魔法少女リリカルなのはで盗掘中   作:ムロヤ

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数日前から突然アクセス数が増えて何事かと思いました。


大当たり

 管理局の前から逃げ出した俺は、アジトに戻るとすぐに棺からラヴィエを出すと調整用ポットの中に彼女を寝かせた。

 

「バイタル、脳波ともに問題なし。……肉体の負荷の方は問題ないな。問題はリンカーコアと【M】か」

 

 ラヴィエが目の前で吐血した時は死ぬほど驚いたが、内臓や脳にダメージが発生するような最悪の事態は回避することができた。だが問題はリンカーコアと【M】の融合のほうに発生してしまっている。

 

「魔力波がバラついてる。【M】の調整(チューニング)プログラム起動。メンテナンスシステムによってリンカーコアと【M】の同調を一時遮断。リンカーコアの修復プログラムも起動。……修復予想時間は24時間か」

 

 どうやら最悪の最悪は免れたようだ。

 最悪の場合、ラヴィエの自我が失われて暴走するか、【M】が臨界突破を起こして大規模爆発が発生する可能性があった。

 前者の場合、暴走したラヴィエが【M】に内包されているあらゆるスキルと、膨大な魔力を用いて周囲に破壊をもたらす人型兵器になっていた。そうなれば人的及び物的被害がどれほど出るのか想像もつかない。

 

 後者の場合は、その威力そのものが予測できない。

 最低でも一つの次元世界そのものが消滅してもおかしくない。おまけにそんな大規模な消滅が起これば、次元震が

起きても不思議ではない。

  

 そんな事態にならなかったことに俺は安堵の息を漏らす。

 

「とはいえ、今回の件は完全に俺の失態だな。ラヴィエが起きたら謝らないと」

 

 修復が終わるまで目覚めることのないラヴィエの寝顔を見ながら、俺は猛省することにした。

 

 今後は戦闘はしばらくの間、厳禁だ。少なくともラヴィエのリンカーコアと【M】が完全に融合するまではできればスキルも魔法も使わせたくない。

 

『ピンポーン――解析が終了しました』

 

 そのとき、ラヴィエの調整用ポットとは反対方向にあるコンソールから報告があった。

 

「……」

 

 俺はその報告を聞いてげんなりした。

 

 ―――何もこのタイミングで解析が完了することはないだろう。

 

 しばらくはラヴィエの調整にかかりきりになりたいと思っていたのに、このタイミングで古代ベルカの資料解析が終わってしまったようだ。

 これは前にスカリエッティからラヴィエを受け取る際に引き受けた依頼、《聖王のゆりかご》の隠された大まかな位置を特定するために行っていた作業だ。

 資料が膨大な上に、《聖王のゆりかご》は古代ベルカでもかなり重要な存在だったようで解析にかなりの時間がかかると踏んでいたのだが、俺の予想よりも遥かに早く特定することができたようだ。

 

 とはいえ、このタイミングで解析が完了するのに悪意めいたものすら感じる。じつはスカリエッティの奴が面白そうなタイミングで操作しているのではないかと、あり得ないことを考える。

 

「んなわけないか」

 

 その時、絶妙なタイミングで通信が入った。

 

『やあ、何やらトラブルが起きたようだね?』

 

 その通信の相手はたった今顔を思い浮かべたスカリエッティ本人だ。

 

「お前……実は俺のアジトをハッキングしてないか?」

 

 思わず本気でそう聞いてしまった。

 

『面白いことを言うね。君のアジトはこの通信機を覗いて全てが独立しているじゃないか。さすがの私もウーノでも、それではどうにもならないさ。おまけに、君は特殊な結界で徹底的にアジトの位置まで隠蔽している。そんなもの私でも手を出さないさ』

 

 正論のためグゥの音も出ない。

 

「……ならいい。それと、トラブルは特に問題ない。そっちも管理局、というか機動六課の目が分散してよかっただろ?」

 

『ああ、今回は私も動きやすかったよ。それと、君が持ち出した古代遺物にレリックはあったかい? あったなら買い取るよ』

 

 そういってスカリエッティが本題に入った。

 

「ああ、いくつかある。あとで取引といこう。それと、もう一つ報告がある」

 

『何かな?』

 

 俺は先ほど出た資料解析の結果は報告した。

 

「探し物の《聖王のゆりかご》、大まかな目星がついた。近いうちに見つけられそうだ」

 

『ああ、それは素晴らしい。これなら予想より早いうちにお祭りを開催できそうだ。君も参加するかい? 今回ラヴィエ君が随分活躍してくれたようだから、特別に招待状も送るよ』

