(さてどうしたものか。)
現状で戦力の一つを戦闘不能状態にできたのは僥倖だが、一度見せてしまった氷鏡の効果は二度は通じないだろう。
一人減ったとはいえ、どのみち俺に対してオーバーキルの戦力であることに変わりはない。
「《氷霧》」
俺が新たに魔法を展開すると、フェイトたちは警戒度を上げた。
フェイトたちが警戒する中、俺を中心とした空間にダイヤモンドダストが広がっていく。
「これは……」
「気をつけろテスタロッサ。あいつの魔法は私たちの知っている体系とはかなり異なるようだ。」
シグナムの言葉を受けてフェイトは頷いた。
(そりゃそうだ。俺の魔法はオリジナルなんだからな。……よし!氷霧展開完了っと。)
俺は空間内に氷霧が広がり切ったことを確認し、氷鏡を自分の周囲に戻して警戒を始めた。
〈There is lost life response within the range(範囲内に生命反応は失われました)〉
「バルディッシュ!どういうこと!?」
「どうやらあの周りに出した霧のようなものがセンサーを狂わせているようだな。」
〈Ja(はい)〉
シグナムの予想にレヴァンティンが肯定の返事を返した。
『ヴィータ副……帰還を確……ました。それ……ら……センサ……及び光……器での……が不可能……。』
そのとき艦からの通信が入ったがひどく途切れ途切れとなっていた。
聞き取れた部分からフェイトたちはヴィータの帰還と、おそらくは艦からもこの辺り一帯が観測できなくなったことを悟った。
「どうやら通信妨害もあるようだな。」
「そうみたいですね。……シグナムの炎で消すことはできますか?」
フェイトの提案にシグナムは少し考えたが、すぐに首を横に振った。
「現在どの程度まで広がっているか分からない上に、一時的に視界が悪くなる。その隙に逃げられかねないな。」
「そうですか。……なら本人を捕まえるまでです。」
二人は警戒度を高めながらも俺にデバイスを向けてきた。
(どうするかな。あまり時間を掛けるのも得策じゃないしな。……一気に勝負に出るか?)
この後どうするかと数十パターンの
「奴には私の炎が有効だ。援護は任せたぞテスタロッサ。行くぞレヴァンティン!」
〈Jawohl.(了解)Nachladen.(装填)!〉
バシュッ!
デバイスから空のカードリッジが排出され、シグナムの魔力が跳ね上がった。
レヴァンティンに炎を纏わせながらシグナムは一気に間合いを詰めようとしてきた。
「させるか!《氷柱六連》」
氷鏡は周囲の水分を吸収し再生し続けるので打撃には強いが、あれだけの熱量を持った炎を受けてはひとたまりもない。
俺は近づかせないためにも先ほど撃った氷の杭よりも、大きく密度の高い氷をシグナムに向けて連射した。
「甘い!紫電一閃!」
シグナムは向かってくる氷に怯むことなく、さらに熱量を増した炎の剣閃ですべてを打ち払った。
氷の杭は抵抗できずに一瞬で水蒸気になって霧散した。
「《凍結拘束》!」
シグナムが氷を撃退するために大技を使うのは予想の範囲内で、俺は大技によってカードリッジの効果が切れた瞬間を見逃すことなく新たに魔法を使った。
「くっ!?」
魔法の効果によりシグナムの周りに大量発生した水蒸気が急激に冷却され、レヴェンティンのカードリッジシステムの部分が氷で覆われていった。
(よし!これでしばらくはカードリッジが使えないはずだ。)
俺は心でガッツポーズ取っていた。
ただでさえ炎熱系の魔法とは相性が悪いのに、そこにカードリッジが加わっては攻撃のしようも防御のしようもない。
だからこそ俺は何よりも先にシグナムのデバイスの封印を優先した。
「撃ち抜け、轟雷!」
〈Thunder Smasher〉
俺は咄嗟に声のした方に氷鏡を4枚重ねて向けた。
(くそ!一人でも俺より上の魔導師や騎士を同時に相手にするのはやっぱり無理だ!)
