Fate/immature children   作:waritom

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「おや、言っていなかったかね」

 驚愕が怒りに代わり、カヤはアサシンを問い詰めた。しかし本人はどこ吹く風という調子だ。

「ふむ。それはすまない。だが、事実は事実だ。ライダー・キャスター陣営は明日の夜に活動を始める。……改めての確認だが、敵にライダーが含まれていても問題あるまいね」

 アサシンがカヤを含めた全員に問う。カヤは俄に湧いた疑問のため、即答ができなかった。

 ……仮に、テオ・ロットフェルトと敵対したことがクリストフに知れたとしたら。

 カヤの使命はロットフェルト家以外のマスターを排除することである。その背景には聖杯をロットフェルト家の人間のみで競うことを当主が望んでいるためだ。そう考えると、テオとゲルトの同盟関係は捉え方が難しい。

 ……テオと敵対せず、ゲルトのみを排除する。そんなこと、できる?

「相手はどう動く?」

「どうも協力関係にあるようだが、仲良くロットフェルト屋敷を襲うというわけではないらしい。ただ、同じタイミングで仕掛けるというだけだそうだ」

 アーチャーが呈した疑問に、アサシンが答える。その回答にカヤは胸を撫で下ろす。

 ……別行動を行うのであれば、ゲルトのみを狙えばいい。

「詳細が見えないのが辛いところだね。二騎が固まっていられるのも厄介だけど」

「それは贅沢というものだ。んん。敵の作戦全てを手中に収められる自体など稀だ」

 サーヴァントが作戦を考える一方で、カヤは現実的な疑問をいだいた。

「そもそもなのだけど、どうやってロットフェルト屋敷の近くに行くの?」

 ロットフェルト屋敷はルスハイムの外れにあるプラウレン湖上に浮かぶ。しかし、プラウレン湖までに行くには幾重にも施された人よけの結界を抜け、その上で山を越える必要が有る。

「あの、それなんですけど」

「ふむ。通行手形だね」

 環が言いかけた言葉をアサシンが代弁した。合っているらしく、環が頷く。

「それがあれば、君達がランサーに襲われた道に出ることができる。んん。それで合っているかな?」

「昨日試したのですけど、まだわからないです。直ぐにキャスターに襲われてしまいましたし」

 環の話を信じるのであれば、通行手形があれば山越えをする必要がなくなる。体力的に楽ができるのはありがたい。一方で、通行手形を使ったとしても、万事解決とはならない。ランサーが襲ってきたということは、通行手形で通ずる道がロットフェルト家の監視下にあることを意味する。

 ……山越えを覚悟しておいたほうがいいわね。

 カヤは環を見る。彼女の小柄な体躯では厳しい行程になるだろう。そもそも環には何ができるのだろうか。ランサーに襲われた話が衝撃的で忘れていた。

「場合によっては山を越える必要があるかもね。環はそういうの、大丈夫?」

「ええ、秘境や遺跡に行くようなものですから。強化も使えるので足手纏いにはなりません」

「それなら安心ね。ところで、他にどのような魔術が使えるの?」

 カヤの純粋な質問に、環が明らかに狼狽したような様子だ。何かまずいことを聞いたか、発言を顧みるが特に見当たらない。

「……基本的な魔術です。あとは、呪い寄せのアミュレットが作れるくらいです」

 環が明らかに意気消沈といった雰囲気で言う。

 ……なるほど。そういうこと。

 環が祭具をここまで運ぶと言っていた時点で疑問ではあった。魔術の研鑽にしか興味を持たない魔術師がそんな雑用をするだろうか、と。環の様子で合点がいく。きっと魔術師として才がなく、小間使いに追いやられたのだろう。故に、自分にできることを聞かれ、意気消沈しているのだ。

