Fate/immature children 作:waritom
アサシンを伴いルスハイムの街を駆け、ロットフェルトの敷地に入った。その後、近くの小屋に停められていたボートを使ってプラウレン湖を渡り、城に辿り着く。不気味なほど、他のマスターからの妨害はなかった。残るマスターであるテオ・ロットフェルトはロットフェルト城で向い打つ算段なのだろうか。
疑問を口に出さず、船着き場から城へと続く長い階段を登る。最後の一段に足をかけると、巨大な扉に手が届く距離になった。
緊張からか、思わず躊躇いが生まれる。
「気を負うな、カヤ。それとも、臆病風に吹かれたのかね。んん」
背後に立つアサシンが冗談めいて言う。
「何を言ってるの。気を負ってるし、怖くて震えそうよ」
カヤはアサシンの言葉に、正直に答える。
「では帰るか?」
アサシンの言葉に、カヤは笑みと共に返事をする。
「有り得ないでしょ」
回答は決まっている。ここで引くなど有り得ない。引けば、命懸けでカヤの命を救った環が死するのだ。
「では、行こうか」
そしてアサシンに促され、自然と扉に手が伸びた。冷たい戸の感触を味わいながら、それでも扉は滑らかに開いた。豪奢な装飾に満ちたエントランスが目に入る。しかし、人の気配はない。おずおずと中に足を踏み出す。
途端、景色が一転した。人工の構造体は消え去り、カヤの眼には自然物が満たされているように見えた。草原だ。わずかに伸びた草が生い茂る広い空間。その空間に光をもたらすのは中空の月だ。
……どこかに、転移された?
目に見えていたエントランスは確かに存在していた。しかし、踏み入れた途端に何者かの手によって転移をさせられたのだろう。
ルスハイムの市街から城に入るまで、一切の妨害がなかった。万に一つ、敵がカヤ達の侵入に気が付いていない可能性も考えていたが、間違いだったようだ。
夜の草原の中央に、不自然なものがあった。椅子だ。装飾に満ちた、機能性よりも権威を示すような大きな椅子。
その椅子に、青年が腰掛けている。
ひどく、疲れたような表情だ。若く見えるが、その奥にある懊悩が隠しきれていない。長い棒のような物を抱くように持ち、カヤを睨みつける。
カヤは、その人物を知っていた。
「テオ・ロットフェルトね」
カヤの言葉に、テオがふらつきながら立ち上がる。
「アサシンのマスターだな」
テオから見れば、カヤの存在など取るに足らないだろう。アサシンのマスター。それ以上の認識はないということだ。
「ねえ。戦う前に聞いておきたいのだけれど、いいかしら」
テオがカヤを睨んだまま、問に答えない。しかし、攻撃を始める気配もない。カヤは肯定と受け取った。
「貴方、何がしたいの?」
テオの口の端が歪む。
「無論、魔術の完成だ。俺は聖杯を掴み、俺達の望む魔術を完成させる」
テオの言葉に、カヤは落胆の思いが過った。
テオ・ロットフェルト。ロットフェルト家に背を向けて、ロットフェルト家を襲った血族。カヤは、彼に普通の魔術師ではない思いがあるのではないかと思っていた。しかし、目の前にいるテオという人間は、カヤの知る魔術師像を裏切ることはない。
「貴方には、もっと理解できる望みがあると思っていた」
「理解されたいとは思わないさ。ただ、俺は俺の目的を達する」
そしてテオの傍らに、少年が現れる。サーヴァント、キャスターだ。
「久しぶりだね、アサシン」
「貴様がここまで残るとは思わなかったぞ、んん、キャスター」
「それはお互い様だ。戦う力がないのは僕も君も同じだろう」
マスター同士が睨み合うように、サーヴァントも敵対する意思を隠そうともしない。
「ランサーが倒れ、セイバーも死んだ。この戦いが正真正銘の最後だ」
キャスターに魔力が籠もる。それが、戦いの合図だった。
カヤはキャスターを無視し、テオへの距離を詰めるべく、走り出す。草がカヤの駆ける足に千切れて、宙を舞った。
……近づきさえすれば。
戦闘力の無いカヤとアサシンが唯一持つ武器。それは、カヤの魔力が少ないが故に、距離を詰めねば発動しない。
「アサシンの宝具は知っている。無駄な様子見は命取りだ。だから、初手で殺す」
しかし、距離を詰めることは敵わない。カヤは見た。テオ・ロットフェルトが左手の甲に宿る令呪を使用するのを。
「令呪を持って命ずる。キャスター、宝具を開帳せよ」