何とか防げているのは氷鏡にある魔力反射の能力によるものだが、そもそも反射できる限界はB-の魔法だ。
おそらくこの魔法はAランク相当だろう。氷鏡は反射しきることができず、高魔力と雷に押し負け徐々に亀裂が走ってきている。再生も行われているがフェイトの魔法の威力がバカみたいに高いため、焼け石に水状態だ。
(これだから化け物は!なんでこんな魔法軽々うてんだよ!)
そうこうしているうちに気がついた時には、シグナムに懐まで迫られていた。
「貰った!」
「やられるかよ!《氷檻》!」
念のために戦闘中気がつかれないように、足元に魔力を通し自分の近くにいつでも氷を展開できるようにしていた。
そのおかげでほぼノータイムで氷の檻を作り上げ、シグナムを閉じ込めた。
パリィン
砲撃の方を見るとすでに氷鏡は一枚まで減っていた。
(がー!無理だ無理だ!なんだよこの化け物たちは!?)
バリン
今度の音はシグナムが氷の檻を砕いた音だった。
「シグナム!」
フェイトがシグナムの名を叫ぶと、二人は念話で作戦でも立てたのかシグナムが離脱した。
「バルディッシュ」
〈Sir.Load Cartridge. 〉
バシュッ
バルディッシュから空のカードリッジが排出されるとフェイトの砲撃の威力が急激に上がった。
「《氷柱林》《氷楯》!」
それと同時に俺は自分の周囲に万遍なく、円錐状の氷の柱を大量に出現させた。そして今にも砕けてしまいそうな最後の氷鏡に魔力を追加し、単純に防御力の高い氷の楯に変化させた。
「はああああ!」
「ぐぅぅぅぅ!」
ドォォォン
魔力のぶつかりによって爆発が起きた。
(な、何とか耐えた。次は無理だ。ってかあんなの当たったらいくら非殺傷でも意味ないだろ!?)
俺は心で悪態をつきながら、新たに氷鏡を出現させ油断なく周囲を警戒した。
自分の周囲に魔力を誘導する氷柱体を大量に作りフェイトの魔力の収束率を下げ、純粋な防御力が高い氷楯で何とか耐えたが、今の攻防でかなりの魔力を消費してしまった。
「氷鏡変化《万華鏡》」
俺はもう防御は不可能だと結論付け、攻撃に回ることにした。
氷鏡は俺の魔力を受け綺麗な鏡面に大量の凹凸を作り、歪な氷鏡へと形を変えた。
「バルディッシュ。もう一回いくよ。」
〈Yes, sir.(了解)〉
「レヴァンディン。いけるな。」
〈Jawohl.(了解)〉
いつの間にか凍結が溶けたシグナムも加わり、俺はさらに絶体絶命に陥った。
(てか拘束溶けるの早すぎだ!そんでもう一回って連射できるのかよ!?)
