Fate/immature children   作:waritom

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「あれから三ヶ月。長いようで、すぐだったね」

 断続的な揺れに身を預けていると、いつの間にか眠っていたらしい。トラックの荷台は意外なほど快適で、食料と共に積荷扱いされていることを忘れさせた。トラックはかなり古く、荷台には簡素な幌が取り付けられているだけだ。隙間から、強い日差しが差し込まれる。

 声の主は、同じく荷台に居た。古びたトラックに似つかわしくない神父服を纏い、男とは対象的に不快感を隠そうともしない。気を紛らわせるために、口を開いたのだろう。

「君の治療は大変だった。宮葉環に使った残りの聖杯の魔力をもってしても、命を繋ぎ止めるのに間一髪だ。しかし、僕はこれでも神職でね。危機に瀕した命を見捨てることは選択肢にない」

 神父服の男、ヘルマンは、一人で言葉を続ける。目を合わさずに、布の隙間から外の景色を覗く。荒れた砂地が続く。

「それにしても驚いたよ。体調が戻って直ぐに、次の聖杯戦争に行きたいだなんて。確かに、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアに端を発した亜種聖杯戦争は世界各地で起こっている。僕はその戦いを審判するのが役割だ。望むのならば、案内することは吝かじゃないさ。けれど、君はもう、戦いなんてうんざりじゃないのかな」

 ヘルマンの声に、男は何も言わない。言うべき言葉がないのだ。うんざりという感情は持ち合わせていない。ただ、心の底から湧き上がるような渇望を叶えるためには、聖杯が一番の近道なのだ。

 反応を寄越さない男に対して、神父が嘆息を漏らす。

「じゃあ、興味のありそうなことを言おう。僕らが向かっているのは砂漠にある地下都市。既に死んだ魔術師が残した工房だ。いや、死んだと思われていた、が正しいかな。人としては死んでいるのだけれど、実は生きていてね。聖堂教会の僕から見ればいない存在なのだけれど、吸血種になって生き延びていたらしい。魔術師というのは分からない生き物だね。人の身を捨ててまで、何を求めているのだか。……その彼が聖杯を下ろすために、聖杯戦争を望んでいるそうだ。君には、人ならざる参加者全員を殺して聖杯を奪って欲しい」

 砂塵が布を叩く音が響く。布の隙間から砂が入り込み、ヘルマンが顔を顰めた。

「まったく。見つからないためだからといって、なんだってこんなところに住もうとするかな」

「地獄に、似てるからだろう」

 男には、砂漠の吸血種の気持ちが分かった。道を往くには安寧は不要だ。ただ、純粋な思いがあればいい。そして、自分には願い以外の何もないと、常に知らしめておく。地獄に似た何もない砂漠は、うってつけの環境だ。

「なあ、テオ。君の身体は治したけれど、一箇所だけ元に戻らなかった。僕にはそれが、致命的な手遅れに思えるんだ。僕は元の君をよく知らないけれど、君はもっと人間らしかったろう?」

 男は神父の言葉に何も返さない。元、など知らないのだ。そして、テオという名前も見に覚えがなかった。ただ、自分を見て、その名で呼ぶ者は幾人かいた。

「君は、何を望んで戦場に行く?」

「無論、魔術の完成。我が同胞と共に、生と死の境を取り払う。そして、すべての死の悲しみを過去のものにする」

 言葉を発すると、男の頭に見に覚えがない情景が映し出される。可憐な、儚い少女。そして、彼女が既に死していること。胸から血を流し、無残に息絶えていること。

「……ハンナ」

 男は小さく名前を言う。ヘルマンにさえ聞こえない程、小さな声で。

 幌の隙間から生き物のいない砂漠が見える。この先に、聖杯を手にすれば頭の中の、決して届かぬところにいる少女に会うことができる。男はそれだけを願い、死の砂漠の最果てを見る。

 銀の双眸が彼方を睨んでいる。

 

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