Fate/immature children   作:waritom

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 カヤ・クーナウは再びルスハイムの地にいた。

 市街からは離れた山の中、廃れた一軒家を改造した工房にいる。手狭さは感じるものの、寝起きや儀式を行うには不都合はない。

 外見の悪さは自然と人避けになる。何より、霊脈に恵まれていることが決め手だった。

 聖杯戦争への参加を強制させられたときから、二年程が経っている。あの死刑宣告めいた会合の後、カヤは兄カールと幾度も話し合いを行った。カールは穴がないか幾度も契約書を読み返し、反故にした場合のリスクを検証した。

 その結果、契約書には全く付け入る隙がなく、クーナウ家は要請に従う義務があることがわかった。また、反故にした場合については何が起こるかわからないというのが結論だった。

『カヤの心臓に施された魔術が停止する可能性がある』

 カールがカヤの体を改めた結果、心臓に何かしらの術式が埋め込まれていることがわかった。

 これは十中八九、治療時に用いた術式の名残である。だが、最悪の可能性はこの術式が心臓を動かす機能そのものである場合だ。この場合、制御権はクサーヴァーが握っているのが自然だろう。

 つまり、カヤが契約を反故にした場合、クサーヴァーはカヤの心臓を止めることができる。

 ……なんて契約を結んじゃったのよ。父さん。

 契約の如何にかかわらずカヤの命はクサーヴァーの掌の上にあるのではと訝しんだが。が、

『それはないんじゃないかな。仮にいつでも心臓を止められるなら、業々しい契約書を作るなんて手間なだけだよ』

 というのはカールの言。信頼性は高くないが、一つの意見として頷いた。

 結局、カヤは聖杯戦争に全うに参加し、ロットフェルト家以外の参加者に退場いただくことになった。『僕も参加する!』とごねるカールは無理やりドイツの家に置いてきた。

「二人で参加して、共倒れしたら最悪じゃない」

 ルスハイム各地に設置する予定の感知魔術を試作しながら、独り呟く。兄の思いは嬉しいが、こんな血なまぐさい儀式には、魔術刻印を継承していない、つまり、死んでもクーナウの家に影響のないカヤ独りのほうがよい。

 戦争の開始まで残り五ヶ月程度を残している。ある程度早い期間にルスハイムに入ったのは、現地偵察ともう一つ理由がある。

『予定であれば、戦争の数ヶ月前になればクサーヴァー・ロットフェルトは聖杯戦争のシステムを起動するだろう。過去の聖杯戦争や、他の亜種聖杯戦争と同じであれば、令呪は戦場にいなければ宿らない』

 令呪。それは聖杯戦争にマスターの証である。また、召喚した英霊、サーヴァントに対して施行できる三画の絶対命令権でもある。利用すれば、非常識な戦力を持つサーヴァントを自死させることも可能だ。つまり、サーヴァントは令呪があるためにマスターに従わなくてはならない。サーヴァントは通常、生前の人格をそのまま有する。そのため、マスターと意見が衝突した場合を考え、このようなものが作られたらしい。つまり、令呪とはサーヴァントを制御する唯一の手綱であり、失った場合は死を意味する。

 作成していた感知魔術の動作確認を終えると、左の手の甲を見る。青白い、入れ墨のような紋様。ルスハイムに入り、三日後に宿ったものだ。並々ならぬ魔力が込められており、直ぐにこれが令呪だとわかった。クサーヴァーは予定よりもずっとはやく聖杯戦争のシステムを起動したらしい。

 令呪に気が付くと同時に、本当に戦場に来てしまったのだとひどく後悔した。

「令呪が配られませんでした、で帰れるわけないわよね」

 ため息が止まらない。そも、選ばれなかったらサーヴァントなしで要請に答える必要があるので、難易度は著しく上がるわけだが。

 カヤは自分で購入したソファに座り、テーブル上のカレンダーを見る。工房を設置し、令呪が宿った。残ったなすべきことは一つ。サーヴァントの召喚だ。自身の魔力が最高潮に達する満月の夜。潤沢な霊脈に近いこの工房。召喚の条件は可能な限り完璧に揃えた。呼び出す英霊は既に決めており、そのための触媒も用意している。ただ、迷う。これでよかったのか。

 聖杯で呼び出される英霊はそれぞれが七種のクラスに分類される。同じクラスの英霊は複数は呼び出されない。セイバー、アーチャー、ランサー。セイバーは剣を、アーチャーは弓を、ランサーは槍を使う。これらの三騎士クラスは対魔力と呼ばれる魔術を弾く能力が秀でており特に警戒が必要だ。ライダー、騎兵。アサシン、暗殺者。キャスター、魔術師。バーサーカー、狂戦士。有利な三騎士クラスはロットフェルトのマスターが取り合うだろうと思われるので、カヤはあえて選択肢から外した。

 この聖杯戦争におけるカヤの立ち位置は普通ではない。聖杯を狙わず、ロットフェルト以外のマスターを排除するのが目的なのだ。そう考えると、一概に強力なサーヴァントを引き当てるのも考えものだ。他のマスター同士が結託してカヤを狙うことが起きると、要請に答えるどころではなくなる。必要なのは情報。誰がマスターなのかいち早く察知し、ロットフェルト以外であれば退場いただくこと。

 マスターの情報を集め、先んじて対処する。それにふさわしいクラスは一つ。

「……アサシン、か」

 

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