一龍妖魔學園紀   作:影鴉

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御待たせ。
マジで済みませんでした。
前期のア艦これショックとリアル事情に加えて本話が難産で5か月も空けてしまいました(絶望)
しかも、描写が微妙で余り納得いかない内容だったり…
今回は千冬の白騎士事件から今迄の懺悔? 回となっております。


 織斑 千冬の懺悔

五月始め 金曜日の夜

 

『Bar「Big 7」(バー 「ビッグセブン」)』

 

 

「聞いたわよ~、山田先生。彼氏が出来たんですって~?」

「ひゃい!? ご、誤解ですよ足柄先生!! 鎌治さんとはそんな関係じゃなくって…」

「嘘!? 山田先生に男!!?」

「だ~か~ら~、違いますって!!」

「問答無用! 教えなさいっ!!」

 

 

 酔った沙夜子に絡まれた真耶は顔を真っ赤にしながら否定するが、男の話と聞き付けた数学担当で現在彼氏募集中であるエドワース・フランシィが参加してくる。

 現在、IS学園の教師陣数名が学園近くのバーに集って飲み会を行っていた。

 

 

「そ、そう言えば、そちらのクラスの男性操縦者はどうですか足柄先生?」

 

 

 首を絞めながら鎌治との関係を聞き出そうとする沙夜子に対し、真耶は話題を変えるべく、彼女が担任である1年2組在籍の男性操縦者について聞いてみる。すると沙夜子はあっさり手を放して答えてくれた。

 

 

「え、ルカ君とニコラス君? 2人共良い生徒よ。ルカ君は賢くて可愛いし、ニコラス君は20歳なだけあって皆の纏め役として頼りにされているし……ルカ君は愛でる対象で求婚しようものならファンクラブの制裁が襲って来るだろうから兎も角、ニコラス君は結婚してくれないかしら?」

「生徒すらも婚活対象にするのね…、船越先生のクラスは如何なの?」

「私のクラス? ブロント君もリーダーシップが強くて皆を率いているわ~。でも彼、結構初心でからかうと面白いのよ?」

「せ、生徒に何をしてるんですか船越先生!?」

 

 

 沙夜子の言葉にエドワースは呆れ、愛宕の発言に真耶が驚愕する。

 

 

「3組の方はどんな感じですか、八王子先生?」

「私の所か?」

 

 

 真耶が続いて3組の担任で体育担当である八王子(はちおうじ) ムサシに3組の男性操縦者について尋ねる。彼女は日系ブラジル人であり、元ブラジルの国家代表候補であった経歴がある。その為、第2回モンドグロッソにおいてはブラジル代表として千冬と激しく準決勝を争った経験が有った。

 

 

「そうだな…熊田は女好きな所が困ったモノだが、誰とでも関わり仲良くなれる点は良いな。間薙は神秘的な雰囲気が女子生徒達に人気だ。まぁ、今年から3年間は面白い事になりそうだな」

「熊田君といえば、布仏さんと良く一緒にいますけど…やっぱり付き合っているんでしょうか?」

「そう言えば、”本命はいるけどみんな愛してるクマー”なんて阿呆な事を言っていたな」

 

 

 男性操縦者という希少な存在且つ専用機持ちともなれば、IS学園に在籍する女子生徒の中に政府や研究機関からの命令で情報収集の為にハニートラップを仕掛ける様言われた生徒がいないとも限らない。勿論、学園職員は注意及び目を光らせているし、男性操縦者達には入学前にその事を注意する様に喚起、当然、所属組織にも言われている事だろう。そんな中、陽介はハーレム系創作物の主人公宜しく女子生徒達と関わっているが、その辺はしっかりしているのか今のところうっかり情報を漏らす様な事はしていない様だ。

 

 

「熊田君は明るい性格ですし、容姿が良いですからね~。でも間薙君の人気も負けてませんよ? 部活棟の方で空手部以外の娘達も色々騒ぐ程人気ですし」

 

 

 部活棟の管理員である榊原 菜月(さかきばら なつき)が部活動でのシンの人気を語る。真次郎とは違った独特の雰囲気は最初こそ近寄り難くさせていたが、慣れればミステリアスクールな雰囲気が格好良いという評価になりだしたのだ。更に男性操縦者全員に言える事だが、話し掛ければちゃんと対応してくれる上に面倒見も良く、18歳で本来高校を卒業している身である事からも女子生徒達からは頼れる先輩ポジションを獲得してしまい人気が出ているそうだ。

 

 

「でも運動部に入った男性操縦者は皆、実力が高いですよ。間薙君は黒帯以上の実力だし、GUN部のニコラス君は百発百中。剣道部の葉佩君も有段者の娘達全員と総当たりしても平気で勝ちますからね」

「ニコラス君の射撃は見ましたよ。ハンドガンなのに100メートル離れた的の中心を正確に撃ち抜いていましたから驚きました!」

「間薙とは一度手合せさせて貰ったな。見た目は細身なのに打ち出される拳や蹴りはどれも吹き飛ばされかねない威力でな。なんとか引き分けに持ち込めたが、攻撃を防ぐ事で精いっぱいだった…」