 

 スカリエッティが俺の報告を聞いて機嫌よさそうに笑う。そして例の祭りとやらに参加しないかと聞いてきた。

 

「絶対に嫌だ。お前の主催する祭り何て絶対碌なもんじゃない」

 

 俺は嫌悪感を隠そうともせずにそう吐き捨てた。

 

『おや、嫌われたものだね』

 

「むしろお前に好かれる要素があるのか」

 

『娘たちは私を慕ってくれているよ』

 

 ナンバーズはスカリエッティが生み出した存在だ。それが親を慕っているのは当然だろうとツッコミを入れたくなったが、チンク(No,5)のことを思い出して俺は押し黙った。

 チンクとはそれなりに話したことがあるが、あいつはかなり自己をしっかりと確立していた。ひょっとすると何かのきっかけでスカリエッティの手を離れるかもしれないと根拠もなくそう思ったからだ。

 

『おや、反論は無しかい?』

 

「いや……そのうちお父さんパンツと一緒に洗濯しないでって言われちまえ」

 

 とはいえ、そのことが俺にとってどうでもいいことだと気が付き、俺は適当に反論してやって話を終えた。

 

「それよりも、俺はこれから《聖王のゆりかご》を探しに行ってくる。候補地がいくつか見つかったとはいえ、解析した資料が古いから、確度がまだまだだからな」

 

『お願いするよ。その間、ラヴィエ君はどうするんだい? 何なら私の方で預かろうか?』

 

 そう言ってくるスカリエッティの瞳に、好奇の色が混じっているのを見逃さなかった。おそらくラヴィエが機動六課相手に戦った戦闘データを入手し、ラヴィエに興味を持ったのだろう。こうなったスカリエッティにラヴィエを預けたら何をされるか分かったものではない。 

 

「断る」

 

 俺は即答でスカリエッティの提案を断った。

 大事な末の妹を変態に預けられるか。

 

『それは残念だ』

 

 スカリエッティにしても俺の回答は予想通りだったようで、肩をすくめるだけでそれ以上は何も言ってこない。

 

『さて、それでは私もお祭りの準備で忙しい。レリックの取引はいつも通りの手筈でお願いするよ。それと、《聖王のゆりかご》の件もよろしくお願いするよ』

 

 スカリエッティはそう言って通信を終了した。

 

「はぁ、ラヴィエが目覚めるまで《聖王のゆりかご》について調べてくるか。ついでにレリックも」

 

 ラヴィエが目覚めないとアジトを長時間離れることはできない。その現状でできることと言えば、レリックの取引のために行く必要があるミッドチルダに行くこと。

 そのついでに資料の解析結果の一つであるミッドチルダ近郊の《聖王のゆりかご》隠し場所候補の一つを調査するくらいだ。

 

「エファンゲーリウム、俺は少し出てくる。一応ラヴィエが目覚める前に返ってくる予定だが、もし帰ってこなかったらラヴィエに心配するなって伝えといてくれ」

 

 俺は調整用ポットの脇にあるテーブルの上に置かれたエファンゲーリウムにそう言伝を頼んだ。

 

《ja》(はい)

 

 エファンゲーリウムは一言だけそう答えた。

 

 ラヴィエの愛機たるエファンゲーリウムは、ラヴィエが倒れてからずっとこの調子で必要最低限の応対にしか応じない。

 主であるラヴィエの不調に気が付けなかった己を恥、今回の戦闘データを元に自己AIプログラムを高速で最適化を行っているため、ほとんどの機能が動いていない状態だ。

 こういう勤勉なデバイスを見ると、必要ないとはいえ相棒として俺も欲しいと感じてしまう。

 

(ま、そうはいっても必要ないものを持つのは主義じゃないな)

 

 俺は内心でそんなことを考えながらアジトを後にした。

 

 

「さてとスカリエッティの奴から送られたデータだと、今回の取引はここのはずなんだか……」

 

 俺はスカリエッティとの取引場所へと到着するなり、困惑していた。

 普段の取引ではスカリエッティが指定した場所へ行くと、ナンバーズのドゥーエ(No,2)が待っていた。だが今日に限っては違った。

 

「さて、そこの2人と1匹。見ない顔だが……誰だ?」

 

 俺は左目に映る柱の裏に結界まで張って隠れている奇妙な集団に話しかけた。

 

 一人はかなり腕の立つ男の魔導師ないし騎士だろう。左目に映った魔力の量や、魔力の流れからわかる魔力の制御能力から視て間違いない。

 

