Fate/immature children   作:waritom

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 戦いの迫力に圧倒されていた。カヤは、この戦いをすぐ終わらせる方法に考えを巡らして、一つの結論に至った。

(契約書だけでも奪いに行けないの?)

 ロットフェルトの敷地内で待機しているアサシンも、この戦いの様子を知っているのだろう。ならば、アーチャーが危ういことも分かっているはずだ。

(ランサーのマスター、ロイクが令呪を切った。彼の残りの令呪は一画。マスターはもう令呪を切ることができない。今なら、孤立しているロイクを襲うことができるわ)

 カヤは積極的に戦いの場へ赴くことを提案している。しかし、アサシンが悔しさの滲む声で考えを伝える。

(すまない。カヤ。ロイクを襲うこと自体は可能だが、必ずの帰還は約束できない)

 戦闘力の劣るアサシンは、ともすればマスターにでも敗北しうる。如何に気配遮断を持とうと、戦闘行為そのものが危険だ。

 ……せめて、令呪さえあれば。

 悔やむが、後一画の令呪が増えるわけではない。隣を見ると、環が祈るようにアーチャーを応援している。その姿に、カヤは焦燥する。

 ……何か、何かできることは。

(アサシン。何か策はないの?)

(今は、アーチャーを信じて待つ。無闇に動いて、彼の戦いを邪魔してはならない)

 アサシンの言葉にカヤは歯噛みする。使い魔の視点には、ロイクが見える。

 ……せめて、マスターをどうにかできれば。

 思いを裏切るように、森の奥地から火柱が上がった。中途半端な戦力は必要とされていない。まざまざと思い知らされるようだ。

 

「どうした?逃げても戦況は変わらんぞ!」

 追い縋るランサーから逃げながら、アーチャーは思考を重ねていた。

 ランサーの言葉は真実ではない。宝具である槍は柄が燃え、握る右の手は無残にも爛れている。マスターの魔術だろうか、徐々に回復をしているようだが、焼け石に水だ。

 ……このまま逃げ続ければ、いつかランサーは力尽きる。

 しかし、先の槍の投擲を思い出す。明らかに神秘の籠もる、必中必殺の槍だ。アーチャーの宝具を使って砕こうとしたが、無為に終わった。宝具と令呪を無駄にしたことの後悔もあるが、退けたランサーの槍が異常なのだと思う。

 ……神代の物に近しい槍。

 ランサーの槍の炎が、アーチャーの背を掠める。宝具から発生した炎はまともに当たれば致命傷だ。時間はアーチャーの味方だ。しかし、一手間違えれば即死の環境。策を弄する必要がある。

 木々の隙間から、プラウレン湖が見える。その奥、アーチャーの弾丸に耐えきったランサーのマスターが居る。湖面の中央に浮かぶボートの上に仁王立ちになり、ランサーの戦いを見守っている。

 ランサーの攻撃が止む。一瞬振り返ると、炎を纏う黒い獣が上半身を捻っている。槍を投げる動作だ。

 アーチャーの中に、直感めいた予想が過った。一瞬躊躇うが、策もない。予感を信じ、行動に移す。

 アーチャーは逃げる方向を変える。森の奥地ではなく、燃え落ちた木々の隙間を行く。向かう先は湖だ。隠れる場所はない。

「血迷ったかアーチャー!」

 隠れる場所がなくなれば、地力で劣るアーチャーが不利だ。それでも、灼けた森へ進んだのには理由がある。

 ランサーの魔力が膨張する。先にも感じた、投擲の予兆だ。そして放たれる直前、急激に魔力が衰えていくのがわかった。

「貴様……!」

 ランサーの苦悶の声が聞こえた。アーチャーは予感が的中したことを確信した。そして、それを声にする。

「そこからでは槍を放てまい!マスターを巻き込むのが恐ろしいか!」

 アーチャーの目の前にはロイク・ロットフェルトの立つボートがある。背後から槍で射抜こうとすれば、その射線上にいるロイクが犠牲になる。ランサーの宝具は見るからに制御の聞かない暴れ馬だ。槍の投擲によってアーチャーを的確に射抜けたとしても、槍の纏う炎がマスターを灼くだろう。

 アーチャーは湖に向かって走り、勢いそのままにボートに向かって飛んだ。湖の中央に佇むボートに降り立つ。そこに立つ青年が怯えた表情でアーチャーを見ている。

「ひ、ひ」

「契約書だ」

 ロイクが手に持った紙束をアーチャーに渡す。震える手から強引に奪い取る。銃撃をしようと猟銃を構えると、アーチャーの腕に短剣が突き刺さった。

 見覚えのある短剣だ。飛び去った湖畔を見ると、憤怒の表情に彩られた槍兵がいた。

「戻れ!アーチャー!」

 アーチャーは怒声を無視し、傍らのロイクを人質にしようとする。しかし、一瞬の間にロイクはボートから飛び降りていた。湖を探すが、見当たらない。潜っているのか。

 ……逃げ足の早いマスターだ。

 舌打ちを一つ残し、ランサーのいない方向の岸に向けて飛び去る。短剣の突き刺さる手にはしっかりと契約書が握られている。枯れ木が乱立する冬の森に立つ。そのまま、街へ向けて走る。

(環、いま帰る!)

 短く報告する。喜びに彩られた返事が返ってきた。しかし、既に令呪が残り一画だ。転移は使えない。この足で逃げ切る必要がある。

 背後を振り返ると、追い縋る気配がした。ランサーだ。しかし、その姿が見えない。まだランサーとは距離がある。アーチャーは残る魔力でありったけの幻術の罠を仕掛ける。

 ……これで、帰れる。

 令呪こそ二画を失ったが、当初の目的を達した。後はこのまま走り去るのみだ。ランサーは脅威だが、索敵能力は高くない。

 油断があったのかも知れない。勝利を確信して走るアーチャーの耳に、感情の籠もらない声が響いた。

「この門を潜る者は一切の希望を捨てよ」

 そして、眼の前に異形が現れる。アーチャーを越える巨大で黒い身体に、蝙蝠のような翼。敵意を示すような鋭い鉤爪がアーチャーの胸に振り下ろされた。

 傷跡から血が滴り落ちる。力が入らず、血溜まりに倒れ込む。その間に目の前の異形が消える。代わるように、少年の声が聞こえた。

「その契約書。僕が頂こう」

 この世のものではないような、浮世離れした雰囲気を持つ声だった。少年が優しくアーチャーの手を解き、握られていた契約書を奪い取った。

 

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