 

 

 菜月が運動部所属の男性操縦者を褒めると、射撃の練習に来た際にニコラスと会った真耶や空手部顧問のムサシもそれぞれ評価する。

 

 

「グラスが空の様ですが、御代りは如何ですか?」

 

 

 そんな彼女達の会話を聞いていた千冬の元に、栗色の癖っ毛をショートカットにした女性バーテンダーが声を掛ける。

 因みに、このバー『Big 7』は女性バ-テンダー2人で切り盛りしている。なんでも幼馴染の関係らしく、大学生だった頃にバーを開こうと決めて創業したらしい。黒髪ロングの凛々しい感じの女性が篁 長門(たかむら ながと)、千冬にお酒のお代わりを尋ねて来た、栗色のショートヘアである女性が遠藤 陸奥(えんどう むつ)と言う名前らしい。2人共、美人な為にそれ目当てで来店する男性も多い事から繁盛しているとの事。しかし2人共、聞かれても肯定はしていないが、恋人がいるとの噂があったりする。

 

 

「そうだな……強めのヤツを頼む」

「畏まりました」

 

 

 千冬の注文に陸奥は笑顔で応え、用意しだした。

 

 

「1組の方は如何なんですか、織斑先生?」

「む、葉佩と荒垣か?」

 

 

 遂に1組の男性操縦者について千冬へ質問がきた。

 

 

「そうですね、荒垣君は見た目こそ他人を近寄らせ難い雰囲気を見せてますけど面倒見が良く優しい子ですよ」

「ぶっきらぼうな態度が玉に傷だがな。だが、料理が上手いのは意外だった」

「そう言えば荒垣君は料理部所属だったわね? あの時のスイーツバイキングは良かったわ~。でも、織斑先生の言う通りバッドガイな雰囲気なのに意外~。でも、あんな子が将来結婚したらアットホームパパになるんでしょうね」

「確かにそんな男性程、結婚したら家族に甘いらしいし……狙おうかしら…」

「荒垣はオルコットが既に標的にしていて、荒垣本人も大体認めているからな、足柄先生?」

「な!?」

 

 

 沙夜子は何としてでも結婚したいらしい。

 千冬が釘を刺すと、沙夜子はショックを受けた様な表情になる。

 

 

「足柄先生、幾らなんでもがっつき過ぎですよ?」

「そんなんだから”飢えた狼”なんて生徒に呼ばれるんですよ」

「なっ!? 言ったわねぇ!! 榊原先生なんて男性と碌に付き合えた事が無い癖にぃ!!」

「ぐぅ!? そ、そんな事言ったって……ラックの低さはどうしようもないじゃないですか!!」

「大体、お見合いの話が来てるんでしょ? 参加してさっさとくっ付けば良いじゃない!! 私なんかお見合いした男性全員が最後に”貴女にはついていけないです”なんて言って断りやがるのよ!!? 信じられないっ!!」

「ぜ、全員がか…」

「あ、あんまりでしょそれは…」

 

 

 次第に話題は男運の悪さに変わり、自身の不幸を嘆き出した。

 現状で飲みに参加している教員で結婚、男性と付き合っている者は居ない。良くて真耶が該当するかもしれないが、彼女の言葉では恋愛では無く憧れらしい。怪しい所であるが…

 

 

「御待たせしました、キス・イン・ダークです」

「ん、有難う」

 

 

 陸奥から受け取ったカクテルに口を付ける。口内にチェリーブランデーの甘さが広がった後、ドライ・ベルモットの苦味が後味に来る。

 因みにこのカクテル、飲みやすいながらもアルコール度数が高いカクテルなのでデートの際に彼女を酔わせる為に注文されるレディキラーカクテルの一つであったりする。

 

 

「葉佩君は如何なんですか?」

「葉佩君は人との繋がりが凄いんですよ! 鎌治さんだって葉佩君に紹介して貰ったんですから」

「今更なんだけど、鎌治さんって…もしかしてピアニストの取手 鎌治?」

「そうですよ~。しかも、あのファッションデザイナーの朱堂 朱美さんとも知り合いなんですよ!」

「えぇ!? あのスドリンと知り合い!!?」

「嘘でしょ!?」

「本当です。鎌治さんのピアノリサイタルで連れて来た彼女の篠ノ之さんに茂美さんが仕立てたドレスをプレゼントして着せてたんですから!!」

「朱堂 茂美自らが仕立てたドレス!!? い、幾らすると思ってるのよ!?」

「取手 鎌治に朱堂 茂美…どちらも世界的に有名な日本人ではないか」

 

 

 一龍の人物関係に驚く教員達。

 

 

「人が良く優しい奴だからな、年齢や立場とか関係無く誰とでも仲良くなれるのだろう」

「そう言えば、織斑先生には弟さんがいたんですよね? LHRの時に葉佩君に尋ねていましたけど、そっくりなんですか?」

「ほう、それは初耳だな」

「嘘? あんなワイルド系のイケメン君が弟にいるの!?」

「どれくらい似ているんですか?」

 