 ―――それはいい。だが俺が気になっているのは、残りの1人と1匹だ。

 1人は背格好からして、ラヴィエよりも少し年上の10歳そこらの女の子だ。

 

 そして最後の1匹、これは非常に珍しい存在だ。

 大きさや形状、そして内包している魔力と術式から読み取るに、どうやら古代ベルカの純正融合機のようだ。

 

「誰が1匹だ! てめぇ!」

 

 俺にばれているとわかると、その珍妙な集団は結界を解除し柱の裏から出てきた。そして出てくるなり赤い融合機がものすごい剣幕と口調で噛みついてきた。

 

「……赤くて小さい奴はみんな口が悪いのか?」

 

 どうでもいいことだが、俺は管理局にいた赤く小さなベルカの騎士を思い出した。

 

「何のこと言ってやがるんだ、てめぇ? それより、あたしは虫じゃねぇ! 匹ってのを取り消せ!」

 

 なおも噛みついてくる融合機をめんどくさそうに眺めながら、俺は男から注意を逸らさないようにした。この中で俺が脅威を感じるのはあの男のみだ。

 

「アギト……落ち着いて」

 

「ルール―……でも」

 

 俺は頭を掻きながら一番話の通じそうな男へと話しかけた。

 

「で? あんたたちは何者だ?」

 

「……俺たちは」

 

「……ドクターからお使いを頼まれたの」

 

 男が何かを言う前に少女が前に出てそういった。

 

「ドクター?」

 

 医者と言われても俺はパッと思いつかなかった。

 

「ルール―! あんな奴、医者じゃねぇよ! 変態で十分だ」

 

 俺はアギトと呼ばれた融合機の変態という言葉でピンときた。

 

「ひょっとしてお前ら、スカリエッティの使いか?」

 

「そうだ。俺たちはいつもの取引相手の代役だ」

 

 どうやら正解のようだ。

 それよりも俺はスカリエッティのことを変態と呼ぶ、あの赤い融合機に一気に親近感を覚えた。そしてスカリエッティのことを変態と呼ぶということは、この3()はあいつとそれなりに繋がりがあると確信できた。

 

「そうか。それじゃあ、今回はあんたら3人と取引すればいいんだな」

 

 スカリエッティのことを変態と呼ぶ同士(アギト)のことも匹から人に訂正して確認を取る。

 

「ああ」

 

 確認が取れた俺は地面にしゃがみ込むと、自分の影に手を入れた。

 

 ずぶりと泥に手を突っ込むような感触をかき分けて、手を進めていくと指先にお目当ての感触があった。

 

「よっと」

 

 その感触の物体を影から引き上げる。するとアタッシュケースに影が泥のように絡み付いて現れた。

 

「これがレリックだ。今回は4つある」

 

「何だよ、今の」

 

 俺がアタッシュケースの中を確認させえるためにアタッシュケースを開ける。だがアギトにとってはそんなアタッシュケースの中身よりも、先ほどの俺の影が気になるようだ。

 地面スレスレまで下降したアギトが、俺の影を足先で突いていた。

 

「ん? 今のは一応レアスキル?だよ」

 

 今のは自身の影を一種の亜空間とするスキルだ。魔力を使うこともなく重さも感じないので普段は鞄代わりとして持ち物を入れて使っている。ただ、入れられる量は俺の身体の体積の3倍程度である上に、生物は入らない。おまけに中に入れてあるものを取り出すには、先ほどのように手探りで影の中を探さないといけない。

 さらに入れた物を取り出すとき、影が絡み付いてなかなか取り出せない。そのせいでいざというときに、とっさに使用することもできない。

 ―――正直な話、かなり使い勝手が悪い。

 

 だからこそ、このスキルに関しては人に知られても何の問題もない。

 

「……ない」

 

 俺がアギト相手にスキルを説明していると、ルール―と呼ばれていた少女が俺の方を見上げていた。

 

「ん? ないって、何がだ?」

 

 主語が抜けている言葉に俺は首を傾げる。

 

「ルール―」

 

 ただアギトには何がないのかが分かったようで、悲しそうな表情でルール―のそばに寄り添う。

 

「えっと、それで……何がないんだ? 取引に不備でもあったか?」

 

「いや、問題ない。……ルーテシアは、あるNoのレリックを探している」

 

 どうやらルール―とは愛称であって、本名はルーテシアというらしい。

 

「あるNoのレリック?」

 

「……XI」

 

「ん~……ないな」

 

