魔法少女リリカルなのはで盗掘中   作:ムロヤ

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すごく久しぶりの投稿です。


格闘訓練

 あの後魔法に関しては近接魔法、防御魔法、捕縛魔法や結界魔法までいろいろと実践させていったが、結論はラヴィエに教えていると俺の自信がなくなるということが分かった。

 

「……おしまい?」

 

「いやまあ……これで一通りかな。あとは自分に合うように調整してからだな。今回でラヴィエの得意な魔法を特定しようと思っていたが、ラヴィエにはそういった偏りはないようだから、気にする必要もない。あとは状況によって使い分けれるようになることだが、これはもう経験を積んでいくしかないからな」

 

 今回でわかったのはラヴィエには下手に教えて、変な偏りを作るよりも今のオールマイティな状態を維持することの方がいいということが分かっただけだ。

 本来ならスピードか防御かや、手数でいくか威力でいくかなどの方向も決めた方がいいのだが、ラヴィエはそういった弱点になりそうなものは数多く所持しているレアスキルで大概はカバーできてしまうので、正直教えることがなさすぎる。

 

「とりあえずしばらくは、ここで仮想敵と戦うか格闘術を学ぶことが優先だ」

 

「……」(こくり)

 

俺がそう言うと、ラヴィエは頷いた。

 

「さて次の格闘術だ。まずはどの程度、自分の体力が続くかテストする」

 

「……」(こくり)

 

まずはラヴィエの体力を知るため、俺は持久走を行うことにした。とはいえこの近くには走り回れるような場所はないので、アジトのトレーニングルームにあるマラソンマシンでのテストになる。

 

「……一緒」

 

「俺も走るのか? まあ、マシンは二台あるし構わないか」

 

珍しくラヴィエの方から提案してきたので、俺はラヴィエの隣のマシンに乗る。

 

「まずは流す感じでだ。それじゃあスタート」

 

こうして俺とラヴィエは並んで走り始めた。

 

一時間が経過

 

「ラヴィエも余裕そうだな」

 

「……」(こくり)

 

俺は遺跡でぼ活動も考えて、それなりに体をきたえているため一時間程度を緩やかに走る程度では息は上がらない。

ラヴィエの方は、体はあの変態《スカリエッティ》が調整しただけあって身体能力が高く、疲れた様子もない。

 

「それじゃあ速度を上げるぞ」

 

「……」(こくり)

 

五時間経過

 

「ふぅ」

流石に速度を徐々に上げながら五時間が経過すると汗が出てくる。

 

「……」

 

「大丈夫か? 今で大体時速20kmくらいだが……」

 

隣を見るとラヴィエは先ほどと変わらない表情で走っていた。

 

十時間経過

 

「ひゅーひゅー……」

 

あれからさらに速度を上げて行き、今では殆どが全力疾走と変わらない速度となっている。俺は既に体力の限界を超え、呼吸も怪しい音へと変わっていた。

 

「……」

 

 そんな俺の方をラヴィエは不思議そうに見ている。

 そして俺はようやくあることを思い出した。

 

 【M】の中には身体能力を強化するタイプのレアスキルを始め、再生や体力高速回復などもあったことを。

 そしてそれらの肉体関係のレアスキルの多くは常時発動型で、その結果ラヴィエの体力は文字通り底無しの状態となっている。

 戦闘のように凄まじい集中力や激しい動きを必要とするならともかく、何も考えずに走っているだけではラヴィエの体力は減った瞬間には回復している。これではマラソンでの体力測定など無意味でしかない。

 

「ぜぇぜぇ……」

 

「……大丈夫?」

 

 顔を覗き込んでくるラヴィエの頭をポンポンと叩きながら、俺はスポーツドリンク手に取る。

 

「だ、大丈夫だ。うぐ、うっく」

 

 一気にそれを飲み干して何とか一息ついた。

 

「……おしまい?」

 

「ああ、おしまいだ。ってか、意味がなかったな」

 

 体力測定も魔法技能の確認も、正直に言ってラヴィエには必要なかったというのが結論だ。

 

「ふぅ、少し休憩したら出かけよう」

 

「……どこ?」

 