 

 話題が千冬の弟に変わり、彼女は如何答えたものか困る。

 一龍が一夏本人である事は彼との会話で千冬自身も理解しているが、一龍は千冬が今後束との関係を如何するのかを答えない限り、織斑 一夏の名前に戻る気は無く、もしも束の方に付けば敵として立ち塞がると言っている。そんな事情を彼女達に言える筈も無く悩んでいた所、視線の先に映った店内の時計がとある時間を指していた事に気付いた。

 

 

「済まないが、生徒と進路相談をする約束をしていてな。間に合う為に乗らないといけないリニアレールがそろそろ時間だ」

「そう言えば、そう言ってましたね」

「成程、何時もより飲む量が少なかったのはその為か」

「気を付けて帰ってくださいね?」

「でも何か上手くはぐらかされた様な…」

 

 

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「ふぅ…」

 

 

 季節が夏に近づいている為か、店外に出ると暖かい風が頬をなぞる。

 葉佩 一龍と私の関係を聞かれたくなく、逃げる様に店を出てしまったが電車の時間まではまだ余裕が有る筈だ。

 

 

「しかし、山田君に男か……幸せになって欲しいものだな」

 

 

 ふとバーで聞いた山田君に男性がいるという話しを思い出す。何でも尊敬しているピアニストとメールで遣り取りをする様になったらしい。音楽関係には疎いのでよく分からないが、その話をしてる時の彼女の顔はとても嬉しそうだったので余程なのだろう。

 山田君は私がIS学園に来た時から世話になっている。それもそうだ、私は高校を中退し国家代表としてISの操縦だけに励み、モンドグロッソを2連覇した身。IS操縦技術なら右に出る者がいないと自負は出来るが、それはISに関する事以外はからっきし駄目であると言っても良い。当然、教員免許も持っている筈が無いのに、私が勤める事になったのはIS学の専門教師では無く、よりにもよって担任であった。担任になれば、ISに関する事以外にも生徒と向き合っていかなければならない。担任になる様に指示したのはIS委員会であり、どうやら私を担任にしてIS学園の広告塔にしようと魂胆があったらしい。

 IS以外に取柄は無いと言っても良い私だ。第2回モンドグロッソ後、ドイツ軍でIS操縦の教導の仕事をしていたので生徒への操縦指導に関しては何とか出来たが、赴任して暫くは事務仕事すらも碌に出来ず他の教員達には散々迷惑を掛けてしまった。

 

『ブリュンヒルデになった癖にこんな事も出来ないの?』

 

 元ブリュンヒルデといった箔から直接言ったりする事は無かったが、影でそう言われているのは明らかだった。「望んで此処に来た訳じゃ無い」そう叫びたくなるのと同時に、自身がIS以外に出来る事が殆ど無い事に情けなさを感じた。

 そんな私の面倒を見てくれたのが山田君だった。彼女は私に手取り足取り、仕事のイロハを教えてくれた。基礎的な事を知らなかった時も、決して馬鹿にする事無く教えてくれる彼女に私は心から感謝した。彼女は私を尊敬してくれているが、彼女こそ私は尊敬すべきだと思っている。

 

 

(最後に呑んだカクテルが効いたな。酔い覚ましにコンビニで何か買うか…)

 

 

 駅近くのコンビニに入り、ミネラルウォーターと二日酔い対策にドリンク剤を取る。いざレジに向かおうとすると、声を掛けられた。

 

 

「あの…、織斑 千冬さんですよね?」

「ああ、そうだが?」

 

 

 声を掛けて来たのは高校生か大学生位の少女。私が織斑 千冬であるかと尋ねて来たので肯定すると、パァッと顔を輝かせながら色紙を取り出した。

 

 

「私、千冬さんのファンなんです! サインして貰えませんか?」

 

 

 どうやら私のファンの様だ。

 今でも街中を歩けばこう云う輩が現れる。通行人や店の邪魔になる際には断っているが、今は夜間でコンビニ店内に客は私とこの少女しかいない。一端、手に持っていた商品を陳列棚に戻して店外に出ると、少女から色紙を受け取りサインを書いて渡した。

 

 

「これで良いか?」

「わぁあ! ブリュンヒルデのサインを戴けるなんて光栄ですっ!!」

「元ブリュンヒルデだ。今は只の教師に過ぎないさ」

 

 

 サインを受け取り喜ぶ少女に対し、私は複雑な心境になる。元ブリュンヒルデを、日本国家代表を辞めた自分を未だ人は称えてくる。

 

 

 私はそんな凄い人間じゃない。

 

 家事は弟任せで料理も出来ない駄目な女だ。

 

 あの時、弟を護ることも出来なかった情けない姉だ。

 

 今こそIS学園の担任としてマトモに勤められるようになってはいるが、ISぐらいしか取り柄の無い唯の女だ。

 

 

 少女は何度も礼をしながら去って行き、私は少女の言葉を思い返した。

 

