Fate/immature children   作:waritom

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第五章
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 冷たさの滾る湖から這い上がる。水の冷たさにロイク・ロットフェルトは身を震わせた。ボート上に現われたアーチャーから無様に逃げ出したが、今は生き残ったことへの安堵が大きい。湖の汚れた水が身体を汚れも気にすることなく、枯れ葉の上に寝転がる。

 サーヴァント相手に常人が立ち向かえるはずがない。そのため、ロイクが選択した逃亡は妥当な行動のはずだ。

「無様な姿だな、ロイク」

 しかし、ロイクを出迎えたサーヴァントは不愉快を隠そうとはしなかった。

 身に張り付く様な黒い鎧。ところどころに穴が穿たれており、銃撃の傷跡だと気が付く。幾つかは血が滲んでいる。相貌は苦悶に満ちており、平時の嘲る様子など微塵も感じさせない。そして、最も目につくのは右の腕だ。炎の呪槍を握っていた右の手は、灼けるという状態を超えて真っ黒に焦げ付いている。傍から見れば右の腕は二度と動かせる状態ではない。どころか、今すぐにでも崩れていきそうだ。治癒魔術も、令呪に寄るサポートも焼け石に水だったようだ。

「アーチャーは死んだぞ」

 崩れかけた右腕も気にかけることなく、ランサーは淡々と告げた。

「そ、そうか。後はアサシンだけだな」

「いや、アサシンのマスターは死んだだろう。あと、キャスターが生きていた。マスターはテオと言うらしい」

 ランサーの言葉にロイクの身体が固まる。テオ。湖に沈んでいった彼がまだ生きていたのだ。ロイクの胸の内に炎が宿る。キャスターがいるとすればロットフェルトの屋敷か。

「ランサー。傷が塞がり次第、キャスターの討伐へ行くぞ」

 向かい合うようにランサーを見る。平時は戦いに焦がれる様子のランサーが、消沈したような、感情の消えた瞳で睨んでいる。

「ロイク。悪いが俺は降りる」

「どういうことだ」

 ランサーの言葉に、ロイクは戸惑いながら問い糾す。思わずランサーに近寄るが、ランサーが傷の浅い左の手に短剣を持ち、その切っ先をロイクに向けた。

 ……本気で、抵抗しようとしている。

 ランサーの目に浮かぶのは、どこまでも冷めきった感情だ。

「この戦争、既に興味は失せた。残りは魔術師ただ一人。片付けたところで俺の求める称賛には程遠い」

「だったらなんだ。聖杯を諦めるとでもいうのか」

 ランサーが冷めた目のまま首肯した。

「そうとも。俺が求めるのは強者を打倒したという勝利の証。それ以外に興味はない」

 ランサーが求めていた強者。セイバーとアーチャーだろう。しかし、そのどちらも既に敗退している。残るキャスターに興味を失っていても不思議ではない。

「残る令呪で俺に自害を命じろ。さもなくばロイク、死なぬ程度に傷をつける」

 ロイクに残る令呪は一画。使い切ればランサーだけでなく、ロイクも敗退することになる。

 ……それはできない。まだ、テオが残っているのだから。

 テオ・ロットフェルト。ロイクが打倒すべき肉親。テオのことだけを考えて、ロイクは戦争に望んでいたのだ。

 短剣の切っ先がロイクの頬を切り裂いた。地面に散らばった書類を集めるような自然体で、マスターであるロイクをランサーが傷つけたのだ。いかにも面倒という感情が、ランサーから伝わる。

「どうした。早く命じねば傷が増えるぞ」

 もはやランサーに交渉の余地はない。強者が消えたという現実が覆らない限り、態度が改まることはないだろう。

 思わず、左の甲を見る。

「貴様の父のように全身を灼かれても立っていられるか、試してやろうか」

 父、クサーヴァー。全員に秘してセイバーのマスターとして参戦していた。セイバーは不死なる堅牢さを持つ騎士だった。

 ロイクの首元に、ランサーが剣の切っ先を当てる。切れ味の鋭いこの短剣ならば、横に薙げばロイクの首は胴から落ちることになるだろう。

 父ならば、クサーヴァーならば、首を落としても生きていただろうか。場違いな現実逃避を考える。

 ……そういえば。

 突如、ロイクの脳内に天啓じみた直感が宿った。

 ……いや、まさか。

「どうした、早く使え」

 短剣がロイクに押し当てられ、首筋から血が流れる。それでも、ロイクは考えることをやめない。断片的な部品が繋がり合い、天啓を裏付ける。

 そして、導き出される事実を、ロイクは口にした。

「ランサー、ついて来い。セイバーはまだ生きている」

 

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