魔法少女リリカルなのはで盗掘中   作:ムロヤ

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逃走その後

 管理局とのコネまで使って釈放されたのに、結局戦闘が発生してしまったことに不満を抱きながらも俺はラヴィエを連れて無事にアジトまで辿り着いた。

 

「あー疲れた」

 

 俺は着替えもしないでそのまま近くのソファーにダイブする。

 裏のオークションも見れず、さらに転移結晶まで使用する羽目になり完全の赤字だ。大赤字。

 経済的には赤色なのに気分は完全に青色(ブルー)だ。二重の意味で辛い。

 

「……楽しかった」

 

 ただそんな俺の心境に反して、ラヴィエはそう口にした。首だけ動かしてラヴィエの方を見ると、無表情ながらも確かに楽しそうな雰囲気が伺える。

 

「そうか」

 

 赤字ではあったが元々はラヴィエの気分転換も兼ねていたお出掛けだ。そのラヴィエが楽しいと言うのなら、高くは付いたが気分の青色は幾らか晴れた。とはいえ、考えなくてはいけない事も多く発生してしまった。

 まずはラヴィエが友達と言っている融合機。確か資料にはリインフォースⅡと記されていたはずだ。

 

「えっと確かこのデータだったはず」

 

 俺は起き上がってソファーに座り直し端末を操作してデータを探す。目当てのデータはすぐに見つかった。

 

「……友達」

 

 操作している端末に表示された映像を見てラヴィエがそう呟く。

 そこにはリインフォースⅡのホログラムと管理局に登録されているデータが表示されている。

 ラヴィエの呟きに俺は苦笑しながらデータを確認していく。

 

「作成されたのは闇の書事件以降。役割としては消滅した闇の書の管制人格の代わりか。八神はやて専用に調整されてるから基本的に赤の他人とのユニゾンは不可。元となったプログラムと同じヴォルケンリッターとのユニゾンは可能」

 

 データを確認しながら内容を声に出して読み上げ、頭の中で情報の整理と危険度についてを考察していく。

 まず単純に性能としてはかなり高い。基礎の部分に闇の書の欠片と八神はやてのリンカーコアを使用しているのである意味当然となる。

 誕生してからの年数は短いの上に、あくまでも八神はやて補助なので目立った実績などは特に無い。ただ言い換えるとこちらが能力を推測するだけの情報もない事になる。

 経験がない事を吉とするか、情報がない事を凶とするか悩みどころだ。とりあえずは今手元にある情報を整理していくと気になる部分があった。

 

「融合機である事自体が秘匿されてるのか。となると八神はやてとユニゾンした場合、管理局が隠したいと考える程の能力が発揮されるのか?」

 

 俺はいくつかの可能性を検討し始めた。

 まず最悪なのは、猛威を奮っていた闇の書の能力をそのまま使用できる場合。リンカーコアを強制的に収集し、更に扱える魔法を無限に増やしていける。恐ろしいほどの脅威だ。

 ただこの可能性は限りなくゼロに近い。もし万が一そんな能力なら管理局が使用を許可しないだろう。

 

 次の可能性は、闇の書が過去に収集した魔法を全て扱える場合。この場合は収集機能が無いだけで、長い年月で収集した魔法があるから最初の可能性と脅威度は変わらない。

 ただこれも可能性は高くない。過去に起きた闇の書の事件でも、主がリセットされると前の主の時に収集した魔法もリセットされ魔法を持ち越した記録は存在しないためだ。

 

 次の可能性は、闇の書の前身となった旅する魔導書に戻っている可能性。これの場合は魔法を記録する事が主目的となるため直接的な脅威は低いが、俺の魔法を記録され解析されると後々のかなり面倒な事になる

 そして残念な事にこの可能性は比較的高い。

 

 そして一番あり得そうな可能性は、八神はやてが所有者になってから収集された魔法を自由に扱える。これは2番目の可能性に近く十分な脅威だ。

 ただ八神はやてがリンカーコアの収集を行っていた期間はそこまで長くない上に、管理局の記録を漁れば被害者を調べる事は可能で、そこから収集した魔法の予測と対策は考えられる。それでも十分な脅威だ。

 

