Fate/immature children   作:waritom

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 全ての呪文を言い切り、鉄輪から現実に戻っていく感覚に浸る。カヤの工房は異質な魔力に満ちていた。閉じていた目を開くと、召喚陣の中央に男がいる。

 小柄な男だ。黒い外套で体型が隠れているが、ともすればカヤよりも小さい。だが、浅黒い肌の奥に覗く眼光はただならぬ存在であることを告げている。

 カヤは此度の戦争に当たり、アサシンに強固な触媒を用いた。アサシンは通常、ハサン・サッバーハと呼ばれる暗殺者集団の歴代当主が召喚される。これはアサシンという名称そのものがハサン・サッバーハを起源としており、名前自体が触媒として機能するためである。

 カヤはあえて、このハサンを呼び出すことを回避した。各地で起きている亜種聖杯戦争ではハサンが猛威を奮っている。そのため、歴代ハサンは詳細に解析されており、この情報は此度の戦争の参加者も入手しているだろう。さらに加えるならば、歴代ハサンのなかには諜報に秀でている者もいるが、暗殺のみに特化した者もおり、どのハサンが来るかは運任せとなる。

 改めて目の前の存在をつぶさに見る。ハサンの象徴たる髑髏面をつけてはいない。カヤは狙い通りの英霊が目の前にいることを確信した。

「……何を、見ているのかね」

 召喚人の中央に立ったまま、件の英霊が口を開く。

「私を呼び出したのは、女、お前ではないだろう。早々に主人を呼ぶがいい」

 アサシンの言葉に一瞬、カヤは理解が追い付かなかった。

 ……何故、私がマスターでないと勘違いをしている?

 そして、カヤは疑問をそのまま口にする。

「アサシン。私がマスターよ」

「んん?口が聞けたのか。使用人にしては魔力が充実していると思ったが、なるほどマスターとは。だがな、マスター。口が聞けるのならば、まず真っ先にすべきことが有るだろう」

 無礼極まる物言いに、腹立たしさを感じる。力ずくで押し黙らせるか令呪を見るが直ぐにやめた。まだ、早い。無礼には無礼で返せばよい。

「悪いわね。微動だにしないから、間違って石像でも召喚したのかと思ってね。口を開いてくれてよかったわ。あと少し黙っていたら失敗作として退去させていたから。……そうそう、自己紹介ね。でもね、こういうのは男性から始めるものじゃなくて?ジェントルマン?」

「これは失礼した。だが、使用人にいちいち名乗る貴族はおるまい。んん、使用人ではなかったな。重ねて失礼を。その汚い身なりで主人と言われても、なかなか納得できなくてね。まあ、この汚い屋敷には相応の格好ではある」

 ……確かに魔術式やら召喚陣の準備やらで、身なりが綺麗とは言い難いけれど。

 暴言を言い切ったアサシンは、召喚時から変わらず仏頂面を下げたままだ。彼なりの冗談とは思えないのである程度本気なのだろう。いつまでもこの応酬を続けるわけには行かないので、ぶっきら棒に話の流れを変える。

「パス。私から魔力が流れているの解るでしょ?感じ取れていないなら、それこそ退去させるわよ」

「んん。確かに君から魔力が流れてきているな。マスターだと認めざるを得ないか。んん。それにしても女とは。まあ、これも運命というか、因縁というものか」

 アサシンはブツクサと小言を並べる。後半はカヤには聞こえないほど小さい声になった。納得したのか折り合いをつけたのか、まっすぐカヤの元へ歩むと手を差し出した。

「改めて。サーヴァント、アサシンだ。軽口は癖のようなものだ。見逃し給え。そして口の立つ御仁は嫌いではない。んん。そういえば真名は必要かね?」

 カヤは差し出された手を握り返した。痩せて、骨ばった硬さを感じる。

「カヤ・クーナウよ。女で悪かったわね。まあ、あなたの伝承を思えば女性はうんざりってところでしょうけど」

「お察しいただき嬉しいよ、カヤ」

 アサシンは跪き、カヤの手の甲、令呪に口づけた。そして、厳かに言う。

「聖杯を我らのもとに。忠誠を誓いましょう」

「……貴方、私に使用人とか小汚いとかいってなかったけ」

「んん。何か特別な感情でも湧きましたかな。これはただの挨拶。魔力を与えてくれることへの感謝の念もほんの少し込めてますな。いかに小汚い娘であろうと財源は大事にしないと」

 跪いたままきっぱりと言い切るアサシン。頭が痛くなる。まさかこの段階で苦しみ始めるとは思わなかった。カールに変わってもらえばよかった。

「早速だが、カヤ、質問が」

「何。悪いけど、軽口に付き合う気はないわ」

 カヤはにべにもなく返事をする。時刻はもう遅い。今後の方針等は明日決めるとして、今日はもう眠りたかった。儀式場を後にしようとアサシンに背を向ける。

「君はこの戦争、勝つ気があるのかね」

 カヤは足を止めた。カヤの目的はロットフェルト家以外のマスターの排除である。聖杯は望んではいない。だが、アサシンは違う。英霊は聖杯を欲する存在であり、そのチャンスを得るためにサーヴァントという使い魔の身に甘んじる。

 マスターが聖杯を望まないと知られれば、サーヴァントはどのような行動を取るかわからない。如何に令呪があろうと、カヤの本心をアサシンに知られるのは危険だ。

「私の正体を知って召喚するものがいることに驚いたのだよ。だからだね、んん、本気で勝つ気が有るのならば、戦略を教授いただきたい。まさか、聖杯を望まずに英霊を召喚したわけではなかろう?」

「……願望機を望まずに、殺し合いに参加する無能に見えるかしら」

 アサシンの問に煙に巻くような解答をする。

「んん。ふむ。んん」

 彼の口癖だろうか。くぐもったつぶやきが聞こえる。

「もういいかしら。明日は街へ出るわ。戦場視察は基本でしょう」

「よろしい。我が性能の一端をお見せしよう。ところでカヤ、重ねて質問が」

「何よ。これで最後にして」

 振り返り、苛立たしく言い放つ。仏頂面だったアサシンがひどく困惑したような表情で言った。

「君は、その、んん、こんな汚い屋敷で寝るのかね?」

 

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