Fate/immature children 作:waritom
ハンナはライダーとテオが離れる様子を見て、歓喜の笑みを浮かべた。
「ようやく、ようやく離れてくれたわ」
ハンナにとってライダーは狙うべき相手。しかし、その奥にいるテオを傷つけることは望んでいない。そのため、彼らが離れるときをずっと待っていたのだ。
ライダーの真意を探る。ライダーは今まで矢や砲、船を投げつけるといった遠距離からの攻撃に徹していた。それは単純に傍に控えるマスターたるテオに被害が及ばないためであろう。
そのマスターを切り離すという行為が意味するところは一つ。ライダーがバーサーカーに直接攻撃を仕掛けるということ。
「いいわ。来なさいな」
ハンナはバルコニーからライダーを睨む。浮かぶ表情は笑み。ライダーが近づきさえすれば、殺し切ることは造作もない。
ハンナは自身の左の甲を撫でる。宿る令呪はあと二画。ライダーが近づいたその時、令呪で持ってバーサーカーに全力を出させる。そうすれば、ライダーなど湖底に沈むことしかできまい。
無論、魔力を失ったバーサーカーも自滅するであろうが、構うことはない。自分でテオを迎えに行けば良いだけだ。
機会を伺いながら、ライダーを睨み続ける。そこに予期せぬ変化が生まれた。テオのいる更に後方からボートが近づいてきている。小柄なモーターボートだが、その速度はかなりのものだ。
「……乱入者はお呼びじゃないわ」
視力を強化し、そこに乗る存在を確かめる。邪魔立てするのであれば、ライダーの前に湖底に沈んでもらう。
モーターボートの上に立つ存在。全身を渦で覆われた騎士だ。傍らには斧のような長剣を握っている。セイバーだ。
……また、テオを狙うつもりかしら。
ハンナはセイバーが既にライダーと戦い、一度撤退しているのを知っている。どうやってあの損傷から回復したのかは知らないが、ライダーの苦戦を目の当たりにして好機と考えたのかも知れない。
ライダーへ襲いかかるのであれば良い。それであればハンナの目的と合致している。しかし、セイバーがテオを襲うつもりであるのならば、見過ごす事はできない。
狙いはどちらか。見極めるために騎士の動きを睨む。その二つの予想はどちらも裏切られた。
セイバーがテオとライダーを通り過ぎ、真っ直ぐバーサーカーへ向かってきたのだ。
「……そう。騎士様は弱い者の味方ということね」
ハンナは溢す。味方を期待したわけではない。むしろ、味方をされても目障りなだけだ。だが、明確な殺意を持ってバーサーカーに迫る騎士に、さらなる怒りの感情が沸き立つ。
バーサーカーに向い、左手を差し出す。
「令呪を持って告げる。バーサーカー、すべての魔力を持って宝具を叫びなさい」
「ライダー!」
テオは後方から迫りくるセイバーに気が付いていた。前方でバーサーカーを睨むライダーにそれを伝える。
しかし、ライダーは振り向かない。もう一隻の『
もう一度叫ぶべきか。そう思った瞬間、セイバーがテオと、それどころかライダーを通り過ぎていった。そして、そのままバーサーカーへ襲いかかる。
巨大な鎧がボートから飛び上がり、修道服へ斬りかかる。その間際、バーサーカーが叫び声を上げた。
先程の小さな声で紡がれる歌とは質が違う。断末魔にも似た叫び。そこに込められた悲痛な感情にテオは寒けを感じた。
その叫びのもたらす結果をテオは見た。飛びかかったセイバーの姿が消えたのだ。
……どこにいった?