「……専用の融合機を秘匿しているって時点で2番目の可能性が高いか? いや、でも流石に過去の魔法を全部はないだろう。そもそもそんな危険物の使用を許可するとは思えない。やっぱり現実的なのは3番目と4番目だな」

 

 どちらにしても恐ろしい能力なので気が滅入りそうだ。

 

「……ん?」

 

 そんな事を考えていると、ふと違和感の様なものを覚えた。

 

「……おかしい。いくら何でも一部隊にここまで戦力が集中するわけがない」

 

 俺は手元にある機動六課の構成と個人の能力情報を掻き集め、時系列と部隊編成そして個人能力を順に並べていった。

 そして時系列に大規模な事件や事故についての情報を追加していく。

 

「何だこれ?」

 

「……何?」

 

 俺が首を傾げていると、ラヴィエも興味を持ったのか真似して並べた情報に顔を向ける。

 頭の整理も兼ねて俺はラヴィエに自分の考えを説明していく。

 

「ラヴィエ、例えばだ。例えば50の強さを持った敵が20体いるとする」

 

「……ん」

 

「それに対してこちらは100の強さを持った味方が5体、それと10〜20の強さの味方が10体いるとしよう。敵は20体バラバラに動くから何処にいるかは分からないし、強さが50以下の味方は敵に会うと負ける。そんな時、味方をどう配置したらいいと思う?」

 

「……味方の強さは個別? 合計?」

 

「合計でいい」

 

「……ん、10〜20の強さの味方を合計50になる様に分ける。100の味方はバラバラにする」

 

 ラヴィエの一般的な解答は正しい。俺でも普通はそうする。

 この考えの中で敵は俺たちのような犯罪者で、味方は管理局員だ。そして今100と仮定しているのは機動六課の隊長陣。

 普通はこんな戦力は分散させて管理局全体としての能力アップを図るはず。

 例外としては大きな事件や事故があり、それに何らかの組織の関与が疑われた場合は能力の集中が考えられる。だが機動六課設立前にそんな話は聞いた事がない。そして設立後のやっている任務はレリック回収やスカリエッティの追跡、後は新人の教導だ。おまけに部隊を作るにあたって隊長格のはリミッターまで付ける始末。

 

 コストとパフォーマンスの釣り合いが全く取れていない。

 

「……? それってダメなの?」

 

「ダメでは無いけど普通はやらないな。コストもかかるし周りからやっかみもある。特に管理局は海と陸で仲が悪い。それなのに海を代表するような面々が後見を務めてこんな部隊を作ったら、色々と問題が起きてもおかしく無い。それを強行するなら何らかの事情があるんだろう」

 

「……事情って?」

 

 ラヴィエの当然の質問に俺はため息と共に答える。

 

「それがわかったら苦労はないんだよなぁ〜」

 

 結局は何も分からないという事だ。

 それでも何かやばい事が起こる前兆のような気がする。

 俺はそんな嫌な予感を感じながらも、今日はこれ以上考えるのも面倒になってきた。

 

「やめだやめ。ただでさえ予定外も戦闘で疲れてるのに、こんな事まで考えてられるか。これ以上悩んでたら絶対ハゲるぞ、俺」

 

「……イオリ、ハゲ?」

 

「断じて違う! 今もこれからもそんな予定はございません!」

 

 あんまりな言葉に俺は語気を強めて否定する。ラヴィエの事だから、ここでしっかり否定しておかないと、誰かと話している時にそんな事を言いかねない気がする。

 ここはしっかりと否定するしかない。

 

「いいかラヴィエ。ハゲって言葉は人に言っちゃいけない言葉だ。分かったか?」

 

「……ん」

 

 無表情のままいつもと同じ返事が返ってくる。

 凄く不安になる返事だが、これ以上は不毛な気がした俺は早々に話を切り上げる事にした。

 

「さて今日はもう疲れたし、とっとと休むか。それともラヴィエは何かしたい事があるか?」

 

「……ん、アイス」

 

 それだけ言ってラヴィエはキッチンへと向かっていった。

 

「何ていうか随分マイペースになったな」

 

 個性を獲得してきたラヴィエを見て俺はそんな事を呟きながら自分の部屋に戻って休む事にした。


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