魔法少女リリカルなのはで盗掘中   作:ムロヤ

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罠の香り

「くかぁ~。」

 

 ピリリリリリ。

 

「んあ?……朝か。ねみぃ。」

 

 目覚ましの音で目が覚めた俺は寝ぼけたままベッドの上に起き上がった。

 どうやら昨日はベッドの上に移動してから、そのまま眠ってしまったようだ。

 

「あ~、今日はどうするかな。 」

 

 正直なところ管理局の動きが落ち着くまで、古代遺物(ロストロギア)の探索は控えたいところだが、昨日の赤字やアジトの維持費を考えるとこの辺りで収入が欲しいところだ。

 

「……手っ取り早いのはレリックか。」

 

 レリックならスカリエッティが、かなりの金額で買い取ってくれる。

 2個くらい見つけられれば、しばらくはおとなしくしていても問題がないはずだ。

 

「とはいえレリック(あれ)があるのは、聖王ゆかりの場所が多いからな~。下手すると聖王教会がな~。」

 

 教会と管理局から目を着けられると、さすがに逃げ切れる保証はない。

 

「あれ?よく考えるとかなり手詰まりだな。……どうすっかな~。」

 

 とはいえ管理局(むこう)も俺のことを、完全に捕捉しているわけではないはずだ。

 少し楽観的かもしれないが、そう考えないと動くことができないので、そう思うことにした。

 

「まあ、一応装備は整えておくか。」

 

 俺は立ちあがり部屋の奥にある金庫に近づいた。

 

 カチカチ、ガチャ。

 

 金庫を開けると、そこには拳ほどの大きさの水晶が一つ鎮座していた。

 

「さてと、とりあえずはステルス系と転移系かな。」

 

 水晶は古代遺物(ロストロギア)の一つで、水晶内に亜空間を作り倉庫として使えるものだ。

 その中から、コレクションのいくつかを取り出した。

 俺は生まれつき魔力の精密操作に長けていたため、本来は困難な古代遺物(ロストロギア)複数操作を行うことができた。

 だがいくら複数を同時に扱えるといっても、俺の魔力量はBランクそこらで、使うものを選ばないとすぐの魔力が底をつく。

 

「もうちょっと魔力があればな~。まあ、無い物ねだりか……。」

 

 そんなことをぼやきながら、俺は探索、戦闘、逃走と臨機応変に対応できるように古代遺物(ロストロギア)の組み合わせを考えていた。

 

「ん~。こんなもんかな。これなら大抵は逃げられるか。」

 

 準備を整えた俺は外套を羽織り、ダミーのデバイスを手に取りアジトをあとにした。

 アジトを出た後はランダムに転移し、見知らぬ世界にやってきた。

 

「ここなら問題ないかな。」

 

 俺は通信端末を取り出し、ある場所に連絡を入れた。

 

「よお。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……。」

 

 俺は相手からの返事を待たず、要件を話し始めた。

 

「管理局が俺を追っているらしいんだが、現在の主力メンバーの情報を送ってくれよ。」

 

『―――。』

 

「あれ?お~い?聞こえてるかぁ?」

 

 返事がないことを不思議に思っていると、俺の通信端末に情報が送られてきた。

 

「なんだよ。聞こえてんなら、返事くらいすればいいだろ。」

 

 俺は相手に文句を言ってみたが、相変わらず返事はなくそのまま通信は終了した。

 

「?……なんだったんだ?」

 

 不思議に思いながらも、俺は送られてきたデータを他の端末に転送し、今まで通信していた端末を破壊した。

 

 ガシャンッ

 

「さて、内容はっと……。おいおい、マジかよ。」

 

 データを見た俺はがっくりとうなだれた。

 そこには俺の逮捕に向けて選抜されたメンバーたちが表示されていた。

 

 フェイト・T・ハラオウン。

 魔法術式・ミッドチルダ式/魔導師ランク・空戦S+。

 特殊犯罪対策チームリーダー。

 他ミッドチルダ式・古代ベルカ式/魔導師ランク・空戦Bを7名。

 

「ええ~!完全にオーバーキルだろ。これ!」

 

 データには俺が予想していた最悪の状況のはるか上をいっていた。

 

「あ~、でもホントにこれどうしよ。……ん?」

 

 頭を抱えて悩んでいた俺だが、データと一緒についてきたメッセージを見つけた。

 そこにはある遺跡にあると思われる古代遺物(ロストロギア)についての情報と、それの買い取り価格がついていた。

 その価格は半年ほどアジトや設備の維持費を賄えるものだった。

 

「……いやな予感がする。」

 

 俺は何とも言えない違和感と、嫌な予感を感じていたが、送られていたデータにある遺跡と古代遺物(ロストロギア)については以前から目をつけていたものなので嘘ではないと確信していた。

 だがどうにも都合がよすぎる。

 

「ん~。でもこの古代遺物(ロストロギア)なら、これくらいの値はつくからな~。」

 

 さんざん迷ったが、とりあえず俺はこの遺跡に向かってみることにした。

 

 先ほどまでイオリと通信していた男は青い顔をしていた。

 

「こ、これでいいのかね?」

 

 男が後ろを振り向くと、そこにはクロノ・ハラオウンと数名の部下が武装した状態で立っていた

 

「ええ、ご協力感謝します。トレス少佐。」

 

「くっ!この若造が。」

 

 トレスと呼ばれた男はギリギリと音が聞こえるほど、歯を噛みしめながら憎悪の籠った目でクロノを睨みつけた。

 

「トレス少佐、あなたが犯罪者イオリを援助していたことはわかっています。よってあなたを共同正犯として逮捕します。……連れて行け。」

 

 クロノがそういうと部下たちはトレス元少佐を拘束し、そのまま部屋から連れ出そうとしたとき。

 

「くくく、お前らはイオリ(あれ)を捕まえることなどできないさ!」

 

 トレス元少佐は去り際に、そう意味深なことを言い残し連行された。

 

「……ふぅ。」

 

「やあ、お疲れだね。」

 

 トレス元少佐と入れ替わりに入ってきた男が、クロノに向けてねぎらいの言葉を掛けた。

 

「ヴェロッサ。今回は助かった。捜査への協力、感謝するよ。」

 

「気にすることないさ。僕らは親友なんだから。」

 

 ヴェロッサはそう言って大げさに手を広げた。

 

「それより、さっきのトレス元少佐が言ったことどう思う?」

 

「……負け惜しみ。そう思いたいな。だが相手は未知の古代遺物(ロストロギア)を複数所持している。」

 

 クロノは眉間に指を当て、疲れたようにため息をついた。

 

「そうだね。一筋縄ではいかなさそうだ。……網にはかかりそうかい?」

 

「三割くらいかな。どうやらイオリは常に大金を必要としているようだ。」

 

 今回クロノたちは局内にいる内通者を事前に発見することに成功し、イオリに対して罠を張った。

 場所の誘導、局員の情報を一部隠しての油断を誘う作戦だ。

 そして運よくイオリを捕捉し、網に誘導できる機会をえた。

 

「あとは神のみぞ知るかな?……どうだい、休憩にケーキでも?」

 

 ヴェロッサはそう言って手の上にケーキの入った箱を呼び出した。

 

「……甘いものは苦手なんだが。」

 

「甘さは控えめさ。」

 

 そう言ってクロノとヴェロッサは部屋をあとにした。


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