Fate/immature children   作:waritom

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 ロットフェルト家の本拠地であるプラウレン湖に浮かぶ屋敷には、クサーヴァー・ロットフェルトとクリストフ以外いない。聖杯戦争を三ヶ月前に控え、公平を期するために屋敷に住む子ども達は全員が追い出された。もっとも、全員といっても恒常的に住んでいるのはロイクとハンナだけであったが。

 その一人、ロイク・ロットフェルトは憤慨していた。プラウレン湖畔にあるコテージの中。広々としたリビングで暖炉の火を見つめている。三年前の会合以来、ロイクの胸には常に怒りの塊とも言うべき存在が居座っている。どれだけ気を紛らわそうとも、ふと力を抜いた瞬間に、その塊が胸の内を熱いもので満たす気がした。

 原因は単純だ。ロイクはロットフェルト家を継ぐために誕生した。ロイクの上にいた兄弟たち、アーベルト、ウッツ、エルナは魔術師として素養はなかった。悲観した父クサーヴァーによって、魔術師として優秀な母体を用いて生まれたのがロイクである。

 父の目論見は達成された。ロイクは他の兄弟たちに比べ圧倒的な数の魔術回路を備え生まれてきた。父もロイクの教育に熱心で、二人で父の工房に籠もり、ロイクは魔術の薫陶を受けた。自他ともに次期当主はロイクであると思われていた。

 不穏の影はロイクが十二歳の頃に起きた。父が子どもを連れてきたのだ。十六歳のテオと十四歳のハンナ。二人共、十全たる魔術師の素養を持っていた。父とロイクの魔術教室にテオとハンナが参加するようになった。理解ができない。何故か。疑問がロイクの頭を支配したが、父に問いただすこともできなかった。だが、程なくして氷解した。テオの持つ魔術の才能が傑出しているのだ。治癒、蘇生という一つの分野に対してのみ、高度な魔術を苦もなく操った。

 次期当主はテオではないか。やがて屋敷を包んだのはそんな風評だった。ロイクの肩身はとたんに狭くなった。ロイクは次期当主になるべく産まれた子どもである。公然の事実だと思っていた。だが、テオが来てからはその事実は露と消えた。父は、テオを当主とするために呼び寄せたのだ。何故か。ロイクでは力が不足していたからだ。

 屋敷内で囁かれる事実に気が付きながらも、ロイクは心のどこかで状況を正当化していた。皆、わかっていない。父はただ、ロイクの成長のために競争相手を用意したに過ぎない。依然、次期当主はロイクである。

 ロイクにとって転機は、テオがロットフェルトの家を出たことだった。魔術儀式の事故でハンナが傷つき、恐れをなしたと聞いた。その折、ロイクはイギリスへクリストフとでかけていたため全く関知していなかった。知らせを聞いたとき、ロイクの胸に宿ったのは安堵であった。テオを競争相手だと嘯きながら、心では敗北を認めていたのだ。だが、テオは去った。これで、ロイクが次期当主となることに誰も疑問を抱かない。そう思い、ずっと生きてきた。あの、忌まわしい礼拝堂での会合までは。

 クサーヴァーの胸の内は違っていたのだ。聖杯戦争。そんな極東の田舎の儀式に当主を委ねるなど、恥を知るべきだ。いや、恥じるべきは紛い物の聖杯に頼らぬ限り、ロイクには当主の資格が無いと言い切ったことだ。それも気質と。臆病者と言ったのだ。そして何より許しがたい、クサーヴァーの言葉を思い出す。

『もし、 テオほどの魔術の器量があれば目を瞑ったろうがな』

 父は、ロイクよりもテオが優れていると言い切ったのだ。ロイクが生まれてきたその理由を、父が否定したのだ。怒りは塊となり、常に胸の内に居座るようになった。

『僕の素質を、認めさせねばならぬ。そして、当主としてテオよりも適していると証明せねばならぬ』

 会合から今日に至るまで、ロイクは聖杯戦争について調べ、準備を行ってきた。とりわけ、ルスハイムという馴染みの深い土地が戦場である。地の利は自分にある。他のマスターについてはルスハイム中に放った使い魔で監視している。魔術に素養のないアーベルト達が本気で参戦するとは思えないが、代理として魔術師を遣わせるくらいはやってのけるだろう。事実、ここ数ヶ月でルスハイムに見慣れない魔術の痕跡が増加している。だが、彼らは問題でないだろう。雇われた人間は一定以上の危険は侵さない。少し脅せば早々に諦めるはずだ。やはり注意すべきはテオだ。ロイクはテオが参戦すると確信していた。

 そして、ロイクの予想は的中した。空港を監視していた使い魔がテオを見つけたのだ。まだルスハイムには来ていないようだが、時間の問題だろう。感情が高ぶる。暖炉の火が一層強く燃え上がった。

 準備は整いつつある。残すはサーヴァントの召喚を行うのみ。戦いに相応しい、最高の戦士を呼び出す。些か入手が困難だったが、目当ての触媒は手に入れた。後は、自身の魔力が高まる時期を待つ。

 左手の甲に宿った令呪を撫でながら、ロイクは時を待つ。暖炉の火は消えない。

 

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