 俺が出かけると言ったことで、先日の街に出かけたことを思い出したのか。それとも街で買ったアイスを思い出したのか、若干嬉しそうな表情でラヴィエが俺の服の裾を握ってくる。

 そんなラヴィエには申し訳ないが、今回俺達が行くところは決して楽しいところではない。というか、むしろ俺は行きたくない。

 

「残念だが街じゃない。今回出かける先は変態のところだ」

 

「……へんたい?」

 

「ああ、変態だ」

 

 俺はそういってラヴィエの手を引き、スカリエッティのアジトへと向かうことにした。

 

 

 

「おや? これはこれは、珍しい客人だね。どうしたんだい?」

 

 アジトに着くと、ウーノに案内されスカリエッティの下まで俺たちは通された。

 

「別にお前に用があるわけじゃない。トーレはどこだ?」

 

 だが、今回はスカリエッティに用があったわけではない。

 今回俺が会いたい人物は彼ではなく、その娘の一人であるトーレだ。彼女は名前の通りナンバーズの三番目であり稼働している時間も長い。

 さらに実戦での近接格闘に秀でている上に、ウーノ(No,1)ドゥーエ(No,2)と違い完全な戦闘タイプだ。

 これほどラヴィエに格闘術を教えるのにうってつけの人物はいない。

 

「トーレかい? 彼女ならノーヴェに訓練を付けているよ。ふむ、私に用事ではなくトーレにと言うことは、その子の訓練かい?」

 

 スカリエッティがそう言って俺の側に立っているラヴィエに視線を向ける。

 

「ああ、そうだ。それより、ノーヴェってのは?」

 

 俺は初めて聞いた名前に首を傾げた。

 

「私たちの新しい妹です」

 

 ウーノが空中にモニターを出現させると、そこには気の強そうな顔つきの少女の映像が映し出された。どうやらこの少女がノーヴェらしい。

 

「なるほど、ノーヴェ。9番目か」

 

 どうやらまたこの変態が新しい戦闘機人を造ったようだ。 

 

「まあ、訓練中なら丁度いいな。訓練室はどこだ?」

 

「ご案内します」

 

「ああ、頼む。ラヴィエ、行くぞ」

 

「……」(こくり)

 

 ラヴィエはウーノの後ろをちょこちょこと追いかけ、俺も部屋を後にしようとした。

 

「ああ、そうだ。訓練が終わったら少しいいかな? 君に仕事を頼みたいんだ」

 

「……また面倒事か?」

 

 嫌そうな顔でスカリエッティの方に振り返ると、いつも通り胡散臭い薄ら笑いを浮かべたまま曖昧に頷いていた。

 

「わかった。後でな」

 

 俺はそれだけ言ってラヴィエ達の後を追って訓練室へと向かった。

 

 訓練室ではトーレが先ほどの映像の少女、ノーヴェと訓練を行っていた。

 

「やってるな」

 

「……」(こくり)

 

 どうやら訓練に熱が入っているせいか、二人は俺達3人が訓練室に入ってきたことに気が付いていないようだ。

 

 ノーヴェが果敢に攻勢に出ているが、その拳や蹴りはほとんどがトーレには届かず、仮に届いても綺麗に受け流されている。

 このあたりはさすがに経験の差が出てしまっているようだ。

 それでもノーヴェは攻める手を弛めない。

 

「なんていうか、えらく攻撃一辺倒だな。……本人の性格か?」

 

 ノーヴェの攻撃は一打一打が速く重いようだが、俺から見ても防御に難があるのが分かる。俺の経験上、あの手のタイプは搦め手に弱い奴が多い。

 その証拠にノーヴェが右ストレートを放つが正直すぎるその拳はあっさりとトーレに回避されてしまう。

 

「家族思いのいい子ですよ」

 

 ウーノの言葉を聞きながら二人の訓練を眺める。

 

 ノーヴェは右ストレートを回避したトーレに対し、左での拳打を放つがそれはトーレにいなされ体勢を崩してしまう。だが、それは予想していたのかいなされて体勢を崩しながらも、勢いを殺すことなく身体を捻り、勢いのままトーレに向かって体重を乗せた蹴りを放つ。

 

「動きは良いんだけどな」

 

