Fate/immature children   作:waritom

7 / 85
7

 カヤは工房の一画を儀式場とした。アサシンを召喚することに既に迷いはない。故に後は覚悟の問題。

 召喚陣を挟み、祭壇が正面になるように立つ。魔術の行使はイメージが重要だ。意識の切り替えを行うトリガー。カヤは目を瞑り、想像上の鉄の輪を作る。大小がある三つ。それらはカヤの心臓を囲むように絡み合い、静止している。一際大きな輪を、廻し始める。機械仕掛けのように他の輪も回りだす。鉄の輪同士の擦れる音が脳内に響く。回転する振動に、心臓が揺れる。カヤ・クーナウという存在は組み込まれ、世界と同一となる。輪の回転が激しさを増す。召喚陣に光が溢れ出した。魔力の奔流に意識が薄らぐが、持ち堪える。そして、呪文を口にする。

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

 

 蝋燭の火に四方を灯された部屋から、常ならぬ魔力が溢れ出ていた。その現象を引き起こしている術士、ロイクは召喚に手応えを感じていた。怒りの炎を心に宿し、魔術を行使し続ける。呪文を紡ぐ。

「繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する

 ――――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

 森の枯れ木が揺らぐのを感じた。現代ではありえない魔力の暴走。それに世界が軋むような錯覚を覚える。それでも、テオは立っていた。

「誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者」

 続く呪文を唱える。魔力の奔流で、懐中電灯の光がかき消えた。だが、召喚陣から溢れる光が灯となる。徐々に、何かに引きずり込まれる気がした。逆らうように呪文を叫ぶ。思いを込める。俺が行くのではない。お前が来い、と。

「汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 召喚陣が一層の光を吐き出す。そして、光が途絶え、森が暗闇に包まれた。儀式は成した。成否を案じながら体内の魔力に集中すると、何かに流れていくのを感じた。確かに存在する。召喚陣の中央。光を感じずとも、膨大な魔力の塊がそこにいる。立っている。

 その存在ががゆっくりとテオの元へ歩いてくる。思わず後ずさりしそうになるが、制した。神秘の権化、現代ではありえない存在。サーヴァントだ。それはテオの眼の前まで来ると、歩みを止めた。

「問おう。お前が私を呼び出したマスターか」

 澄んだ声だ。暗闇で顔は見えないが、女だとわかった。

「そうだ。俺はテオ・ロットフェルト」

「テオ。契約を結ぶ前に答えてもらおう。お前は聖杯に何を望む」

 テオの背筋に寒気が走る。テオの目的は聖杯ではない、あくまでロットフェルト城に捕らわれているハンナの救出だ。英霊は聖杯を欲する存在。テオの真意が悟られてはならない。

 その理屈がわかっていながら、テオの口から出たのは剥き出しの本心だった。

「囚われた妹を救い出したい。手を貸して欲しい」

 暗闇の中にいるそれが、にぃ、と笑った気がした。瞬間、テオの真横を何かが通り抜けた。真後ろで小動物の鳴き声が聞こえる。振り返り、目を凝らす。程よく雲が裂け、月明かりが暗闇をかき消した。鳴き声の主はコウモリの使い魔だった。近づき、確認すると狭い眉間にナイフが刺さっている。絶命しているのは明らかだ。

 テオが気が付かぬ間に、魔術師に召喚を見られていた。いつから見られていた?いや、その事実よりも、テオは直前に起きた出来事に驚愕していた。女は暗闇の中で使い魔を認識し、ナイフで眉間を射抜いたのだ。認識を新たにする。眼の前の存在は、容易く自分を葬りされる存在だ。

「取り繕いのない回答、心に響いたよマスター。間違いなくアンタはアタシのマスターだ」

 テオは使い魔から視線を切り、声の方を向く。いつの間にかサーヴァントはテオの背後に歩み寄ってきていた。月明かりで、隠されていた姿が明らかになる。

 テオを越える長身に、獅子を思わせる金色の髪。腰には大ぶりの剣が二本。腕を通さずに肩に掛けられたコートは、綺羅びやかな宝石や黄金色の十字架が縫い付けられている。海賊だ。自分が望んでいた存在を召喚できたことをテオは確信した。

「改めて自己紹介をしよう。アタシはライダーだ。真名は……分かってるみたいだな」

 整った造形の顔がにやりと笑う。美しい顔だと思った。

「テオ。お前の望みを叶えよう。だが引き換えに聖杯を渡してもらう。さあ、そうと決まれば祝杯を挙げよう。寝床に案内しな」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。