Fate/immature children   作:waritom

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 カヤ・クーナウは激怒していた。

 図書館で何かしら魔術が行使されたのを検知すると、扉付近でロイク・ロットフェルトを発見した。偶発的な遭遇。本来の聖杯戦争であれば、この状況は圧倒的有利である。相手に気づかれず、一方的に存在を検知している。だが、カヤ特有の事情が混乱を招いた。

 カヤはロットフェルトのマスター以外を排除するために雇われている存在だ。ロイク・ロットフェルトは正式なロットフェルト家のマスターであるため、カヤが攻撃すべき対象ではない。仮に攻撃した場合はロットフェルトの当主がカヤの心臓を止めるだろう。

 しかし、相手から見ればカヤの存在は敵対マスターの一人となる。マスターだと感づかれれば攻撃されることは避けられない。

 サーヴァントは引き連れていないか。バーサーカーのような制御が効かないサーヴァントを連れていた場合、この図書館では一般人を巻き込みかねない。魔術師が当たり前にすべき魔術の秘匿さえ難しい。

 静かに去るべき。そう結論づけ、どこかで書に耽っているであろうアサシンに状況を報告すると、意外な答えが返ってきた。

『よろしい。んん。私が彼をけしかけてみよう。後、宝具で監視下に置かせてもらおう』

 そしてアサシンはカヤの返答も聞かずに、行動を開始した。こともあろうに堂々とロイクの前に座り、話しかけ、ごく自然に自分がサーヴァントであることを伝えた。

 ……心臓が止まるわ。

 本棚を物色する振りをして二人の会話に耳を傾けていたが、アサシンは真実と虚実を混ぜ合わせロイクを誘導しているようだ。狙いはカヤにもわかる。ロイクをキャスター・ライダー陣営にぶつけようというのだ。

 ロイクが少しでもアサシンを疑い、自身のサーヴァントを出現させたら、カヤは令呪を切るつもりでいた。環の元までアサシンを飛ばし、自分は急ぎ環と合流する。カヤはこうなるであろうことを予感して、いつでも行動に移せるように緊張を保ち続けていた。

 しかし、それは杞憂に終わった。ロイクは結局サーヴァントを出現させることなく、図書館を去っていった。

 そして現在、カヤはロイクが座っていた席につき向かいにいるアサシンを睨む。

「あのねえ!相談もなく命を懸けるような真似しないでくれる!」

 人払いの結界はカヤが張り、今も維持している。だから、どれだけ怒鳴り散らそうとも迷惑はかからない。

「ふむ。んん。懸けていたのは私の命のみだ」

 カヤの怒声に気圧されたのか、いつもよりも幾分調子を落としてアサシンが言った。

「だから、あなたがここで死んだら私の聖杯戦争が終わるの!どういうことかわかる?遠からずわたしも死ぬってことよ!」

 カヤは語気を弱めない。自分が間違ったことを言っているとは思わない。それ以上に、先のアサシンの行動は得られる利益と負うリスクが見合っていない。

 今回の行動でロイク・ロットフェルトを監視下に置き、明日の夜半にロイクとキャスター、ライダー陣営をぶつけることが可能になった。

 しかし、ロイクを監視することにどれほどの意味があるのか。カヤにとっては彼は攻撃対象ではない。一方で積極的に保護する対象でもないのだ。兄弟の抗争で死ぬなら死ねばいい。そもそも、ロットフェルト領地に陣を構えているロイクなら、キャスター、ライダー陣営の攻撃に直ぐに気が付くだろう。今日の成果といえば、ロイクが明確に準備を始めさせることくらいだ。あとは、リーヌスがアサシンのマスターだと誤認できたことだが、これは彼も信じているかはわからない。

 カヤはアサシンの洞察力を信用している。故に、この程度の結論にアサシンが至らないわけがない。それでもアサシンがこの様なリスクを犯した理由は一つ。

「貴方、殺されようとしたでしょう」

 カヤは、努めて冷静に言う。この理屈屋の英霊の思考傾向を掴めていた。ここに来た理由と彼の目の前に積まれている本の数々が、アサシンの心情を表していた。

『私のな、評価を知りたいのだ。んん。後の世で私と私の同胞たちが、そしてかの女がどのように評されているのか、現世の者の言葉を知りたいのだ』

 彼の、ここに来る直前の言葉だ。つまり、彼はこの聖杯戦争に参加した理由をやり終えたのだ。

「自分だけ欲しいものを得られて満足かしら。確かに、気持ちが良いでしょうね。後世の世は、英国は貴方を高く評価しているわ。あなたにとってはこれ以上ない幸福でしょう。思わず帰りたくなるくらい?……でもね、私は貴方を評価しないわ」

 アサシンが視線を落とす。

「カヤ、すまない。すまなかった。確かに軽率だった。……君の言う通り、浮かれてしまったのだ。血と裏切りに満ちた我が治世が、英国の確かな礎であったことが。だが、だが。決して君を残して死のうなどと思っていたわけではない。これだけは、神に誓おう」

 アサシンは誤魔化しをすることなく、率直に話した。カヤはその殊勝な様子に怒りの矛を収めることにした。

「全く、勝手なことばかり」

「重ねて謝罪する。すまなかった」

「もういいわよ」

 カヤはそっぽを向いて、短くアサシンの謝罪に返事をする。思わず怒った態度になってしまった。

 ……参ったな、決戦直前にこじれちゃった。

 心の中で自分の言を見直すが、アサシンを傷つけるには十分過ぎる。如何に英霊とて感じ入る心はある。冷徹な魔術師であれば使い魔の心情になど露ほども気を払わないだろうが、徹しきれないのはクーナウの血か。

 ……私も所詮、大甘の子どもよ。

 自嘲すると何故だか悲しみが湧いてきた。

「カヤ」

 ふと、アサシンの言葉に応じて彼を見ると、カヤの元に跪いていた。一瞬、驚くが直ぐに意図を知る。

「今一度、忠誠を誓わせて欲しい」

 カヤは席から立ち上がり、足元のアサシンへ令呪の宿る左手を差し出す。肯定の意思表示だ。

「聖杯を我らのもとに。忠誠を誓いましょう」

 召喚されたとき一言一句変わらぬ言葉。令呪へ口づけようとするアサシンにカヤは言う。

「もう気が付いているのでしょう?私、聖杯を求めていないって」

 アサシンの動きが止まる。彼ほどの慧眼をもってすれば、分かっているはずだ。カヤはただ、ロットフェルトの要請に答えるだけ。だが、アサシンが責めることはしないはずだ。彼にはもう、この戦いに望む理由はないのだから。

「では、カヤ、貴方はこの戦いに何を望む」

 アサシンが真摯に問う。

「私と、クーナウに仇なす全てを討つ」

 カヤも、その言葉に応じて真摯に答えた。

「カヤ。それは誓えない。私が仕えるのはマスターたる貴方だけだ。……貴方の家ではない」

 カヤは思わず苦笑する。このサーヴァントは本質的に真面目なのだ。わかったわ、と言って言葉を変える。

「私に仇なす全てを討ちなさい」

「誓いを此処に。我がマスターよ。貴方に仇なす全てを、このフランシス・ウオルシンガムが討ちましょう」

 そして、アサシンがカヤの左手に口づける。ようやく、このサーヴァントと本当の契約ができた気がした。

 

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