 今の一連の流れは実にスムーズな動きではあったが、本人の視線や動きでこの流れは傍から見ている俺にも予想が着いた。当然、対峙しているトーレも分かりきっているためあっさりと防がれてしまう。

 そこにトーレの一撃が入り、ノーヴェが息を詰まらせる。

 かなりいい一撃を貰ってしまったノーヴェは床に膝を着き苦しそうだ。

 

 そのやり取りを見ていたウーノが手をパンパンと手を鳴らした。

 そこでようやくトーレ達は俺達に気が付いたのか、訓練を止めた。

 

「ウーノ、それにイオリか」

 

「よう、トーレ」

 

 俺は軽くトーレに挨拶をする。

 トーレとは顔見知りであるため、俺がここにいることに特に疑問も内容で向こうも挨拶を返してくる。だが、この場で俺と初対面の人物であるノーヴェは警戒しているようだ

 

「……誰だ」

 

「初めましてだな。俺はイオリ、何ていったらいいのかな? スカリエッティの外部協力者みたいなもんだ。んで、こっちはトーレも初めてだろ? こっちはラヴィエ、俺にとって末の妹みたいなもんだ」

 

 俺はノーヴェに軽く手を上げて自己紹介をし、ラヴィエのことを前に出した。

 

「……ラヴィエ、この子はエファンゲーリウム」

 

 ラヴィエはそう言って自分のデバイスを手のひらに乗っけながら自己紹介をする。

 

「ああ、私はトーレだ」

 

 ラヴィエの挨拶に口元を緩めながら、トーレはしゃがんでラヴィエの視線と高さを合わせて挨拶をする。こういったところをみると、本当に面倒見のいいお姉さんといった感じだ。

 それに対してノーヴェの方は未だに警戒しているのか鋭い眼つきのままだ。

 

「ノーヴェ、ご挨拶を」

 

 そんなノーヴェに対してウーノが自己紹介するように促す。

 

「あたしはノーヴェだ」

 

 それだけ言って踵を返すと訓練室の奥へと消えていった。

 

「えらく不機嫌そうだな」

 

「ああ、気にするな。少し前にチンクが重傷を負ったせいで、機嫌が悪いんだ。ノーヴェはチンクに特に懐いていたからな」

 

「ああ、そう言えばそう言ってたな」

 

 前回きたときにスカリエッティが言っていたことを思い出した。

 

「それで? イオリがここに来るのは珍しい……いや、初めてだな」

 

「ああ、ちょっとトーレに頼みがあってな。このラヴィエなんだが、近接格闘術を教えて欲しんだ。知識とかなら俺でも可能なんだが、俺が教えると搦め手ばっかで正攻法が身に着かない」

 

 ラヴィエの頭をポンポンと撫でながらトーレに頼み込む。

 

「別にかまわないが、私とて正道とは言い難いぞ?」

 

「トーレのは正道ではないかもしれないが、実戦的だからな。むしろその方がいい」

 

 それに俺が教えるよりは遥かにマシだ。

 

「わかった」

 

「サンキュー、ほらラヴィエも」

 

「……ありがとう、ございます?」

 

 ラヴィエにもお礼を言わせたのだが、なぜだか疑問形だ。

 

「なら始めよう。好きに打ってこい」

 

「……」(こくり)

 

 二人は訓練室の中央へと移動し、正面から対峙する。

 

 そして、次の瞬間ラヴィエが動いた。

 

 正面のトーレに対して右ストレートを放つ。トーレはそれを危なげなく回避するが、ラヴィエが続けざまに左での拳打を放つ。

 それをトーレはいなし、ラヴィエの体勢を崩しにかかる。

 そこまでの動きで俺たちはラヴィエが何をしようとしているのか悟った。

 

「ん?」

 

「ほう」

 

 崩された体勢の勢いを殺さず、ラヴィエは体重を乗せた蹴りをトーレに向けて放つ。先ほどのノーヴェと全く同じ動きだ。

 

 俺とトーレはそのラヴィエの動きを見て驚いた。

 

 いくら身体能力が高いとはいえ、まさか初見でノーヴェと同じ動きができるとは思わなかった。それに、同じ動きではあっても、速さがノーヴェよりも速い。

 トーレは先ほどノーヴェにやったように一撃入れることはせず、その一撃を回避することしかできなかった。

 

