Fate/immature children   作:waritom

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第六章
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 両手の治癒にはかなりの時間が必要だと、男は言った。

「分かっていると思うが、無茶のしすぎた。右の手の火傷は異常に治りが遅いし、骨折もしている。左手に至っては切り落とされているのだからな。治癒と言うよりも義手の作成が必要だ。……何?自分でやった?知っているとも。だからこんな言い方をしているんだ」

 清潔で満たされた空間。戦場のスイスから遠く離れたイギリスの病院に、ロイク・ロットフェルトはいた。総合病院の個室にはロイク以外には男が一人いるだけだ。

「分かっているなら、もう少し優しくしてくれてもいいんじゃないかな。それだけ大変な戦いだったんだよ」

 ロイクはベッドに身体を預け、戯けるように言ってみる。

 聖杯戦争の集結から、一ヶ月近くが経っていた。セイバーとランサーの戦いを最後に、ロイクはヘルマンによって教会に保護された。怪我の応急的な処置は教会の者が施したが、両手の怪我は簡単に治るものではなかった。

 右の手はランサーを召喚直後に砕かれており、更に、彼の燃える槍を握ったためにやけどを負っている。英霊たる戦士の槍の炎だ。簡単に治る道理はないだろう。今もロイクを疼痛に悩ませるが、不思議と不愉快ではなかった。

 左の手は更にひどい。今は包帯で見えないようになっているが、手首から先がないのだ。セイバーを打倒するために、令呪ごと切り落とした。自分でやったことだが、思い切ったことをするものだと思う。切り落とした手首は礼拝堂で燃えてしまったらしい。

 このような大事態になってしまったため、ロイクは教会が提示した病院を辞退し、最後の頼りを使うことにした。

「感謝しているよ。ウッツ兄さん」

 ウッツと呼ばれた長身の医師は小言を止めて嘆息をした。

「何事かと思ったぞ。くだらない親族争いで親父と兄貴とテオとハンナが死んで、お前が大怪我をしたって。本当に魔術師というのは度し難い集団だな」

 ウッツの表情に嫌悪とも後悔とも取れる色が混じる。

「それに、お前は俺を嫌っていたと思ったのだがな」

「そんなことは、そんなことはないよ」

 ロイクにとって兄妹は後継の椅子を闘う相手でしかなかった。しかし、もとより魔術回路を保たないウッツは例外だった。同様にエルナも魔術の素養がないが、彼女にはロイクの方が毛嫌いされていた。

「まあ、なんでもいいさ。しかし、よく俺の勤め先を知っていたな」

「クリストフから聞いていたんだ」

 ロイクの言葉に、ウッツが残念そうに目を伏せる。

「あの人は、たまに手紙をくれてたからな。最後まで親父に尽くす義理なんてないだろうに」

 ロイクにとって、クリストフはある種父のような存在だった。ウッツにとっても近しい感情があるのだろう。

「これだけの死人を出しておいて、お前はまだ魔術というやつに拘るつもりか?」

 ウッツが改めて、ロイクを見つめる。真っ直ぐな目に、思わずロイクは俯いた。

 結局、ロットフェルトの魔術刻印は誰が継いだのかわからない状態だった。当主である父の死体は見つかったが、背中にあるはずの魔術刻印は抜き去られていた。

 ……手練の魔術師の技か。それとも。

 考えられるのは、テオが持ち去ったことだ。テオの行方は杳と知れず、確かめる術はない。

「いや、ちょっとだけ寄り道をしようと思っている」

 ウッツの問に、ロイクはゆっくりと回答した。

「この戦争が終わったら、ロットフェルトの後継者として大手を振って時計塔に行こうと思っていた。今も、魔術師として道を極めたい思いはある。……けれど、ね。普通の大学に行って、研究をしたいんだ。古い、神話の研究を」

「何故また、そんなことを」

 ウッツは不思議なものを見るように、ロイクに質問した。

 ロイクが最後に命を奪ったかの男。そして、その勇猛な戦いぶりはロイクが誰よりも知っている。彼の強さが歴史に残っていないはずがないのだ。

 ロイクの中に過ぎるのは、罵られながらも最後まで戦った槍兵の顔だ。彼の最後の願いを、ロイクは叶える必要がある。

 ロイクは、ウッツに端的に答えた。

「勝者の義務さ」

 

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