 

『ブリュンヒルデのサインを戴けるなんて光栄ですっ!!』

 

 

 確かに私は2回もモンドグロッソで優勝し、ブリュンヒルデとして君臨出来た。その為に血の滲むような努力をしてきたし、その結果得たモノだと解かっている。だが、これは私自身が望んで選んだ道では無い。

 

 

「全て……束が敷いたレールを歩いて来ただけだ…」

 

 

 私がブリュンヒルデになったのも、一夏が誘拐されたのも、世界が女尊男卑で歪んでしまったのも、全ては白騎士事件が始まりだ。そしてその白騎士事件を引き起こしたのは私と……

 

 

「束…、何故お前はこんな事をしたんだ…」

 

 

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 篠ノ之 束とは小学低学年の時に出会った。

 初めて出会った時の印象はちょっと変わった奴。無口で他人と決して接しようとせず、何時も自前のパソコンで何かを打ち込んでいた。

 ある日、クラスのガキ大将がパソコンを取り上げていたのを見かねて、つい助けてやった。

 以降、妙に懐かれたので無下には出来ず、何かと世話を焼き続けてそれから腐れ縁。突飛な行動も多いが、純真な少女。それがその時の私にとっての篠ノ之束だった。

 束を知っている人間なら、この時の私の感想に大きく異を唱えるだろう。”そんな可愛い存在ではない”、と。勿論、束の異常な排他性は認識していた。だが、私といる時ならば彼女は嬉しければ笑い、つまらない、悲しい時は不貞腐れ、時には互いの弟、妹を自慢し合った。そういう普通の少女だったのだ。だから周囲から束が異常だと言われても、根本的な部分で実感を持てないでいたし、あの頃は実際その通りだった筈なのだ。

 とはいえ、社会不適合者と言われてしまえば返す言葉がなかったのも事実。

 このままでは拙いと思い、私は上辺だけでも良いから周囲に馴染ませようと努力した。

 今にして思えば、純粋に束の将来を案じただけで無く、教師どころか自身の親でさえ関心を持たない束のフォローに煩わしさを覚えていたからだったのかもしれない。だが、それでも私は束を突き放すことは出来なかった。

 

 私には弟の一夏しか家族がいない。正確には両親の記憶が殆ど無いのだ。父親の顔は殆ど覚えておらず、いや、その微かな顔の記憶さえも本当の記憶なのか分からない。何故なら物心つく頃には父親はおらず、母さんしか居なかったからだ。

 その母さんも一夏を産んで間もない内に家を出て行ってしまった。

 出て行った理由は解からない。だが、出て行く日に見せた母さんの悲しそうな表情は忘れられない。何か理由が有ったのであろうという考えが捨てられず母さんだけは今も恨む事が出来ないでいた。

 

 その時の母さんの事や父さんの事を一夏には教えていない。

 もし教えたら、一夏も母さんの様に何処かへ行ってしまいそうだから、唯一の家族が消えてしまいそうだから、そう考えが頭に過よぎってしまい、怖くなって言えずにいた。

 この後、私と一夏は親戚の家を盥回しにされることになる。どの家でも元々から居なかった父さんは勿論、私達を捨てたと母さんを非難した。私だけが母さんのあの時の顔を忘れることが出来ず、非難できなかった。一時、一夏と引き離されそうになったが私は必死に抵抗したし、一夏は泣き喚いて泣き止むことが無かった為、そのことは白紙になった。一夏は私の唯一の家族なのだ、離れるなんて考えられなかった。

 

 そして何回かの引き取りで母さんの母親、私達の祖母になる方の家、束や箒が暮らす街で暮らすことになったのだ。

 

 結局、私は一夏と2人だけで寂しかったのだ。だから祖母が亡くなって以降、親身に接してくれた柳韻先生やその娘である束、箒達が家族の様なモノであり、見捨てる事など考えられなかった。

 私の試みは極めてゆっくりであったが、効果が現れていた。当初こそ、他人を完全に無視していた束も次第に無愛想ながらも反応を示すようになったからだ。そうした態度が以前にも増して問題を引き起こす事もあったが、進歩が感じられたのでフォローも苦労だとは思わなかったし、中学生になった頃には無口で人付き合いが悪いと言えるレベルまで改善出来ていた。

 

 そんな中学3年のある日、束は自身が製作しているパワードスーツを私に紹介した。

 名を『インフィニット(無限の)ストラトス(成層圏)』。”人類が新たな開拓地である宇宙へ飛び立つ為の一歩になれば良い”と言った束に私はこれまで努力した甲斐があったと喜び、私はISの開発に協力した。

 私はテストパイロットとしてISを纏って飛び、束が逐一調整していく。

 

 だが、ISの発表は失敗に終わった。

 それも当然だ。束は連絡も無しに学会に乱入し、自身の研究内容・成果を一方的に話すだけで帰って来たのだから。資料など作っておらず、僅かな質問や意見にも碌に答えなかったらしい。

 結局、ISが見向きもされなかった事に束は癇癪を起こし、私は溜息を吐くしかなかった。だが、いきなり躓きはしたがISの性能は当時の私でも確かであると解かっていたので、この時点では殆ど問題は無かったと思っていた。

 

『直ぐに皆がISの有用性に気付いてくれる』

 

『何なら私がISを装着してその性能を世界に見せつければ良い』

 

『私は何時でもお前の味方だ』

 

 束にそんな慰めの言葉を掛けていた私は楽観視していたのだろう。でも当時の状況なら楽観では無く、現実的な見通しだった筈なのだ。

 

 もっと真剣に付き合っていれば良かったのだろうか? それともあの時に束が言った言葉の意味を理解できていれば良かったのだろうか?

