Fate/immature children   作:waritom

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 アーチャーとアサシンを追い出し、隠れ家には女性が二人いる。当たり前のようにアーチャーが術式を検分しようとしたが、「そんな人だとは思いませんでした」と口撃したのはやりすぎたかも知れない。

 宮葉環は魔術に卓越しているという訳ではない。しかし、環の命を幾度となく救った『不吉なものを見抜く目』を持ってすれば、カヤの術式を理解できるかも知れないと思っていた。実際、魔術に造詣の深いアーチャーも環の意見は受け入れていた。

「もしかしたら、環の眼は魔眼の類なのかもね」

「魔眼ですか」

 カヤがジャケットを脱ぎながら、何気なく口を開いた。今朝のショックは既に抜けきっているらしく、初めて会ったときのように凛とした声が響いている。

 反面、環は胸の高鳴りを感じていた。テーブルを挟んで向こう側に立つカヤから眼を背けている。

 ……なんでこんなにドキドキしているのでしょうね。

「魔眼っていうのは独立した魔術回路を持つ特殊な眼球のことよ。そのものが術式を持っていたりして、使っている魔術師も珍しくない。中には大魔術や魔法の域に至る能力を有する魔眼もあるわ」

「はあ、そんな大した物ですかね」

 カヤの話が頭に入らず、思わず空返事をする。シャツのボタンを外す微かな音が、いやに大きく聞こえた。

「危険そうなものを感じ取る、というだけではあまりいい価値のではないかもね。魔眼の本領は眼球の持つ視るという受動的な役割を超えて、世界に干渉できることにあるから」

 テーブルの上に、真っ白なシャツが舞い落ちる。思わず受け取ると、生々しい温かさが伝わった。

「直ぐに着るから、そのままでいいわよ」

 カヤがそう言うと、背を環に見せつけるようにテーブルに腰掛けた。

「どう?」

 環がカヤの背を視る。

 シャツの白さとは類を別とする白磁を思わせる肌。浅い息に呼応して緩やかに上下に運動している。吸い込まれそうな魅力に、思わず、指で撫ぜる。雪面を思わせる背に人の温かさが宿っていることを感じる。

「ちょっと、何やってるのよ」

「いえ、白くていいなって思いまして」

 大胆になったじゃない、というカヤの言葉に環が思わず笑ってしまう。思えば、初めて会ったときはこの女性にとんでもなく脅されたものだ。

 心臓のある、左側の背を注視する。魔術師の工房を探索するときのように集中し、術式を探す。

「初めて会った時、悪い言い方だけれど、どうしようかと思ったわ。魔術師同士の抗争なんて向いている感じじゃなかったもの」

「でも、意外とやるものでしょう?」

 環が小さく笑う。背に集中しているため、思いついた言葉がそのまま出てきてしまった。

「ええ、本当に。バーサーカー相手に奮闘して、キャスターの呪いも退けて、ランサーとの戦いも生き残った。マスターとして、十分過ぎる実績よ」

 直接的に褒められて、言葉が詰まる。思えば、人から褒められるなんてずいぶん久しぶりのように思える。

「家業のことはわからないけれど、環の能力は私が認めるわ。あなたと此処まで戦えて幸運だった」

「褒め過ぎですよ」

 くすぐったい思いから、思わず左の背を撫でる指に力が入った。そして、そこにある違和感に気が付く。術式だ。両眼に魔力を注ぐイメージを持って、注視する。

「ありました。……確かに、不吉なイメージが湧きます。回復魔術ではこんな印象を受けないです」

「ああ、予想通りってことね。ダメ元で言うけれど、環が外せたりしない?」

「……すみません」

 いいのよ、と言うとカヤが腰掛けているテーブルから立ち上がり、乱雑に積まれたシャツを手に取る。白磁の肌が、白い布で隠された。

 背から目を切り、中空を見るように上を向いた。古びた天井が目に入った。集中しためか目が疲れているのを感じる。

「お疲れ様」

 天井を遮るように、カヤの顔が現れた。驚きから顔を逸らそうとしたが、カヤの両の手が環の顔を逃すまいと固定する。何が面白いのか、環の眼をじっと見つめてる。整った顔が環の奥まで見透かすようで、鼓動が高鳴るのを感じた。

「流石に私じゃ、魔眼かどうかは分からないわね。かといって直ぐに分かる方法もないし。……全部終わったら、しっかり調べたほうがいいわ」

 ……魔眼を調べるためでしたか。

 行動の意味を察すると、鼓動が落ち着きを取り戻す。

「じゃあ、アーチャー達を呼んできますね」

 先程追い出されたサーヴァント達を呼び戻すため、環は工房を出る。まだ昼過ぎほどの時間のはずだが、雲が厚く陰鬱な雰囲気を醸していた。朝の日差しは一瞬のことだったらしい。

「終わったかい?」

 環が声をかけようかと逡巡すると、直ぐにアーチャーが実体化した。どうやら扉の前で霊体化し、待っていたらしい。

「ええ、カヤさんの背に嫌な感じの術式がありました」

 アーチャーが残念そうな、沈んだ面持ちになる。

「どうしました?」

「さっき、アサシンと話していてね。どうにかしてランサーの思惑を外したいなと思って。ただ、カヤに仕掛けがあるとすると、正攻法で契約書を奪うしか方法がないか。……この場に聖人のサーヴァントが入れば、解呪ができたのかも知れないけれど」

 既に次の状況に備えて作戦を考えているらしい。環は工房に残るとは言え、令呪という最大の武器を持っている。策を練るのであれば、話し合いに加わるべきだろう。

「ないものねだりをしても始まりません。さあ、カヤさん達を交えて作戦を考えましょう」

 

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