Fate/immature children   作:waritom

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 山の夜は静かだ。故に物音を立てる存在は、直ぐに存在を感知される。プラウレン湖を取り巻く山々は未だに切り開かれておらず、一般人が歩くには困難を極める。プラウレン湖自体へも辿り着く手段が限られており、いくつかの国道を不自然に逸れ、手付かずの山の中を進む必要がある。これはロットフェルトの当主が貴重な霊脈を晒し者にすることを嫌ったため、行政に介入した結果であった。そのため、プラウレン湖に近づく者はロットフェルトの事情を知る者に限られる。

 テオはこの事実をよく知っていたため、あえて霊脈が豊かなプラウレン湖近くではなく、ルスハイムから離れた別の街のモーテルに拠点を構えていた。短期滞在の旅行者用モーテルだ。安宿らしく、テオの部屋には最低限の調度品があるだけだ。埃っぽい空気も、スプリングが軋むベッドにもテオは慣れていた。ロンドンの生活と何も変わらない。

 気がかりはルスハイムにおらずとも令呪が宿るかどうかだったが、杞憂だった。テオの左手の甲には波がうねり合う様な刻印が宿っている。令呪は聖杯を求める者へ宿るという。そうであれば、テオの望みを聖杯は汲み取ったのかもしれない。

 宿った以上、早々に英霊召喚を行う。枕元に投げ出している箱を手に取る。ルスハイムへ訪れる直前、ゲルトから渡されたものだ。

『直前になってすまないね。だが、用意をしたとも。これで君の望むサーヴァントが召喚されるはずだ』

 ゲルトの用意した触媒は多分、完璧なのだろう。ある勇猛な騎士に関わる品。テオは触媒の真贋を見極めることはできない。それ故か、迷いが生まれている。昨今、世界中で行われている聖杯戦争では、英霊側から召喚を拒否される場合があるそうだ。英霊も、聖杯で叶える願いをもって召喚に応じる。紛い物の聖杯だと感づかれれば、参戦を拒否されるもの理解できる。察しの良い英霊や聖杯そのものに縁のある英霊、もしくは紛い物を嫌う潔癖な英霊では、召喚を拒否される危険が高いのではないか。これはテオの予想である。故に、ゲルトの用意した触媒を利用するのに抵抗が芽生えていた。

 ……アーサー王伝説に名高い、円卓の騎士。果たして召喚に応じるのか。

 テオはベッド脇に置かれた鞄から、布袋を取り出した。これはテオが自身で用意した触媒である。

 ゲルトに言われるままに参戦を決めたが、テオなりに準備を進めていた。特にゲルトが用意するという触媒はどこか疑わしく思えた。

『……気前が良すぎる』

 ゲルトの目的はクサーヴァーの殺害だ。協力することは構わない。だが、それが本当の目的だろうか。クサーヴァーを含めた、ロットフェルト家全員の殺害を目論でいないだろうか。ゲルト・エクハルト。どれだけ調べても、背景が全く掴めなかった。ロンドンでは生活の面倒を見てもらうほど頼ってしまったが、これ以上は危険だと判断している。

 手にした布袋を持ち、ゲルトの触媒は鞄の奥に仕舞い込む。腕時計を見る。午前一時。時間も申し分ない。テオは召喚を行うため、街へ出る。

 スイスの冬風は強い。山々が吹き下ろされる風に体が冷える。薄汚れたコートで身を抱くようすると、温まった気がした。そのまま、寝静まった街を車道沿いに歩き続ける。雪は降っておらず目的地までは苦もなく着くだろう。しばらくすると、外灯も薄くなる森に囲まれた。そこで車道を外れ、森の中を進む。動物と枯れた草葉の匂いがする。自然の只中だ。人間は異分子なのだろう。夜行性の動物に見られているような気がした。暗闇を嫌い、懐中電灯に明かりを灯す。そのまま歩き続けると木々が密集していない、開いた場所に出た。目的地だ。

 手際よく召喚の準備を始める。己の血を薄めた液体で召喚陣を作る。複雑な陣ではない。ものの十分程度で完成した。見上げると、木々の隙間から星々が光を注いでいる。ハンナを想う。必ず助ける、と。

 近くの石で祭壇を作り、布袋から中身を取り出す。黒とも赤とも言える色をした木片。込められた魔力を感じながら、テオは祭壇に恭しく置いた。準備が整う。時刻も申し分ない。召喚を始める。

 

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