答えは直ぐに出た。セイバーは湖面から飛び上がり、ライダーの船の残骸に立った。つまり、セイバーは飛びかかったが、バーサーカーによって水中に転移させられたのだ。
……めちゃくちゃだ。
セイバーはその後も幾度もバーサーカーへ飛びかかり、その度に湖の中へ転移させられる。テオにはどちらのサーヴァントも狂っているように見えた。
「ライダー、戻れ!セイバーが証明しただろう!バーサーカーに近づくのは自殺行為だ!」
ライダーはそれでも振り向かない。どころか、更に船を前に進める。徐々にテオとの距離が遠くなり、声が届かなくなるほどだった。
ライダーが肩に掛けるコートを脱ぎ捨てる。その下の海賊服が魔力によって別の物に変化していく。夜の中でも輝くように、黒き彼女の船と相反するような白い鎧がライダーを包んでいた。
変化を終えた彼女の姿を、テオは騎士の様だと思った。海賊などという粗暴な存在ではなく、高潔な意思を持って行動する存在。変わらぬのは、獅子を思わせる金色の髪だけだ。
ライダーが右の手を上げる。その空の手に剣が現界する。先まで奮っていたカトラス剣とは全く異なる、細い剣。誇示するための剣ではなく、ただ相手を刺し穿つための凝縮された剣。
その切っ先が、バーサーカーを向いた。
「進め」
あまりにも冷たい声が、遠く離れているはずのテオの耳へもはっきりと聞こえた。『
「殺しなさい」
そして巨大な船が二つのサーヴァントを破壊する。決してその方向が歪められることもなく、まして自らに襲いかかることもなかった。
……何故だ?
テオは自身のサーヴァントに対して起こったことを考える。セイバーが示した通り、バーサーカーの叫びは近づくものを湖底へと転移させる。それはライダーが実行したとしても変わらぬ結果を産むはずだ。
……何故、バーサーカーに攻撃が当たるようになった?
疑問をライダーに投げかけようとしたが、尋常ではない様子を察して自らを制する。
瞬間、何かが割れるような音が響いた。方向を探ると、船から聞こえてきた。二騎のサーヴァントを押しつぶさんとした脅威。いまライダーがのる船から音が響いている。
それは崩壊の音だった。『
……セイバーの剣だ。直撃の際にこの剣で抗ったのだろう。
ライダーが船を降り、近くに浮かぶ残骸に立つ。相棒とさえ呼んだ船に対する感傷など、微塵も感じさせない。相対するのは修道服の少女だ。どう動いたのか分からないが、『
睨み合う二人に、横槍が入る。水中からセイバーが躍り出たのだ。かの騎士が襲いかかるのは湖面に立つバーサーカー。セイバーの様子は尋常ではなかった。
片方の腕は折れ、武器も持つことはない。ただ、無事である片方の腕を伸ばし、バーサーカーに襲いかかる。しかし、それすらも叶わない。バーサーカーに触れる直前にセイバーの身体は姿を消した。何度も繰り返された光景だ。
テオはこの光景から一つの思いつきを得た。何故、バーサーカーがライダーの船を避けれたか、だ。
……バーサーカーは『
ライダーが騎士の姿になってから、バーサーカーはライダーの攻撃を避けることは叶わなくなった。しかし、それに気が付いたため転移を自在にできるセイバーを『
先程まで傷一つ負わせることができなかった状況が、一変した。ライダーの攻撃がバーサーカーに当たるのであれば、この勝負は既に目に見えている。
『
無実の夫を処刑された復讐のために私財を投げうち剣を取った婦人。そして、十数年の戦いの果にそれを成した英雄。その功績は復讐を望む全ての者達の信奉の対象となった。
ブルターニュの雌獅子よ。我が復讐に加護を。
復讐は神が認める行為ではない。しかし、それを望む者にも祈る対象がいる。ジャンヌ・ド・ベルヴィルはその復讐を望む者達の崇拝を集めた。
『今のアタシは海の男に混じって戦いに興じ、フランスの船をぶっ潰すことだけ考えていた頃のアタシだ。多分、血みどろの人生の中で今のアタシが一番折り合いが付いている』
ライダーの言葉を思い出す。快活に笑い、海賊として戦った彼女は一番折り合いが付いていると言った。ならばきっと、『
その復讐の化身が、呪いの歌程度で標的を過つはずがない。
ライダーが剣を取り、バーサーカーに斬りかかる。