Fate/immature children   作:waritom

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 見知った館の階段を走り、上階を目指す。豪奢な調度品に彩られた館に懐かしさを感じることも、完全に立ち消えたライダーとの繋がりに思いを馳せることも捨て去り、テオ・ロットフェルトは屋敷を駆けていた。

 ……ハンナ、ハンナ!

 目的は一つ。テオの妹たるハンナ・ロットフェルトだ。この聖杯戦争に臨んだ理由も、ハンナをロットフェルトという魔術一家から救い出す他ない。

 ……謝りたいんだ、ハンナ。

 テオは過去、ハンナを置き去りにしてこの家を去った。それは、テオの弱さの他に理由はない。度重なる常軌を逸した修練の日々にテオの精神が限界に達したのだ。

 だが、それが家族を見捨てていい理由にはならない。

 テオは自分の行いを、短慮を、悔いていた。逃げ出すのならば、ハンナを連れて逃げるべきだった。それをしなかったのは、テオのずる賢い、自己保身ゆえの考えだった。幼いハンナはロットフェルト家を出るときに足手纏いになる。しかし、だから置いていくだなんて、兄として、家族としてあるまじき行いだ。

 ハンナの部屋の前に立ち、扉を強引に開ける。迷いはなかった。

 そこにはハンナが居て、テオを待ち望んでいて、きっと直ぐにロットフェルト家を出ることができて、二人でロンドンに行くのだ。楽ではないけれど、二人で生きていく。幸せに、幸せになるのだ。

 だから、この光景は受け入れられない。扉の先にある大きな窓は開け離れており、バルコニーが見えた。そこにはハンナが居た。横たわり、胸から血を流している。仰向けで、大きく見開いた眼が、その死の際の苦悶を伝えていた。

「あ、あ、あ、あ」

 足が、震える。これは、何かの間違いだ。テオは自分に言い聞かせる、しかし、近寄ったハンナからは何の暖かさも感じない。古いこの家の調度品のように、ただ、そこに置いてあるだけのように思える。胸に空いた血の溜まりだけが、人の名残だった。

 テオはそっとハンナの頬を撫でた。冷たい、石膏のような肌触りだ。生きていないのだと、残酷なまでに理解した。

「ハンナ、ハンナ」

 立っていられなくなり、そのまま謝るように頭を抱える。ハンナ、済まないと答えるはずのない存在に謝り続ける。

 謝罪に涙が混じり、そして慟哭に変わった。敵地で、誰かが駆けつけようと構わない。むしろ、このまま殺して欲しかった。ここで死ねば、すぐに死ねば、ハンナの近くに逝ける気がしたのだ。

 だから、唐突に眼の前に現われたそれを見たときに、テオは優しく尋ねた。

「君は、なんだ?俺を殺してくれるのか?」

 それはテオを見て悲しそうに首を横に降った。小さな手がテオの頬に触れる。熱を持ったテオの頬が、少年の手で慰められるように思えた。

「僕は、君に会いたかった」

 彼は幼い声でそう言った。この世の者ではないような、浮世離れした雰囲気を持つ少年だ。見覚えが合った。ゲルトの傍らにいた少年だ。

「テオ・ロットフェルト。死を、憎むかい?」

 動かなくなったハンナを思い、少年の声にただ頷く。首が壊れるほど、強く頷く。もう、嗚咽が邪魔で声が出なかった。

「僕はキャスター。君と同じく、死を憎み、それを乗り越えようとした魔術師の成れの果て」

 テオの頭が優しく何かに包まれた。柔らかい感触に、キャスターに抱かれているのだと分かった。そして、その儚さからキャスターが退去しかけていることを察する。

「志を同じくする同胞よ。共に聖杯を取ろう。そして、この悲しみを過去にしよう」

 キャスターの言葉がテオの頭に染みるように入っていく。死を憎む。そうだとも。この悲しみを過去にする。そうだとも。

 キャスターがテオの頭を放す。テオは見上げ、少年の眼を見る。信じられると、直感した。

 テオの令呪が光った気がした。嗚咽を交えながら、契約を言葉にする。

「汝の身は、我の下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の、寄る辺に従い、この意、この理に従うのならば、応えよ」

 震える声のたどたどしい詠唱。それでも、キャスターは応じる言葉を口にする。

「同じ痛みを持つ友よ。我が真名に懸け、汝の魂の慟哭を受け取ろう」

 荘厳さを感じる、少年の声がテオの胸に響いた。

「我が真名はダンテ・アリギエリ。最果ての乙女を求め、永遠を旅する者。同胞よ、聖杯を手にしよう」

 

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