「スカリエッティ、来たぞ」
俺はラヴィエとトーレの訓練が終わってから、ウーノにラヴィエをシャワールームに連れて行くように頼み、そのままスカリエッティの下へとやってきた。
例の頼みごとを聞くためだ。
「おや、早かったじゃないか」
「いいから要件を言え、要件を」
あんまり
「せっかちだね。まあいい、それでは本題に入ろうか。要件と言うのは依頼だよ」
スカリエッティの方も特にそれで異論がないようで、すぐに本題を切り出してきた。
「だろうな。で? 何を探しているんだ?」
前回みたいにおそらくは聖王ゆかりの古代遺物《ロストロギア》だろう。俺はそう当たりを付けていたが、スカリエッティの口から出た言葉は全くの予想外のものだった。
「いや、別段探し物はしていないよ。ああ、レリックは別だ。あれはまだ集めている。ただ今回私が頼みたいのは、何かを探してほしいのではなく、ここを探索してほしいんだよ」
そう言って一つのデータを表示した。
そのデータを見て俺は表情を歪めてスカリエッティを見返した。
「おいおい、ここは管理局の管轄じゃねぇか。俺は基本的に管理外世界がメインなんだが……」
嫌な予感しかしないが、一応最後まで話しを聞いてみることにした。
「ああ、そうだね。こんなところを探索したら、管理局が飛んでくる」
スカリエッティが楽しそうな笑みを浮かべながらそう言ってくる。そこで俺は、スカリエッティが俺に何を依頼したいのかを悟った。
「おいおい、俺に囮をやれってか? 勘弁しろよ」
「そんなに長くなくていいんだよ。ただ最近、私の周りが騒がしくてね。少しの間、他に目を移したいのさ。もうすぐお祭りを開くために、少し集中して作業をしたいのでね」
スカリエッティの言う祭りが何なのかはわからないが、どうやらこいつは何か大掛かりなことをしでかそうとしているようだ。
今まで水面下でしか活動してこないこいつが何をやらかすのか非常に気になるところだが、ここで問い詰めたところで素直に白状するわけがない。アジトに帰ってからここ数年の物資や資金の流れ、後は管理局の動きを一度調べてみる必要がありそうだ。
最悪の場合、こちらに余波が来ることも想定しておかないと拙いかもしれない。
「……その依頼を俺が受けると思うのか?」
「いいや。面倒事を嫌う君が、こんな依頼を受けるとは思っていないよ。……通常の時ならね」
ニヤリと胡散臭い笑みを浮かべて意味深なことを言う。
「通常なら、か。まるで今は通常ではないと言いたげだな?」
スカリエッティは研究が命と言ってもいいマッドサイエンティストではあるが、取引で嘘をつくことはない。
嘘は言わないだけで本当のことも言わずに相手を貶めることはあるが―――。
「ああ、そうとも。君は機動六課という部隊を聞いたことはあるかい?」
「ああ、あの化け物部隊な」
俺はスカリエッティの言う、古代遺物管理部機動六課のメンツを思い描いた。
管理局のエース・オブ・エースである高町なのはと、執務官フェイト・T・ハラオウンを分隊長に据え、さらに歩く
その3人だけでも十分に過剰戦力と言えるのに、そこに八神はやての下にいる守護騎士プログラムまで存在している。
いったい何が目的であんな部隊を作ったのか理解に苦しむところだ。正直に言って、あの部隊のせいでミッドチルダ近辺の世界には足を踏み入れずらくなっているのが、俺のような犯罪者たちの心境だ。
特に古代遺物管理部という部署名の通り、俺のような
おそらく今、俺が何らかの痕跡を残せば真っ先に飛んでくる部隊だろう。だからこそ、今はおとなしくしていたいのだが、スカリエッティが話しを進めていく。
「あの部隊はね、これから起こるであろうちょっとした事件に備えてのものなのさ。だから、種を開かせばあまりミッドチルダからは動けない。いや、動かせないと言った方が正しいかな。だから、今ならこの世界に君のような盗掘者が入っても、動くのはせいぜいこの新人たちと言ったところさ」
そう言ってスカリエッティが個人データを俺に渡してきた。
ティアナ・ランスター
スバル・ナカジマ
エリオ・モンディアル
キャロ・ル・ルシエ
それぞれの名前と魔導師ランク、それと保有技能、さらに個人が抱える問題点などが掲載されているデータだ。
完全に管理局から流出してきたデータだな、これは。
「……確かにこの程度ならどうとでもなるな」
データを見て思ったことを正直に口にする。
年齢に比べれば優秀ではあるが、それはあくまで秀才の域に留まる。おまけに経験も浅いとくれば、いざ対峙したところでどうとでもなる。
「だが、この新人だけで行動するとは思えないな。守護騎士プログラム、あるいは分隊長の誰かは付き添いで来るんじゃないのか?」
「まあ、そうだろうね」
「それじゃあリスクが高すぎる。正直、あの辺の化け物連中とは会わないのが一番だ」
この間は仕方なく戦闘したが、俺のスタイルは基本的に相手の虚を突いて逃走に全力を費やす、というものだ。それだったら初めから出会わないというのが最も賢い自衛策といえる。
「君の【M】なら対抗できるんじゃないかい?」
「ラヴィエか? 無理だな。能力だけなら確かに対抗できるが、こちらは生まれたてで、あちらは歴戦の猛者だ。一人くらいなら俺とラヴィエでどうにかなるが、それをやると向こうも本格的に動いてくる」
