Fate/immature children   作:waritom

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 テオは覚醒すると、自分が暗い空を見上げているのに気が付いた。空がゆったりとした調子で左右に振れ、自分が舟の上に横たわっているのだと知る。微睡みが頭を支配していた。

 ……確か、バーサーカーにやられかけて。

 バーサーカーの死に際の一撃によって、ライダーの船が瓦解した。そして湖底に沈みゆく前にライダーと共に湖に飛び込んだのを覚えている。抱きかかえられた安心感と、直後に訪れた濁流。激しい記憶が、テオが戦場にいることを思い出させた。

 ……ライダー!

 覚醒した意識で周囲を改めて見る。テオの乗る舟は小さく、戦いで使用した船よりも簡素だった。舟は船着き場の端に止められている。

 テオはこの場所に見覚えがあった。思わず舟を降り、古びた門へ走る。

「……ロットフェルト城!」

「そうさ、無事に届けてやったぜ」

 テオの驚嘆の声に応えるように、背後から声がした。ライダーだ。思わず振り向こうとするが、声で制される。

「おっと。振り向くなよ。……分かってるだろ?マスター、アタシは此処が限界だ」

 ライダーの言葉に、テオは唇を噛みしめる。バーサーカーとの戦いにおいて、幾度の宝具の利用によりライダーは既に限界に達していた。

 それでも、テオを此処まで送り届けたのはライダーの持つ逸話のおかげだろう。船が倒れた後も、彼女だけは小舟で漂流し生きて戻ったという。この話はよく知っている。

「この小舟はな、本当に最後の最後になってようやく出せるんだ。戦うためじゃなくて、逃げるための舟。なんとかこいつで、城まで来れたよ」

 ライダーが自嘲するように言った。テオは滲む思いを、背を向けたまま言葉にする。

「ライダー、本当に最後なのか」

「ああ、ダメだ。もう武器はない。『朱き我が復讐(マイ・リベンジ)』は潰えた。『戦いの雌獅子(ライオネス・オブ・ブリタニー)』は使う気はない。というか、霊器がボロボロなんだ。気が付いているだろうよ」

 だから、とライダーは続ける。

「これでお別れだ。だが、アンタの目的には繋げたぜ。すげえだろ、アタシ。……早く行って、妹を連れて帰りな」

 握り込む拳が、痛いほどだった。サーヴァントは現世を仮宿とする亡霊。別れが来るのは必然のことだ。しかし、あまりにも早く訪れてしまった。

 ライダーの金の髪が偲ばれた。快活に笑うあの笑顔に、また勇気をもらいたかった。

「せめて、顔を見て別れを言わせて欲しい」

「ダメだ」

 テオの滲み出るような懇願も、ライダーが阻む。

「アンタの記憶に残る最後のジャンヌ・ド・ベルヴィルが、こんな傷顔じゃあな。……後生だ。見てくれるな」

 ライダーの声は徐々に意気を失い、最後は独り言のように聞こえた。食い下がりたい気持ちを堪え、テオは目の前を見据える。厳しい門が拒絶の意思を持っているようだ。前を向き続けなければならない。ライダーが命を費やして得たこの機会を無駄にはできない。

 だから最後に、テオは一言だけ残して歩み始める。

「ありがとう、ライダー」

「おう」

 あまりにも短い返答。だが、きっとそれがライダーにできる限界だった。テオは消えゆくライダーの繋がりを触れるように感じながら、ロットフェルト城の扉に手を掛けた。

 

 去りゆくマスターの足音を、聞き取ることすら困難だった。自分の身体が崩れるという未体験の感覚に、ジャンヌ・ド・ベルヴィルは身を委ねていた。

 マスターであるテオにはもっと話をしたいことがあった。彼の生き方は狭窄で、ともすれば崩れ去ってしまうような危うさがある。剣を取ったばかりの自分を見ているような思いだった。

 ジャンヌは崩れ行く身体で、湖に浮かぶ小舟に横たわる。空を見上げると、夜霧に反射された月の明かりが粒のように降り注いでいた。死の際にあって、どこか清々しい気分だった。

 ……そういや、アイツもこんな気分だったのか。

 ジャンヌの息子ギヨームもこの舟で最後を迎えた。丁度、今のジャンヌと同じ様に空を見上げながら死んでいった。最後の言葉は、あまりにも小さな声でジャンヌには聞き取ることができなかった。

 ……アイツ、何が言いたかったんだろうな。

 聖杯に掛けるほどの願い。叶わぬと分かっていながらも、ジャンヌは最後まで思いを馳せる。しかし、消えゆく思考で一つだけわかったことがあった。

「末期の一言なんて、こっ恥ずかしくってでかい声で言えねえよ。……なあ、ギヨーム」

 はっきりとした声は、誰の耳にも届かない。亡き子の思いに確信を得て、ジャンヌ・ド・ベルヴィルは消滅を受け入れた。声にはしなかった思いを、心に宿すだけにして。

 ……テオ、アタシみたいになるなよ。

 

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