 

 

『何時になっても、力でしか解からないんだね。人間って…』

 

 

 ”力”の意味をその時の私は理解していなかったのだ…

 そして、今となっては忌まわしいあの事件が起きた。

 否、起こされたのだ。

 

 

『大変だよ、ちーちゃんっ!!』

 

 

 ある日の夕方、慌てた様子の束が私の元に駆け付けて来た。

 

 

『どうした束?』

『街が、日本がヤバいよ!!』

『一体何を言っているんだ?』

『兎に角、来て!!』

『お、おいっ!?』

 

 

 束は私の手を掴むと、ある場所へ引っ張って行く。

 着いた場所はISを製作している掘立小屋だった。小屋の中は掃除しておらず、機材や部品等が散乱して汚かったが壁にはISが立て掛けられており、隅にあるパソコンが何かを映し出していた。

 

 

『一体、何が有ったんだ?』

『沢山のミサイルが日本に向かって発射されたんだよ!』

『…は?』

 

 

 パソコンのディスプレイには世界地図が映し出されており、世界各地から日本へ向けて点線が引かれていた。話を聞くと、日本と繋がっている点は何れもがミサイル発射基地との事。つまり、束が言った通りミサイルが日本に向けて発射されたと言う事だった。そしてそのミサイルは私達が住んでいる街へと落ちるらしい。

 

 

『このままじゃ、いっくんや箒ちゃんも危ないよ!』

『……私に如何しろと言う?』

 

 

 束が何と言うか解かっていたが、私は敢えて尋ねた。

 

 

『当然、束さん謹製ISの出番だよ!!』

『…大量のミサイルを防ぐ事が出来るのか?』

『勿論さっ! ちーちゃんだってISのスペックは解かってるでしょ? それに、ちーちゃんぴったりの装備を用意したよ♪』

 

 

 その後、束に言われるままにISを装着して私は暗くなり始めた空へ飛び立った。

 

 

【ちーちゃん、後数分でミサイルが飛んで来るよ】

『ああ、モニターに表示されている。だが束、コレで本当にミサイルを撃ち落とせるのか?』

【心配ないよ、束さんのISはすっごいんだから、ほら射程内に入って来たよ】

『ふんっ、さっさと片付けるぞ』

【頑張れちーちゃん、いっくんや箒ちゃんもこのままじゃ危ないからね】

 

 

 それからは世間が認知している白騎士事件の内容と同じだ。

 飛来してくるミサイルを全て撃墜し、街を護る事に成功した。

 だが…

 

 

『束、武器を捨てて同行する様指示されているのだが…』

 

 

 ミサイル迎撃の為に集まっていた自衛隊やアメリカ軍はISの性能を目の当たりにし、私を捕えるべく投降を呼び掛けだした。

 

 

【逃げてちーちゃん】

『何だと?』

【ISの性能なら簡単に逃げる事が出来るよ】

『逃げる必要があるのか?』

【捕まったら何をされるか分からないよ? 下手したら家族のいっくんも連行されかねない】

『!? っく……分かった…。だが、こうも囲まれていては逃げれるか…』

【それも無問題♪ ISの武装なら難無く潰s…無力化出来るよ】

『………分かった』

 

 

 一夏が連れ去られる事を危惧した私は束に言われるがままに逃走を図った。当然、私を捕えるべく攻撃を始め、私は捕まってなるものかと抵抗した。極力殺さない様に武装や戦闘機の羽等を破壊して無力化し、私は無事逃げ切る事が出来た。

 

 

「お帰り、ちーちゃん。お見事だったよ」

「ああ……」

 

 

 掘立小屋に戻った私の前に束はニコニコと笑みを浮かべながら駆け寄って来た。

 

 

「ちーちゃんの活躍でいっくんや箒ちゃんは救われた。皆のヒーローだねっ? イェイ♪」

「………」

 

 

 喜ぶ束とは対照的に私は喜ぶ気になれなかった。

 捕まれば一夏が危ない。その恐怖で私は一種のトランス状態になっており、気付いた時には追っ手を振り切って帰路に付いていた時であった。殺さない様にしていたとはいえ、爆発する砲塔や煙を上げながら海面へと墜ちていく戦闘機の様子に、本当に無事であるのか不安が募っていた。

 

 