俺が今まで管理局側からあまり注目されなかった理由は裏で繋がっていたこと意外にも、俺個人の有する能力があまり高くなく脅威度が低いと考えられていたことも理由の一つだ。
―――本当は管理局も把握していない
だが、ここでラヴィエなどと言う仲間がいることが知れてしまえば、その状況が一変する。ただでさえ裏で繋がっていた管理局の幹部が捕まってしまえい、俺への注目度が高まりつつある今の状況では勘弁してほしい。
「私としてはそのほうが助かるのだがね」
「……何でお前のために俺が苦労しなきゃいけないんだよ?」
やれやれと言いたげに肩を竦めるスカリエッティ。
おい、それは俺の心情だ。
「では、こちらからも戦力を出すならどうだい?」
そう言って新たなデータを俺に送ってくる。
「なんだ? この不細工なメカは?」
そこには卵のような形をしたよくわからないメカの画像と、性能についてが詳細に記されてあった。
「管理局はガジェット・ドローンと呼んでいるそうだよ」
「ふ~ん。お前がこういうの造るなんて珍しいな」
スカリエッティは認めたくはないが天才だ。大概の物なら時間と資金があれば造り出すことができるが、その専攻はあくまで生体を主軸としたものだ。
だから、造れるとは言ってもこういった完全に機械のみで構成された兵器を造るのは非常に珍しいと言える。
「まあ、玩具のような物さ。単純に人手が足りなくてね、無いよりはましさ」
「玩具ね。AMFを装備した玩具なんて、管理局側からしたら迷惑この上ないだろうな」
魔力の結合を解除するAMFの影響範囲内では、通常の魔法は非常に使いづらい。
特に魔法による砲撃や射撃を主体とするミッドチルダ式は非常に相性が悪い。確かにこれならばかなりの実力者でも、破壊するのには時間がかかる。
……囮としてはもってこいだ。
俺は頭の中でこのガジェット・ドローンを運用して、機動六課と遭遇した場合を計算する。
部隊長である八神はやては、前線にでることはない。これは絶対と言える。
なぜなら彼女はかつて起きた大きな事件の重要参考だ。おそらく今でも動くとなれば、あちこちから非難の声があがるか、あるいは幾重にもセーフティが掛けられているはずだ。事前に申請しているのならともかく、突発的な遭遇戦ではまず会うことはない。
次に高町なのはだ。
彼女こそ、今回俺が動いた場合に最も遭遇する可能性が高い。
資料によるとこの新人たちの教導官をしているようなので、おそらく現場にも同行しているはずだ。
そしてここの所、何故か縁のあるフェイト・T・ハラオウン。
彼女が高町なのはの次に可能性が高い。
彼女も分隊長となっていることから同行している可能性はあるが、どうやら執務官として目の前のスカリエッティの調査も並行しているらしく、高町なのはよりは可能性が低い。
他にもこの間であった守護騎士プログラム、八神シグナムと八神ヴィータがいる。
おそらく同行しても精々が一人、あるいは二人だと考えればこのガジェット・ドローンを十体ほどけしかけて足止めすれば、逃げる時間は稼げるだろう。
「……」
「決まったかい?」
俺の考えがまとまったのを察したのか、スカリエッティがそう問いかけてくる。
「……ちなみにこのガジェット・ドローン、何体用意できる?」
「ふむ……現在レリックの回収も命じてあるから、すぐに用意できるのは15体といったところかな」
それを聞いて俺の考えはまとまった。
「なら全部よこせ。それと、俺が動くときはそっちも何か動きを起こせよ。そうすれば俺のリスクも減る」
「それなら丁度いい。今度レリックの輸送列車を襲撃する予定だ。それと同時にことを起こそうじゃないか」
「それはどこだ?」
腹を括った俺はさっそく計画を立てることにした。
「ここさ。日程はこの日、この時間。そしてこの列車だ。これをガジェット・ドローンで襲撃する予定さ」
「……ナンバーズは出ないのか?」
「彼女たちのお披露目はもう少し先さ。この襲撃は新型のガジェット・ドローンのテストも兼ねているのさ」
おそらくは失敗してもいいのだろう。
新型のガジェット・ドローンとやらのデータを見せてもらったが、どう見ても機動六課相手には戦力不足だ。レリックが目的とは言っているが、本当は大して重要視はしていないのだろう。
「わかった。なら俺はこの世界から離れたここに行く」
そういっては俺はとある世界を表示した。
「おや? 意外だね。君はもっと人の少ないところに行くと思っていたよ。ここにある遺跡は聖王教会直轄管理の遺跡だ。おそらくそれなりの妨害があると思うのだが……」
俺が選んだ世界が予想外だったのか、珍しくスカリエッティガ驚いた表情になる。
「まあな。おそらくこの世界に行けば、いやでも機動六課の分隊長か副隊長が飛んでくるだろうな。ただ、それでも来ても一人か、二人だろう。それならラヴィエの実戦テストにはちょうどいい」
そこは本来が狙うような場所ではないが、ドローンという足止めがあることを考えれば不可能ではない。それに文献にはよればあそこには、古代ベルカの聖王ゆかりの
今まではリスクが高すぎて狙えなかったが、手段がある今ならコレクターとして狙わない手はない。
「まあ、私としては都合がいい。よろしく頼むよ」
「契約成立だ。俺はこれから準備するから、情報があったら何でもいいから俺にも回せよ」
俺はそう言ってスカリエッティと契約した。
予定日までは時間もない。
俺はさっそく準備を整えることにした。