「驚いたな。先ほどの私達の訓練を見て覚えたのか?」

 

「……ん」(こくり)

 

 ラヴィエが小さく頷いて肯定する。

 

「すごいな、身内を贔屓するわけではないが、ノーヴェは十分才能がある。そのノーヴェの動きを見て真似るとは……」

 

 トーレが感心していると、ラヴィエはどこか誇らしげに胸を張る。

 そしてその勢いのままトーレに向かって再び攻撃を開始した。

 

「ん! ……ん!」

 

 初めはノーヴェを真似てなのか力を主体にする攻撃を繰り出す。

 しっかりと地に足を付け、全身の力を拳に乗せての一撃だ。

 

「良い拳だ。だが、軽い」

 

 一撃一撃をしっかりと打ち込むも、ラヴィエの身体そのものが軽いためなかなかトーレに攻撃が通らない。そして自分にこのスタイルが合っていないと判断したのか、次は速さと手数を主体にし始めた。

 

「ん! ん! ん!」

 

 拳で蹴りでトーレの周囲を素早く動きながら、常にトーレの死角へ死角へと小さな身体を動かしての攻撃だ。だがトーレとて速さを主体とした攻撃を得意としている。

 まだ無駄の多いラヴィエの動きに対して、極限まで無駄を排した最短距離の動きで常にラヴィエの攻撃を視界に捉えて防ぎきる。

 

「少しこちらかも攻撃するぞ? しっかり対応しろ」

 

 しばらくはラヴィエに好きにさせていたトーレが動き出した。

 

「ふっ!」

 

 ラヴィエが再び死角に潜り込もうとした瞬間、先ほどまで見せていた以上の速さでラヴィエの動こうとしている方へと身体を向け、ラヴィエへと牽制の一撃を送る。

 

「っん!」

 

 突然の攻撃にラヴィエはやや反応が遅れたが、それを紙一重で躱した。

 

「甘い。この距離で先制させたのなら、体勢を崩す前に離脱しろ」

 

 トーレはそう言ってラヴィエにさらに攻撃を繰り出す。

 一度目の攻撃は紙一重で躱したものの、そこから僅かに体勢を崩してしまったラヴィエは、その一撃を躱すためにさらに体勢を崩した。

 

 そこからはもはや一方的となる。

 体勢を崩したところにさらに一撃、それを躱してもさらに体勢を崩してしまうという悪循環に陥る。何とか離脱を試みたラヴィエだが、その瞬間にさらに鋭い一撃が訪れ、余計に不利な状況へと陥るだけとなった。

 

 そしてそこから丁度十手目、完全に回避できなくなったラヴィエの眼前にトーレの拳が寸止めされた。

 

「ここまでだな」

 

「……ん」(こくり)

 

 尻もちをついたラヴィエにトーレが手を差し伸べ、その手をラヴィエが握った。

 その光景を俺はただ茫然と見ていることしかできなかった。

 

「驚いたぞ、イオリ。ラヴィエだったか? 凄まじい才能だな。いや、才能の一言で片づけていいのか?」

 

「いや、俺も驚いた。こいつの素体自体はスカリエッティに貰ったものだから、データでしかスペックは知らなかったけど、ここまでとは。そういえば昔の技術で、記憶や知識ごとクローンを造るってのがあったらしいけど……関係あるのか?」

 

 その変態がどういった方法でクローンを造ったのか知らないが、あの変態ならできそうな気がする。それならラヴィエに聖王オリヴィエの記憶や知識、あるいは技術が受け継がれていても不思議ではない。というか、そうでも考えないとこの近接戦闘の能力の説明が付かない。

 

「……まあ、関係ないか」

 

 とはいえ、その辺のことを聞こうにも背後にいるウーノから僅かに危険な空気が発せられているのを察した俺は、深く追求することはしなかった。

 

「まあ、これからもラヴィエの訓練を頼むよ」

 

「ああ、構わない。ノーヴェにもいい刺激になるだろう」

 

 俺はそう言ってトーレにラヴィエの訓練を頼んだ。

 

 

 


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