Fate/immature children   作:waritom

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 ライダーとバーサーカーによる尋常ならざる戦いを、遠く離れた廃墟で見守る女が居た。カヤ・クーナウだ。

「なんて乱暴な戦い方」

「んん。一時でも手を組もうとしていたのは過ちだったのかも知れないな」

 戦いの感想を小さな声で漏らすと、傍らのソファに座る男が返事を返す。カヤのサーヴァントであるアサシンだ。

「全くね。出会い頭に船をぶつけられていたかも知れない」

「あっさりと死んでいるだろうな。私もカヤも」

 アサシンが寸分も負い目を感じていないように言う。カヤも同意見なので特に否定はしない。

 ライダーの戦いぶりは廃教会跡で既に見ている。その際も不死を思わせるセイバーを相手に、巨大な帆船で轢き潰していた。不死じみたセイバーを行動不能に陥れるためだと理解していたが、単純にライダーの性格によるものだと認識を改める。

 対して、バーサーカーの戦闘方法は疑問が残る。呪いを撒き散らし、迫りくる物体の方向を歪める。魔術師がよく使う結界を、恐ろしいまでに昇華させた宝具だ。

「見たかね?ライダーは直前にバーサーカーの口を塞いでいるように見えた」

 呪いの媒介はバーサーカーの口ずさむ歌だ。カヤはプラウレン湖に放った梟にて、戦況をつぶさに観察していた。

「魔術師として、どう思うのかお聞かせ願いたい」

 アサシンがカヤに水を向ける。この老人はサーヴァントという極めて魔術的な存在ではあるが、魔術に関しては最低限の知識しか持たない。

 しかし、確信があるのだろう。怨霊とはいえサーヴァント。口を塞いだ程度でその宝具が防げるものかと。

「バーサーカーの歌っていうのは魔術師で言うところの呪文の詠唱。しかも、あの詠唱っていうのは外への働きかけではなくて内側を向いているものよ。魔術っていうは自己を作り変えて魔術回路を回すわけだから、トリガーがいる。バーサーカーの歌は珍しい形だとは思うけど、トリガーの役割」

 備え付けられた魔術回路は元来、人間の設計にはないものだ。それ故に、不自然な回路を作動ささるためには、自己の認識を人間から変化させる必要がある。無論、実際に人間の身体が変わるわけではない。要は集中と自己暗示。

 カヤの場合は心臓を覆う鉄の輪。理由は分からないが、このイメージがしっくり来たのだ。

「つまり?」

 アサシンが結論を急かす。

「つまり、大事なのは集中力。口を塞がれようがどうなろうが、気持ちさえ切れていなければ魔術は成立する」

 カヤの結論にアサシンはなるほど、と小さくこぼした。

「そうであれば、非常にライダーはまずい。歌というのは口、喉、腹で歌うものではない。……魂で歌うものだ」

 

 テオ・ロットフェルトの視界は水しぶきと破砕による木っ端で覆われていた。ライダーが確信を持って投じた『朱き我が復讐(マイ・リベンジ)』はバーサーカーを巻き込み水面に激突した。テオ達の乗る船はその様子を眺めるように佇んでいる。

 船首に立つライダーが誇ったようにその惨状を見る。自身の宝具の片割れが無残にも藻屑と成り果てているが、ライダーには後悔の様子は見られない。

 しかし、その相貌が歪む。テオもその理由をすぐに知る。歌だ。テオの耳に、バーサーカーの歌声が響いているのだ。

 あのバーサーカーが、先の宝具に寄る攻撃に耐えきれた道理はない。答えは一つ。口を塞いだ程度ではバーサーカーを止めることなどできなかった。バーサーカーの歌によって船は軌道を逸らされ、ただ湖面に激突した。ライダーの『朱き我が復讐(マイ・リベンジ)』の一隻を潰してまで行った攻撃は、無駄に終わったのだ。

 水しぶきが止み、視界が開ける。船の残骸が浮く湖面には、バーサーカーが立っていた。

「テオ」

 ライダーが淡々とした声でテオに呼びかける。打つ手のない絶望感を抱く。宝具でさえ防げなかったバーサーカーの呪いの歌。これを乗り越える手段などあるのだろうか。

 船首に立つライダーに近づくと、ライダーが手を肩に回した。

「どうした?」

 急のことで驚きを隠せない。しかし、ライダーがそのままテオに告げる。

「もう一個の宝具を使う。十中八九、アタシは元に戻れないだろうが、あの修道服はどうにかしてやる」

 ……もう一つの宝具。

 テオはライダーの宝具は『朱き我が復讐(マイ・リベンジ)』だけだと聞いている。故に、バーサーカー相手にすべての攻撃手段を試したのだと思っていた。

 しかし、それ以上にライダーの言葉に気にかかった点がある。

「戻れないってなんだよ」

「言葉の通りさ。この宝具はアタシのあり方を変える。馬鹿みたいに復讐に駆られて、フランス王を死に至らしめた、あの頃のあり方を再現するのさ。……要は、狙った奴を絶対に殺すまで止まらなくなる」

 彼女の精神性を戻す宝具。バーサーカーの歌が宝具なのだとしたら、『朱き我が復讐(マイ・リベンジ)』を操るのに手間取ったように、勝機があるかも知れない。しかし、テオに湧くのは勝利への期待ではない。

「けど、戻れなくなったら」

「ここで終わりだな。復讐者は復讐が終われば去るのみ」

 いや、それではいけない。ライダーにはまだロットフェルト城から先も付いてもらわなければならない。いや、それ以上にテオにはより感情的な想いが宿る。

 ……こんなところで、自ら死を選んで欲しくない。

 ライダーの聖杯に託す願いを知った。あまりにも細やかな願いを叶えたい。今、テオは自分の願いのようにライダーの願いを想っていた。

 ……どうすれば。

 ライダーの決心は固い。ここで立ち尽くしていてもハンナもライダーの願いも叶わないだろう。早く、決断をしなくてはならない。

 そこでふと、左手を見た。

「令呪だ。令呪であれば戻れるはずだ」

 今まで一画として利用していない絶対命令権。使い方次第ではサーヴァントの空間移動さえ実現する魔術刻印だ。ライダーの同意さえあれば、正気に戻ることも可能ではないか。

「ああ、なるほどね。まあ、期待しないでおくさ」

 テオの提案に、ライダーはにべもなく応える。そしてテオから離れ、剣を抜く。途端、テオ達の乗る船の真横に、もう一隻の『朱き我が復讐(マイ・リベンジ)』が出現した。

「こいつは虎の子、最後の船だ。テオ、お前はこれに乗って待ってな」

 そう言って、テオを乱暴に抱えあげると隣の船に向かって放り投げた。背中から甲板に着地し、無様に転がる。思わず傷口を庇うが、問題ないようだ。

「投げることはないだろう!」

 非難を口にするものの、ライダーは既にテオを見ていない。こちらに怨嗟を送るバーサーカーを睨む。

「テオ、覚えておけ。この宝具の名前は『戦いの雌獅子(ライオネス・オブ・ブリタニー)』」

 その顔には笑みも希望もない。陰が宿り、痛みに耐えるかのような表情だ。

 ライダーは自身の乗る船を加速させる。すれ違いざまに、ライダーが小さくこぼしたのを聞いた。

「できれば、見てくれるな」

 

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