Fate/immature children 作:waritom
カヤ・クーナウは街を駆けている。冬の風が身を切るように身体を冷やす。しかし、疾走する足を止めることはない。
徐々に日が落ちている。ルスハイムの空が朱に染まっている。間もなく闇に覆われるだろう。
「カヤ、報告することがある」
実体化して並走するサーヴァントが、カヤに念話で告げる。
「アーチャーから遺言を預かっている」
アーチャー。ランサーとの戦いの最中、キャスターの不意打ちで破れたサーヴァント。そして、死の際にカヤを狙う呪いから助けた恩人だ。
「キャスターのマスターはテオと言う名だそうだ。んん」
アサシンの告げた名に、覚えがある。テオ・ロットフェルト。ロットフェルト家を出て、聖杯戦争の折に戻ってきた血族。
「ライダーのマスターね。敗退したと思っていたわ」
「ライダーが生き残らせたのだろう。んん。そして、キャスターと再契約したというのが妥当なところか」
聖杯を勝ち取ろうとするマスターであれば、自然な行動だ。しかし、カヤはテオ・ロットフェルトという存在を訝しんだ。
……家に牙を向いていたテオが、何故ロットフェルトの敷地にいる。
テオは以前のキャスターのマスターであるゲルトと共に、ロットフェルト家を強襲していた。この戦いは他ならぬカヤが間近で見ている。それゆえに、カヤにはテオの目的が聖杯ではなく、むしろロットフェルト家を襲うことあるのではないかと思っていた。
「不自然さがある。テオは何故、ロットフェルトの敷地でアーチャーを襲う?んん」
アサシンが自問する。カヤと同じ疑問だ。
「テオの様子では、ロットフェルトを大層憎んでいるようだった。キャスターのマスターとなっている以上、ゲルトは死したのだろう。……いかんな。情報が足りぬ」
独り言のように紡がれる言葉の羅列に、カヤも疑問が深まった。
テオ・ロットフェルト。ロットフェルト家を襲い、未だにその敷地にいる以上、彼の敵は排除されたはずだ。敗走したのであれば、ロットフェルトの敷地にいることがおかしい。
テオの敵。当主であるクサーヴァーだろう。ロットフェルト家に攻撃を仕掛けた者を、当主が捨て置くはずがない。まして、敷地内で好きにさせているなど有り得ない。
つまり、ロットフェルト家の当主は既に死し、当主の座はテオの手に落ちた。聖杯戦争の決着を待たず、実質の当主の座を確定させたのか。
……けれど、やっぱり不自然。
ロットフェルトの森で見た、悲壮感の漂うテオの顔を思い出す。当主の座を簒奪せんとする野心家の目ではなかった。もっと、素朴な願いを叶えんとするような、そんな目だった。
不自然な参加をしたマスターが、不自然な状況の中心にいる。カヤにはテオが、脅威でもなく、恐れるべきものでのなく、ただ不可解の塊に思えた。
……問い糾したい。何を思って、何をしようとしているのか。
人だかりが少なくなり、郊外へ至る。ロットフェルトの森は眼の前に広がる。
「これを」
言葉少なく、アサシンがカヤに紙を渡した。ロットフェルト家の敷地へ入る、通行手形だ。
「これもアーチャーから?」
「ああ、これだけではない。彼は死した身体でここまで走り、私にすべてを託した」
アサシンの言葉に沈痛な感情が伺えた。アーチャーとの関係は事務的なものに終始していたようだった。しかし、最後の思いを託され、さしものアサシンも心を揺さぶられたのだろう。
「切り替えるぞ、カヤ。ここからは敵地。真っ直ぐ城へ向かい、テオ・ロットフェルトとキャスターを打倒する」
アサシンの言葉に首肯する。
「これが、最後の戦いよ」