Fate/immature children   作:waritom

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 テオ・ロットフェルトは敵対するサーヴァントの真名に至ると、その詳細をライダーに伝えた。ローレライ。船乗りを惑わし船を沈める乙女。目の前の存在がその様な清純な者かは知らないが、狂化によって歪められているのだろう。

「怪談の代表格ってことね。船乗りの天敵だな」

 ライダーは端的にまとめる。いつもであれば強敵を前に笑みを浮かべるライダーだが、今はそれが消え去っている。ライダーの性格を考えても、相性の良いサーヴァントではないだろう。

 テオは思考を切り替えて、その存在が有する力を考える。射られた矢を打ち返し、近づく使い魔を湖底に沈めた。

「近づく物の方向を操作する能力か」

「なるほど。説明がつくな。……そうすると中々に厄介だ。アタシらの目的はあのバーサーカーの奥にある城。近づくにはバーサーカーを通り過ぎる必要がある。しかし、バーサーカーは物の動きを操作できる」

 ライダーの考察は正しい。しかし、打つ手はあるはずだ。考えろ。

「ま、単純なことから試してみるか。時間もないことだしな」

 思考を巡らすテオを尻目に、ライダーが軽く言う。

「何をするつもりだ、ライダー。時間がないってどういうことだ」

 ライダーの後を追うように船首へ行くと、その理由が理解できた。水面に立つバーサーカーがこちらを見ている。そして、叫びの声を上げた。

「来たな。こっから先がこいつの真骨頂だろうよ。……あたしもこっからは手加減抜きだ」

 ……なんだ?何が起きた?

 テオは船上からその声を聞く。使い魔を介して見たときは小さい声で呟くだけだった少女。しかし、その叫びには確固たる意思が宿っている。

「テオ!全力で行くぞ!」

 船首に立つライダーが吼える。テオの返事もまたず、それは展開され始めた。

 ライダーに集積する魔力が膨れ上がる。水面が波を打ち、空気がこの世ならざる存在を許容できぬかのように震え始める。

 ……この感触。ライダーが宝具を展開したときと同じ。

 ライダーが剣を抜き、中空を指す。テオはそこを見ると、正鵠を射ていたことを確信する。

 テオとライダーが乗る船。それと全く同じ黒い船が中空に召喚される。巨大な帆船は未だ帆を閉じたままで、緩やかに全身を現界させていく。

 ライダーが満足そうに見ると、そのまま剣をバーサーカーに向ける。

 中空の黒い船が回転し、船首をバーサーカーに向けた。テオはその行動の意味をすぐに察する。

 ……ライダーの英国から与えられた船は一隻じゃない。

 黒き船が帆を下ろす。朱に染まるその帆はライダーの畏怖の象徴。フランス兵を震え上がらせた、復讐の船の証。

「叩き潰せ!『朱き我が復讐(マイ・リベンジ)』!」

 ライダーの号令に、中空の船がバーサーカーに突撃する。

 その瞬間、テオは歌を聞いた。微かな音。しかし、確かに調子を持って紡がれる歌だ。そして、至る。バーサーカーが宝具を開帳していることに。

 ……まずい!

 しかし、テオが声を掛ける前に、衝突があった。中空から迫るライダーの宝具と呪いの歌で持って阻むバーサーカー。彼我の距離は二十メートル程。その距離を保って、船はバーサーカーの前に停止していた。船の巨大さを思えば、目の前と感じる距離だ。さしものバーサーカーといえど、この神秘の籠もる宝具を操るのは容易ではないらしい。

「テオ!捕まっていろ!」

 ライダーが叫ぶ。テオには意図が分からないが、差し迫った様子に思わずマストを掴む。

「突撃しろ!」

 その号令と共に、テオ達の乗る船も急加速する。目指す先は中空の船とせめぎ合う修道服の女。バーサーカーをテオ達の船で押し潰すつもりだ。

 ……めちゃくちゃだ!

 無論、中空の船もただでは済まない。だが、この時点でバーサーカーを倒すためのライダーの策。一隻の船を失えど、意を通す最善の方法だ。

 衝撃に備え、テオは下を向く。そして、轟音とともに天地が裏返る衝撃を受ける。船同士のぶつかり合いの衝撃だ。しかし、うまく往けばバーサーカーも倒しているはず。衝撃の収まりを感じながら、目を開ける。

 ……馬鹿な。

 バーサーカーが中空の船を押し留め、そしてテオ達の乗る船も同時に押し留めていた。

 テオの耳にはバーサーカーの歌がはっきりと響いている。その歌が聞こえるということは、既にテオ達がいるのは呪いの領域。ライダーの宝具はバーサーカーに絡め取られていた。

「畜生め!」

 ライダーが吐き捨てるように叫ぶと、テオ達の船が引き下がり始める。瞬間、中空の船がテオ達の方を向く。敵を穿つための船首がテオを標的とする。かの船は既にバーサーカーの手中に落ちていた。

 ……こちらに突撃する!

 しかし、テオの予感は外れる。空を駆け、こちらに迫る船は、少し進んだところで融けるように姿を消した。

「あのな。誰に断って人のものを使ってんだ」

 呆れるようにライダーが言った。バーサーカーがライダーの船を奪ったように見えたが、その所有権までも書き換えていたわけではないようだ。

 テオは胸を撫で下ろす。しかし、現状は何も好転していない。ライダーが二隻目の『朱き我が復讐(マイ・リベンジ)』を出現させて突撃させたが、押し止められた。加えて、ライダー自身の乗る船でも追撃を駆けたが、双方が受け止められた。

「うまくは行かないもんだ」

「ライダー、どうする。なにか手はあるか」

「怯えるなよテオ。向こう岸には着かなかったが、何も得るものがなかったわけじゃない」

 ライダーがそう言って手に持っているものを見せる。鎖だ。人の足ほどの太さの鎖がライダーの手に握られている。その鎖の片側はライダーの足元に山となっている。テオはもう片側を見やる。その鎖は先程突撃を行った先に続いている。

「あのお嬢ちゃんに巻き付けてきた。お前が下を向いてるときにな。……さあ、もう一回行ってみようか」

 そう言って、ライダーが再び剣を天に掲げる。そこから現れるのは彼女の宝具たる『』。その船首がバーサーカーを狙う。

「叩き潰せ!」

 ライダーの咆哮とともに、朱き帆が修道服に迫る。テオの乗る船も同時にバーサーカーに向けて速度を上げる。

 先と同じ光景。しかし異なるのはライダーが持つ鎖だ。テオはバーサーカーに鎖がまとわりついているのを見る。先の攻撃は無駄ではなかった。

 ライダーが鎖を引き上げる。怪力によって行われるそれは、小柄な修道服の女を中空に放り上げる。虚ろな視線がテオと交差する。小さな口元が開き、何かをつぶやこうとする。

「させねえよ!」

 しかし、それはライダーの予想通りの行動。鎖を巧みに操り、バーサーカーの口元を締め上げる。

「声が出せなきゃ歌えやしねえだろ」

 空からバーサーカーを狙う船が、迷うことなく突っ込んだ。

 

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