「なぁ、束」

「何だい、ちーちゃん?」

「私が撃墜した戦闘機やヘリのパイロット達は無事だろうか?」

「何? ちーちゃんを捕まえようとした奴等なんか心配しているの? 如何でもいいじゃんあんな奴等」

「だがっ」

「心配ならテレビのニュースで被害状況でも観れば良いんじゃない?」

「………」

 

 

 案の定、全く興味を示していなかった束に私は呆れながらテレビニュースで被害状況を知るべく自宅へ帰ろうとするが、小屋の戸に触れた時背中越しに束が声を掛けてきた。

 

 

「ねぇ、ちーちゃん」

 

 

 先程までウキウキと一人で盛り上がっていた筈の束の声が、不気味な程に静かに尋ねかけてきた。

 

 

「ちーちゃんは何時でも私の味方だよね?」

「……あぁ」

 

 

 悪魔めいた、違和感を感じる笑みを浮かべる束に私は頷くしかなかった…

 

 自宅へ帰った後に視た、報道ニュースでは死傷者は0と報じられていた。実際現場を見ていた自分としては死傷者0という結果に疑問を感じながらも公式での報道を信じ、その時は納得したのだった。

 

 この出来事が白騎士事件の真相であり、世界的にISの存在を知らしめる事になった。

 しかし、ISが単騎でミサイル撃墜と自衛隊及びアメリカ軍の兵器による攻撃をものともしなかった事実は世界最強の兵器である事を証明となり、束が望んだ宇宙開拓の一端を担うのではなく、軍事利用へと向けられたのだった。

 なのに束はその事に文句を言う事無く、開発したISコアを主要各国に分配し、その後姿を消した。

 

 その後、政府の特別措置によって篠ノ之家は離散。第1次IS適性試験で高ランクを出した私は入学した高校を1年足らずで中退してISパイロットとなり、日本国家代表となった。

 

 

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 

 

 去り往く少女を見送りながら私は自身の過去を思い返す。

 

 今思い返せば、怪しい事が沢山有った。

 ISの素材や高価な筈の機材をバイトすらしていなかった束がどうやって集めたのか?

 首都でも無く、重要な施設も無い街に何故ミサイルが飛来して来たのか?

 自身が望んだはずの宇宙開発に使われる様、何故束は公言しなかったのか?

 そして何より、本当に宇宙開発が目的でISを造ったのか?

 

 時計を見るとそろそろ学園行きのリニアが来る時間だった為、コンビニに戻るのを諦めて私は駅へと向かった。

 

 リニア車内で揺られながら、私は葉佩…一夏に言われた事を思い返した。

 

 

『篠ノ之 束の唯一の友人である貴女はどうするのですか?』

『え?』

『これからも共に歩みますか? あの天災の横で、世界を狂わせ続けますか?』

『そんな、私は…』

『もし共に行くと言うなら…俺は葉佩 一龍として天災、篠ノ之 束とその友人、織斑 千冬を敵として止めさせて貰う』

 

 

 真剣な目で放たれたあの言葉は本気で言っていた。もしも、自分が束を擁護する立場に回れば、相手が何者であろうと一夏は立ち向かって来るだろう。

 唯一の家族が敵に回る。もしもの将来を想像し、私は恐怖に震えた。

 嘗ての私なら己の立場を利用して力付くでも止め様としただろう、「そんな馬鹿な事は止めろ、不可能だ」と。しかし、一夏の意思の前には何をしても無駄であろう。それに、これまで誤魔化続けて考えてこなかったとはいえ、疑念を持っていた白騎士事件が束のマッチポンプである事を知り、今回の襲撃事件でもう奴を擁護しようという気は無くなっている。

 だが、束はもはや世界を掌で操りかねない力を持っている。この前の襲撃事件で嗾けて来た20機もの無人機やアリーナセキュリティの大規模ハッキング。あれだけでも十分異常だが、奴なら全世界のISや防衛システムをハッキングして無力化し無人機で世界を制圧しかねない。

 そして束が私や葉佩、妹である箒以外の人間の命を何とも思っていないと分かった事が何より危険だ。元から興味を持った人間以外は認識出来ていないと思える程排他的ではあった。だが、まさか今回の様な事を仕出かすとは思いもしなかった。一夏も懸念していたが束が男性操縦者に興味を持った以上、今後も同じ襲撃が起こる可能性は高い。今回こそ施設以外の被害は無かったが、何時死人が出るかと思うと、そしてその様な事態が起きても束は何も感じないであろう事がとても恐ろしく、許せない。

 

 だからこそ私も一夏と協力して束を止めるべきなのだろう。全ては束と私が始めてしまった事なのだから…

 

 だが私は恐ろしい。

 

 白騎士事件を起こした犯人の一人である事を一夏に認めた後が…

 

 これまで黙っていた卑怯者と罵られないだろうか?

 

 犯罪者と怒鳴られないだろうか?

 

 見限られないだろうか?