もはや俺は悲鳴を上げるしかなかった。
舐めているつもりは微塵もなかったが、俺が想像できるレベルから大きく外れていたようだ。
最初にヴィータが退場していなかったら、もっと早くに決着がついていただろう。とはいえこのまま簡単に捕まってしまうわけにはいかない。
少なくとももう少し抵抗することに決めた。
「《凍弾拡散》」
俺は周りにいくつかの魔力弾を生成すると、フェイトやシグナムに直接打ち込むことなく万華鏡に打ち込んだ。
二人が怪訝な表情をした次の瞬間、その表情は驚きに変わった。
「「くっ!?」」
万華鏡を通過した凍弾は、まるでフラッシュライトのように広範囲を俺の魔力光で包み込み、魔力光の触れた場所は例外なく凍結していた。
(とはいえこれ、凍るのは表面だけの
そうはいっても現状で二人がそれを知ることはない。さらに速度が早く、範囲が広いため嫌でも回避せざるおえない。
だがさすがは管理局のエリート。
俺の攻撃は全て躱され、シグナムは自分の周囲に炎を展開することで凍結そのものを防いで、フェイトはそもそも俺の目では捉えることも難しくすぐに手詰まりになってしまった。
(終わったな。)
俺は自分の終わりを悟った。
「紫電一閃!」
「プラズマランサー!」
俺の意識はそこで途切れた。
・
・
・
「終わりましたね。シグナム。」
「ああ、魔導師としてのランクは高くないがかなりの使い手だったな。」
フェイトとシグナムは自分たちが倒した男に目を向けた。
『シグナム!フェイト!応答しやがれ!』
どうやらイオリが気絶したことで霧が晴れ、通信が戻ったようだ。
「ヴィータか。こちらは終わったぞ。テスタロッサも無事だ。」
通信の向こうからわずかに安堵するような吐息が聞こえた。
『そうかよ。なら早いとこ戻ろうぜ。今日ははやても早く帰ってくるんだ。』
「そうだな。」
「なら早く彼を連行しましょう。」
二人は気絶しているイオリに手錠をはめると、艦へと転送されていった。
そして周囲には人の気配がなくなった。
・
・
・
「……行ったか。それにしても本当に化け物ばっかだな。」
俺は呆れながら愚痴を零し、遺跡の入口から顔を出し先ほどの戦闘の後に目を向けた。
「はぁ~。今回のが最初から罠だってことは、管理局のお偉いさんは捕まったかな?」
ピリリリ
突然通信機が鳴り出したが、俺は慌てることなく通信に出た。
『やあやあ。捕まったと聞いたけど大丈夫かい?』
スカリエッティはいつも通り薄い笑いを浮かべながら、こちらをからかうようにそんなことを聞いてきた。
「大丈夫じゃねぇよ。なんだよあの化け物は……」
俺は疲れたように盛大にため息をついた。
「おかげでリンカーコアを
俺は先ほどの戦闘で連行されていった
『相変わらず面白いレアスキルだね。
「お前にこれを知られたのが人生最大の誤算だ。」
俺は本当に嫌そうな顔で画面の向こうを睨みつけた。
こいつの言った通り俺には複数のリンカーコアがあり、体内からリンカーコアを取り出し俺の血液を加えると俺と全く同じ
とはいえ制限も多く最大ストックは4つまで全て消費すると魔法が使えないので、実質作れる分身は3体が限度。
さらに作った分身は24時間存在するが、それはあくまで魔法を使用しない場合で、魔法使用を計算に入れるとせいぜい3~4時間が限界だろう。
他にも複数のリンカーコアがあるが出力に限界があり、Bランクの魔法までしか使えない上に消滅が決定しているので貴重な
スカリエッティに知られたのは運が悪かったからとしか言えない。
幸いなことに向こうには制約については何も教えていない。
「とりあえず今回はもう帰る。すっげぇ疲れた。回収した
『おや?私と取引するのかい?』
スカリエッティが不思議そうに聞き返してきた。
「とぼけるな。どうせ
『くくっ、ではまた明日。』
スケリエッティは明確な回答はせずに、ただ嗤っただけで通信を切った。
「あの腹黒が……」
俺はいろいろと嫌な思いをしながら帰路へとついた。
よくランクと強さは同じではない。
みたいなことを聞きますが、実際にあそこまで離れるとどうにもならない気がします。
例えるなら鉄砲vs戦車とかそんな感じになる気がしたので、今回イオリは終始絡めてで虚を突く戦法に出ました。
犯罪者から見たらあんなのに狙われたら、ほぼ確実に試合終了だと思います。
イオリはスカリエッティのことを腹黒と言っていますが、イオリも十分腹黒いです。