Fate/immature children   作:waritom

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 弓兵は目が良くなくては務まらない。森を生き抜いた標的が感づかれぬほどの遠くから、その動きを視認し、引き金を絞る。アーチャーにとっての当然の日常だった。故に、森の中で音を立てず、また暗闇であっても目を光らせ、周囲を警戒するというのは彼の癖に近い動作だ。

 それが、功を奏した。

 カヤ・クーナウが発見し、我がマスターである環に伝えたところだと、この周辺にランサーが潜んでいるそうだ。ライダーとの戦闘後、何故か漫然たる動作で森へ霊体化して入ったらしい。

 アーチャーと環はプラウレン湖に続く道の周囲の森に、身を潜めていた。

 彼らの目的は二つ。

 一つはキャスターの討伐。これはマスターである環に対してキャスターが呪いを掛けているためだ。楽観的にはキャスターが倒れ、退去すれば呪いは解ける。しかし、万が一、呪いそのものが魔術として独立していた場合、キャスターを倒したところで解呪しないかもしれない。蛇や蜘蛛の持つ毒のような場合だ。この場合はキャスターに明示的に解呪を実行させねばならない。確実であるのはキャスターの令呪を奪い、強制することだ。

 二つ目はロットフェルト城に存在する遺物の回収。環はこの回収に心血を注いでいるが、アーチャーとしては優先度が下がる。昨夜の覚悟を聞いて胸打つものはあるが、命より大事ではないはずだ。

 アーチャーは環の考えを優先しながらも、自身で目的を再構築する。二つの目的の共通点は標的が同じ場所にいる可能性が高いということ。キャスターはロットフェルト城を攻める算段でここにいるはずで、環の目指す遺物は言わずもがな城にあるだろう。

 つまり、当面はロットフェルト城を目指すことで問題はない。

 そして、要らぬ戦闘を避けるためにキャスターとライダーが暴れてる間隙を縫い、目的を達成する予定だった。

 故に、この場でランサーと鉢合わせるのは避けたい。アーチャーはランサーとの戦闘を一瞬だけ経験している。投げつけられた短剣を銃で打ち砕いただけの交戦だったが、好戦的な目をしていたのを思い出す。こちらには環がいる。マスターを狙われれば勝ち目はない。

 アーチャーの指示に従い環は今目立たぬように伏せている。距離があるから目立たぬが、動き出せば気が付かれる可能性が上がる。

 ……ならばいっそ、此処で討つか。

 短絡的な考えが魅力に思える。向かい討つ敵をすべて討ち、悠々と目的を達成する。それができれば如何ほど楽か。アーチャーを支える魔力は十全とは言い難い上に、先のバーサーカーとの戦いで少々ではあるが消耗している。仮に万全であっても、アサシンを除く全てのサーヴァントを一人で相手取るなど非現実的だ。

 益体のない思考を切り上げる。

「アーチャー。待つべきです」

 同様に考えを巡らせていたのだろう。環がアーチャーに指示をする。

「アサシンはランサーの場所を感知できない?」

「先程聞きました。どうも、無理みたいです。カヤさんの梟も、霊体までは見つけられないそうです」

 ふと思いついたアイデアは、既に環の思考が通り過ぎていたものらしい。

 アーチャーは宮葉環というマスターを、戦闘力がない一方で冷静な判断が下せると評価している。昨夜は信じられない行動に声を荒げたが、彼女のそのような行動は日常時、危機が迫っていないときに衝動的に発する。一方で、明確に危険が迫る、今のような状況では取り乱すどころかアーチャーよりも深い考えを巡らせている。時折、言葉に迷うことがあるようだが、それは待てば良い。

 ……あの時、環は確かに何かを伝えようとしていた。それを待たずに走ったため、キャスターに狙われた。

 バーサーカーとの戦いで軽率に動いた己を戒めながら、アーチャーは振り返った。

「なるべく、今は待ちましょう。ライダーが暴れ始めているようなので、しばらくすれば他のサーヴァントが集まるはずです」

 他のサーヴァント。集まり得るのはセイバー、ランサー、バーサーカー、そしてキャスター。

「可能なら全サーヴァント。無理なら二騎の所在が知れたところで此処を動きます。……ランサーが居なければ直ぐにでも城を目指したいのですが、命には変えられません」

 環がそう言って傷口を押さえる。詳細不明の呪いは、ともすれば今すぐにでも環の全身を蝕みかねないのだ。見えない砂時計がすり減っていくようで、思わず、動き出したい衝動に駆られる。

 ……待て。待つんだ。

 だが、疑心が鎌首をもたげる。奥の手はある。アーチャーの宝具は現状を打破する可能性を持つ。既に環には召喚初日に詳細を伝えているので、彼女もそれを踏まえた上で考えを巡らせているだろう。

 ……自分のマスターを信じろ。

 祈るように、自分に言い聞かせる。アーチャーは孤独な狩りであればどこまでも待てる自信がある。狩人の英霊であることは伊達ではない。しかし、守るべき者が傍ら存在し、自身もまた狩られる立場というのは未体験だった。

「アーチャー。カヤさんから伝言です」

 環が口を開く。思考に囚われていたアーチャーが現実に帰る。

「湖上に、バーサーカーが現われました」

 

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