 俺は手持ちの端末を操作して、過去に取引したレリックの番号を調べてみたが該当するばレリックは無かった。

 

「興味本位で聞くけど、なんでXIが欲しいんだ?」

 

「……ドクターが必要だって」

 

「何に使うのか知らないが、スカリエッティ(あいつ)の言っていることを信用するのはやめとけよ?」

 

 このルーテシアという少女はラヴィエと同じように無表情であると同時に、自分の感情がいまいち理解できていないようだ。

 こういった瞳をした人間はかつて俺の居た実験施設にもいた。大概の場合が幼い頃から実験体として育ったせいで、感情が育つような環境にいなかったのせいだ。

 彼女も同じような環境でそだったのだろう。

 スカリエッティが手元に置いていることを考えると、あの変態も何らかの形で関わっているのだろう。そしてルーテシアにはその真実を伝えず、利用している関係といったところだろう。

 

(まあ、そこまで教えてやる必要もないか)

 

 別段善人を気取るつもりもない俺は、証拠もないので考えるだけで口には出さなかった。そして取引も無事に終了した俺は、すぐにこの場を後にしようと3人に背を向けた。

 

「おい、お前。もしも、もしもだ。レリックのXIを見つけたらルールーに教えろ」

 

 俺が背を向けると、アギトがそう告げてきた。

 

「まあ、教えるくらいならいいけど……俺も仕事だから金は貰うぞ?」

 

「うっ、か、金は何とかする! だから教えろよ! 絶対だらな」

 

「……アギト」

 

「わかったわかった。連絡先を教えてくれ。もし見つけたら連絡するから」

 

 端末を取り出して、俺は連絡先をルーテシアと交換した。

 

「それじゃあな」

 

「……バイバイ」

 

「じゃあな」

 

 俺は挨拶を終えると、今度こそここから立ち去った。

 

 

 ルーテシアたちとの取引を終えた俺は、その足でそのままミッドチルダ近郊に存在する遺跡に向かった。

 

「……おかしい」

 

 その洞窟に入って、遺跡の入り口まで辿り着いた俺が一番感じたのは違和感だ。

 

 遺跡の入り口自体は今にも崩れそうな洞窟のような場所の中にあったにも関わらず、遺跡の扉自体は劣化した様子すら見せない機械仕掛けの扉だった。

 その扉の様式自体は珍しくもないのだが、問題はここに来るまでの道とこの扉の差だ

 

 まるで別で造られた遺跡を後になってから、この場所に持ってきたようなそんな後付したような違和感がある。

 

「……とにかく入ってみるか」

 

 俺は扉に触れて左目によって扉に施された封印を探っていく。

 

「えらく厳重な封印だな。……ん~、アクセス権がかなり制限されている。本当に極一部しか入れないようになってる」

 

 遺跡に封印が施されていること自体はさして珍しくもないが、ここまで厳重に封印を施されているものは珍しい。こういった場合、遺跡の中にあるものは非常に貴重な物、重要な物、危険な物の三択の場合が多い。

 

「さて、何が出るかな?」

 

 俺は扉に施された封印の解読を終え、さっそく扉の封印の解除に取り掛かることにした。

 

 影の中に手を入れてあるものを探す。

 

「お、あった」

 

 目当ての物を見つけた俺は、それを影から引っ張り出す。

 

 それは端的に表現すれば、アンティーク調の古めかしい鍵だった。

 

「さて、やるか」

 

 この鍵の名前は《森羅の鍵》。

 形はただの鍵ではあるが、これもれっきとした古代遺物(ロストロギア)の一つだ。

 

 効果はあらゆる封印や錠を解除するという、とんでも性能の古代遺物だ。ただ使用するにはこの鍵自体に施されたプロテクトを解除する必要がある。

 ―――そのプロテクトが何よりも曲者だ。

 プロテクトの解除方法自体はシンプルなもので、鍵が内包する魔力の伝達経路に正しい道筋で魔力を通すだけだ。要は、紙に書いた迷路をペンを使って迷うことなくクリアすればいい。だがこのプロテクトの最大の難点は、魔力を通す伝達経路のパターンが無限に存在する上に、伝達経路(それ)が毎秒変化する。さらに通す魔力は人間が制御できないレベルでの精密な操作(人間に手でナノサイズの文字を書けというようなもの)が必要だ。

 

 本来この工程は専用の設備を使用して魔力の伝達経路の正解を瞬間的に読み取り、専用の魔力制御システムで伝達経路に魔力を通して初めて使えるようになる。ただ残念なことに《森羅の鍵》自体は古い遺跡で見つかることはあるが、その専用の設備は現存している物が未だに見つかっていない。

