Fate/immature children   作:waritom

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 ルスハイムの郊外は手付かずの自然が広がる。ロットフェルト家のあるプラウレン湖周辺は美しい自然を讃えているが、彼女のいる場所は趣が異なる。

 剥き出しの岩肌に、乱立する大樹。およそ人間が通るとは思えない厳しい自然をかき分けると、打ち捨てられた小屋がある。かつては変わり者の男が家族と住んでいたらしい。しかし、今は女が二人と人ならざる存在が二つある。

 カヤ・クーナウと宮葉環。そして彼女達が有するサーヴァントだ。

 カヤは焦りを覚えていた。今日の夜にテオ・ロットフェルトとゲルト・エクハルトがロットフェルト家に襲撃を仕掛けるというのは掴んでいた。

 ……だからといって、日が落ちてすぐにやる?

 昼過ぎからロットフェルト家に近づく人間がいないか、使い魔とアサシンによる監視に勤しんでいた。カヤの使い魔は異常を見つけられなかったが、アサシンの監視が変化を捉えた。

 今のカヤの視線はアサシンと共有されている。そして、今アサシンが見ているものは。

「ふむ。これは間違いなくライダー。そして相手取るのはランサーだな。……ランサーのマスターであるロイクは使い魔越しに戦いを見ているようだ」

 アサシンの宝具『不義の密命書(バビントン・プロット)』は対象の見聞きしたものを盗み見る事ができる。この宝具で現在監視下に置いているのは三人。

 ロットフェルト家の使用人クリストフ。

 アーチャーのマスターで協力関係にある宮葉環。

 ランサーのマスターで現在交戦中のロイク・ロットフェルト。

 アサシンが異常を検知したのはクリストフとロイクだ。今朝方クリストフが見たのはロットフェルト城に入るハンナ・ロットフェルトだ。この行動の意味はカヤにもアサシンにもわからなかった。そのため放置すると決めた。

 しかし現在。夕暮れが終わる瞬間に眼にしたのは明らかな戦闘の風景だ。

 既にライダーは彼女の持つ宝具を遺憾なく発揮しており、赤い帆の船が槍兵に迫っている。

 ……重要なのは戦況じゃない。此処にライダーが居るということは。

 ライダーのマスターであるテオ・ロットフェルトはこのタイミングで攻撃を仕掛けた。つまり、協力関係にあるキャスターも今頃行動をしているはずだ。

 ふと環を見る。カヤは環とは視界を共有していないが、状況は伝えている。そして、環はカヤよりもキャスターを討つ逼迫した理由がある。

「行こう。環。僕達もロットフェルト家を目指し、キャスターを討つ」

 環がアーチャーの声に応じるように深く頷く。見ると右腕を庇うようにもう片方の手で握りしめている。そこは、環がキャスターの使い魔によって呪いを受けた場所。傷口から徐々に身体が灰に変わる、恐怖の出発点だ。

「予定通り、僕と環はロットフェルト家へ行く。君とアサシンは此処で待機して欲しい」

「承知しているとも。んん。戦況はカヤを通じて逐一教える。特にキャスターが見つかったときは迅速にな」

 カヤに代わり、アサシンが応える。キャスターを倒せば環の呪いは解けると思われるが、万が一を考え環自身も戦場に赴くことにした。

 戦闘に不向きな環を連れて行くことに不安はある。昨夜の怯える様子が頭を過る。しかし、今に至って環は覚悟を決めたように前を向いている。

 ……一緒にお酒を飲んで良かったみたいね。

 カヤは胸中で自分の判断を自賛する。それを見咎めるようにアサシンが口を開いた。

「すまないね、アーチャー。我々は主従そろって戦闘力が皆無であって。私は監視で助力をしよう。……カヤ、もしかして暇かね?」

「知った上での協力体勢さ。君達がいなかったら、そもそもこの機会さえ与えられなかった」

 柔らかい笑みを浮かべるアーチャー。彼は環を伴い、工房を出る。その間際、環が振り返った。

「じゃあ、行ってきます」

「チャンスは今しかないわけじゃない。他のサーヴァントがキャスターを排除する場合もある」

 カヤの励ますような言葉に、環が戸惑うように笑った。

 環の心中は昨夜に知っている。彼女を蝕む呪いを解くだけじゃない。環自身が生き方を決めるターニングポイントをこの場と決めたのだ。ロットフェルト家の財宝を奪う。それは誰かが代われるものではない、環が自身でなすべきこと。