 

 ISが世界に認知されて以降、女尊男卑となった風潮は一夏やその男友達にも強く当たっていた。そして何より自身がモンドグロッソでブリュンヒルデとなった事で周りから見比べられ、散々苦労を掛けさせてきたのだ。白騎士事件さえ起こさなければ起こる事は無かった事態。

 思えば変わってしまったこんな世界を少しでも戻そうとIS学園に来たのかも知れない。ISが扱えるだけで他の者より優れていると見下すような存在になって欲しくないと、私が教えた生徒達には常に願ってきた。

 

 

「嫌だ……見捨てないで、嫌わないで、一夏…」

 

 

 結局、寮監室に戻った私は罪悪感と恐怖から逃げる為に酒を飲み、酔い潰れてしまったのだった。

 

 

:::::

 

 

「織斑先生」

 

 

 寮監室の扉をノックする一龍。

 今夜、千冬から話がしたいと頼まれたので来たのだが、部屋からの返事が無い。しかし、部屋には人の気配が有り、扉のドアノブに手を掛けて捻ってみると、鍵は掛かっていなかった。

 

 

「【呆】学園内だからって、不用心だな…」

 

 

 鍵を掛け忘れて寝ているのかと思い、一龍は扉を少し開けるながら部屋の中を除く。部屋の中は飲み終えた酒瓶

や空き缶、つまみが入っていたであろう空き袋、洗濯しているのか解らない衣服や下着類がゴチャゴチャに散らかっていた。

 

 

「………相変わらず掃除はてんで駄目か…。まぁ、慣れない教師をやってるから仕事の方が精一杯で掃除したくてもする暇が無いかな?」

 

 

 部屋の惨状を目の当たりにしながら呆れと懐かしさが半々な表情になる。

 肝心の部屋の主はテーブルに突っ伏して眠りこけており、テーブルの上には飲み終えた酒の空き缶や瓶が載っていた。

 

 

「やれやれ、帰る機会が有ったら自宅の惨状も覚悟しておくべきだな…。今夜飲み会が有ったと山田先生に聞いたけど、飲み過ぎて酔い潰れたのか? まずは、千冬姉をベッドに寝かせてから部屋を片付けるか…」

 

 

 ベッドに寝かせるべく、起こさない様に千冬を抱えると、彼女はポツリと呟いた。 

 

 

「いち、か…」

「織斑先生…?」

 

 

 起きてしまったかと千冬の顔を見詰めると、未だ寝ている様子。寝言であったと理解し、彼女をベッドに寝かせると再び声を漏らした。

 

 

「一夏、御免なさい…私を…お姉ちゃんを嫌いにならないで…」

「………」

「私と束のせいなんだ…あんな事をしたから、ずっと黙っていたから……こんな…」

 

 

 閉じた瞼から涙が零れ、耳元へと流れていく。

 千冬の懺悔を聞きながら、一龍は再び零れそうになった涙を拭った。

 

 

「御免なさい……い、ち…か…」

「【喜】…寝言とは言え、気持ちが知れて良かったよ」

 

 

 寝言が終わり静かに寝息を立て始めた千冬を眺めながら、一龍は微笑むと掃除を開始した。

 

 

:::::

 

 

翌朝

 

 

【…本日のゲストは人気急上昇中のアイドル、346プロ所属の『凸レーション』の3人でした。それでは最後に彼女達からお知らせが有るそうなので、どうぞ!】

【はぁい。私達凸レーションは、8月7日にコラボライブを行いまぁ~す♪】

【場所は○○県倉野川市の日向美商店街ライブアリーナだにぃ~♪】

【ライブ場所でピンと来た人もいると思うけど、コラボ相手は大人気ご当地バンド『日向美ビタースイーツ♪』だよー♪】

【【【是非、来てくださいねー!!】】】

「ん…」

 

 

 テレビから流れて来る声が聞こえ、私は閉じていた目を開ける。

 何か美味しそうな匂いを嗅覚が感知し、徐々に意識が覚醒していく。

 部屋内の簡易キッチンがある方向からコトコトと何か煮込まれる音が聞こえる。

 若干ズキズキとする頭を抑えながら、ベッドから身体を起こした。

 

 

「起きましたか?」

「!? いち…葉佩か!?」

 

 

 瞼を擦りながら簡易キッチンの方を見ると、葉佩が何やら料理を作っていた。

 

 

「昨夜は酔い潰れてた様ですが、二日酔いになっていませんか?」

「あ、ああ。少し頭は痛いが問題無い……!?」

 

 

 そこで私は昨日の夜、葉佩と話をする為に部屋に呼んでいたの事を改めて思い出す。飲み会があったとはいえ、時間を合わせて返って来たというのに…

 

 

「済まない葉佩っ! 私から話があると頼んだと言うのに私は…」

「気にしないで下さい、大人の付き合いも大変でしょうから。それに…」

 

 

 謝る私に葉佩は気にするなと言った様子で調理を続けている。

 

 

「飲まないとやってられない位、辛い事があったのでしょう?」

「え……?」

「昨夜来た時に色々と魘されてましたし」

「!?」

「ま、兎に角朝飯を作ったんで食べて下さい」

 

 