 おそろしいほど精密機器であるため、何のメンテナンスもされない状態では機能を維持できないのだろう。

 

 そのせいでこの鍵は無用の長物と言われてしまっている。

 

「……ここだ!」

 

 だが俺はその問題を、左目と自らのスキルである超精密制御を代用することで解決した。

 

 左目で毎秒変化する伝達経路の予測と確認を行い、俺の超精密制御による魔力の操作で可能な経路に変化した瞬間に魔力を通す。

 それでも成功確率は3割あるかないかというところだ。

 

「よし!」

 

 幸いにも今回は一回で成功できた。

 

「さて、開錠」

 

 プロテクトの解除された《森羅の鍵》を扉に向けると、その扉に存在しないはずの鍵穴が現れた。俺はその鍵穴に《森羅の鍵》を差し込み、軽く捻った。

 

 カチャリという音と共に、左目に映っていた扉の封印が失われていく。

 そして静かに扉が開いた。

 

「おじゃましますっと」

 

 扉を潜るとそこには扉と同じ材質でできた金属製の長い廊下が伸びていた。 

 

「すぅーーーっ……ピィィィ」

 

 俺は息を大きく吸い込み、口に指を加えて思いっきり音を鳴らした。

 音は俺の近くで僅かに反響したが、すぐに聞こえなくなってしまった。

 

「……」

 

 俺は音の反響具合を確認した。

 

 どうやら俺が予想していたよりも遥かに大きな遺跡のようだ。

 久しぶりに攻略しがいのありそうな巨大遺跡に、俺はうずうずしていた。

 

「さて、装備の方は大丈夫だ。時間は……余裕だな」

 

 今持っている装備と現在の時間を確認し、俺は今からここを潜っても問題ないと判断した。

 いくらうずうずしているとはいえ、遺跡攻略のための準備を怠るような間抜けでも初心者でもない。うずうずしているからこそ、自分にできることを正確に把握していなければ遺跡の攻略はできない。

 

「というわけで、出発っと」

 

 俺は遺跡の奥へと向かって歩き出した。

 

「ほうほう……遺跡っていうより施設か? いや、それよりも城みたいな構造をしてるな。おまけに古代ベルカの様式そのもの。ひょっとして、いきなり当たりを引いたか?」

 

 詳しい年代はもっと詳しく調査しないことには分からないが、これまでいろいろの遺跡を見てきた経験からこの遺跡が古代ベルカの物であることはわかる。おまけに、古代ベルカでもかなり高度な物だろうことが見て取れる。

 

 俺はさらに詳しく調査するために奥へ奥へと進んでいく。

 

「げっ」

 

 マッピングも進めながら奥へと進んでいくと、つい最近視た厄介な兵器がいた。

 

 高度のステルスにAMF、おまけに頑強な装甲。聖王ゆかりの遺跡で見られたドローンだ。

 左目のおかげでかなり離れた距離から発見できた上に、この遺跡自体が機能停止状態で最低限の防衛機構しか稼働していないおかげで、あちらはまだ俺に気が付いていない。

 俺は面倒事を避けるため、ドローンのいない方へと移動することにした。

 

「ここは……大広間か?」

 

 広く開けた空間に出た。

 天井には美術品としても価値が高そうなシャンデリアが吊られ、床には触り心地の良さそうな絨毯、そのほかにも高価そうな装飾品が見て取れる。

 完全にお城の中だ。

 

「マジか。マジで当たり引いたのか」

 

 《聖王のゆりかご》は伝承によれば戦艦であると同時に、聖王の居城でもある。そのことを踏まえて考えれば、ここに来る途中の廊下などはまさに戦艦の通路にも見える。

 そして聖王ゆかりの遺跡で重要な場所に配備されていると思われるガジェット。ドローンもいることを考えればここが《聖王のゆりかご》内部であると予測できる。

 

「……さすがに中枢に行くには防衛機構は生きてるだろうな」

 

 どれほどの機能が生きているのかは分からないが、下手に重要施設に足を踏み入れ無い方がよさそうだ。

 

 伝承が正しいなら、この《聖王のゆりかご》はとんでもない兵器だ。下手に突いて動かれたら帰れないかもしれない。

 

「予想外に調査もスムーズに終わったし、ここはいったん帰るか」

 

 一応スカリエッティへの依頼は果たしたことになる。

 俺は危険が起こる前に帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――念のため置き土産しとくか」

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