 わかってはいても、それでも無理をして欲しくはなかった。それでも、カヤは出立を祈る。

「いってらっしゃい」

 そして、アーチャーと環が工房を離れていく。半分の人間が居なくなった工房は些か寂しさを宿していた。

「私、暇じゃないから」

「んん。知っているとも。環達が私の使い魔と思っている動物達は、全て君が使役しているのだからね。だがあまりに自分を褒めるような顔をしていたので、少し戒めたかったのだ」

「本当に性格が悪い」

 アサシンはお決まりの、んん、という口癖を言って、そして黙った。カヤはアサシンが自分の仕事に集中し始めたのだと理解した。宝具で監視下に置いた者の巡回だ。

 同時に三人の見聞きしたものを監視するのは、並大抵のことではない。常人であれば、数分とやってられない作業だがアサシンは当然のようにまた、ときには軽口を叩きながら、それを実行し続けている。しかしこの正念場。さしもの英霊と言えど、平時の程の余裕は見られない。

 カヤも可能な限りの使い魔をアーチャーと環に伴わせている。彼らがロットフェルトの敷地に入るタイミングで使い魔を潜り込ませるためだ。人払いの結界に守られたロットフェルトの敷地には、この好機でしか使い魔を送る事はできない。

 アサシンの宝具に寄る魔力の消費。自身の限界数に近い使い魔の使役。カヤもまた集中が必要な立場であった。

「カヤ。アーチャー達が森に近づいている」

 アサシンからの報告にええ、と短く返す。使い魔の視界を覗くと、アーチャーが環を抱きかかえながら街を走るのを捉えた。使い魔の梟は彼らの様子を後ろから観察している。アーチャーを見失わないのは、使い魔の機動力を考慮してアーチャーが速度を緩めているからだろう。

 そして、アーチャーが足を止める。人気の更に少ない、まばらに民家が有るだけの奥地。降ろされた環が懐から名刺を取り出す。頷くと、アーチャーと共に道のない森へ分け入り始めた。

 ……ここ。

 そのタイミングに合わせて、使い魔の梟達が一斉に森へ飛び込む。総数は七羽。すべてが森へ入るが、弓兵と環は構わず走り続ける。境界線はまだだ。そして見る。前方に居たはずの二人の姿がかき消えていることに。境界線を超えた。確信と共に、使い魔へ司令を送る。

 ……往け!

 しかし、梟達は進めどもその境界を越えることはできない。すべてがある一線の前で羽ばたきをやめ、近くの木の枝に降り立ってしまった。

「アーチャー達が件の一本道に出た。そちらはどうかね?」

「ダメね。使い魔は一匹も通らなかった。やっぱりこんな浅はかな作戦、通じないわよね」

 溜め息をつき、カヤは森の使い魔達に帰還するように司令する。そして、ある一匹に集中する。

「それで、環は約束通りのことをしてる?」

 それは森にいるが、眠っている使い魔。その視点は今は暗闇が覆うが予定通りなら一本道を捉えるはず。

「イエス、だ」

 そして予定が現実と成る。カヤの使い魔の一羽が視界を得て、周囲を見る。所々の木が倒れている、一本道。環から聞いた道だ。

「よし。接続成功。ロットフェルト家に使い魔を送れたわ」

「……全く。こんな子供騙しの様な真似が通じるとは思わなかったよ。ふむ」

 アサシンは呆れる様子を隠そうともしない。カヤも本音を言えば情けない類の手段だと思っている。魔術師としての優雅さの欠片もない。

「環の鞄に一羽、使い魔を詰め込んでおく。……んん。魔術師ではなく奇術師の発想だ」

 鞄から環の手によって梟が取り出され、視界を得た。不安が滲むようにに環がこちらを見ている。

(大丈夫よ。ちゃんと見えているから)

(うわ。この子、念話ができるんですか)

(言ってなかったっけ?なるべく離れないように周囲を見てるから、伝えたいことがあったら念じて)

 梟越しに会話を済ませると、環の元から飛び立つ。冬の中空に身を躍らせると、視界が森を抜け急激に広がった。そして見る。湖がある。そしてその中央付近に、城めいた屋敷があった。

「久しぶりね。ロットフェルト城」

 城めいた屋敷を見るのは、カヤをこの戦争へ誘った三年前以来だ。忌まわしい思いと、守らねばならぬ義務感が交錯する。

「カヤ。感慨に耽っているところすまない」

 アサシンが声を掛ける。緊張を帯びている。

「ライダーとランサーが戦闘を終えた。ライダーは宝具の船に乗ったまま、プラウレン湖に向かっている」

 そして告げる。緊張の原因を。

「ランサーは健在だ。そして、アーチャー達のいる一本道の付近にいる」

 

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