い目や嫌悪。魔術に関わる家柄を受け入れられる人とそうでない人が居ます。多分、テオさんは受け入れられなかった」

 一般的な倫理観とはかけ離れた思考回路。血縁者を跡継ぎとその補完者としてしか見ない発想。常識人であるほど、忌避感を覚えるだろう。

「ふむ。んん。テオの人格はこれ以上深入りできないだろう。妄想の一歩手前だ。だが、テオがロットフェルト家そのものと敵対しても不自然ではない」

 忌避感が嫌悪に代わり、そして敵愾心へと転化する。アサシンが言う通り、もはや妄想だが、想像に難くない。そしてこの考えは先のアサシンの情報と整合する。

「待てアサシン。ライダーのマスターを考察することになんの意味がある?僕らの当面の敵はゲルト・エクハルト。キャスター陣営だろう?」

 傾聴に徹していたアーチャーが痺れを切らして言う。アサシンがふむ、と一つ間を置いて、 新たな情報を公開した。

「昨夜遅く。使い魔がテオとゲルトが協力関係にあったことを暴いた。つまり、テオがゲルトのような男を頼りにする程度にはロットフェルト家そのものを敵に回す覚悟がある。そして、彼らは明日の夜にロットフェルト屋敷に襲撃をかけるそうだ」

 アサシンの言葉に、カヤまでも眼を見開いた。

 ……聞いてない!

 

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