「問題ない。何かあれば僕が担う」

「人を技量の有無で判断するものではない。品位を問われるぞ」

 アーチャーが環を励まし、アサシンがカヤに苦言を呈した。

 ……そんなに見下す眼をしていたかな。

 カヤの胸に宿ったのはむしろ同情、いや同じ境遇の者を見つけた安心感に近い。カヤもクーナウ家では当主となりえない、ただの魔術師の一人として扱われる。クーナウ家に伝わる魔術刻印もカヤは一部とて継承していない。ことさら気にしていないとはいえ、いざというときに危険を被るのはカヤの役割だ。命を掛けた小間使いを強制させられているのは環だけではない。

 ……私の場合は、私の命どころかお家の命運まで握っているのだけど。

 アサシンが主催した作戦会議はそこでお開きとなった。環とアーチャーはもう一度プラウレン湖に続く道を確認するために出かけた。そのため、工房にはカヤとアサシンのみになった。

「さて。んん。どう思うかね」

 二人が出ていって少し経過した頃。弓兵の聴覚でも聞き取れないほどの環が工房から離れたのを確認し、アサシンが口を開いた。

「報告事項は包み隠さず教えて欲しいわね」

「善処する。懸念はアーチャー、いやマスターである宮葉の方だ」

 カヤは環の様子を振り返る。不安や懸念はあるが、あえて口にするほどではないと思った。

「巻き込まれたマスターなのだし、仕様がないんじゃない?欲を言えば、戦闘に特化していて欲しかったけど、これは贅沢」

「私が言いたいのはマスターとしての性能ではない。それはサーヴァントの性能に比べれば些細な問題だ。んん。……言いたいのはね、何故、宮葉環はこの状況を受け入れている?」

 アサシンの言葉に、カヤは思わず押し黙る。間に合わせのマスター。サーヴァントの脅威は幾度も味わった。なのに、また苛烈な戦いに身を投じようとしている。彼女の意思を支える根幹は何か。

「純粋に、聖杯にかける望みがあるから?そうでなければ、令呪が宿らないでしょう」

「果たしてそうだろうか。んん。彼女はたまたまルスハイムに来たのであろう?そして死ぬような目にあった。それでもなお、偶然見つけた万能の願望機などを信じて命をかけるのか。不自然極まりない。……私はこの場でね、宮葉が離脱を申し入れると思ったのだ」

 アサシンの言葉が自然に思える。確かに、先の環はテオとゲルトと戦うことになんの疑問も持っていなかった。マスターとして自然体過ぎる。

「私の宝具で宮葉環は監視下にある。だからといって、心の奥まで覗ける訳ではない。マスター、折を見て宮葉に探りを入れて欲しい。んん。まさかとは思うが、キャスターに操られては居ないかどうか、ね」

 ……ああ、そうか。最悪はそのパターンだ。

 環が既にキャスターの手中に落ちており、カヤ達の行動が筒抜けになること。それが何より恐ろしい事態だ。

「わかったわ。それとなく色々聞いてみる。特段警戒されているわけではないと思うし。……ところで、クリストフの方は何か進展がないかしら。私にイエローカードが出ていないか気が気でないのだけれど」

 本来であれば環はロットフェルト家と関係のないマスターなので、カヤは排除する契約だ。しかし、対ゲルトを考えればアーチャーの戦闘力は捨てるにはあまりに惜しい。まして、向こうにライダーがついたとなればなおさらだ。

「彼の行動は逐一見てはいるのだが、カヤについて当主に報告する素振りはなかった。ふむ。率直に言ってつまらん。彼は仕事に忠実なようだが、毎日当主の世話をする程度だ。それも最低限の。雑談でもすれば多少は素性がわかるというのにな。んん」

「なにもないならいいわ。クリストフに関しては、私への監視をサボっていてくれたほうがありがたいし」

 環と協調することを含んでおいたほうがいいかとも思ったが、不要だろう。むしろ、藪蛇になる可能性が高い。

「了解よ。引き続きよろしく。環たちの方もお願いね。余計なことしてないかしら」

 そしてカヤはテーブルにルスハイムの地図を広げる。環たちが空振ったときに備えて山越えの行程を確認するためだ。

 ……決戦は明日の夜半。そこで、大勢が決する。

 弛緩した心に喝をいれ、戦いに備える。

 

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