 そう言って葉佩はテーブルに料理を並べる。お粥の様だが良い香りが湯気と共に立ち昇る。

 

 

「胃がもたれないと考えて中華風のお粥にしました」

「そ、そうか…わざわざ済まないな?」

「いえ、冷めない内にどうぞ」

「うむ」

 

 

 促されるまま、お粥を匙で掬って口に入れる。優しい味ながら野菜と肉の風味が口中に広がり食欲を増進させ、匙で口に運ぶペースが速くなっていく。添え物に出されている漬物もサッパリした美味しさで端休めに丁度良かった。

 

 

「御馳走様」

「お粗末様」

 

 

 私が朝食を食べ終えると、葉佩は食器を片づけていく。

 

 

(一夏の料理等、何時振りだろうか…)

 

 

 葉佩が食器を洗う姿を眺めながら一息吐く私は、久しぶりに弟の手料理食べた事に気付く。そして、これが最後になるかも知れないと言う事も…

 これ以上、目を背け続けたくない。

 軽蔑される事を覚悟して私は葉佩に白騎士事件の真相を話す事を決心した。

 

 

「葉佩……私の罪を聞いてくれないだろうか…」

 

 

 食器を洗い終わって戻って来た葉佩に、私は白騎士事件で自身が束と何をしたかをポツリポツリと語った。

 

 

:::::

 

 

約一時間後

 

 

「……以上が白騎士事件で私と束がした事だ」

「………」

「あの時葉佩が言った通り、白騎士と呼ばれているISに搭乗していたのは私だ。今迄黙っていて済まない」

 

 

 そう言って私は葉佩に頭を下げた。

 家族にすら黙っていた私の罪。当然、こんな事をしただけで許されると思っていないので言葉を続ける。

 

 

「束の奴を擁護すると思っているなら心配いらない。白騎士事件が完全なマッチポンプで、クラス対抗戦での襲撃も束の仕業である以上、奴を擁護する気にはなれんよ。何より、己の目的の為なら他者の命すら何とも思っていないのは許せたものでは無い。あの事件以降、連絡は取れていないが、もし会えたなら殴り倒してでも止めてやる」

「………」

 

 

 葉佩は黙ったまま、私の話を聞いている。

 

 

「軽蔑して構わない。私はあれだけの事をしておきながら、今迄知らぬ存ぜぬで通してきたんだ。本当は皆が羨む様な存在なんかでは無いというのに…」

 

 

 本当は怖い。

 守ろうと決めていた唯一の家族である弟に軽蔑の眼差しで見られ、犯罪者と呼ばれるのではないか? と想像するだけで身体が震えてくる。

 

 

「顔を上げてよ、千冬姉」

「!? 一夏」

 

 

 左肩に手を添えられる感触を感じ、駆けられた声に私はハッと顔を上げる。今、私を姉と呼んでくれなかったか!?

 顔を上げると、葉佩をが優しい微笑みを浮かべていた。

 

 

「漸く打ち明けてくれたね」

「いち……か…」

「千冬姉の気持ち、確かに受け取ったよ」

 

 

 先生では無く、姉と呼んで貰えた事に喜びを感じながらも私は目を伏せた。

 

 

「だが、私は取り返しのつかない事をしてしまった。世界を歪めてしまい、一夏にも迷惑どころか命を危険に晒させてしまった…」

 

 

 すると一夏は首を横に振りながら答えた。

 

 

「確かに世界がおかしくなったのは白騎士事件が始まりで、千冬姉はそれに関わった。でも、その時に今みたいな状況になるだなんて千冬姉は解からなかったんだろ?」

「それはそうだが…」

「俺がモンドグロッソで誘拐されたのは確かにおっかない経験だったよ? でもあの出来事が”きっかけ”で俺は色んな出会いや貴重な体験が出来た。まぁ、千冬姉に1年間寂しい思いをさせてしまった訳だけど…」

 

 

 後頭部を掻きながら申し訳なさそうに答える一夏。

 

 

「兎に角、千冬姉は白騎士事件でした事に対してこれまでずっと罪悪感を持ち続けていたんだろ? 俺は千冬姉を許すよ」

「いち…か…」

 

 

 私の身体を抱き締めながら”許す”と言った一夏に私は言葉が出なかった。

 

 

「【愛】千冬姉のした事が簡単に許される事じゃあ無い事は解かってる。でも俺達は姉弟だろ? 辛い事や悩みを1人で抱えてなんかいるなよ、俺は何時でも千冬姉の味方だからさ?」

「うっ……、うわぁぁああああああああ、一夏…いちかぁ、御免なさいっ!!」

 

 

 遂には涙が止まらなくなった私は一夏に抱き締められながら泣き出し、一夏は優しく私の頭を撫でてくれたのだった。

 あの時(白騎士事件)からずっと私に圧し掛かっていた罪悪感。束と共にしてしまったこの罪は何時か償わなければならないモノだが、この時、私は漸く救われた気がした。




次回はブロントさんと簪のMMO(というかVRゲーム)話でち。
7月中には投稿したいなぁ…


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